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TONDEN FARMER  作者: 800
第2章 東北戦国編
37/45

反撃はじめたいんだが……

「馬鹿やろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「ガフッ!?」


 エチゴヤはディアスのラリアットを喰らい、見事に1回転して地に突っ伏した。あまりにも綺麗に決まったので、態とらしく見える。


 シモヘイが訪ねて来たエチゴヤをディアスの下に案内し、簡単な事情説明を終えた直後の事である。


「おいっ! 屯田兵が自分の土地を捨てて逃げ出すとは、どう言う了見だっ!?」


 ぐいっ、とエチゴヤの首根っこを捕まえて引き起こしつつ、ディアスは怒鳴りつけた。


「落ち着けディアス! つぅか、お前が言うなっ!」


 シモヘイは憤慨するディアスを何とか抑える。


「だから戦争準備が要る、って言ったろうが! お前は何もしてなかったクセに、文句ばかり言うな!」

「……くっ」


 こればかりはシモヘイの言う事の方が理がある。

 暢気に構え対策を怠ったディアスは、逃げ出すしかなかったエチゴヤの状況は人事では無い。もし最初に攻められたのが十勝(とかち)だった場合、同じ様に逃げていた可能性が高いのだ。


「とりあえず、ただ事で無いのは解ったんじゃ。何か対策を練らんと……」

「そうだねぇ。エチゴヤ君、詳しい事教えてくれない?」

「そりゃ、勿論そのつもりだが……、十勝のトップどころ集めてからの方が良くねぇか?」


 函館(はこだて)を落とす様な戦力に、1パーティーでどうこう出来る訳が無い。

 しかし、真っ当な戦闘職は少なく、支援物資で貢献する生産職が大半を占める十勝において、状況を打開出来るだけの戦力が整うのかどうか。


「緊急招集を掛けろ! とにかく、フレンド・リストに登録されているヤツ等、片っ端から《通信》を送れ!」


 結局、都合の良い隠れ人材が居る事を祈り、『数撃ちゃ当たる』で行くしかないのであった。




 『役所』大広間にて。


「意外と集まらなかったな」


 単純に人数を数えれば、約20人程である。だが、集まるべき人材は集まった。

 そこに集うのは、大手パーティーのリーダーや、有力なプレイヤーに絞ったとは言え、それでも予想より少ない。会議室では入りきらない可能性もあったので、大広間に集まる様に、との通達だったのだが。

 そう多くない人数だが、それでもざわざわと煩い。何せまだ4/3なのだ。たった3日で函館まで攻め込まれたとなれば、様々な憶測が不安と共に飛び交うのも仕方の無い事である。


 集まった顔触れの中で、戦争に影響しそうな発言力を持つプレイヤーの一部を上げると、


 『市場(いちば)』を掌握し、十勝の物流や物資の需要供給を把握している、ヨーゼフ。

 兵糧を語るには欠かせない、十勝の農業のトップである、タゴサク。

 十勝最強スナイパーであり、『猟遊会』の纏め役をやっている、バロウズ。

 アイヌ民族研究家であるが故、北海道の地理と歴史に詳しい、ウナルル。

 アイテム設計の実績と、『冒険家』故の地図作製能力を持つ、ディアス。


 この5人、自分のパーティーとは別に、それぞれの得意とする専門分野で絶大な支持を受けている。

 彼等が会議の中心になるとして、パーティー・リーダーではないが、個人的に有益な能力を持ち、意見を聞いて置きたい者として、


 アサルト・ライフルを持ち、個人での弾薬保有数が最も多い、シモヘイ。

 十勝一の鍛冶能力を持ち、リアル道民としての知識も期待される、ヤマカン。

 風来坊プレイで各地域の情報にも詳しく、個人戦闘能力も高い、マゼラン。

 望遠鏡等の偵察道具を調達するなら外せない、レンズ職人、ハイサム。

 釧路(くしろ)の影響で十勝では数の少ない、漁師であり船の専門家、アオジル。


 この辺りがパッと思い付くところだが、誰がどんな能力隠してるか分かった物ではない。寧ろ、隠し球の1つや2つはゲーマーの嗜み、と言ったところか。


 トップ・プレイヤー達は個性の強いのが多く、纏め上げるのは中々難しい。辺りは私語が飛び交い、そろそろ会議を始めようかと言うのにまだざわついている。

 その中でもウナルルが、


「うふふふふ……。倭人が、また我等の地を奪いに来るのですね……」


 とか呟いていたりするのがちょっと怖い。

 おかげで彼女の周りはドン引きし、そこだけちょっと静かになっていた。


「ほら、お前等静かにしろ。じゃあ、第1回、戦争対策会議を始めるぞ」


 議長役は、取り纏めや交渉事に長けたヨーゼフである。


「先ずは情報の確認からな。エチゴヤ、頼む」

「おう」


 呼ばれてエチゴヤが前に出る。事前に話すべき情報を纏めていたのか、手に資料と思しき紙の束。

 流石にこの時ばかりは皆静かになる。必要な情報は聞き漏らすまい。と真剣な表情になっていた。


「攻めて来たのは大方の予想通り、東北の『戦国KARUMA(カルマ)』だ」


 それは予想通りであり、ある意味、想定していた最悪のパターンでもある。防衛を考えた場合、最も戦い難い相手だからだ。

 『戦国KARUMA』なら、その戦力の殆どを『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』のサーバ上でも運用出来る。他のゲームだとそうは行かないのだ。

 その他で厄介なのは、『NANIWA(ナニワ) AKINDOH(アキンドー)』が経済侵略を仕掛けて来た場合だったりする。


「東北からなら、津軽(つがる)海峡渡ってすぐだもんなぁ……」

「チッ。凍えそうなカモメ見て泣いてりゃ良いものを……」

「何言ってんの? お前……」


 再び少しばかりざわついたが、ヨーゼフが無言の一睨みで黙らせる。


「俺達渡島(おしま)地域の連中は、本州が近い事もあって、念のために戦争の備えを進めてたんだ。つっても、本格的な侵攻があった場合、持ち堪えられる程のモンじゃなかったんだけどな。それでも、救援要請して増援が来るまでなら何とか、って程度のつもりはあったんだが……」


 皆、重苦しい表情になって来た。

 渡島地域、特に函館は比較的に金を持っている地域である。その財力なら、そこそこの準備が出来ていた筈だ。それでもこの短期間で負けた。その事実が重く圧し掛かる。


「え~と、それで具体的な戦力比な。先ずはこっちがどんだけの準備をしてたか。ウチの辺りじゃ、ショット・ガンが流行ってたんだ。おかげで色んな種類が開発されてたりな。だから、この数を増やし弾も十分用意し、おまけに【銃器】アビリティを新たに習得させ、使える人間も増やしたりしてな」

「何でまた、ショット・ガン?」


 誰かがふと疑問を呟く。ショット・ガンは普通の戦争では使う場面は殆ど無い。


「牧場にはショット・ガンだろ」


 それはおそらくアメリカの牧場のイメージ。

 エドウィン・ダンの影響か、渡島地域には牧畜の優遇措置があり、牧場がそこそこ多い。

 当然、家畜を襲う害獣を駆除する必要もあり、そのためにショット・ガンが発展した。と言うのは間違ってはいない流れなのだが。


「だから、趣味と実益を兼ねて開発が進んだんだ。ファッション的なのも多いが、性能も良くてな。……その所為で他の銃が今一なんだが」


 微妙に開発が偏った様である。ライフルで射程を稼ぐより、ショット・ガンを持たせる事を選ぶ位に。


「いや、幾ら何でも射程が短過ぎだろ。相手の飛び道具は精々火縄銃とは言え、ショット・ガンじゃそれにも劣るだろ」

「んな事は解ってる。だからライフルド・スラッグを用意したんだ」

「……それでも互角、ってとこじゃね?」


 ちなみに、ショット・ガンで散弾ではなく一塊の物を撃つのがスラッグ弾であり、一粒弾とか単発弾とか言われる。

 ライフルド・スラッグはこの弾の側面に螺旋状の溝が掘ってある物で、これにより回転を与え、直進安定性を……、とか期待されたのだがその効果は無く、しかし、銃身との摩擦抵抗の軽減のためそのまま残ったと言う、ちょっと微妙な代物である。


「それはともかく、準備は勿論銃だけじゃねぇ。隠れて撃てる様に塹壕掘ったり、敵が突進し難い様にバリケード作ったり、時間と予算の許す限り、思い付く事は片っ端からやったんだ」


 実はこのドサクサに紛れ、エチゴヤは絹製の防弾チョッキを売り捌き、一儲けしていたりするのだが。


「だが、渡島のプレイヤーは600人程度。しかも全員が常にダイブ・インしてる訳じゃねぇし、戦闘系アビリティ持ってるとも限らねぇ。……対してヤツ等は何人いっか分かんねぇ。いっぱい居過ぎて数えきんねぇんだ。多分万は行ってるだろうけどな」

「それ、無理ゲーだろ……」


 普通、戦力差が倍もあれば、指揮官は戦うより逃げる事を考えると言う。本当に、チートでも無ければ勝負にならない。


「それでもバリケードで足止めしたところに撃ちまくれば、しばらくは何とかなる。って思ってたんだが……」


 敵の雑兵NPCも命知らずと言う訳では無いので、一方的に屠られれば、よっぽど士気が高くなければ進軍を躊躇う筈なんだ。と言うエチゴヤ。


「だが、敵の火縄銃がとんでもなく多くて……、あれ、何千丁あったんだろ?」


 連射の利かない火縄銃とは信じられない程の弾幕だったらしい。


「火縄銃相手に撃ち負けたのかよ……」

「三段撃ち、ってヤツかね?」


 軽口を叩く者も居るが、飛び道具のアドバンテージが無かった。と言う事に皆ショックを隠しきれない。


「三段撃ちかどうかは判らねぇが、リロード自体がメッチャ早かった気がする。……多分、早合(はやごう)使ってたんじゃねぇか? って言ってるヤツも居るが」

「はやごう、って何だ?」

「リロードを手っ取り早くするために、火薬と弾を1セットにしたモンだ。こいつの封を切って、そのまま銃口から流し込んで押し込めばOK。ってヤツ」

「あれ? 俺の記憶だと、早合って暴発とか不発なんかのミスが多くなる。って聞いた事あるんだが?」

「ミスが多くなる、って言うなら、練習すれば済む話なんじゃないか?」


 またも話が逸れ、雑談が始まる。現実を直視するのが辛くなったのかも知れない。

 何せ十勝のプレイ人口は400人に満たない。その上、戦闘系アビリティを熟練している者の比率は、他の地域と比べて少ないのだ。現実逃避もしたくなろうと言う物である。


「その上、槍かと思ってたメッチャ長い棒が、実は火縄銃だった。……ありゃ、『狭間筒』ってヤツだな」

「うげ……」


 狭間と呼ばれる城壁に備えられた隙間から撃つための、長距離狙撃用火縄銃。それが『狭間筒』である。

 射程を長くする工夫は単純に銃身の延長。取り回しの問題もあり、実用上は2m位に納まる物が殆どである。中には長ければ長い程良いとばかり、銃身長3m以上と、面白半分に長くしたんじゃないか? と思われる様なネタ・アイテム的な物まであるが。


「それなら……、下手したら射程で負けるな」


 自分でも使った経験があるのか、バロウズが渋い顔になって、そう零した。

 有利と思われてた銃器の面でも、射程はほぼ互角。連射性能は銃の総数で補われてしまっていた。


「接近戦になったら、もっと厄介だぜ。何せあっちのプレイヤーは戦闘廃人ばっかだ」


 より正確には、ゲーム全体で見ればそうでもないのだが、この遠征に好き好んで参加しているのは、どうしても戦闘廃人に偏ってくるのだろう。


「おまけに、雑兵NPCでさえ、こっちの戦闘アビリティをちょっとかじった程度のプレイヤー並みの戦力になるからなぁ」

「…………」


 最早、言葉も無い。ちょっとした戦力の底上げ。戦場の賑やかしが目的とも言われる雑兵NPCだが、こちらではそこらのプレイヤーと1対1で互角に戦えてしまうのだ。


「単純な戦力比で圧倒的に負けてる事は理解してもらえたと思うんで、次は実際に戦った手応えだな」


 とは言うが、この短期間で敗北した訳で、碌な情報を手に入れられたとは考え難い。

 大体、十分な戦力があれば、小細工など必要無い。真正面から蹂躙するだけである。


「つっても、人手が少ないんで、そんなに色々試せた訳でも無いんだが……」


 と、エチゴヤは言い訳を挿んでから、


「あっちは大群に物を言わせて、じりじりと進軍してきただけだしな。撃ち合いで足止めするつもりだったんだが、正面の部隊とやり合ってる間に他の部隊が回り込んで来るし、こっちはそれを抑えら得るだけの戦力ねぇし。予測進路上に罠仕掛けてた筈なんだが、足が全然鈍ってねぇから効果あったかどうかも判んねぇし……」


 聞けば聞く程、ただの愚痴にしか聞こえない言葉が漏れてくる。


「伏兵に奇襲させようとしたとこは、偵察部隊にアッサリ見つかるとか、戦力差があり過ぎて奇襲位じゃ大したダメージになってなかったとか」


 ここまで何もかもダメだと、エチゴヤの持って来た情報に、本当に有益な物があるのか疑問である。


「地面の中に潜んで、敵大将に奇襲した忍者プレイヤーが居たって噂もあったが、それが成功したってのは聞こえて来ねぇし」


 奇襲前にバレたのか、仕掛けても失敗したのか、成功しても影響が無かったのか。それさえも判らない。


「結局、あっちは包囲殲滅の繰り返し。あれでゲームとして面白いのかどうか疑問だぜ」


 エチゴヤはやけくそ気味に笑い、進軍が遅いし追撃戦はやらなかったんで逃げるのは楽だったが。と言う。


「まぁ、何にせよ最初から敵わないってのは解ってたんで、ある程度対策立てられるだけの情報を持って、それぞれコネのある地域に逃げる。って決めてたんだが」


 出来るだけ多くの地域に戦争の始まりを伝え、救援要請を。と、奔走しているらしい。


 しかし、得た情報を纏めてみると、


 ・敵兵力は数万。正確な数はカウント出来ず。その内6割近くが雑兵NPC。

 ・陣地設営や雑用のための人足NPCも居るが、これも数万規模らしい。

 ・火縄銃も1万近い数があるらしい。その内2~3割が狭間筒らしい。

 ・槍や弓、騎馬等、その他兵種の割合は不明。ただし、騎馬は思ったより少ないらしい。

 ・近接戦ではアッサリ負けたんで、どれぐらい強いかも解らない。多分廃人クラス。

 ・雑兵NPCでさえ、こっちの一般人クラスの戦力。

 ・罠や伏兵もあまり通用していない。斥候も優秀そう。

 ・指揮官の能力は不明。現状、特別な作戦指揮が必要な程の事態になっていないため。

 ・予測だが、『戦術支援システム』は、こっちのサーバではルール上使えないらしい。

 ・兵站の補給はかなりあるらしい。遠慮なく銃を撃ちまくってた事からの予測だが。


 大体、こんな事が書かれた資料が、皆の手元に配られる。憶測交じりで信憑性は今一だが、それぞれが得て来た情報を纏める際、伝言ゲーム的に情報が歪んだのだろう。

 しかし、腑に落ちない点も多々ある。


「お前、妙に詳しいよな?」

「え? だから、それだけ苦労して情報収集して来たんだぜ?」


 ディアスの疑いの目は、エチゴヤに向けられたままである。

 それと同時に、他の皆の視線もエチゴヤに集中した。


「それに、見事に家財道具一式、綺麗に持ち出したよな」


 土地を奪われた以外は、一切の被害が無い程に。住む場所を変えて再起する事など、簡単に出来そうな程に。

 更に言うなら、様子見とは言え本当に一戦交えたなら、被害が出ない筈は無い。


「そりゃ、非難準備はしてたんだからな。さっきも言ったろ? 相手も追撃戦はしなかったって」

「でも、ベストなタイミングで逃げられたものだよな?」


 皆、段々とディアスの言いたい事が分かって来た。

 逃げるのが遅ければ、被害は免れない。逃げるのが速ければ、情報が得られない。

 もし、確実に最適なタイミングで逃げるには……


「お前、最初から敵の情報を知ってたな?」


 それなら逃げるタイミングを計るどころか、情報を得るために戦う、などと言うリスクを犯す必要さえ無くなる。建前上戦った振りだけして、さっさと逃げてしまえば、エチゴヤのパーティーに被害が出ていないのも頷ける。

 実際、エチゴヤの話の中では、他のパーティーは被害を出しながら情報収集したらしいのだから。


「え……とぉ……」


 エチゴヤの目が泳ぐ。

 何故知っていたのか? その疑問はまだ残るが、エチゴヤの様子を見るに、何処か後ろめたい物があるのだろう。


「実は俺……、『戦国KARUMA』のアカウントも持ってて……」

「出合えぇぇぇぇぇぇっ! 裏切り者が居るぞぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ちょっ!? そりゃねぇだろっ!」


 確かに、裏切りではある。どちらかと言うと、『戦国KARUMA』の情報を『TONDEN FARMER』に売り渡したのだが。


「俺だって、ここまで地道に広げて来た牧場を台無しにされたくねぇから、こうしてこっち側に付いたんだろうがっ!」


 ただ暇潰しに暴れるだけのあっちと、丹精込めて開拓して来たこっちとでは、どちらに比重をおいているのか、どちらがより損害が大きくなるのか。そう言う問題である。


「ならば、今後もちょくちょくスパイ活動をしてもらおうか」

「そんな無茶振りされても……。あのゲーム、こっちみたいに通信とか無いから、スゲェ面倒なんだが……」

「でもやれ。コネとかあるだろ」

「ヒデェ……」


 酷いと言えば酷いのかも知れないが、勝つためには手段を選んでいられる状況でもない。


「その時はチャイカを付けてやる」


 チャイカは忍者プレイをしているので、格好だけでなく本格的な諜報活動が出来れば喜ぶだろ。と勝手な事を言うディアス。本人に断りも無く、本当に勝手である。

 だが、エチゴヤ1人にまかせっきり、よりは良い案ではある。


「……解ったよ。どっちかってぇと、俺もこっち側の暮らしの方が大事だ」


 と、エチゴヤは観念した様に両手を挙げた。


「んで、具体的にはどんな情報が要るんだ?」

「そうだな……、向こうで得られそうな情報と言えば……、後方支援、補給物資の手配とか、後は本当に意思統一が出来てるのか、とかかな?」


 他になんかあるか? と皆に聞きながら、とりあえずそんなもんか。とディアスは言う。


「意思統一って、後方に精神的揺さぶりでも掛ける気かよ」

「付け入る隙がどっかにないかな、ってだけの話だ」


 最初っから搦め手を考えるのも、ディアスらしいと言えばらしい。


「そうだ。陣地設営能力、ってのはどんなモンなんだ? 『戦国KARUMA』では戦の時、どの程度の砦を建てている?」


 聞き忘れていたが、これも結構需要事である。防衛陣地の有る無しは、戦術に大きな影響を与える。

 秀吉の『一夜城』みたいなネタもあるので、砦造りに力を入れているプレイヤーだって居るかも知れない。


「……あ」

「あ、って何だ」

「その関係で大事な事言い忘れてた……」

「まだあるのかっ!?」


 これまでの情報でも、反撃や防衛の役に立つどころか、寧ろ心を折りそうな碌でも無い物ばかりだったと言うのに、その上、


「実は俺等……、防衛準備の一環として、『柳野城』を築城してたんだが……」

「何じゃとぉぉぉぉぉぉっ!?」


 エチゴヤの告白に、ヤマカンが顎を外さんばかりに大口を開けて驚きの声を上げる。


「何て事をしてくれてんのじゃ、おぬし等っ!」

「こら! 素人を置き去りにして話を進めるな。そこのとこ詳しく!」


 ヤマカンだけが反応したところを見るに、またリアル道民知識なんだろうな。とか思いつつ、皆ヤマカンの言葉に耳を傾ける。


「『柳野城』とは、『五稜郭』の事じゃよ!」

「…………何ぃぃぃぃぃぃっ!?」


 少しばかりの間をおいて、悲鳴に近い声が上がる。ただし、ごく一部。単なる観光名所ではなく、防衛陣地としての『五稜郭』の能力を知る者が、それだけ少なかったのだ。


「なら、最初から『五稜郭』って言っとけよ」


 相変わらず、回りくどい。とシモヘイは何時もの事ながら、『TONDEN FARMER』の分かり難いネーミングに辟易した。何で一般的でない名を使うのだろう。とも思う。

 五稜郭と言うのは五芒星の稜堡式城郭(星型要塞とも言う)の事であり、そう言う意味では他の名前を付けたかったのだろう。とは推測出来るが、日本では稜堡式城郭は殆ど無いので、五稜郭で普通に通じるのだが。


「これでいいのだ!」

「良くねぇよ」

「それとも、『亀田役所土塁』の方が良かったかのぅ?」

「益々何の事か解んねぇよ!」

「いや、名前の件はどうでも良いから、城の詳細をだな……」


 ディアスも城マニアではないのでさほど詳しくなく、解ってない人間を代表して説明を促す。


「そりゃ、『五稜郭』は攻め難いとは思うが……」


 ただ、あの星型の陣地が防衛戦をし易くするためだ。と言う事だけは知っていたので、嫌そうな表情はしていたが。


「うむ。『五稜郭』は武田斐三郎(あやさぶろう)がフランスの軍人に習い、大砲の設計図や稜堡の絵図面をコピったのを基に設計したモンじゃ」

「だから、そんな歴史的な事じゃなくて、性能的な……待て」


 大砲の設計図……? どう考えても嫌な予感しかせず、背中に汗をかき始めるディアス。


「察したか。その通り。大砲装備がデフォじゃ」

「おいっ!?」

「元々稜堡(三角形の突端部)は射撃の死角を無くすためのモンじゃしのぅ」


 と、暢気に北海道自慢的に解説を続けるヤマカン。皆より一足先に驚いていたので、説明している内に落ち着いてしまったのかも知れない。

 最悪、その大砲装備の城塞に向かって攻めて行かなければならないのだが……。


「最終的には……函館総攻撃の頃じゃったかのぅ……、30門以上の大砲が配備されとった筈じゃが、諸説あるんで正確なところは微妙じゃ」


 30門。それだけの数の大砲が、具体的にどれだけの脅威かは想像し辛いが、少なくとも鉄砲持った程度の武装で敵対したくはない。


「そんなモン造っていながら負けたのかっ!?」

「間に合わなかったんだよ! 未完成だったんだよ! つぅか、城がそんなに簡単に建つ訳無いだろ!」

「そんなモンじゃろ。函館戦争の折に旧幕府軍が占拠した時も、『築造未だ全備せず』とか言われたらしいしのぅ」

「だったら、もっと早く準備しろよ!」

「何の準備もして来なかったディアスが言うな!」


 ちょっとしたパニックである。函館を奪還しようとした場合、こちらが『五稜郭』攻めをしなければならないのだ。

 ただでさえ敵の方が数が多いのに、まだ未完成とは言え、防衛拠点まで手に入れたとなると……。


「おまけに、『ランドマークの図面:柳野城』を持ってるヤツが、敵の手に落ちてる」

「ちょっ!?」

「マジかっ!? 時間掛けたらパーフェクト柳野城になっちまうって事か?」


 拠点設定されている土地を制圧され、しかも逃げそこなったプレイヤーは、捕虜になる設定があったらしい。


「とにかく、函館攻めをするなら今の内だ。あっちも陣地設営とかに人足を大量に連れて来てるから、ほっといたらすぐに完成されちまうぞ」

「そうじゃのぅ。最悪、『弁天台場』まで造られたりせんじゃろうか?」


 設計者が同じじゃし、図面探せば出て来るかも? とか不吉な事を言い出すヤマカン。

 台場と言うのは大砲の設置場所の事であり、ディアスは弁天台場が何処に造られた物かは知らなかったが、何にせよ砲台が増えれば面倒な事には違いない。


「城塞なんて……、最早チートの類だと思うんだが……」


 自身もオリジナル建築物を設計したりと、『大工』としての技量も高いディアスは、『領地戦モード』における城塞の有効性は、ちょっと卑怯臭いよなぁ。と判断した。

 本気で完成した城を攻め落とすのは、それだけ難しい。しかも、『五稜郭』は数々の大砲も備えているのだ。ちょっとやそっとの近代兵器をそろえたところで、早々に落とせる保証は無い。


「タイム・アップまで持ち堪えられたら、実効支配能力がある、って事で、スコアに関係無く渡島地域は向こうの手に落ちるぞ」


 比較的に『領地戦モード』のルールに詳しいヨーゼフが、そんな予想を立てる。しかし、これですら最悪のパターンではない。

 東北連中は、侵攻する側から城を建てる様になるかも知れない。そうなれば奪還の難しい土地が増え、じりじりと追い遣られる可能性が高い。そして後でどんなに強力な戦力を整えようが、1年の間に全てを取り戻す事など、不可能になるだろう。

 つまり、すぐにでも函館奪還戦に参加して欲しい。と言うエチゴヤの願いを聞き入れないと、かなり拙い状況なのだが……


「ところで、どうするディアス?」

「どうする、とか言われても……、通常戦力じゃ歯が立たなさそうだし……」

「なら、遂に新兵器の出番か!?」

「そんな簡単に新兵器が出来るか!」


 ディアスはシモヘイを一喝すると、


「そうだな……、十勝の戦力じゃ、行っても応援になるかどうか……」


 と、頭を悩ませる。とは言え、何もしない訳には行くまい。

 エチゴヤの話だと、他の地域にも情報を送ったらしいんで、彼等も救援に駆けつけてくれる事を期待して戦力の少なさには目を瞑り、とりあえずは様子見と嫌がらせで1戦仕掛けて時間稼ぎを試みるとか……

 とか考えたところで、ディアスは1つの疑問に突き当たる。


「……おい。何でお前等、当たり前の様に俺に頼る?」


 別にディアスが十勝のリーダーと言う訳でも、戦術に優れている訳でも無い。確かに有名どころのプレイヤーではあるが、そんなのは他にも居る。寧ろ、


「大人数を組織的に動かすなら、お前の方が得意だろうが」


 と、ディアスはヨーゼフに振ろうとする。


「俺は商人だぜ。戦果の及ばない地域から物資を掻き集める。って位はやってのけるが、正直言って正面戦闘で役立つ自信なんて無いぜ」


 ヨーゼフは後方支援でこそ活躍する人材なので、前線に持って行くのは寧ろ才能の無駄使いである。


「タゴサクは……」

「俺も食料とか生産する側だし」


 この戦争がいつまで続くか判らないのだ。しかも作付けの始まるこの時期、農民代表のタゴサクが抜ければ、生産能力がガタ落ち。継戦能力も危ぶまれる。


「大体、お前は『マイナー・プレイヤーの守護神』だろ。だったら、マイナー・ゲームも丸ごと救って見せろ」

「俺はその呼び名、了承した覚えは無いぞっ!?」


 しかし、本気で『助けて』と頼られた場合、ディアスが動かないなどと言う事は無い。と皆の認識は共通している。

 それが、そう言うロール・プレイなのか、本人の性格に由来するのかは判らないが。とにかく、過去の実績を見る限り、間違った認識ではない。

 密かに呼び名がエスカレートしていたりするし、実は攻略掲示板に『ディアス大明神を奉るコーナー』とか作ってる信者が居たりするんで、本人の意思とは別に十勝どころか北海道全体でのトップ・プレイヤーになりつつあるのだが。


「誰かが纏めないと話が進まん。って事は解るだろ? だったらディアスが良い。って皆が思ってるってこった」


 細かいフォローは皆でするから、とにかく方針を決めてくれ。と、ディアスの肩を叩きながら言うタゴサク。


「本当に戦術とかに詳しいマニアは居ないのかよ……」

「そんなヤツは、それこそ『戦国KARUMA』の方をやってるだろ」


 そう言う意味でも、普通に戦えば敗北必至。そして、普通じゃない出鱈目な戦いに持ち込むには、ディアスに頼るのが1番だ。と判断されたのだ。


「……まぁ、さっさと函館を攻めなければならない、ってのは確かだが……」


 ディアスは観念して、得られた情報から何とか作戦を練ろうとする。


「少なくとも、築城を妨害出来る程度にダメージを与えて、時間稼ぎ位はしておきたいところだな」


 しかし、ディアスの持つ知識では、とりあえず奇襲を掛けてみるか。位しか思い付かない。

 寡兵で大群を討つ。などと言うのはフィクションの中だけだ。もしくは、余程油断していたか無能だったか。

 フィクションなどでは、地形を利用したりして罠を張ったりするが、本来大軍と言うのは、そう言う物に対する警戒にも十分な兵を割り振れるので、罠や伏兵も効果を発揮する事は少ない。多少のダメージは与えられるだろうが、決定打にはならないだろう。

 それこそ、指揮官が無能でもない限りは。そして、ここまで意思統一を図り、北海道に攻め込んで来た武将に、無能を期待するのは無謀である。

 エチゴヤの情報でも、そう言った作戦は効果を発揮していなかったのだ。それなのに、自分はもっと上手くやれる。とか言い出す程、ディアスは戦術に自信は無い。


「……ヨーゼフ、アレは用意出来てるか?」

「ああ。こんな事もあろうかと。ってヤツだな」


 ディアスの問いに、ヨーゼフは待ってましたばかりにニヤリと笑うと、


「『ニトロゲル』。何とか3tまで買い集めたぜ」


 自慢気に商人としての能力を誇る。自分で言った通り、物資の調達に関しては頼りになる男である。

 つまり、寄る辺は時代差による兵器の性能差。戦国時代では手に入らない、近代兵器に頼るしかない。


「半分までは『ダイナマイト』に加工済み。それと、『村田銃』と『有坂銃』用の弾も揃えたぜ。『村田銃』はバリエーションによって弾が違うから、ちょっと手間だったが」


 とりあえず、3千発ずつは確保した。と語るヨーゼフ。

 これには猟師連中も驚きである。弾薬さえあれば何とかなる。と言うものではないが、大分やり易くなった事は確かである。


「これ以上は、他の地域の戦力を奪う事にもなっちまうんで、自重したが」

「十分だ。良くやってくれた」


 これだけで何とかなる訳では無いが、何も出来ない訳では無くなった。


「良いか、お前等。ちょっと武器が揃ったからと言って、調子に乗るんじゃないぞ。俺達の目的は、本格的な反攻作戦が始まるまでの時間稼ぎ。『五稜郭』完成の妨害だ」


 ディアスはとりあえずの方針を伝えると、


「具体案のあるヤツは居るか?」


 と、周りに意見を促す。


「ん~、その『五稜郭』の完成は何時頃になると見てるんだ?」


 タゴサクがエチゴヤに問う。『五稜郭』完成の妨害が目的なら、この情報は作戦立案に大きな影響を与えるだろう。


「あ~……、俺も詳しい図面見た訳じゃねぇから、正確な日程は判んねぇが……、今までの進捗とそこに費やした労力、敵が引き連れてた人足の数から見積もれば……、後リアルで3日位?」

「短っ!?」


 予想以上の短期間。幾らゲーム的ご都合主義で建築が楽になっているとは言え、早過ぎである。


「じゃあ、速攻だ。リアルとは違って、死んでも《死に戻り》するだけだ。……スコアが問題だろうが、それは後で取り返すとして、先ずは築城させない事に専念する」


 何だかんだ言って、1度動き始めたディアスは頼りになる。本当は間違っているかも知れないが、それでも自信満々に突き進む。

 ある意味、指揮官の頼もしい姿に部下が付いて来る。と言うのを体現している様だ。故に、皆も気合が乗る。

 実はディアスには自信がある訳では無く、失敗しても良いや。とか思っているだけなのだが。


「多少金は掛かるが、『転移室』で一気に函館に攻め込もう」

「いや、ちょっと待て。『領地戦モード』では相手の領地に直接《転移》出来ない仕様だったぞ」


 と、ヨーゼフが忠告を挟む。

 『領地戦モード』自体が殆ど使用された事が無いので、詳しいルールは知らない方が普通だったりする。


「……そう言や、『節分イベント』の時もそうだったっけな」


 『節分イベント』は、『領地戦モード』にルールを追加して実現していたのだ。その時の事をディアスは思い出す。

 今にして思えば、あの頃既にこの戦争の事が裏で決まっており、その予行演習のために1度も使った事の無い『領地戦モード』を利用したイベントを開催したのかも知れない。


「じゃあ、札幌(さっぽろ)だ。あそこなら『転移室』も多数あるし、他の地域のプレイヤーと合流するにも都合が良いだろう」


 うんうん。と皆も頷く。


「じゃあ、札幌への『転移パス』持ってないヤツはどうするんだ?」


 俺みたいにさ。とタゴサクは問うた。


「お前は畑仕事していてくれ。ついでに、ウチの畑も頼む」


 このまま戦争に係わっていたら、ジャガイモの作付け時期を逃してしまう。とディアスはタゴサクに頼み込んだ。


「……仕方ねぇな。その代わり、十勝まで戦禍が及ばない様、しっかりやれよ」


 タゴサクも直接戦闘では役に立たない事を自覚しているので、ディアスに無理を強いている以上、その位のフォローはしておくか。と請け負った。


「じゃあ、俺も引き続き戦略物資の取り纏めを……」

「いや、お前は来いよ」

「何でっ!?」

「お前は『パス』持ってるだろうが」


 ディアスは呆れた様な口調でヨーゼフに言う。

 ヨーゼフとしてはこの混乱の最中、自分の商会を離れたくないのだろうが。


「物資の集積は札幌でやってくれ。それに、他の地域から集まるプレイヤー達との折衝を頼みたいし」


 そう言うのは、商人プレイヤーの方が得意だろ。とその辺を丸投げするつもりのディアス。


「これを機に、有能な商人として名を売ってくれ。エチゴヤ共々な」

「え? 俺も行くのか? 折角逃げてきたのに?」


 嫌そうな表情を浮かべるエチゴヤだったが、ディアスに睨まれ、やれやれ、と肩を竦める。


「まぁ、確かに、上手くすれば影響力を拡大出来るだろうが……」


 ヨーゼフも仕方無いなと了承する事に。

 

「それと、アオジル。お前の船で、敵の補給線を絶てないか?」

「俺の船って言ったって、漁船ぜよ。それでどうやって?」

「武器なら適当に貸す。多分、本格的に橋頭堡を確保するまで、兵站は運び込まれていない筈だ。だから、渡島が敵の占領下に入った今こそ、補給船が頻繁に津軽海峡を行き来している。……と思う」

「多分とか、と思うとか。……指示出すなら、もう少し自信あり気に言った方が……」

「仕方無いだろ。俺は戦略・戦術に詳しいって訳でも無いんだから! ダメ元ってヤツだよ! ダメ元!」

「確かにダメ元だろうなぁ……」


 エチゴヤも頷くしかない。


「俺達だって、敵が攻めて来るかどうか、海は見張ってたんだぜ。それでも見逃してた位だしなぁ」


 元々海なんて目印も無い中で、来るかどうかも解らない敵船を探し続けるのはかなり難しい。

 しかも、十分な人員も居なかったので、24時間体制で全海域を見張るのも不可能で、穴だらけだったのだ。


「ダメ元で良いならやってやるぜよ。上手く敵の補給船を見つけられるかどうか、運次第ぜよ」


 とアオジルは請け負う。

 こちらは蒸気機関とスクリューで動くのだ。対して敵は帆船に手漕ぎ位の物。海上ではこちらが有利な筈。

 揺れる船からでは飛び道具の命中率も下がるし、『五稜郭』を攻めねばならない地上の部隊と比べれば、ずっと気楽な仕事である。


「しかし、どうやって船を沈めるぜよ?」


 武器を貸す。とディアスは言ったが、船を沈められる様な武器がそうそうあるとは思えないが。とアオジルは首を傾げる。

 それに、敵だって補給船を無防備にはしていないだろう。護衛船だって居る筈だ。


「【銃器】アビリティは持ってたよな?」

「捕鯨砲が銃器扱いになったんで、仕方無く取ったぜよ。……言っておくが、捕鯨砲で敵船を相手にしろ、と言うのは無理があるぜよ?」

「そんな事は言わんさ」


 と、ディアスはアイテム・バッグから村田銃とライフル・グレネードを1ダース取り出して渡す。


「確かにこれなら沈められるかも知れんが……、当たれば、ぜよ……」


 アオジルの言う通り、ライフル・グレネードを狙い通りの所に撃ち込むのは難しい。それも、護衛船の攻撃を掻い潜りながら、ともなれば尚更である。


「ハッタリで良いんだ。嫌がらせだよ、嫌がらせ。要は、おちおち補給もしていられない。って思わせるだけでも、やる価値はある」

「言わんとするところは解るんだが、だったら、もうちっと数が欲しいぜよ」


 1人でちまちまやっていては、ハッタリにもならない。アオジルが他の漁師達に声を掛けて船を集めたとしても、武器が行き渡らないのでは意味が無い。


「……すまん。ネタで作ったヤツなんで、それしかない」

「なら、ウチから出そう」


 と、バロウズが申し出る。


「猟の合図に使う信号弾だが、木造の船を燃やす位なら何とかなるだろ」

「ありがたいぜよ。なら、十勝港の連中で、比較的足の速い船を持ってるヤツ等に声掛けとくぜよ」


 速いと言っても、釧路の高速艇程ではないのだが。アレはまだ人員の育成が間に合わず、折角の生産型が死蔵されている状態だとか。


「これで俺はネタ切れだ。他に案があるなら、遠慮なく言ってくれ」


 ディアスがそう言うも、起死回生の案など都合良く出て来はしない。


「仕方無い。ここはワシが取って置きを……」

「ヤマカン、お前はダメだ」

「何でじゃよぉぉぉぉぉっ!?」

「どうせまた、残念蒸気機関だろ」

「今度のは自信があるんじゃよ!」

「まぁ、そこまで言うならダメ元、って事で」


 ダメ元でも良いんだ。と皆の緊張は解れ、良い感じに戦意も高揚してきた。

 大した策が練れた訳では無いが、『下手な考え休むに似たり』と皆気にしていない。

 そもそも向こうは基本的に戦略シミュレーションゲーム。そう言う事が得意な連中が集まっている上、実際に戦場で使って研鑽して来ているのである。付け焼刃の作戦で何とかしよう、と言う方がおかしいと言えた。


「と言う訳で、札幌への『パス』を持っているヤツ等は、戦闘準備して『役所』の『転移室』前に集合だ。時間は……本日22:00。遅れるなよっ!」


 


 戦闘準備、とは言っても、それ程本格的な装備を持つ者は少ない。どちらかと言うと、実用性も怪しいネタ装備ばかりだ。……面白半分に作られた物とは言え、無いよりマシではあるが。

 主戦力を期待された猟師達に、札幌への『転移パス』を持っている者が意外と少なく、予想より戦力が低下したのが若干気がかりだが、今更言っても仕方が無い。


「じゃあ、行くぞ! なに、いきなり戦場に放り込まれる訳じゃ無いんだ。札幌で他の地域の戦力と合流すれば、それなりにちゃんとした反攻も出来るだろうさ。気楽に行こう!」


 纏め役を任されたものの、ディアスには気休めを言う事位しか出来ない。本心では、こんな面倒事は人任せにしたいところだ。と思っているし、寧ろ自分に気休めが必要だ。とすら思う。

 しかし、そんな事はおくびにも出さず、先頭切って『転移室』に入るディアスであった。


 『転移室』を抜けると、そこは……


「もう市街地まで、かなり入り込まれてます!」

「クソぅっ! やはりアイツ等だけじゃ戦線を支えきれないか!」

「元々人数が少ないんだから、最初から線になってませんよ!」

「とにかく立て直しを急げ! 僅かとは言え、時間が稼げている今が勝負だ!」


 戦場だった。


「……へ?」

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