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TONDEN FARMER  作者: 800
第2章 プロローグ
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動乱の気配

第2章 開幕!

お待たせしました。

「御館様っ! 御館様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 どたどたと。慌しく廊下を駆ける兵が1人。目指すは城の重鎮達が集う広間である。

 まだ夜中、明かりは星と月のみ。その中を駆け回るのは少々危なっかしい気もするが、空気が綺麗で星明りが多く届く所為か、リアルより明るく、また夜目も効く様なのでその足取りは確かなものである。


「御館様っ! 御上より書状が届きましてにござるっ!」


 と部屋の入り口にて片膝を付き、頭を垂れたまま要件を告げる。

 やや雑に礼法を幾つか省略したその態度は、平時には問題にもなろうが、その場に居並ぶ重鎮達の戦装束を見て判る通り、今は戦時である。何より拙速が尊ばれる時であった。

 その部屋は流石に蝋燭による灯りがあったが、それでも薄暗い事に変わりは無く、揺らめく火は鎧武者達を不気味に照らし出していた。


「読め」


 部屋の一番奥、上座に居座る御館様と呼ばれた者が、短く命じる。


「はっ! (かね)てより通達のあったゲーム間抗争が本日00:00より解禁! 他ゲームのサーバ領域への侵入が可能となりまするっ!」


 何の事は無い。書状とは言っても、誰もが普通に受け取れる運営からのインフォメーションである。

 何でそれを態々こんな手間を掛けて大げさにしているかと言えば、開戦ムードを盛り上げるためであり、戦意高揚のための演出でもある。

 そう言うロール・プレイの一環だと言えば、ゲームなのだし、そんなにおかしな事でもない。

 実際、この場に居る面々は、来る戦に血を滾らせ、凶悪なギラついた笑みを浮かべていた。正に戦闘廃人と言うか、バトル・フリークしかこの場には居ない様だった。……正直に言うなら、こんなヤツ等ばかりで、内政の方は大丈夫なんだろうか? と疑問が浮かぶ程である。


「血判状は?」

「はっ! こちらに」


 その場に居並ぶ家臣の1人が、懐から巻物を取り出す。

 血判状、などと言っているが、実体は暗号化デジタル署名の名簿であり、複製・改竄不可属性の付いた文章ファイルである。

 御館様はそれを受け取ると、ばさっと広げ、そこに記された錚々たる面々に満足気に頷く。良くぞ期日までに、これだけのメンバーの賛同を得た物だと。


「兵站の手配は?」

「はっ! 昨年からの準備により、兵糧に加工済みの食品の蓄え、移送準備も整っておりまする。余剰分は売り払い、その金銭をもって装備の充実も万全。……詳細はこちらに」


 また他の家臣が進み出、簡単な説明を終え、年貢の記録や武器類の買い付けなどの取引を記された書類を渡す。

 収穫で得た利益がグラフ化され、それを遠征準備にどう使ったのか? 解り易く記載されていた。

 その大量の兵站は、予定している遠征の規模に十二分に対応出来る物であり、幾ら予め計画していたとは言え、1年(ゲーム内時間)で準備するのは並大抵の苦労ではなかった筈だ。だが、実際に成し遂げられた。それだけ、皆この遠征に本気であると言える。


「進行経路は?」

「はっ! 進路上の藩の通行許可は受けており、休憩地で他藩の兵も合流予定。また、渡航の船も既に港に準備済みでござる」


 地図データや、用意された船舶のデータを渡す家臣。

 過不足無く読み易く記された書類だが、何処と無く遠足のしおり的な雰囲気がある。

 1万近い兵力の移動はそれだけで大仕事。『戦国KARUMA(カルマ)』のプレイ人口の1/4程の参加は、通常のプレイに支障を来たすレベルである。でも、ここまで漕ぎ着けた。


「防衛体制は?」

「はっ! 遠征に参加しない藩とも不可侵条約は締結済み。他ゲームの侵攻に備えた防衛陣地の設営も済んでおりまする」


 数枚の条約締結を示す書類と、新しく設営された防衛陣地の位置を示す地図、そしてその図面を差し出す家臣。

 大規模遠征のため、手薄になる国土の防衛も重要な案件である。これで十分、と言い切れる物では無いが、遠征の間保たせる程度の期待は出来る。

 要するに、さっさと侵略を済ませてしまえば問題無いのである。


 ハッキリ言って、これらの確認事項も単なる演出。何せ、このゲームは戦略シミュレーションであるからして。

 大名クラスの権限を持つプレイヤーなら、こんな事はステータス画面で簡単に確認出来る。

 しかし、だからと言って意味が無いかと言えばそうでも無い。開戦ムードを盛り上げる演出でもあるが、それ以上に重要な意味が1つ。

 これらの準備は、指示を出せば勝手に成果が上がって来る訳では無い。1人用のゲームとは違うのだ。事ここに至るまで、多くのプレイヤーの努力により成り立っている。

 それを単なるステータス・チェックだけで済ます様な、自らの足元を支える人々の献身を見ない様な輩は、人の上に立つ資格無し。と追い落とされるのが関の山である。何せ戦国時代設定なので、謀反や下克上が当たり前に出来る仕様になっているのだ。

 逆に言えば、部下の仕事を直接的に把握しようとしているこの御館様は、成果を上げた部下への恩賞を忘れず、人気のある上司であり、一種のカリスマを持つプレイヤーだった。


「機は熟した!」


 御館様は立ち上がり、力強く宣言する。

 比較的小柄なアバターだが、朗々と良く響く声もあり、1周りも2周りも大きく見せる迫力を備えている。

 そして、乱雑に跳ねる赤い癖毛が一際良く目立つ。蝋燭の明かりでは判り辛いが、その色は血の様な赤。しかし光の加減によっては、炎の様なオレンジにも、臓物の様なピンクにも見えた。一見滅茶苦茶な色合いだが、ゲームならではアリだろう。

 それに加え、右目を覆うアイ・パッチ。しかも竜の刺繍が施してある。伊達政宗を意識しているのだろうが、その雰囲気はどっちかと言うと海賊っぽい。

 何処と無く厨二臭の漂うアバター・デザインだが、多くの武将はハッタリを効かせるため、意図的に派手で目立つ、ケレン味のあるデザインを好むので、コイツだけが特別な訳でもない。この辺はリアルの戦国武将が派手な鎧兜を身に着けているのと同じ様な物、と言えば納得出来てしまう範疇である。


「皆の者、これまで良く頑張ってくれた。今こそ我等が大願を果たす時。日頃鍛えた力を振るう相手には事欠かぬ。得られるであろう戦果は計り知れぬ。蹂躙せよ! 奪い取れ! 戦場(いくさば)こそ我等が花道。存分に暴れるが良い!」

「「「「オオォォォォォォォォッ!」」」」


 御館様の言葉に、家臣達の雄叫びが唱和する。

 戦意高揚の演説にしてはシンプルで、大した工夫も無い。人によっては、戦争物のアニメとかである様な演説を期待したかも知れない。

 しかし、彼等は元々戦う気満々の連中だ。無理に扇動する必要の無いので、長々と語るのは逆効果、と言うのもある。

 それに、結局は彼等はただのゲーマー、一般人である。心理学とか駆使した、大統領演説の様なプロの仕事は不可能なので、これが精一杯である。

 とは言え、リアルでは会社でプレゼンした経験があったり、物書きや編集、演出の仕事をしているプレイヤーもいる。彼等の力を借りれば、それらしい演説も可能であったろう。

 結論から言うなら、そんな事気にするヤツはここには居なかった。そう言うのが好きなヤツ等は、他の藩でそう言う事をやっていた。ここに居るのは、悪い意味で戦馬鹿ばかりである。本当に、藩の運営が心配になるレベルである。

 そんな戦馬鹿、戦闘廃人共が何とか纏まっていられるのは、彼等の一段上を行くボスが居るからである。

 そのボスの、鍛えた鋼を打つかの如き、力強い済んだ声音は、シンプルな言葉と共に武人達の心にスッと沁み込んだ。


「「「「全てはディアナ様の御為に!」」」」


 戦国時代設定のゲームで、洋風の名を付けているこの御館様は、かなりの(かぶ)き者。

 通常路線を無視し、好き勝手に趣味に走った挙句、何故か人望を集めて城主にまで成り上がった、マイナー・プレイヤーであった。

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