兵は田に屯する
大分温かくなって来た今日この頃。
リアルでもゲームでも、もうすぐ4月である。
トタトタと、ログ・ハウス内を走り回っていたシモヘイは、ふと思い付き、3階のベランダに立ち、外を見回した。ここからだと、畑や牧場の様子が良く見える。
ログ・ハウスの裏には約20ha程の林を残しており、そこでキノコの栽培をしたり、林から間伐材を取ったりしている。そして、正面側の約30haは10haずつ3つに分け、農耕地・牧場・休耕地として、連作障害を避けるためにローテーションさせている。
「お~い。ジェーン! ディアスを見なかったかぁ~!?」
ひょっとしたら畑に居るのではないか? と思って見回してみたシモヘイだったが、結局目当てのディアスは見つけられず。代わりに目に留まったジェーンに聞いてみた。
「あんちゃん? 今日は見てないけど……」
ディアス達はパーティーとは言え、割と適当に好き勝手やっているため、互いのスケジュールを把握していない事の方が多い。それなりの用事で予め都合を合わせない限り、一緒になってプレイする事も意外と少ないのだ。
それでも、リアルの生活リズムが近いのか、大概同じ時間帯にダイブ・インしているので、それ程困った事はなかったのだが。
「《通信》は?」
「OFFってるか、『圏外』だと」
全く、何処に行ったんだか。とシモヘイは肩を竦めた。
ディアスはダイブ・インはしている筈。それは拠点のログに記録されるので、確認済みだ。
「『圏外』なら、この辺には居ないんじゃない?」
「あいつ、たまにOFFったまま忘れる事があるからなぁ……」
とりあえず、ログ・ハウス内には居なかった。ヤマカンの『工房』にも、この前のBBQセットの作製が終わって以来、暫く仕事場には近付きたくない。とか言ってここ暫くは立ち寄っていないらしい。
「俺はこれから適当に探しに行くが、もしディアスに会ったら《通信》入れる様に言ってくれ」
「解ったぁ~!」
ジェーンの返事を聞きながら、シモヘイは『転移室』に向かうのであった。
ヨサクの炭焼き小屋にて。
「……ディアスの行き先、だと?」
肉を炭火で焼きつつ、昼飯を食べていたヨサクは、突然訪ねて来たシモヘイの問いに、はて? と首を傾げた。
「オラはこのめぇの、これの納品以来会ってねぇだよ」
と、肉を焼いているBBQグリルを指して答えるヨサク。以前会った時と喋り方が違って違和感があるが、心に余裕が出て来たので、『樵』のロール・プレイを再開したのだろう。
「その時ディアスのヤツ、何か言ってなかったか? 仕事に疲れたから逃避したい、とか……」
「今度こそ休む、とは言ってただな。どっか行く、てな話は聞いてねぇが」
「ゴロゴロしたいだけなら、出かける必要も無い筈なんだが……」
実際、昨日までは家でゴロゴロしていたディアス。それが今日になって急に出かけたので、また何処かで変な仕事を抱え込んだのではないか? と考えていたシモヘイであった。
ヨサクへのBBQセットの納品が4日前。ここ最近ディアスと会ったであろうプレイヤー達を当たってみる事にしたのだが、あまり手掛かりは残っていなかった様である。
「BBQ協会(仮)の設立の方も、既に牧場やら猟師やらに話は通してあるらしいし、後はこっちで調整するだけだから……。オラが頼んだ仕事は全部終わってるだよ」
流石ディアス。確かな仕事だよ。と頷くヨサク。
「そうか……邪魔したな」
「慌しぃな、もう行くだか。折角だから、飯食ってったらどうだ?」
「火急の用って訳じゃ無いが、出来るだけ早めに話を通しておきたい用事があるんだ。誘ってもらって悪いが……」
「そうだか。……シモヘイよ」
「ん? 何だ?」
妙に真剣な声音で呼び止めるヨサクに、シモヘイは思わず振り返る。
「食った感想を聞きたかっただよ。……偉そうな事言ったが、実はオラもBBQの美味しい焼き方なんて知らねぇだよ」
「今更かよっ!?」
十勝岳山頂付近、温泉宿にて。
「家以外でゴロゴロするなら、ここかなぁ……、と思ったんだが」
家ではのんびり出来ないので、何処か休める場所に行った可能性も……。とか考えてここまで来たシモヘイだったが、外れの様である。
「そうですねぇ。ディアスさんなら、3日前に冷蔵庫の食材を補充しに来ましたが……」
相変わらず自分の家そっちのけで入り浸っているウナルル。それ故に無駄に細かく把握していたが、それでも有益な情報は無かった。
「それっきり、ですねぇ……。本当に補充だけで、温泉も食事もして行きませんでしたから」
「何処か行く、とか、何か用事がある様な事は言ってなかったか?」
「特には。……ただ、『小まめなチェックをしておかないと、後で余計な仕事が増える』とか愚痴を言ってましたから、今回の補充もその一環ではないかと」
以前のトラブルが堪えた様だが、温泉すら入って行かないとは余程である。
「何だ? ディアスのヤツ、行方不明なのか?」
と、マゼランが声を掛ける。
この男、十勝地域から出て行こうとして山越えをしている最中、偶然この温泉宿を発見し、あまりの居心地の良さに入り浸り、後ちょっと……と思いつつ、そのまま2ヶ月近く経つ。本来の『風来坊』プレイ・スタイルはどうした? と問いたい。
「行方不明、って言うと大袈裟だが、まぁ、そんなとこだ」
「ふ~ん。……アイツも、本来『冒険家』だろ。どっか冒険しに行ったんじゃないか?」
「あり得ない訳じゃ無いが、その場合はこの温泉宿を拠点にして、山歩きする程度が何時もの事なんだが……」
それは冒険と言うよりは、冒険のための訓練に近い。もし、本格的な冒険に出かけるなら、一言声を掛けてから出かける程度の気遣いはしていた筈。とシモヘイは思う。
「そう言えば、チャイカは居ないのか? 登録上の事とは言え、義妹なら何か聞いて……」
と、シモヘイは言いかけて、それなら同様にジェーンだって何か知っていた筈だ。と思い至り、途中で言葉を止める。
「呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャーン!」
「ぬおぅっ!?」
天井から突如として降って来たチャイカに、驚いて飛び退くシモヘイ。
「ちなみに、お兄ちゃんにはアタシも3日前以来会ってないよ」
「そうか……」
「新しく『Hな水着』を手に入れたから、一緒にお風呂入ろうと誘ったんだけど、逃げられちゃった」
「そ……そう、か……」
ここまで来て温泉入って行かないのは珍しい。と思ったシモヘイであったが、その所為か。と納得。
チャイカは、くノ一の術を試すチャンスが……。とかぼやいていた。義兄相手に試すんじゃない。と突っ込みたいところだが、今は急いでいるので、その事はスルーするシモヘイ。
「とにかく、俺は他を当たってみる。もしディアスに会ったらよろしく言っといてくれ」
「アタシも付いて行ってあげても良いよ? 忍者は人探し得意ですよ?」
「いや、要らん」
「しょぼ~ん……」
何となく嫌な予感がしたので、無下に断るシモヘイであった。
ハリマオのガラス工房にて。
「ここ最近は、ヤマカンが窓ガラスを大量に買い付けに来た位だが……」
ディアスには会ってないな。と言うハリマオ。
「右に同じ」
工房からあまり動かない弟子のアサツユも、同様に心当たりは無し。
シモヘイもディアスの行き先の心当たりが尽きて来た所為で、知り合いの所を片っ端から当たっているだけである。
ディアスはハリマオのガラス工房のお得意様だが、買う品は主に、窓ガラス、ランプ・シェード、食器類、である。窓ガラス等は建築依頼を受けた時に買う位だし、食器類は割ったりして消耗した時に位しか買わない。そんなに頻繁にガラス工房を訪れる訳でも無いのだ。
「ハイサムちゃんなら、私達よりは最近会ってた筈だけど……」
「そうなのか?」
「ディアスさんからプラスチックのレシピもらったから、これでセルフレームも作れる。って喜んでたから。……あれが、一昨日の事だったかなぁ……?」
言ってたのは一昨日だったと思うけど、会ったのはもっと前かも? と首を傾げるアサツユ。
「それで、そのハイサムは?」
「だから、プラスチック加工のために修行中」
札幌にセルロイドを加工出来るプレイヤーが居るとかで、ディアスのコネでそっちに修行に行ってる、と。
「ここ2~3日はゴロゴロしていた様に見えたが、知らない所で色々仕事してたんだなぁ……」
それで、邪魔の入らない、誰も居ない所に行きたがったのかも知れない。もしくは、新たに仕事を請け負ったか。シモヘイはそう考えていたのだが、それだと結局行き先を絞りきれず、知り合いを総当りになる。
「帯広の中心街に行ってみるか。……じゃあ、もしディアスに会ったら連絡くれ」
「おう。……ついでに、これ買ってかないか? 人探しに便利だぜ」
と、ハリマオが取り出したのは望遠鏡。
「いや、要らん」
「……これも中々売れないなぁ……」
『市場』BBQコーナーにて。
「ディアスの行き先知らないか? と言われてもねぇ……」
ヨーゼフは新設されたコーナーの展示に指示を出しながら、特に聞いてねぇな。と、シモヘイの問いに返答する。
「こっちで会ったのは、4日前の納品と、2~3日前の改装の時位か」
それ以降は、こうして最終調整に掛かりっきりで、他に気が回らなかったからなぁ……。と言葉を濁すヨーゼフ。
「ここも、か……」
一昨日位で大体の用事は終えた様で、何処へ行ってもそれ以降の目撃例は無い。
シモヘイが見た限り、昨日はずっと家でのんびりしていた様なので、もし新たな仕事を請け負ったなら、それこそ仕事のついでに頼まれたのでは無いか、と思っているのだが。
「別に、俺は追加発注とかしてねぇよ」
とシモヘイの内心を察したか、ヨーゼフは言う。
「そう言やアイツも、普段自分から御用聞に行ってる訳でもねぇのに、何時の間にか仕事抱えてるよなぁ……」
大抵の場合は、トラブルを抱えたヤツが、助けてくれ。とディアスのところに駆け込んで来るのだが。
「伊達に『マイナー・プレイヤーの駆け込み寺』とか呼ばれてる訳じゃねぇ。ってか」
「そんな風に言われてたのか……」
「ああ。あれで、こっそり静かにマイナー・プレイを楽しみたい。とか、無理があるだろ。って位にはな」
シモヘイも、ディアスが、目立ちたくない。とか言っていたのは知っているし、そのためにあまり率先して仕事を請けない様にしていた事も知っている。
だが、ディアスと1年近く付き合って来たシモヘイには解る。そもそも、ディアスはお人好しなのだ。同士が少なく援助を受け難いマイナー・プレイヤー達に、ついつい手助けをしてしまう程には。ディアス自身がマイナー・プレイヤーで、その下準備のために苦労し、器用貧乏になった事も無関係ではあるまい。
そう考えれば、『マイナー・プレイヤーの駆け込み寺』と言う風評も、言い得て妙と言うよりは、単なる事実。と思ってしまうシモヘイであった。
「それじゃ、依頼を受けて奔走してる、とするなら、マイナー・プレイヤーの知り合いを当たった方が良いかなぁ?」
「いや、それって北海道全域を探し回る事にならねぇか?」
と、ヨーゼフは苦笑する。ディアスの噂は攻略掲示板の片隅にひっそりと、とは言え載っているので、場合によっては他所の地域から依頼が来る事もあり得る。これは十勝以外の地域にも出向いて仕事をする事も多くなったので、人の口に戸を立てるのが難しくなって来たためである。
「流石にそれなら1言言ってくと思うし、特に大仕事の準備してた様子も無いし……」
「大仕事、って言っても、ディアスの場合は、結局は図面描くだけだろ?」
「それだったら、図面渡すだけで済むし、普通は向こうから取りに来るから、出掛ける必要は無いだろ?」
「それも、そうか」
シモヘイがそう言うなら、そうなんだろうな。とヨーゼフは適当に相槌を打っておく。
なんだかんだ言って、ディアスの行動パターンは1番長く行動を共にしたシモヘイの方が良く知っている筈である。
「とりあえず、他の心当たりを回ってみたらどうだ? 俺の情報網に引っ掛かったら、教えてやっからさ」
「済まない。頼む」
『猟遊会』にて。
「ディアスになら5日程前に会ったぞ」
「5日前、か……」
バロウズの答えに、シモヘイはちょっと古い情報だな。と思うも、
「それで、何してたんだ? そん時、仕事発注したりしなかったか?」
「その仕事を減らすため、ウチの自称『鉄砲鍛冶』共相手に講習会を開いてたんだよ」
シモヘイの問いに、バロウズは自分はその講習会を受けてないから、詳しくは知らん。と言う。
NPC売りの『銃の図面』はそんなに種類が多くないため、多くの猟師プレイヤーは自分に合う様、独自のカスタムを施す事が珍しくない。
しかし、殆どは手の形に合わせて握り易いよう、グリップの形状を整える位であり、本格的なカスタムが出来るプレイヤー、自称『鉄砲鍛冶』は未だ数少なく、ディアスに匹敵、となると皆無である。
ゲーム・システム上、銃器設計のノウハウが無い中、熱機関のノウハウを元に開発出来てしまうディアスの方がおかしいのだが。
「ただ、鉄砲鍛冶共が何か頼んだ可能性はあるとは思うが、それ以降はこっちに来てないからな。何とも言えん」
「とりあえず、そいつ等に話を聞いてみるが……、手掛かり無さそうだな」
「あれ? シモヘイさんじゃないですか」
奇遇ですね。とドロレスが声を掛けて来た。
ドロレスは最近、プレイ・スタイルが固まって来たのか、インディアンの格好をする様になっていた。インディアン……と、そう呼んでいた、アメリカ先住民に対し色々と誤解と偏見があった頃の、アバウトで間違ったイメージを元にしたコーディネートである。西部劇に出て来るインディアンをベースに、可愛く見える様にアレンジした物。と想像すれば大体合ってる。
「いや、『またぎ』が『猟遊会』に居るのは普通だろ。ドロレスの方こそ、何でここに?」
「私はほら、弓を始めたんですよ」
と、動物の角から作られたと思しき短弓を見せびらかすドロレス。
猟銃で狩りをする猟師が大半だが、弓矢等、その他の飛び道具を使う者も結構居る。【銃器】アビリティ習得のためには、先ずは他の飛び道具を使う必要がある。と言うのも理由の1つだが、あえて銃以外の手段を選択した者も居る。例えば、ロール・プレイのため。等だ。
「始めたばかりで、まだそんなに得物を仕留めた経験はありませんが」
とか言いつつ弓を構えてみせるドロレスは、それなりに様になっており、実戦経験こそ少ないものの、訓練で良く【弓術】アビリティの熟練は進めている様である。
「そっかぁ……。一応聞くけど、最近ディアスに会ってないか?」
「ディアスさんですか? それでしたら、昨日ディアスさんからこの弓をもらいましたが……」
「昨日会った!? 何処で?」
「何処でも何も、兄さんに会いにそちらのホームにお邪魔したのですが、その時に挨拶がてら世間話をしただけですよ?」
その話の流れで、ディアスさんのお下がりの弓をもらっちゃいましたが。と言うドロレスは、その弓を甚く気に入った様で、自慢気な、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「その世間話の中で、今日の予定と言うか、仕事とか何処か出かけるとか、そんな事は聞かなかったか?」
「私が、NPC売りの弓が物足りなくなって来たら、その内製作依頼しに来ます。と言う様な事を話したら、【銃器】アビリティの所得条件を満たすために、ちょっと使った弓で良ければ。ってタダでくれたんですよ」
一応、仕事の話はしたが、その場で終わってしまったらしい。
「でも、弓だけ良くなっても、矢の品質がそのままだと今一なんですよね」
とか、聞いてもいないのに語りだしたドロレスを他所に、ここにも手掛かり無しと見たシモヘイは、
「バロウズ、万が一ディアスを見かけたら、連絡よろしく」
とだけ言って、その場を後にした。
タゴサク・パーティーの拠点にて。
「結局、ディアスが捕まらないんだが……」
「マジでか?」
溜息を吐きながらのシモヘイの報告に、タゴサクも少し困った様な顔になる。
「ささやかなパーティーとは言え、出来れば今日中に確認しとかないと、準備に支障が出るかも……」
「そんな事言われても、俺がどんだけ探し回ったと思ってるんだ?」
もうすぐ『TONDEN FARMER』はサービス開始から1周年である。
それを祝い、サービス開始当初の第1期販売の頃から、実際に1年間十勝地域でプレイして来た者だけで集まって、パーティーでもやろうか。とタゴサクの発案で企画したのだが。
「ディアスの家を、会場として使わせて欲しかったんだが……」
ディアスの家は広くて綺麗であり、しかも設備が整っている。こう言う時、皆で集まるには都合が良いのだ。しかし、肝心のディアスが捕まらなければ、その許可も取りようが無い。
そして、会場が決定しなければ、パーティーの開催自体が危ぶまれ、人を誘う事も出来ない。
「ディアスのヤツ、割とセキュア設定は緩くしてるんで、最悪の場合、勝手に使う事も出来るが……」
可能ではあるが、マナー違反なので出来ればそれは避けたい。と言うシモヘイ。
「そっちの件は引き続きシモヘイに奔走してもらうとして、こっちの件だが、予想より寂しいパーティーになるかも知れん……」
とても1周年を祝う物とは思えない程に。と不吉な事を言うタゴサク。だが、そうならない保障も無い。
第1期に十勝の『開拓案内所』に配属になったプレイヤーはたった25人程。しかも、その半数以上が十勝を出て行ってしまってる。残ったプレイヤーも、リアルが忙しくあまりプレイしなくても差が付き難い、十勝ののんびりした雰囲気が良い。と言う者が多く、故にリアルの都合で1週間に1~2回しかダイブ・インしない、と言うのもざらである。
そうなって来ると、参加者数は5~6人と見込まれ、そもそも企画が間違っていたのでは? と疑問が湧いて来る。
「やっぱ、実際に1年間プレイして来たヤツだけ。って縛りが駄目なんじゃないか?」
「結果だけ見ればそんな気もするが……、ゲーム内で1年間過ごしてないヤツが参加するのも違う気がするし……」
タゴサクの無駄な拘りに、シモヘイは肩を竦めた。
「じゃあ、せめて十勝でスタートした、って縛りを解こうぜ。そうすれば、ヤマカンやハリマオ、ヨーゼフにヨサク、その辺も対象になるだろ」
後は、他に誰か居たかなぁ……。と指折り数えつつ、シモヘイは提案する。
「仕方ない。その線で行こう。そうすると、参加人数の見込みは10人ちょっと、ってところか?」
「大体、それくらいの見積もりで良いだろ」
最初から大規模にするつもりはなかったので、あまり大勢参加しても、料理の準備の当てが無い。故にその辺りが限度だろう。とタゴサクもシモヘイも想定していた。
「ヤマカンのヤツも学校建設の仕事を終えたばかりだし、今は暇だろ。誘えば乗って来るだろ」
「まだ会場も決定していないのに、誘うのはどうかと……」
「一応、パーティーの拠点だから、メンバーの過半数が賛同すれば問題無い筈、だが……」
シモヘイは考え込むも、結局結論は出なかったのか、
「とりあえず、俺は1度拠点に戻って、ヤマカンに聞いてみるさ」
そう言うと、『転移室』を使って家に戻るのであった。
ディアス・パーティーの拠点、ヤマカンの『工房』にて。
「ほう。1周年記念パーティーとな」
ヤマカンは面白そうに、顎鬚を撫でつつ笑みを浮かべた。
「ワシには異存は無いが、ジェーンも誘わねば、拗ねるのではないか?」
「今回は、本当に1年やって来た第1期組だけ。って事で企画してるんで、内密に」
「後でバレても知らんぞい」
まぁ、黙っといてやる位は構わんが。と一応は納得してくれるヤマカン。
「しかし、ディアスを探しとった様じゃが、見つかったんかのぅ?」
ヤマカンの問いに、しかしシモヘイは首を横に振るのみ。それに対し、ふむ……、と訝しげな表情になるヤマカン。1番付き合いの長いシモヘイが見つけられないとは、何処へ行ったのやら。
「となると、冒険にでも出掛けたんじゃろか?」
「それ、他のヤツにも言われたが、1言も無しに1人だけで、ってのは考え難いと思うぞ」
「そうじゃろか?」
ヤマカンは深刻な表情を作り、不吉な事を言い出す。
「ディアスは『冒険家』なんぞと言っとるが、あれって結局、映画なんかの影響じゃろうが」
「そうだろうなぁ……」
ディアスの用意している冒険用装備には、リアルの冒険家が使う様な本格的な物から、フィクションでしか見かけない様なネタ装備まで、多岐にわたる。
特にネタ装備は、リアルで無い分あまり使い物にならず、ディアスも試作しては、上手く行かん! と苦労していた。だったら、そこまでしてネタに走るな。と言いたいシモヘイであったが、要するに、ディアスの憧れる冒険がそう言う方向性なのだ。と解り易い一例である。
「じゃったら、映画っぽく、男は黙って1人、旅に出る。のがカッコイイとか思っとるかも」
確かに、映画のラスト・シーンとか、そう言うのは結構ある。その事を指摘され、シモヘイは急に不安になって来た。
これまでの約1年間でディアスは、様々な冒険装備も完成の域に達し、保存食の準備も万端。そして、十勝地域のマッピングは網羅していると言って良い。即ち、もうここには冒険する場所は無く、他所に行ってしまう可能性が否定しきれない。
また、周りが『大工』扱いして頼り、『冒険家』としての活躍の場が無い事で、ディアスに不満が溜まっているのかも知れない。
「それがディアスのスタイルなのじゃから、引き止めるのも野暮と言うモンじゃ」
2年目は北海道一周。とか最初から企画していたとしても、なんら不思議では無いのぅ。というヤマカンの言葉は、ディアスの性格を知る彼等からしてみれば、説得力のある推測であった。
そもそもディアスの『冒険家』として鍛えた踏破能力は、他の追随を許さず、他の者は足手纏いになる。故に1人で、と言うのもおかしくも何とも無い。唯一付いて行けるとしたら、【移動】アビリティ特化のチャイカ位である。
シモヘイが確認した限り、長旅向けの資材は納屋から持ち出されておらず、道産子もそのまま。しかし、ディアスの事だから、こんな事もあろうかと。とか言って、アイテム・バッグに常に必要な装備を用意している可能性は高い。
「俺、もう1度探してみる」
と、シモヘイはこのままもうディアスに会えないのではないか? と言う妄想に駆られ、慌てて工房を後にした。
もしそうだとしても、高がゲームでの別れで真剣になるなんて。などと言う事無かれ。1年も共に遊んでいれば、リアルだとかゲームだとかの区別は野暮である。それがFDともなれば尚更。
ちょっとからかい過ぎたかのぅ……、と思いつつ、ヤマカンはその後姿を見送るのであった。
「あれ? シモヘイ君。結局あんちゃんは見つかってないの?」
何か手掛かりは……、と納屋を探って、ディアスの作った冒険用装備を確認していたシモヘイは、ジェーンに不思議そうに聞かれた。
「ああ。彼方此方の知り合いを当たってみたんだが……」
その答えに、ジェーンはあれ? と更に首を傾げる。
「アギトに匂いを追わせるものだと、思ってたんだけど?」
「その手があったかぁぁぁぁぁぁっ!」
アギトはシモヘイが猟犬として使っているエゾオオカミである。ちゃんと猟犬として鍛えている事もあり、匂いを追わせる事などお手の物の筈。
と、思わず納得しかけたシモヘイであったが、
「って、このゲームって、体臭の個人差まで再現してたっけ?」
「さぁ? やってみれば分かるんじゃない」
はい。あんちゃんの愛用の鍬。と、ジェーンは納屋から鍬の1つを取る。
シモヘイはアギトを呼ぶと、その鍬の匂いを嗅がせ、
「追えるか?」
と問えば、アギトはオンッ! と出来るとばかりに力強く吼え、走り出す。
「おおっ! 行ける! 何で最初っからこうしなかったんだぁああっ!?」
ずしゃぁぁぁぁぁっ!
喜び勇んでその後を追いかけたシモヘイであったが、アギトが止まったその先を見、盛大に転んで地面に突っ伏した。
「あぁ……。ゲームならではのオチだねぇ……」
苦笑しつつのジェーンの声が、虚しく響く。
一仕事追え、誇らしくお座りをするアギトの居るその場所は、
『転移室』
と書かれていた。
とぼとぼと。夕日に照らされつつ、力無く歩くシモヘイのその姿は、何処と無く侘しかった。
「する事無いなら、田畑の害獣除けトラップの確認でもして来て」
とジェーンに追い出される様にして、こうして夕暮れ道を行くシモヘイであった。
シモヘイは言われるままに、畑の周りに設置したトラップを確認し、次は田圃の物を調べに行くところなのだが……。どうせなら、もっと早く、明るい内にやるべきだよなぁ……。と今更な事を思う。
田圃と言っても、まだ田起こしすら始めていない時期なので、トラップとか必要ないのだが。それでも、配置の検討位は出来るだろう。と自分を納得させつつ、シモヘイは行く。
暫く行くと、目印となる梅の木が見えて来た。
この木は、ディアスが、
「カレンダーとかハッキリしていなかった昔は、こう言う植物の開花で農業のタイミングを計っていたらしい」
とか言って植えた物だ。梅の花で何が判るんだ? と問えば、さぁ? と首を傾げていたので、何処かで適当に拾って来た、本当かどうかも分からない信憑性の低いネタを、面白半分にやってみただけ。の様であった。
そして、今もその梅は咲いていない。
せめて咲いていてくれれば、少しは和むんだが。と勝手な事を思いながら、シモヘイは近付いて行く。
夕日が逆光になり、良く見えないが、木の根元に誰か居た。
ガラスの器に琥珀色の酒を満たし、それをちびちびと飲みながら佇む、凡庸な男が1人。
「って、ディアスじゃねぇかっ!」
「ん? シモヘイか。どうした、何を驚いてるんだ?」
ディアスの方も、慌てて走りながら近寄って来るシモヘイに気付き、不思議そうな視線を向けた。
「そう言うディアスこそ、こんな所で何やってるんだよ?」
「いや……、我ながらアホなミスなんだが……。花見をしようと神社に行ったんだよ」
「……は? いや、南の方ならともかく、北海道でこの時期に花見はねぇだろ?」
「……だから、『アホなミス』って言ったろ」
ニュースで、早い所では咲き始め、何て聞いたため、ついつい暴走してしまった。とか言い訳をするディアス。
リアルのお花見スポットは、人が混雑しているので行きたくない。なら、FDがあるじゃないか。とか思い込んだらしい。
それで『転移室』を使い、以前に桜を植樹した神社へと《転移》したディアスであったが、当たり前の話、桜は咲いていなかった。
リアルの日時は3/28の23時ちょっと前。ゲーム内カレンダーでは3/12の夕方である。北海道でなくとも桜の咲く時期ではない。
「それで、梅なら桜より早い筈だから、咲いてないかなぁ、と思って来てみれば……」
見ての通り、と言う事だ。と、それでモチベーションの下がったディアスは、そのまま意味も無くぼけぇ~……と、花見のために持ち出したバーボンを飲みつつ、2時間近く過ごしていたらしい。
ちなみに、北海道では梅も桜も開花時期はほぼ同じ、5月の頭頃である。その事をディアスは知らなかったらしい。
「ホントにアホかお前。急に居なくなるから、こっちがどれだけ心配したと……」
「別に、居なくなった訳じゃ……」
と、そこで何かピンと来る物があったのか、ディアスはからかう様にニヤニヤすると、
「そっか。お前、卒業式で泣くタイプだな?」
「なぁっ……!?」
「そう言うシーズンだもんな。雰囲気に当てられて、思い込んだんだろ」
「ち……違…っ……!」
ばたばたと、慌てて手を振るシモヘイの態度は、図星と言っているも同然であった。
「何だ。ディアスのヤツ、居るじゃないか」
そうしてディアスが暫くシモヘイをからかっていると、不意に声を掛けられる。声の主は、タゴサクであった。
「おお、タゴサクか。聞いてくれよ。シモヘイのヤツ、卒業式で去って行く憧れの先輩に、思い出に第2ボタンをくれと……」
「捏造してんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「……何やってんだか……」
と言いつつも、タゴサクには2人がじゃれあっている様にしか見えなかったが。
タゴサクはライフルを取り出すと、先端にグレネードを取り付け、真上に向けて発砲した。
パンッ!
と言う音と共に宙で炸裂したそれは、明るい光源となり、ゆっくり落ちてくる。照明弾、いや、その意図するところからすれば、信号弾と呼ぶべきだろう。
暫くすると、
「ディアスが見つかったって?」
と、道産子に騎乗したヨーゼフが遣って来た。
「ふぅ。もう少しで、猟師総出で山狩りするところだったぞ」
バロウズも居る。
「お前等、何で?」
「何でじゃねぇだろ。人に、見つけたら連絡くれ。とか言う位なら、自分が見つけた場合にも連絡よこせや」
「そうだぞ。お前が尋ねて回った連中、殆どがこうしてディアス探しに協力してんだぞ」
「げ……、マジか?」
何やら大事になっていた様である。それだけシモヘイの態度が深刻に見えたのか、それとも、ディアスが十勝に無くてはならない人材だったのか。
「とにかく、俺が信号弾上げといたから、これで皆気付くだろ」
大半のヤツ等は『圏外』を探してるんで、《通信》繋がらないからなぁ。と苦笑するタゴサク。よって、苦肉の策で信号弾を用意したとか。
そして、そのタゴサクの言葉通り、時間差で人がぞろぞろと集まって来た。……考えてみれば、集まる必要など無いのだが、それは『言わぬが華』である。
「えぇ~と、本日は俺のためにご足労いただき、ありがとうございます……?」
普通にのんびり休んでいただけ、のつもりのディアスは、状況を良く飲み込めていないが、何故だか行方不明扱いになっていた自分を捜索していた。と言うところまでは察したので、とりあえず礼を言っておいた。……言ってから、
「いや、これって、騒ぎを大きくしたシモヘイから、何か詫びがあるべきだろ」
と、気付く。
「え? 俺が、か?」
「え? じゃねぇよ」
うんうん。と頷く一同。
「じゃあ、折角人も集まった事だし、宴会でもやるか。勿論、シモヘイの奢りで」
「なぬぅ!?」
「丁度良い。酒なら大量にあるぞ。遠慮なく呑んでくれ。代金はシモヘイに付けとくから」
「おいこら、タゴサクにディアス。勝手に話を進めるんじゃねぇ! 俺は承諾してねぇぞ!」
「しかし、これだけの酒があると、つまみも欲しくなるよなぁ……。干し肉位しかないけど」
「なら、肉焼くだよ。BBQにするだよ!」
「ハムとか、ソーセージで良ければストックが……」
「俺は野菜なら幾つかアイテム・バッグにあるぜ」
タゴサクの言い出した『宴会』の1言を切っ掛けに、俄然騒がしくなる。
と、こうなってしまっては、今更シモヘイが何を言おうが流れは止められない。なら……
「タゴサク! お前も費用を持てよ! 大体、ディアス探してたのって、お前の依頼だろうがっ!」
「ちょっ!? このタイミングでそれ言うかっ!?」
皆の視線が集まり、慌てるタゴサク。
「では、シモヘイとタゴサクの割り勘で決まりだな」
と、バロウズが仕切り、シモヘイは少しホッとし、タゴサクはガックリ項垂れる。……のも、束の間。
「皆の者! これで予算は倍になった! 遠慮なく食材を提供するが良い!」
「「止めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」
2人の悲鳴は、その場のノリと勢いで無視された。
夜が更けて行く中、何となく始まった宴会は、騒がしさを増しつつ盛り上がって行った。
ちょっとした事で集い、何かとトラブルを起こし、無意味に悪ノリする。こうして開拓者達の日常は、今日も過ぎて行く。
そして、1年が過ぎ……
もうすぐ、また春が来る。
まだ最終回じゃないぞい。
もうちっとだけ続くんじゃ。




