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TONDEN FARMER  作者: 800
第1章 北海道開拓編
29/45

休日はじめるんだ……

 ゴシャァァァァァッ!


 劣化したアスファルトを削り、鋼の巨人が地を滑る。


 かつて繁栄を誇った人類が、地上だけでは足りず、地下まで伸ばした生活空間。その残滓。

 今やライフ・ラインも途絶え、淀んだ空気は最早毒その物。居続ければやがて死に至る。


 ゴオォォォォゥッ!


 ろくな明かりも無い、地獄にも似たその場所で、スラスタの噴射が(おり)を掻き混ぜる。


 巨人は二体。

 その身は互いに漆黒。しかし、片や金のラインで装飾された、光沢のある装甲。片や、闇に紛れる艶消しの黒。その印象はまるで違う。


 意外にも原形を留めたままの建造物を楯に、その二体は互いに有利なポジションを取ろうと駆け巡る。

 その度に堆積した埃が、アスファルトが、コンクリートの破片が舞い上がる。


 この巨人、名を『Armed(アームド) Gear(ギア)』と言う兵器だ。

 生産能力の落ちた人類が、多種多様な要求を賄うため、オプション選択によって汎用性の獲得を目指した、言わば間に合わせのでっち上げ兵器である。

 そのセンサは暗視装置も備えていたが、地下何層目になるかも判らぬ程深く潜れば、どうしても地上と同じ様には行かない。


「もう燃料が尽きる頃合だろう? では、そろそろ死んでもらおうか。伯爵」


 その内の一機は動力源(パワー・ソース)に水素ガス・タービンを採用していた。最大出力でこそ勝るものの、稼働時間は短く、廃熱・騒音による被発見率も高い。この状況では不利な要素だ。


「ふん。我輩の二つ名が『不死身の伯爵(イモータル・カウント)』と知って、そう言うかね?」

「だからこそ、あんたを殺せれば、大儲けだ」

「恥知らずが……」

「そう言うな。これも需要がある仕事なのさ」


 対するもう一機は燃料電池で動いている。隠密性の高さもさる事ながら、高出力パーツを排除し、用途を限定する事で、低出力が不利にならない様に構成されていた。

 しかも、完全に闇に紛れる事を前提とした、艶無し。その上、識別灯すら切っている。本来ならありえない、対人・暗殺を目的とした仕様だ。

 伯爵が『恥知らず』と評したのは、何も殺しを(ひさ)げている事だけを言ったのではない。

 AGの艶のある装甲は、地上の緑地帯に巣食うミュータント・モンスターの腐食体液に対する備え。ガラス・コーティングのためである。

 それが施されていない()の機体は、その化け物達と戦う気が無い。と言う事に他ならず、戦力に余裕の無い人類にとって、それだけの兵器(ちから)を持ちながら、それを人類のために使わぬ輩は(さげす)まれるのが当然であった。


(この件で、誰が得するのだか。な……)


 人殺し専門の機体を駆る傭兵。その様な者が実在するなら、伯爵の知らない所で状況が動いたのかも知れない。




「……何、見てるんだ?」


 銀幕(スクリーン)に映し出されるロボット・アニメを見ていたディアスに、シモヘイが後ろから声を掛けた。

 炬燵(こたつ)の上に置かれた映写機。映写機は単なる演出の様で、その映し出す映像は、普通のモニタと同程度には綺麗だ。

 こんな物あったっけ? と思いつつ、どちらかと言えば、アニメの方が気になるシモヘイであった。


「これか? 『Armed Gear』って言う、10年ちょっと位前のアニメ、だそうだ」


 ディアスは炬燵でぬくぬくしながら、大して興味も無さそうに答えた。


「安くなってたんで、暇潰しに落としてみた」


 これを試すためだな。と、映写機をぽんぽん、と叩くディアス。


「この映写機? これでダウンロード販売のビデオを見られるのか?」

「『Powerfull(パワフル) Diver(ダイバー)』のアドオン版。これも安かったんで暇つぶし用に。……買ったは良いんだけど、手持ちのソフトに丁度良いのが無かったんで、不人気で安くなってたアニメもついでに。ってのが正しい順番だけどな」

「……ああ。前に欲しがってが、結局買ったのか」


 アニメの方はおそらくは見せ場であろう戦闘シーンだが、ディアスにとっては本当に暇潰しだった様で、映写機の説明をしていて銀幕(スクリーン)の方を見ていなかった。


「このアニメって、ゲームが元ネタのヤツだよな?」

「良く知ってるな?」


 古さもさる事ながら、不人気な作品と聞いていたので、ディアスはちょっと不思議がる。


「え~と、ゲームの世界観を利用したオリジナル・ストーリー。って事らしいが……」


 サイトの批評では、


 ・原作ファン、見ちゃ駄目。

 ・ハードな世界観を緩和して万人向けにしたかったんだろうが、はっちゃけたキャラが違和感ありまくり。

 ・ギャクアニメとしてなら、ギリギリあるかも。

 ・ゲームのプロデューサーとアニメ監督が喧嘩したと言う噂を信じられる。

 ・アニメ企画がポシャらなかったのが奇跡。


 ……安くなる訳である。

 そのゲームも、アニメも知らなかったディアスにとっては、さほど気にはならないが。


「俺もアニメの方は良く知らないけどな。ゲームの方は『Iron(アイアン) Site(サイト)』作ってるメーカーが昔やってたヤツ。って事で、記事が載ってたんでな」


 『Iron Site』が『Armed Gear』の遺伝子を受け継いでいる。とか何とか煽り文句が書かれてた。と言うシモヘイ。


「ああ。お前が元々やりたがってた、って言うあれか」


 ディアスも納得。ならば、メーカー・サイト等に目を通していれば、やや世代が外れた昔の物とは言え、多少の情報を知る事もあるだろう。


「じゃあ、『Iron Site』も、こんな感じのロボットに乗れるのか?」


 と、ディアスは画面上で銃を撃ちまくっているロボットを指差す。一応、ミリタリー的な設定が強いものの、そのデザインはけれん味のある、カッコイイ物になっている。


「いや、もっとミリタリー寄りだな。それと、『ロボット』で一括りにされるんじゃなくて、兵種毎に、完全に別種のロボットがある、って感じか? リアルで例えるなら、『戦車』と『装甲車』は別物、みたいに」

「へ~。面倒臭そうだな」

「面倒臭さで言えば、『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』の方が相当なモンだと思うけどな」


 おまけに、ロボットのカスタムが出来るものの、メカニック・スキルの相当の熟練が無いと愚にも付かない物になるだけで、パイロット・スキルとの両立はほぼ不可能。やろうとしたプレイヤーは過去には居たらしいが、今では誰もが諦めたらしい。

 よって、2人でコンビを組むか、メカニックはNPCを雇って鍛え上げるかするのがトレンドだとか。

 そして設計によっては格好良さを追求する事も可能だが、装飾は死重量(デッド・ウェイト)となるので好まれず、洗練された機能美こそが華である。


 シモヘイは趣味であるSFミリタリーの話題のため、ついつい語ってしまったが、そんな話をしに来た訳では無かった筈だ。


「っと、そうだ。ヤマカンが手伝ってくれ、ってさ」

「どうせ、学校の件だろ。必要な図面は一通り渡してあるから、後の調整は発案者であるヤマカンの仕事だろ」


 アニメ鑑賞中だった所為で、《通信》はOFFにしていたディアス。それでシモヘイの方に回って来たらしい。


「あっちも忙しいらしいぞ。何せ4月前に準備終わらせ、新人達に、学校に通うのが当たり前。って思わせたいらしいからな」


 とは言え、施設の準備自体はスケジュール的に問題は無いらしい。

 生徒の勧誘も、ディアスの置いていった『戦車の図面』を客寄せにし、自力で入手するのが難しい設備、組織に入っても熟練の低い内は触らせてもらえない設備を、練習で好きに扱える。と言う事もあって、割と上手く行っている。とか報告が来ている。

 この辺は、『しっぱいしてもいいじゃない。だってげーむだもの。』と言うディアスの主義が反映されている。と言えた。

 殆ど会社組織に近い形になっている廃人達のパーティーでは、失敗は業務の停滞と組織の信用を失う事に係わって来るため、新人の教導のためとは言え、設備を自由に使わせるのは無理がある。

 例えば、スチーブの所で『蒸気機関車』の運転に失敗すれば大事故になるだろうし、チャックの所でも『高速艇』の乗員の育成は難航している。

 彼等は、先ずは運転席を模した物で操作を覚えてから。としているが、やはり早い段階で実機を操作した方が、『習うより馴れろ』で熟練するには都合が良い。


 要するに、生徒を集めるまでは上手く行きそうなのだ。だが、札幌(さっぽろ)の廃人達の間では妙な派閥が出来ている様で、企業間のシェア争いの様相を呈している。他所のノウハウは欲しいが、自分のノウハウは秘して置きたいのだ。

 このままでは、個別にそれぞれのパーティーで教導していたのを、場所を変えただけになってしまい、派閥間でのノウハウの遣り取りが起きない事が予想されている。酷い場合、その遣り取りは、学校を舞台にした産業スパイ戦。と言う形で実現され、余計なトラブルの原因になりかねない。

 もしそうなった場合、他分野のノウハウの複合によるブレイク・スルー、と言うのは夢物語になってしまう。


「複数の分野の交流を活かしてこその『総合大学(ユニバーシティ)』なんじゃよ!」


 とヤマカンは息巻いていたが、その熱意はディアスには伝わらなかった。

 リアルのヤマカンはこれから大学生になる身。大学と言う物に夢を見ているのだろう。


 とにかく、そんなややこしい人間関係の調整は、泣き付かれたところでディアスにもどう仕様も無い。

 それに、札幌の連中も、ある意味そんなトラブルや駆け引きも面白がっている様で、そのプレイ・スタイルは、『シ○シティ』と言うよりは、どうやら『モ○ポリー』だった様である。

 そんな経済戦争がしたいなら、『NANIWA(ナニワ) AKINDOH(アキンドー)』に行けば良いんだ。とディアスは思っている。

 つまり、今のディアスは、場違いな面倒事に巻き込まれそうになって、嫌気が差してやる気を失っているのである。


「ヤマカンに言っといてくれ。『無理して理想の学校を創ろうとしないで、程々に』ってな」

「お、おう……」


 確かに、そこまでの仲裁は義務がある訳でも無い。学校と言う交流の場が新たに出来た事で、少しずつ自然に何とかなれば良いだろう。とはシモヘイも思うので、この件に関してはここまで。出来れば、ヤマカンも早めに引き上げさせた方が良いかも知れない。


「それと、チャックのところからの問い合わせが。物流強化のため、釧路(くしろ)帯広(おびひろ)間の道路を敷くか、十勝(とかち)港を整備しようか、って話が出てるんだが?」

「……何でその話が、俺のところに来るんだろう?」

「いや、それは元々ディアスが言い出した事だから、だろう?」


 ああ、そう言や、そうだったな……。とか呟いてから、


「別に今やらなくても良いだろ。……こんな雪の積もる冬場にやっても、大変だろ」

「しかし、ね……」

「後でヤマカンに聞いてみるさ。リアル道民知識を元に調整した方が良いだろ」


 どっちにしろ、後で。と断るディアス。

 もし、この場にヤマカンが居れば、道路の方。と即答した事だろう。リアルでは、釧路~本別間の高速道路が完成した所為で、十勝の物流は釧路への依存度が増大し、十勝港の重要性が薄れ、利用者が減っていった歴史がある。


「今年の冬は、こうしてダラダラ過ごすと決めたんだ……」


 見た目からして本当にダラダラしている。大して興味も無いままぼけ~と見ていたアニメも、何時の間にか終わっており、既にエンディング・テーマとスタッフ・ロールが流れるだけだ。


「何時もなら、農作業の空く冬場にこそ、何かヘンな事はじめるのに……」

「偶にはこう言うのも良いだろ。……大丈夫。春になったら本気出す……」


 ディアスは映写機のフィルムを『Armed Gear 3巻 9~12話』と書かれた物に入れ替えて、また炬燵に入りなおす。


「あ~……。蜜柑が無いのが何だかな……」

「だったら、買って来りゃ良い物を」


 北海道で蜜柑は栽培出来ないが、炬燵で蜜柑は誰もがやりたがる所為か、『市場(いちば)』での販売は最初期からあった。


「じゃあ、シモヘイ、買って来て。お駄賃あげるから」

「やだ。俺、蜜柑嫌いだし」


 と言いつつ、シモヘイも炬燵に入る。彼も寒いのが嫌いなのだ。炬燵でぬくぬくしているディアスを見て、自分も入りたくなるのは無理も無い。

 ついでに言うなら、ロボット・アニメを見てみたかった。と言うのもある。


「代わりにこれでどうだ?」

「林檎かよ」


 微妙に不満気だが、結局は渡された林檎に皮も剥かずに齧り付くディアス。乾燥している冬場に、果物の汁気で喉を潤せるのはありがたい。……やはり、どちらかと言えば蜜柑の方があっているのだが。




「……はっ!?」


 気が付けば、ダラダラと流れていたアニメも、もう終わっていた。

 酷い事に、殆ど印象に残っていない。何か、ロボットがガチャガチャ暴れまわって、色々壊れた。それだけ。


「……何だかな。これ見た後だと、同じメーカーが作ったって言う、『Iron Site』も面白く無さそうなんだが……」


 ひょっとしたら、『TONDEN FARMER』に劣るとも勝らずの糞ゲーか? とディアスは首を傾げる。単にプレイヤー数で比較すれば、『Iron Site』の方が人気がある事になるが。


「これは……、アニメが酷いんだろ。元のゲームは世界観やメカ設定が創り込んであるらしいが、1クールの番組じゃ、その辺端折られてたみたいだからな。元ネタ知っとかないと」

「いや、その元ネタ知ってる連中は、『改悪化してる』って酷評してるんだが?」

「アニメ化に向いてなかった作品、って事だろ。ややこしい設定がハードル上げて、ユーザーを選んでた、って話しだし。……まぁ、俺もその辺の事情はメーカー・サイトで見ただけで、実物やってないんで、これ以上のコメントは出来ないが」

「……シモヘイ。やれもしないゲームを、ただ憧れてネットで情報を集めるのって……、虚しくないか?」

「ほっとけ……」


 とにかく、終わった、終わった。と、ディアスはう~ん、と伸びをして、ごろん、と寝っ転がる。

 あまり内容のある物ではなかったが、当初の予定通り、時間つぶし程度の役には立ってくれた。


「俺は最初の方は見て無いんだが……、とは言え、また最初から再生してくれ、って言うのもなんだかなぁ……」

「一応、値段分の価値はあったよ」


 ディアスの台詞は、一見フォローしている様であるが、実際には1巻あたり100円。3巻、全12話で300円。その程度の価値しか認めていない酷評である。


「その程度かい」


 シモヘイはフィルム・ケースに張られた、『大安売り! 100円!』の札を見、苦笑する。


「辛辣だな。ディアスはもっとメカ物が好きかと思っていたが……」


 普段の設計能力を見れば、ディアスを機械類が嫌いな人間とは、誰も思わないだろう。


「確かに、嫌いじゃ無いけどな。だから、こうしてロボット・アニメ落としたんだし。だが、好きが故に、厳しくもなるんだよ」


 だから、繰り返し見る程の物では無い。と思っているディアス。つまり、暇潰しが終わってしまって、ちょっと手持ち無沙汰である。


「シモヘイも何か落としてみるか? 500円位なら奢ってやるぞ」

「500、って。止めとけ。その値段で買えるのは、駄作しか無いぞ」


 こればかりは、流石にシモヘイの言う事の方が正しい。人気が無いから安くなった。と言うのは、恐ろしく的確な結果論である。

 じゃあ、何するかなぁ……。と呟きながら、ゴロゴロしているディアス。

 リアルでも特にする事が無くてゲームにダイブ・インし、そのゲームの中でも暇を持て余している。


 そうして悩んでいると、とたたたたっ、と足音が近付いて来た。この軽い足音は、ジェーンの物である。

 ディアス達がアニメ見ている間、ジェーンは雪の降る寒い中、家畜の世話をしていたのだ。ご苦労な事である。


「あんぢゃ~ん!」


 余程寒かったのだろう。ジェーンは鼻水を垂らしているが故、くぐもった声を発しながら部屋に入って来た。

 FD(フル・ダイブ)ゲームでは、寒さも再現しているとは言え、苦痛となるレベルは制限を受けるため、耐えられぬ程の寒さは感じない。代わりと言っては何だが、寒さの演出として、こうして見っとも無く鼻水が垂れたりするのだが。


「ずびがっ! ずびがぁぁぁぁぁぁっ!」

「何言ってるか解らん。先ずは鼻をかめ。そして温まれ」


 ディアスはジェーンの鼻水を手拭で拭き取ってやると、炬燵に入る事を勧める。

 ジェーンは炬燵に入り、少し落ち着く程に温まると、次第に蕩けた様な表情になり……、


「はっ!? こんな事してる場合じゃないんだよっ!」


 自分が何を慌てていたのか、思い出す。


「炭がもう無いんだよっ!」

「そう言や、炬燵の炭もそろそろ燃え尽きる頃合か。納屋から取って来ないとな」

「その納屋にも無いんだよっ!」

「……は?」


 そんな馬鹿な。とディアスは思ったが、冗談で鼻水垂らしながら駆けて来る。と言うのも考え難い。


「ちょっと納屋を見てくる。ジェーンはそのまま温まってろ。その炬燵は、まだもうしばらく保つ筈だ」

「俺も行く」


 ディアスとシモヘイは、2人して納屋へ。


「……本当に、ねぇ……」


 何故だ……? とディアスは呆然となる。

 冬の備えとして、十分な量を買っていた筈なのだが、今見た限りでは、それは見当たらない。どころか、納屋の中が妙に閑散としている。


「なんか、炭に限らず、色々少なくなってる気がするんだが?」


 とりあえず、薪が幾らか残っているから、これで暖を取るか。と思案するディアス。


「木炭は無くなってるが、石炭ならあるぞ」

「暖炉や石炭ストーブもあるから、すぐさま凍える訳では無いが……」


 和室用の暖房としては炬燵や火鉢を用意してあるが、洋室には暖炉やストーブがある。好みが合わないのか、普段は誰も殆ど使わないので、忘れられがちだが。


「にしても、何だってこんな事になってるんだか……」


 ディアスはブツブツ言いながら、納屋の在庫履歴を検索する。


「……ヤマカンのヤツ……!」


 少し前に、ヤマカンによって大量に持ち出されていた。

 木炭以外にも、木材やら釘やら。主に建材関係が無くなっている様である。流石に、備蓄の食糧には手を付けていない様だが。


「そりゃ、あれじゃね? 学校建築用に持ってったんだろ」

「いや、確かにあれはヤマカンの発案とは言え、パーティーで請けた仕事だから、パーティーの備蓄使っても良い。って許可出したが……」


 だからって、冬の備えを持って行くのは違うだろ……。と憤るディアス。


「まぁ、ヤマカンには後でお仕置きが要るとして、とりあえずどうする?」

「どうもこうも。買って来るしか無いだろ。今あるだけじゃ、到底冬は越せん」


 しかし、心配事はある。冬の備えは皆当たり前にやっている事だけあって、今現在だと『市場(いちば)』の在庫も少なく、値上がりしている可能性があるのだ。だが、その辺は諦めるしかない。


 ディアス達は一旦部屋に戻ると、


「俺達はちょっと買出しに行って来る。ジェーンはどうする? 何なら、リビングの暖炉に火を入れてやるが?」

「私も付いてく。『市場(いちば)』ならそこそこ暖かいと思うし……」


 何時燃料が無くなるか判らない家の中よりかは良い。と言うジェーン。

 と言う訳で、皆防寒具を羽織り、出かける準備をする。


「ゴロゴロする、って決めた矢先、その準備のために忙しくなるとは、な……」




 『市場(いちば)』に到着。と言っても、『転移室』を使ったので、時間が掛かった訳でも、雪道を苦労して歩いた訳でも無い。


「やはり、全体的に品薄だな」

「それだけならまだ良かったんだが、何だか品質が悪く無いか?」


 ディアス達は真っ直ぐに燃料コーナーに来たものの、手に取った木炭の品質の低さに顔を(しか)める。

 その木炭は、どうやら湿気っている様で、このままでは危なくて使えない。火にくべれば、中の水分が膨張し、破裂する危険性があるからだ。……十分乾燥させる手間を掛けられるなら、むしろ安くてお買い得だったりするのだが。

 残っているのはこんなのばかりで、今すぐ使えるのを大量に欲しいディアス達は困ってしまった。


「……事務所、行ってみるか」


 ディアスは『市場(いちば)』の管理事務所へと歩き出す。


「そんなところ行って、どうするの?」


 分からぬまま、とりあえずディアスの後を付いて行きつつ、ジェーンは問うた。


「こう言う所には、いざって時のためのストックがあったりするんだ。そいつを売ってもらえないか、交渉してみる」

「難しいんじゃねぇの? ヨーゼフも伊達に十勝の商人のトップやってる訳じゃ無いんだし……」


 ヨーゼフは十勝の3大トップ・プレイヤーの1人に数えられている『商人』である。ゲーム開始当初、まだ『転移室』も無く、馬すら持っているプレイヤーも居ない頃から、物資を集められるだけ集めては、自分の足で売り歩いた豪傑である。

 そして何より、彼が高く評価されているのは、良い物をきちんと高く売る事だ。

 リアルでは『良い品安く』とか『薄利多売』が流行っており、消費者としてはそれで良いのだが、このゲーム内では殆どのプレイヤーは生産者でもある。買うだけでなく売る事も多いプレイヤー達は、良い品には相応の価値を認め、それらを安く買い叩いたりしないヨーゼフに、絶大な信頼を寄せているのだ。

 とは言え、一介の商人に過ぎない筈のヨーゼフが、何故に公共施設である『市場(いちば)』の管理事務所に居るのかと言えば、『市場(いちば)』をショッピング・モールかホーム・センター風に改装しよう。とか言い出したのが彼だからだ。故に、『市場(いちば)』の運営には色々係わっている様である。

 そんな彼が、店頭に並べていない品を売ってくれるのか? シモヘイには些か疑問であった。


「おお、居た。ヨーゼフ、ちょっと頼みがあるんだが」


 事務所に入ると、『適正価格』と書かれた書が目立つ。幾人かのNPC職員が仕事をしている中、その事務所の片隅の休憩スペースにヨーゼフは居た。

 どうやら休憩中だった様で、何処か疲れた様な表情でコーヒーを飲んでいたヨーゼフに、ディアスは遠慮無しに声を掛けた。


「なんだ、ディアスか。また変な物仕入れてくれ、とか言いに来たのか?」


 ディアスとヨーゼフの付き合いは、例の『市場(いちば)』改装に際し、依頼を受けたディアスが図面を描いたのが切っ掛けで、割と最近なのだ。だが、それ以降はこうしてちょくちょく伝手を利用して、自力では手に入れ難い物を頼んだりしている様である。


「変な物じゃ無い。炭が欲しい。上質の木炭を売ってくれ」

「木炭なら店頭に……、上質なのは、無かったか……」


 ヨーゼフの頭の中には大体の在庫は記憶されている様である。


「バック・ストックは無いか?」

「あるけど、売らねぇぞ。『市場(いちば)』には物資の安定供給って目的もあるんだ。ここで売って、本当に必要な時に後が無くなったら困るだろうが」

「俺等は、冬の供えが無くなって、今正に後が無いんだが」

「益々駄目だ。お前んとこの1冬分の木炭を売ったら、他に皺寄せが行っちまう。粗悪品の木炭で我慢しろ」

「こっちも、粗悪品を使い物になる様に直す手間も惜しい位に、追い詰められているんだって」

「だからって、贔屓は出来ねぇ。特例を認めたら、我も我もと群がって来ちまう」


 シモヘイの予想した通り、ヨーゼフは頑固であった。


「品薄な時、リアルなら値段を吊り上げて購買を抑制するんだろうが、俺はそう言うのは嫌いなんだよ。だから売らん」


 結局金持ってるヤツが買占めする様な状況には、絶対したくねぇ。とヨーゼフは言う。


「こっちも木炭は次回入荷の目途が立ってねぇんだ。それさえ何とかなりゃ、もっと店頭に出す事だって……、やってみるか?」


 何やら思案気な顔をするヨーゼフ。確実とは言えないものの、当てがあるのかも知れない。


「は? 何が、だ?」

「ディアス、ちょっと使いを頼まれろ」


 大っぴらに言える事じゃ無いから、耳かせ。と言うので、ディアスはヨーゼフの傍に耳を寄せる。

 ポソポソと話を聞く内、ディアスの目が大きく見開かれる。


「んな事言ってやがるのか。アイツは!」

「声が大きい、って。どうプレイしようが個人の勝手だから、本来なら口出しする筋合いじゃねぇんだが、このままだと彼方此方(あちこち)に影響出そうなんで、穏便に説得して欲しいんだ」


 個人の事情を無視する形で干渉した、ともなれば体裁が悪いし、かと言って、影響力の大きい生産者のトラブルは、周りに波及する恐れがあるので、放置する訳にも行かない。


「それに、ディアスにも無関係、って話じゃねぇみてぇだから、お前が話し聞きに行くのは問題ねぇだろ」

「解った。ザクッと片付けてやる」

「いや、何か、擬音が不穏な気がしたんだが……?」




 と言う訳で、『転移室』で『山小屋』まで跳び、そこから目的地まで雪山行軍する破目になったディアス達。

 こうなって来ると、マフラーの下にエゾオコジョのかむぞうが巻き付いているジェーンは、とても温かそうで羨ましい。そのためだけに、新たにエゾオコジョを数匹、シモヘイに捕って来させようか。とか考えてしまったディアス。


「ぬくぬくのんびりするつもりが、こんな事に……。これも、ヤツの所に『転移室』が無いのが悪いんだ」

「なら、無理しないで、安物の木炭で我慢しとけば良かったんじゃね? 乾燥処理済むまでは薪や石炭で凌いでさ」

「シモヘイ。文句があるなら、別に付いて来なくても良かったんだぞ?」

「それは……なぁ、ディアスをほっとくと、余計なトラブルに拡大しそうな予感があったからなぁ……」

「うん。あんちゃん1人に任せておくのは、ちょっと不安だよ」

「……勝手にしろ」


 ディアスとヨーゼフの遣り取りは、傍から見ていると、ディアスが何時も通り暴走しそうに見えたらしい。よってブレーキ役が必要。と言うのがシモヘイとジェーンの共通見解だ。


「見えて来た。あれだ」


 と、ディアスが目的地を指差す。その先は、ディアス達が建てたのとは、別の山小屋だ。煙突から煙が出ているところを見ると、家主は在宅の様である。


「おい、こら! ヨサク! お前、仕事したくねぇ。とか言ってるらしいな!」

「ぬおぅっ!? ディアスかっ! 何故ここに?」


 竈の火をぼぉ~っと眺めていたヨサクは、突如戸を開けて乱入したディアスに驚いた。

 そして、驚いた男がもう1人。


「ヨ……、ヨサクだと……?」

「ん? シモヘイ君、何を驚いてるの?」

「名前が、4文字じゃないヤツ、はじめて見た……」

「…………」


 ……どうでも良い話であった。


「シモヘイ。今はそんなギャグは要らん」

「そうだよ。空気読もうよ」

「俺が悪いのかっ!?」


 真面目な話をしに来ているのに、そんなどうでも良い事で話の腰を折られれば、そりゃ、扱いも悪くなろうと言う物である。


「シモヘイの所為で場が白けてしまったが、とにかく、話を聞かせろ。お前が炭焼き止めると、困るヤツが大勢居るんだ。勿論、俺もその1人だ」


 ヨサクは、はぁ……、と溜息を吐き、仕方無しに話すと決めた。何せ、ディアスはヨサクが炭焼きを始めた当初からのお得意様である。何の事情説明も無しに、納得して帰ってくれるとは思えないからだ。


「聞いてみれば詰まらん理由だぞ。……ただ単に、もう、そう言う時代じゃなくなった。ってだけの話だ」

「え? まだ需要はかなりあるだろ?」


 だからこそ、ヨーゼフも困っていたのだし、特にヨサクと同じレベルの炭焼きが出来るプレイヤーは居ない事もあり、炭焼きでやって行けない。と言う事は無い筈なのだが……。


「だが、俺が炭火の仄かな明かりと、柔らかな温かさが好きなのは知ってるだろ?」

「風情がある、ってヤツだろ? 心も温まる。とか良く聞かされたし……」

「俺は、火鉢を囲んで温まる、ハートフルな家庭の情景を思い描いて炭焼きしてんだよ。しかし、今や石炭ストーブの時代」

「ぅ……」


 依頼を受け、石炭ストーブを大量に作った覚えのあるディアスは、俺の所為か? とちょっと不安になる。


「時代の流れ、ってのは仕方ないさ。だから、きっぱり諦める事にしたんだ」

「ちょっと待て。まだ、料理用とか需要があるだろ。俺達なんて、『豚丼』を広める計画立ててるんだぞ! 当然、豚肉は炭火焼だ!」

「……それも、春になってから、って後回しにして、サルトビのとこに話も通して無いだろ」

「そこ、黙ってろ!」


 養豚農家であるサルトビとの取引すら、まだ始まってもいないのに、そんな絵空事では説得も何もあったものではない。


「料理によっては炭火が欠かせないのは、俺も解ってるさ。だからこそ、暖房用の需要が減っても、今まで頑張って来たんだ」


 七輪で魚焼いたりする、ハートフルな家庭の情景……。とか言うヨサク。料理用に使うのも、彼としては納得の行くもので、そう言う需要がある限りは、まだ炭焼きを続ける気はあったのだが……


「需要がある、って言っても、とりあえず炭火焼なのをありがたがっているだけ。炭だって、上質って書いてあるから売れるだけ。本当に違いが解ってるヤツなんて、本の一握りさ……」


 だったら、無理して炭焼きを続ける事も無いだろう。と言うヨサク。

 仕事に対し、正当な評価をされていない、と感じれば、やる気が無くなる事もあろうが……


「要するに、モチベーションが保てない、って話で良いのか?」

「そりゃ、生産職を辞める理由なんて、大体そんなモンだろうよ」


 大雑把に話を要約して問うたシモヘイに、ディアスは当たり前だろ。と返す。

 ディアスも完全にヨサクの気持ちを理解出来た訳では無いが、単純にまとめるなら、『理想と現実のギャップ』とでも言おうか。


「決定的な何かがあった、って言うより、何か色々積もりに積もって、って感じだな。……相当、重症っぽいし、さて、どうしたもんか……」

「重症なのか?」

「ああ。何時もの『(きこり)』のロール・プレイをやってない位だからな」

「……細かい理屈は解らんが、余裕の無さは伝わるな……」


 ロール・プレイをやっていない、と言う事は、遊べていない。とすら言える。


「それでも、お前の炭じゃないと駄目だ。って言う得意先は幾らでもあるだろ。解ってないヤツが多少居たところで、辞める事は無いと思うが。……さっきも言った通り、豚丼の店で買い付ける予定もあるんだ。『豚丼』って、十勝の郷土料理らしいんだよ。お前にも是非協力して欲しいんだが……」

「元々、趣味で始めた炭焼きだし。これからも細々とはやってくさ。買い付けに来るヤツには売るよ。……だが、『市場(いちば)』に卸す様な大量生産は、もう止めだ」


 ヨサクの作る木炭は他者より質・量ともに群を抜く。他の炭焼き職人は兼業が多く、どうしても専業でやってるヨサクに劣るのは仕方ない。

 【炭焼き】スキルを持っているプレイヤーは十勝で15人位なのだが、『上質な木炭』に限ると、ヨサクだけでその生産量の半分以上を賄っている現状、彼に辞められれば、益々木炭離れが進むだろう。


「馬鹿ヤロォォォォォォッ!」


 パァァァァァァァンッ!


「ぶしっ!?」


 ディアスは平手打ちで、ヨサクを張り倒した。


「解るヤツだけ買って行けば良い。って、それは違うだろ!」

「ディアス……」

「思い出せ! お前は、そう言う解らんヤツ等に炭の良さを伝えるため、炭焼きを始めたんじゃなかったのか!?」

「え? 確かに、そう言えなくも無いが……、でも、え? 何言ってんの、お前?」

「諦めるんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!」


 パシィィィィィィィンッ!


「ぼへっ!?」


 などと、彼等が揉めている傍ら、シモヘイとジェーンは白けつつその様子を眺めていた。


「ねぇ、シモヘイ君。この寸劇は何かな?」

「多分、ディアスのヤツ、巧い説得を思い付かなくなったから、勢いで誤魔化そうとしているんだろ?」

「それで、何時まで付き合わされるのかな?」

「……説得が成功するまでか、ネタ切れまで?」


 とか言っている間にも、説得? は佳境に入った様である。


「お前の焼く炭の良さを解ってるヤツは大勢居るんだ! お前が頼めば皆手を貸してくれるさ! 何も1人でやる必要は無いんだ!」


 これを、往復ビンタをしながら吹き込むディアス。

 ダメージ判定は無いとは言え、多少の刺激はあり、視界が左右に揺さぶられる事もあって、ヨサクはかなり気持ち悪くなっていた。

 一定のリズムで刺激を与えながら刷り込むのって、催眠術の手段だよなぁ……。とかシモヘイは思ったが。


「解った、解ったってば! そこまで言うなら、やってやるぜ!」


 ヨサクはヤル気を取り戻した様だ。……洗脳完了、なのかも知れないが。


「ただし、お前にも手伝ってもらうぞ。ディアス。……手を貸してくれるんだろ?」

「勿論だ! 男に二言は無い!」

「まぁ、あそこまでやっとて、放置ってのは詐欺だよなぁ……」

「そう言う事は、黙ってようよ。……でも、また余計な遠回りしそうな予感……」


 シモヘイたちの懸念を他所に、話は進行する。ヨサクが無茶な要求をしない事を願うばかりだ。


「解り易く木炭の良さをアピールする場が欲しい! 具体的には、BBQ(バーベキュー)を広めたい!」

「いや、BBQ(バーベキュー)なら、十分広まってると思うが? BBQ(バーベキュー)グリル位なら、簡単に作れるし」

「所詮は簡易的なものだろう? だから正式な作法じゃ無い。当然、炭の扱いもいい加減な者が多いんだ」

「言われてみれば……、そうかもな」


 ディアスも、細かい事は気にしないでBBQ(バーベキュー)をやっていたので、頷かざるを得ない。


「そこで、BBQ(バーベキュー)と一緒に、正しい炭の使い方を学べば、より炭の価値を引き出せる。って寸法さ」

「成る程。大体解った。ならば、俺はBBQ(バーベキュー)協会っぽい物の設立でも手伝えば良いのか?」

「最終的にはそうなるが、ディアスに頼みたいのは、ホーム・センターで売ってる様な、キャンプ用BBQ(バーベキュー)セット、的な物を量産して、『市場(いちば)』に並べて欲しい」

「……あ~、そう言や、『市場(いちば)』には素材ばっかりで、それは無かったな……」


 元々のゲームのコンセプト故か、何でもかんでも買って済ます、と言う事は想定されず、むしろ自分で作れ。的な風潮である。

 作ろうと思えばそうそう苦労せずに作れる物であるため、初期レベルの金属加工とかの練習に丁度良い事もあり、それを売ろう。と言う発想は出て来辛かった。……要するに、作っても売れない。と皆思ってる。


「それでお前がヤル気になるなら、ヨーゼフも多少は融通してくれると思うが……」


 ちょっと微妙。と思うディアスであったが、本質は炭の正しい使い方をレクチャーする場を作る。と言う事なので、細かい調整はスルー。


「その内、BBQ(バーベキュー)大会なんかを俺主催で定期的に開きたい。と思ってる」


 大会の様な場があれば、確かに炭の扱いの良し悪しが判り易いだろう。とは、この場に居る誰も異存は無い。


「でもそれって、炭の生産者がチヤホヤされる場所が欲しい。って事だよね?」

「それは言うな。むしろ問題は、ヨサクに他の仕事が出来る事で、結局木炭の生産量が落ちるんじゃ無いか? って懸念がある事か……」

「私達は、ヨサク君がヤル気になった。ってだけで目標達成なんだよ。後はスルーで」


 余計な事に気付いちゃったら、面倒事に巻き込まれるよ。とコソコソ話し合うジェーンとシモヘイ。

 その間にも、とりあえず、ヨーゼフに話を通すか、とディアスは《通信》しようとするも、ここは最寄りの『転移室』から1km近く離れているため、『圏外』である。


「まぁ、『市場(いちば)』にどの程度のスペースが確保出来るか、は後の話になるとして、BBQ(バーベキュー)協会(仮)用に1ダース程作っとく、って事で良いか?」

「ああ。それで。こっちもストックから木炭をやるよ」


 と言う事で、大体の話はまとまった様である。

 基本的に生産担当はヤマカンだが、ディアスでもこれ位の物は作れるので、問題は無い。だが、


「これと、ヨーゼフとの約束で売ってもらえる分を合わせれば、冬を越せるな」

「それは良いんだが、今、ウチにBBQ(バーベキュー)グリルとか大量に作れる程の資材は無いんだが?」

「……あ」


 シモヘイに言われてディアスは、ヤマカンが鉄板とかも持ち出して、無くなっている事を思い出した。

 そして今現在、品薄状態の『市場(いちば)』から、BBQ(バーベキュー)協会(仮)分と『市場(いちば)』の在庫分を作れるだけの資材を購入するのも難しい。


「じゃあ、持ってそうなプレイヤーから買うしか無いか……」

「それも微妙じゃないか? 大抵のヤツは、自分とこで必要な分しか持って無いだろ」


 本格的な『鉄工所』とか『製鉄所』的な事をやっているプレイヤーが居れば、話は違ってくるのだが、プレイヤー数の少ない十勝では、人に頼らずある程度自分で出来ないと立ち行かない事もあり、大規模な専門業者プレイはやり難い。自分で出来る物を他所から買おう。と思うプレイヤーは殆ど居ないからだ。

 製鉄能力では、ヤマカンの『工房』が十勝一の生産能力を持っていたりするので、ディアス達の所で無ければ、他から買って来るのは難しいのが現実であった。


「……仕方ない。釧路に行くぞ」

「あ~……。あそこなら造船関係で生産設備もいっぱいあるだろうし、貸しもあるから手に入れられるとは思うが……」


 面倒臭過ぎだろ、それ。とシモヘイは呟く。


「休みを作るためには、働かねばならないこのジレンマ。……何とかならんものか……」

「これはあれだね。楽するために打ち出の小槌が欲しいけど、それを手に入れるためには凄く働かなくちゃいけない。って昔話に似てるね」

「ああ。それ知ってる。アニメ世界昔話のヤツだな」




 と言う訳で、釧路へ。『転移室』を使ったので、金銭的な蓄えが心配である。

 『転移室』を使うついでにヨーゼフに連絡を取ったが、


《「BBQ(バーベキュー)コーナーは構わねぇが、それに伴う店内レイアウトの変更は手伝えよ?」》


 とか言われてしまった。

 それはともかく、先ずは何時も通り、コネのあるチャックの所へ向かったディアス達。


「ディアスか。物流の件で直接乗り込んで来たか?」

「悪い。今回は別件だ。そっちの件は、ヤマカンと相談して決めるつもりだが、アイツは今他の件で大忙しだからな」


 リアル道民知識を頼りたいので、ちょっとだけ後回しにさせてくれ。と言うディアス。……言われるまで、その件もあった事など忘れていたとは、おくびにも出さない。


「どの道、冬場の大規模工事は難がある。多少遅れても良いさ」

「お前ならそう言ってくれると思ったよ」


 チャックの同意に、ディアスは安堵する。

 本音は冬の間はゴロゴロしたい。と言うだけのディアスであったが、今までの実績や、今現在は精力的に働いている様に見える事から、チャックは彼の台詞に疑いを持たず、忙しいんだな。と思っただけである。


「今回は、鉄板を幾らか融通してもらいたい。BBQ(バーベキュー)道具一式を大量に作らなければならないんだ」

「そりゃー、何でまた?」

「簡単に言うなら、十勝の燃料事情改善のため、炭生産者のご機嫌取り、ってとこかな」


 と、ディアスは苦笑しつつ言う。

 チャックは、そりゃー、大変だ。と頷くも、


「事情は解ったが、幾らでも、と言う訳には行かねーな。こっちも今、試作船作る必要があって、資材を集めてる最中なんだ」


 大量、ってのがどれだけの事か解らんが、あまり量が多くなる様なら、チャックも断らざるを得ない。

 試作と言う事は、何度失敗するかも解らない、と言う事であり、資材の消費量も現時点では確定していないのだ。


「試作……、何か面白いアイデアでも出たのか?」

「まーな。船その物の技術じゃ無くて、搭載装備の方なんだが。海底資源の採掘船、みたいなのを作れねーか、って話が出ててな」

「へぇ……」


 本当にそれが成功すれば、現在の船舶技術に更に箔を付ける事にもなる。


「そうだ! ディアスも1口乗らねーか? お前の設計技術があれば試作回数を減らせるだろうし、そうなれば資材を融通し易い」

「言わんとする事は理解出来るが、具体的に何を採掘するのを想定しているんだ? それによって設計が変わってくるが……」


 海底の土砂を浚うのか、それともボーリングするのか……


「俺等が狙ってるのは、ズバリ! 『メタン・ハイドレート』だっ!」

「アホかっ!」


 ディアスは思わず怒鳴りつける。


「メタン・ハイドレートに手を付けるのは、違法行為だろうがっ!」

「大丈夫。明治頃にはそんな法律無かったから」

「毬藻乱獲してるならず者と、同じ様な事言ってるんじゃねぇっ!」

「うぐ……」


 最近、慌しく動き出した札幌に対抗して、釧路の連中もちょっと焦り出したのかも知れない。

 廃人達は石狩(いしかり)地域、特に札幌辺りに移住する。と言う風潮になっているが、他の地域に廃人が居ない訳では無い。特に釧路は発展が著しいため、石狩に次いで廃人の流入量が多い地である。故に、札幌への対抗意識も強い。……逆もまた然り。だが。


「しかし、既に動いているプロジェクトを、止める訳にも行かねーんだが……」

「ふん。失敗して痛い目を見ても知らんぞ」


 そもそも違法となったのは、半端な技術で手を出して、洒落にならないトラブルに発展した事例の所為である。そして規制した程度では、基準を満たしていると偽って採掘する業者が後を絶たなかったのだ。

 その後の石油合成技術もあり、メタン・ハイドレートは研究目的で細々と採掘されるに留まっている。


「……なら、メタン・ハイドレートに使うかはともかく、海底資源を掘れる様なの、って事で1つ頼めねーか?」

「それ位なら、まぁ……。今の技術での再現出来そうな、古参の調査船何かを参考にすれば……。しかし、昔の技術だと、コストが割に合わなかった筈だが?」


 掘るのに要するエネルギより、掘ったメタンを燃やして得られるエネルギが少ない。とか言う話を聞いた事があるディアス。


「そん時は、そん時さ。とりあえずやってみるとして、採掘船の技術だけは無駄にならねー。と思ってる」


 駄目なら駄目、って結果が早く出た方が、最終的に傷も浅いかも? と言うチャック。本人的には、昔あった『日本資源大国化への夢』を信じているっぽいが。


「何せ、1/6スケールだぜ。リアルでは水深500~1000mの海底を掘って、って話だが、ゲーム内じゃ、水深83~167m。かなり難易度が下がってるんだ。やってみなきゃ損だろ」

「なるほど。言われてみれば……って、本当にそうなのか?」


 思わず頷きかけたディアスであったが、苛酷な環境は再現されている筈である。

 例えば、山ではリアルより標高は低くなっているものの、上ってみると実際の山と同程度に、空気が薄くなったり、温度が下がったりするのだ。これと同じ事が深海にも起こる筈。


「……結局、何時も通りやってみないと解らない。って事か」


 とりあえず、リアルの運用を想定した強度で設計した方が良さそうだ。とディアスは結論付けると、


「……中々厄介な設計になりそうなんだが、対価は大丈夫か?」

「う……、資材を融通するだけじゃ、駄目か?」

BBQ(バーベキュー)セット、数十セット分のお値段の資源採掘船……、ありえると思うか?」

「……無いな。しかし、これは俺の一存じゃ返答出来ねーな。前金代わりに資材持ってって良いから、頼まれてくれねーか?」


 今すぐ資材が手に入るのは、ディアスにとってもありがたい。それに、対価については、それ程の物では無いと思ってもいる。

 何せ、釧路でも既に開発が進んでいる様なので、あまり吹っ掛けられないだろうし、ディアスが渡せるのは実物では無く設計図だけだ。その上、釧路で開発した物より高性能、と言う保障も無い。

 メリットは、今までの蓄積から、彼等より早く設計が上がるだろう。と言う事だけだ。


「対価は、多分金じゃなくて、こっちで発展させて来た技術情報になると思うが……」

「任せとけ!」


 ディアスはさっきまでの仕方なく、と言う雰囲気を吹き飛ばす程、力強く頼もしい返事で請け負った。


「良し。話は決まった。そうとなれば……って、あれ? あいつ等は?」


 シモヘイとジェーンが居なかった。道理で、さっきから静かだった訳である。


「あ、あっちでウチの面子と一緒に飯に(たか)ってら」

「またかよぉぉぉぉぉっ!? 今回はシモヘイまで一緒になって!」


 しかし、2人共全く動じず、モグモグと美味そうに飯を食いながら、


「あんちゃん。港町に来て魚を食べないなんて、人生損してるよ」

「そうだぞ。尤も、今食ってるのは魚じゃ無くて蟹だけどな。美味いぞ」


 と言うと、蟹を穿る作業に戻る。静かだったのは、蟹の所為でもある様だった。


「だから、見っとも無い真似するなって……」

「大丈夫! 今回はお金払ってるから!」

「…………」


 最早言葉の無いディアス。多分、こいつ等の説得は不可能だろう。


 結局、十勝に帰ったのは、シモヘイ達が散々蟹を堪能した後の事になるのだった。




「ふぅ……、これでやっと冬の準備が整ったな」


 ディアスは木炭を納屋に仕舞い込むと、ようやっと一息吐く。

 今度は間違っても持ち出されない様、制限を掛けておいた。鉄板等の資材も同様である。


「後はのんびりと休むだけ……」


 振り返ってみれば、


 ・『市場(いちば)』の新レイアウトの図面

 ・BBQ(バーベキュー)セットの作製

 ・海底資源採掘船の設計

 ・釧路との物流ルートの調整


 えらく仕事を抱えたものである。

 春までは休みたい。と言っていたディアスであったが、それを4月までと考えても、リアルで2週間も無い。

 それとこの仕事量を比較すれば、休む暇があるかどうか。


 シクシクシク…………


「せめて、せめて今日だけは休ませて……!」


 ディアスはさめざめと泣いた。


 休みをとるのは、結構大変です。


 休日中のお父さん、お母さんに、あまり無理を言わないであげましょう。


 そして……


《「ディアスよ。どうも石炭と間違えて木炭を持って来てしまった様なんじゃ。そっちから石炭を送ってくれんかね?」》

「ふっ、ざけんな! てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

《「な、何じゃぁぁぁぁっ!?」》


 共有財産を使う際は、もっと良く確認しましょう。

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