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TONDEN FARMER  作者: 800
第1章 北海道開拓編
28/45

学校をはじめよう

「フワァーハッハッハァッ! 豊作ではないか! 我が水田は!」


 ディアスは収穫機(ハーベスタ)の上に仁王立ちになり、高笑いを上げていた。それを操縦するヤマカンは、凄く邪魔そうにしていたが。

 尤も、ディアスの高揚っぷりも解らぬ事ではない。目の前に広がるは、一面のたわわに実った稲穂。今までより見事な出来栄えである。


 季節は秋。ディアス達にとっては3度目の米の収穫である。

 それは、数々の工夫がようやく実を結んだか、それとも、新たに手に入れた新種の稲、『黒毛』と『坊主』のおかげか。やっと米作りをしている、との実感を、彼等は得たのであった。即ち、最初に言った通り、豊作である。

 その稲穂の実る田圃(たんぼ)を、かつて『強欲な死神(グリード・リーパー)』の名を付けられた収穫機(ハーベスタ)が刈り進み、籠が稲穂で満ちて行く。これも幾多の改良を受け、普通に役に立っていた。

 しかし、まだ脱穀とかまで流れ作業で自動に出来る訳では無いので、『複式収穫機(コンバイン)』と呼べるだけの物になるのは時間が掛かりそうである。


 だが、機械化のおかげで幾分楽になったとは言え、まだまだ人手の要る作業は多い。

 収穫機(ハーベスタ)がある程度まで刈って、一杯になった籠は降ろされる。ディアスはこの入れ替え作業のために荷台に乗り込んでいるのだ。そして、降ろされた籠の稲穂は根元を縛られ、田圃に用意された横に渡された竿に引っ掛けられ、干される。

 こうして竿から吊り下げられ、干される稲穂が並ぶ光景は、乾燥機で処理する事が当たり前になったリアルでは、見かけなくなった田舎の光景だ。故に、最初の頃はすっかり忘れられていた作業でもある。

 この作業は地味に大変で、今回は他所のパーティーからも助っ人を呼んでいた。ウナルルのパーティーである。とは言え、今回植えた『黒毛』と『坊主』はウナルルの提供であるし、彼女のパーティー・メンバーは、ヤマカンの妹とシモヘイの妹である。そう考えれば、他所のパーティー、と呼ぶのは語弊があるかも知れない。……シモヘイの妹は、中の人の事は秘密なので、そうと知っているのはディアスだけだが。


「お~い。そろそろ休憩入れて飯にしよ~ぜ~!」


 と、田圃の端からタゴサクが声を張り上げるのが、ディアス達のところにも聞こえて来た。


「お~。わかった~!」


 確かに時間的に丁度良い頃だし、ディアスも特に異存は無い。

 うむ。とそれにヤマカンも頷くと、収穫機(ハーベスタ)を田圃から上がらせる。

 ここまで田圃の半分程、約2ha(ヘクタール)を刈り終えたところだ。まだ試験的にやっているだけ、とは言え、ある程度の田圃の広さ、米の収穫量が無いと、誤差が多くてサンプル・データとして安定した結果が得られない。と言う理由で、4haもの広さにまで増やしたのであった。

 それは、『白髭』『赤毛』『坊主』『黒毛』の4種を、それぞれ1haずつ育てているためでもある。見た感じだと、種類毎の実りは、そう大きく変わっていない様に見えるが。


「う~ん……。でも、この頃のお米は、まだあんまり美味しくないんですよねぇ……」


 ウナルルが皆にお絞りを配りつつ、余計な一言を言う。それが事実なだけに、皆の表情が曇る。

 これらの種は、北海道の様な寒冷地でもある程度の収穫量を見込めるが、まだ、粘りがどうとか、甘みがどうとか、そう言った美味しさの評価を考えられるレベルに達していない。

 21世紀初頭にはある程度出回っていた、北海道産の美味しいお米の銘柄なら、時代的に特許が切れているので、それらの種籾なら手に入るんじゃないか? と言う淡い期待があったりするのだが。


「折角の豊作に水を差す様な事、言うんじゃないよ」

「そうだ、そうだ。お前の取り分減らすぞ」

「それは酷いですよ。借金のカタとは言え、私、種籾提供してるんですよ?」


 とか、ディアスにタゴサク、ウナルルのパーティー・リーダー3人組は、ちょっと揉めていたりする。


「……あちらは放って置いて、先にいただきましょうか」


 ジャンヌは、仕様が無い人達ですねぇ。と苦笑しつつ、皆に広げた弁当を、さぁどうぞ。と勧める。


「ああっ! ちょっと待って!」

「では、いただきます」

「いただきます!」


 流石に飯時に仲間外れにされるのは嫌な様で、3人とも言い合いを止め、慌てて手を合わせる。


「……で、どうだよ? このおにぎり、実際に俺らが去年収穫した米で作った物だが?」

「……確かに、思ったより美味しいんですが……」


 タゴサクの言葉に、おにぎりを口にしつつも、何処か腑に落ちぬ表情のウナルル。


「ウチで炊いたお米は、もっとパサパサしてたと言うか……、う~ん……」


 ひょっとして、私の炊き方が拙かったんでしょうか? と首を傾げた。


「そうかもな。ただ米炊くだけでも、意外と熟練度の差が出るらしいし」

「【料理】の熟練度は、そんなに低くない筈なのですが……?」

「ふむ……。ジャンヌ。ちょっと相談に乗ってやってくれ」

「はい。そうですね……。正しい炊き方が出来ているなら、あとは道具の所為かも知れませんね」


 とか、タゴサク達が『美味しいお米の炊き方』の話題で盛り上がっている傍ら、


「よし。今回の豊作で自信が付いた。十勝(とかち)の大規模農業を活かして、他地域への輸出を本格的に検討しよう!」


 と、ディアスはぐっ、と拳を握りつつ、宣言した。


「なんじゃい? 藪から棒に……」

「いや、藪から棒、と言う程でも無いだろ。元々この辺は大規模農業が売りなんだし」


 ディアスの言う通り、大規模農業は他所の地域への農作物の輸出を前提としている物だ。

 ゲーム的にも、地域特性を活かした交流は、更なる発展への1歩であり、重要なフラグとなっている。とも予想されている。


「考えてもみたまえ。我々が収穫した穀物資源の量を。これで後10年は食べられる」

「そりゃ……、食糧備蓄は……、大体そんなモンかな?」

「そうだろ。そうだろ」


 大雑把な試算とは言え、今のペースで食べても、数年は無くならないであろう備蓄がある事は、シモヘイも納得した。

 その同意を得られ、ディアスはウンウン、と頷く。


「つまり、このままだと、無駄に備蓄が増え続ける事にもなる訳だ」


 今でも幾らかはNPCに売ったりして金に換えている。にも拘らず、万が一のためにと、毎年少しずつ蓄えて来た食料は、結構な量になっていた。

 最早NPCに売るだけでは処理に問題があると言え、今後、米の生産が軌道に乗る事を考えれば、農産物を他地域に売るためのルート開発は、やって置いて損は無い。


「とりあえず、釧路(くしろ)へのルートを確保しようか。あそこは、海路を利用した物流拠点でもあるし」


 その言い様は、釧路の大規模水産業と、その輸出による発展を羨ましがっている様にも聞こえた。

 ゲーム開始当初、一時期躓いていたとは言え、今では最も正しく発展が進んでいる地域の1つが釧路である。その発展の影には、ディアス達の提供した蒸気機関の影響が大きく、更にはこの前に建てた冷蔵機能付き大型倉庫も、大規模化に拍車を掛けていた。

 ディアスの言う通り、そこまでの物流ルートを確保する事で、釧路の海運ルートに便乗出来れば、少ない手間で大量輸出が可能となる。

 それに、釧路はすぐ隣だし、蒸気船を初めとした蒸気機関の改良は、今でもディアス達が手を貸しているので、十勝の農作物をついでに運んでもらう事位は、断られたりしないだろう。


「発想としては、無難だと思うけど……」


 ジェーンはやや首を傾げる。


「元々、私はモフモフしたいだけだし。あんまり大規模化は考えてなかったなぁ……」

「そうですねぇ。この辺りには、どちらかと言うと、そう言うのんびりしたプレイヤーが多いみたいですし」


 ジェーンの言葉に、ドロレスも頷く。

 実際、十勝にはスロー・ライフ系のプレイ・スタイルが多く、自給自足と言うか、地産地消と言うか。必要な分だけ生産し、余分に働かない。そう言った仕事に追われない、齷齪(あくせく)しなくて良い癒しを求めたプレイヤーが集まっており、それが十勝の発展が遅い理由その物であった。

 要するに、農作物の輸出の話題を出しても、賛同するプレイヤーは殆ど居ないだろう。と言う推測が成り立つ。


「時機尚早、と言う事か……」


 実際、人は切羽詰らないと、中々行動を起こさない物である。将来を見据えた備えは、まだ起きていないが故に、正しく備えられている保障が無いし、それが有効に働いた時には、単に当たり前の事になっており、評価され難い。と言うのが原因である。


「そんなに難しく考えなくても、良いんじゃないかなぁ?」


 と、チャイカは本当に深く考えてない様で、暢気に言う。


「とりあえず、やってみれば? 遊びの幅が広がる、と思ってさ」


 その言葉は、プレイ期間が短いが故の気楽な物言いであったが、ゲーマーとしては正論であった。


「それも、そうだが……。手間を掛けて成果が上がらないのも……。他のやりたい事の時間を潰すだけの結果は嫌だしなぁ……」


 ディアスは食事の手を止め、腕を組んで考え込む。

 釧路までの物流ルートの開拓。それは実際には、道路を整備する事に他ならない。コネとかはあるのに、道路が無い所為で、大量の物資の遣り取りが出来ないのだ。

 そして、言うまでも無く、全長20km近い道路の整備は大事業である。到底、僅か2~3パーティーでやる事じゃ無い。


「では、逆転の発想じゃ。こっちから持って行くのではなく、向こうから買い付けに来る様な名産品があれば良いんじゃ」


 名案じゃ! と、ヤマカンは自画自賛しつつ言う。久々にリアル道民知識から何か出て来たか。十勝ならではの名産品に心当たりでもあるのだろう。

 普段は好き勝ってやって、リアルに寄せたりはあまりしないディアスであったが、リアル名産品や特産品をゲーム内で再現すれば、その知名度を持って人を呼び寄せられる。と言う作戦はアリだと思う。

 過去に見た例では、登別(のぼりべつ)温泉や富良野(ふらの)のラベンダー畑がそれに当たる。つまりは、それと同じ様な事を十勝(ここ)でもやろう。とヤマカンは言っているのだ。とディアスは解釈した。


「ふむ……。それで、その名産品のお勧めがあるのか?」

「勿論じゃ! 食の宝庫の北海道。食いモンなら何を作っても大概美味いが、ワシのお勧めは、ズバリ! 『豚丼』じゃっ!」

「……は?」

「……あれ?」


 ヤマカンは自信満々、ドヤ顔で豚丼を一推ししたが、皆の微妙な反応に納得行かず、首を傾げた。


「豚丼って言うと、牛丼の代替品、ってイメージしか無いんだが?」

「なんて事を言うんじゃっ!」


 酷い言い掛かりじゃよ! ギャワー! と、気炎を上げるヤマカン。


「そこいらの牛丼チェーン店の豚丼と一緒にするで無い! 豚丼と言えば、十勝の郷土料理! 御当地グルメ! ソウル・フードじゃよ!」

「へぇ~……」


 ディアスも豚丼を悪いと思っている訳では無い。むしろ、稲作が上手く行きつつある現在、米を有効活用した丼物は願ったり叶ったりだ。ただ、知名度はさほどでも無い様なので、地域間交流の活性化、と言う目的にはどうかと。……単にディアスが知らないだけ。と言う事も考えられるが。


「十勝の豚丼は、鰻丼を参考にした甘辛いタレが豚肉に絡み、それが程よく染み出した豚油とマッチする。咬めば柔らかく口の中に広がる蕩ける豚肉の味わいは、ガッツリ食べた満足感がありながら、それでもまだなお食べたい、と更なる食欲をそそるモンなんじゃっ!」

「何か美味そうな話してるな」


 豚丼について熱く語るヤマカンの話に興味が引かれたか、タゴサクはこっちの話に加わって来た。


「良いんじゃねぇの? 豚丼。チェーン店とかでも、帯広(おびひろ)風豚丼、とか見かけるし」

「うむ。有象無象の豚丼と区別が付くよう、十勝豚丼とか帯広豚丼と呼んどるんじゃよ」


 どうやら少なくともタゴサクは知っていた様で、一定以上の知名度はある様だ。それが他所から人を呼べる程の物かどうか、は些か疑問だが。


「何て言うか……、豚丼って、地味に普通だよな」

「郷土料理とはそんなモンじゃよ。養豚は北海道開拓当初から始まった事じゃし、丁度良かろう」


 尤も、それだけ根付かせるまでには、失敗と挫折の苦労があったんじゃがな。と語るヤマカン。


「『開墾の、はじめは豚と、ひとつ鍋』と言う依田(よだ)勉三(べんぞう)の句を知らんのか?」

「知らん」

「馬鹿なぁぁぁぁぁぁっ!? クラーク如きが有名なのに、開拓に貢献した日本人が知られておらんとはっ……!」


 がくっ……、と崩れ落ちるヤマカン。……orz


「如き、って。……ヤマカンて、本当にクラーク博士が嫌いだな」


 と、シモヘイも呆れているが、北海道開拓に貢献した人々が他にも色々居るだろうに、クラーク博士に比してあまり知られていない。と言うのも事実である。

 それが、ヤマカンが嘆く様な事なのか、は解らないが。


「特にディアスは知っとれよ! 依田勉三は『探検家』でもあるんじゃぞ!」

「そんな事、言われても、な……」


 北海道愛が足りんのじゃよ! と騒ぐヤマカンに、ポリポリと頭を掻きながら、困った様な表情を浮かべるディアス。

 ディアスも『冒険家』を自称するものの、歴史上の全ての『冒険家』や『探検家』を把握している訳では無い。


「多分、メーカー・スタッフも知らないと思うぞ。それ」

「何じゃとっ!? 何を根拠に!?」


 こんなゲーム作っといて、知らん訳が無かろうがっ! と言うヤマカンだったが、


「いや、知ってたら、『屯田兵セット』に鍋が入ってるんじゃないか?」

「…………」


 ディアスの推測に思わず納得してしまったか、大口を開けたまま固まってしまった。

 ちなみに『屯田兵セット』とは、スタート時に配布される初期アイテム一式の事である。


「それで、結局豚丼やるんですか?」

「まぁ、やってみても悪くない、と言う程度には興味は持てたが……」


 ジェーンの問いに、しかし問題が……、と悩むディアス。

 ディアス達は養豚はやっていない。今から始めるとするとまた時間も掛かるし、何より、畜産関係はジェーンが1人で、牛・羊・鶏と面倒を見ているのだ。これ以上増やすのは無理がある。

 リアルでは行われている養豚を、何故ディアス達がやっていなかったのか、と問われれば、猪狩って来れば豚肉の代わりになるから。と答えるだろう。ある意味、シモヘイの仕事を盗らないため。とも言えた。


「ジェーンの負担も考えると、養豚はやっぱ無理だよなぁ……」

「だったら、やってるとこから豚肉買えば良いだろ」


 と、タゴサクは当たり前の事の様に言う。自分で畜産をやっていないタゴサクは、肉を買い付けるため、畜産農家とはそれなりのコネがある。


「豚なら、ここいらじゃサルトビの所のがお勧めだぞ」

「サルトビ? サルトビって誰だっけ……?」


 殆どの十勝の住民は把握しているディアスであったが、流石に名前を聞いただけでどんなヤツか思い出せる程、事細かに記憶してはいなかった。


「……ああ。あれじゃね? 以前、新人勧誘してた時、名前の通り忍者プレイしたいんで、函館(はこだて)五稜郭(ごりょうかく)に行きたい。とか言ってたヤツが居たろ?」

「それか。思い出した。餞別に函館までの地図やったヤツだな」


 ただし、そいつは十勝を出て行った筈で、名前が同じなだけの別人かも知れない。『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』では名前被りを禁じていないので、そう言う事もあり得る。


「いや、そいつであってる。挫折して出戻ったらしい」


 何せ、函館行っても、五稜郭は無いしなぁ。とタゴサクは苦笑する。


「根性無しねぇ……。全然忍んで無いじゃない」


 チャイカが辛辣な事を言うが、実際に忍者プレイをやっている彼女が言うと、言葉に重みがある。


「まぁ、それで函館で豚買って来て、おかげで今、俺らが美味い豚を食えるんだから、文句を付ける筋合いは無いが」

「そのサルトビ自身は豚丼はやってないのか?」

「やってないな。完全な畜産農家で、【料理】アビリティも持ってないみたいだからな。ハム・ベーコン・ソーセージとかの加工品は売ってるけど」

「そうか。とにかく、豚肉の目途が立ったなら後は……、十勝ならでは、って言う、特別なタレかな?」


 郷土料理、って位なら、タレのレシピ入手はそれ程苦労すまい。とディアスは思っていたが、


「それはちょっと難しいぞい。豚丼が今の形に完成したのは、昭和に入った頃、らしいからのぅ」


 だから、タレのレシピも無い筈じゃ。と、再起動したヤマカンがツッコミを入れる。


「……じゃあ、リアルのレシピ参考に作るか。ヤマカン、知ってるか?」

「流石に知らんぞい。北海道では普通にスーパーとかで『豚丼のタレ』が売っとるしのぅ。おぬし等とて、『焼肉のタレ』や『とんかつソース』のレシピを知っとる訳ではあるまい?」


 自分で作る必要が無ければ、レシピを知る事も無いだろう。市販品のパッケージの記述から、原材料位は分かるだろうが。


「じゃが、ネットで調べれば出て来ん事も無いじゃろ」

「なら、何とかなりそうだな。これで豚丼は作れるとして……あれ? ひょっとして、豚丼を宣伝するためには、店舗構えて売らなきゃならないのか?」


 豚丼を名物として他所の地域から人を招くには、当たり前だが豚丼を出す店が要る。その事に今更ながら思い至ったディアスは、そんな人手の余裕は無いぞ……。と頭を悩ませる事に。


「あの……、豚丼は良いですが、そろそろ休憩を終わりにして作業に戻りませんと……」

「おおぅっ! そうだった!」


 とドロレスが遠慮がちに声を掛けると、ディアス達は慌てて残りのメシを口に詰め込み、稲刈りに戻るのであった。




「では、これから札幌(さっぽろ)に向け出発します……?」


 翌日ダイブ・インすると、ディアスは訳も解らず、そんな台詞を言わされた。


「なんでやねん!」


 セルフ・ツッコミ。

 ディアスの居ない間に、そう言う方向で話しが進んでいたらしい。発案はヤマカン。流石、大学受験が終わって暇な高校生。既に根回しも旅の準備も済んでおり、ディアス1人が反対したところでどうにもならない。だが、説明位は欲しい。


「ヤマカン!」

「ふっ……。ワシは昨日の事で確信したのじゃよ。北海道の開拓者達が正当に評価されんのは、クラークの所為じゃと!」

「おい、こら」


 全く意味不明の方向に飛んだ話に、ディアスの目は点になる。しかし、ヤマカンは止まらない。


「じゃから、クラークとは無関係に『札幌農学校』を設立し、ヤツを歴史から抹消してやるのじゃ!」

「……何言ってるか、解らん……」


 ディアスはヤマカンの馬鹿馬鹿しい話に呆れ顔になるも、流石にそれは冗談だろう。と思う。そんな理由なら、皆が賛同する筈も無く、準備が整っている今の状況はあり得ないからだ。


「まぁ、それは半分位冗談じゃが……」

「本気率50%かい」


 正直言って、ディアスにとってはどうでも良い話だったが、半分も本気ならば、ヤマカンにとっては言わずには居られない事なのだろう。


「まぁ、聞け。昨日、『豚丼のタレ』のレシピを検索してて気付いたんじゃが、このゲームじゃ、レシピやアイテムの入手フラグは、明治時代に日本に入って来た物は比較的簡単。と言う事じゃったろ?」

「そうだな。それが?」

「それは言い方を変えれば、大正や昭和の頃の物も難しいが何とかなる。と言えんか?」

「……あ~、心当たりは、……ある」


 実際にディアスは、『高機能製図台(ハイ・ドラフター)』を用いて時代の流れを無視した機械を設計しているし、タゴサクも、『生化学工場(バイオ・プラント)』で明治には無かった農法を実践している。

 幾らリアルの物を参考にしたとは言え、それらが出来ると言う事は、ゲーム・システムが許容している証である。


「元々、順当に開発を進めて行けば、最新の物にまで辿り着く。……らしい。と言う噂は最初っからあった事じゃしな」

「そう言や、シモヘイから猟銃の(くだり)で聞いた事があったっけ……」


 遅々として何時になるか解らぬ事など、すっかり忘れていたディアスであったが。


「じゃから、昭和の始めに完成した筈の『豚丼のタレ』なら、場合によっては何とかなったんじゃなかろうか? と思ってのぅ」

「いや、その『何とか』が大変なんだろ?」

「思い出してみい。スザンナが言っとったろ。札幌の発展が偏っとるからフラグが予定より立たん。とかそんな事を」

「確かに、言ってはいたが……、え、何? 要するに、俺達で札幌の発展にテコ入れしよう、って言うのか?」


 だから札幌行きなのか? と驚愕を露にするディアス。ヤマカンのヤツ、何て大それた事を考えるんだ。と。


「大体そんな感じじゃ。農関係の発展に、『札幌農学校』は重要なフラグとなる気がせんか?」

「あり得るとは、思うが……」


 ディアスの表情は険しくなる。どう考えても、トラブルの予感しかしない。正論は、時に下手な悪意より人を傷付ける物である。


「それって、札幌周辺のプレイヤー達に駄目出しする様なモンじゃないか。折衝が大変だぞ?」


 特に廃人達は、1流ゲーマーとしての自負を持っているものである。そんな彼等に、


「お前達のやり方が拙いから、ゲームが進展しないんだ」


 などと言うも同然。幾ら『TONDEN FARMER』プレイヤー同士の仲が良好とは言え、これは喧嘩になるだろう。


「別に折衝なんぞせんぞい。誰がどんなプレイしようが、勝手じゃろ」

「理屈の上ではそうだが、札幌の連中の協力なくして出来る事じゃ無いだろ」


 校舎を建てて終わり。と言う訳には行かない。学校を運営するシステムなど、どれだけ多くのプレイヤーの協力を仰がねばならないのか。ヤマカンはどう試算したと言うのか。


「ワシ等からしてみれば、要はフラグが立てば良いんじゃ。多分、形だけでも学校があれば何とかなるじゃろ。……少なくとも、ここ最近の風潮からすれば、運営のテコ入れの切っ掛け位にはなる。と思うとる」

「……なんて大雑把な……」

「とりあえず、話が通じそうな、ブシドー達を当てにしようと思うがな」


 酷い丼勘定だと思うディアスであったが、良くこれで皆を説得出来たものである。よっぽど暇なら、面白半分にやってみよう。と思う事もあるかも知れないが。

 実際、農関連の話なのに説得に失敗したか、タゴサクのパーティーは参加しない様だし。……何故か替わりにウナルルのパーティーが居るが。


「ウナルル。お前には農学校は何のメリットも無いと思うが?」

「え? 何言ってるんですか。『札幌農学校』と言えば、今の『北海道大学』の前身ですよ。そして『北海道大学』は、アイヌ民族研究の総本山じゃないですか」

「……そうなんだ」


 ならば、アイヌ民族プレイをしているウナルルが乗り気なのは当然と言える。むしろ、そのアイヌ民族プレイは大学のレポートのため、なのだから、彼女の大学がその『北海道大学』なのかも知れない。


「これを皮切りに、北海道各地の『アイヌ民族博物館』を再現してみるのも、良いかも知れませんね」

「そこまで行くと、アイヌの暮らしを体験してみる、って言う本来の趣旨から外れ過ぎると思うんだが……?」


 ウナルルにしてみれば、アイヌ文化を多くの人に知ってもらいたいからこそ、大学でアイヌ民族学を専攻しているのだから、本末転倒、と言う訳では無いのだろう。だとすれば問題は、レポートが疎かになれば教授に怒られる。位の事か。


「まぁ……、程々に、な」


 となれば、ディアスとしてはこれ位しか言う事は無い。

 そして、彼女のパーティー・メンバーであり、まだ札幌に行った事の無いドロレスとチャイカは、


「楽しみですねぇ。定山渓(じょうざんけい)温泉。風情のある立派な宿が立っているらしいですよ?」

「アタシは温泉自体初めてだし。あ、お兄ちゃん。お風呂で背中流してあげようか?」


 この2人は単に温泉に釣られただけの様である。パーティー・リーダーが温泉好きの所為か、影響を受けてるっぽい。


「いや、お前は少しは恥じらいを持とうな……」

「兄妹なんだから、良いじゃない」


 システムの制限上、風呂場でも裸になれないとは言え、15歳の女子の言う事じゃ無いだろ。と、チャイカに引っ付かれたディアスは頭が痛い。

 しかも、チャイカはゲーム・システム上の登録はディアスの義理の妹になっているが、リアルはシモヘイの妹だ。

 ちょっと拗れた兄妹仲の所為で、チャイカの中の人をシモヘイは知らないとは言え、シモヘイの前でチャイカがベタベタして来るのは、ディアスにとって頭痛の種でしかない。スルーしてればその内飽きるかとも思ったが、今のところその気配は無い。

 その上、ディアスがお兄ちゃん呼ばわりされているのは、チャイカの腐った妄想に由来する事なので、あまり嬉しくない。


 それはともかく、皆乗り気な様で、何か、1人だけ留守番してる。とか言い出せそうに無い雰囲気で、言っても強引に連れて行かれそうである。学校を建てるとなると、ディアスの大工力が当てにされているだろうから。


「ほれ、ぼさっとしとらんで、おぬしも早く準備をせんか」


 とヤマカンが言うも、交渉用の物資と思われる物は既に道産子(どさんこ)に積んでいるので、ディアスは自分の装備を旅支度に切り替えるだけだが。


「でも、長旅になると、まだ収穫してない畑の心配が……」

「そっちはタゴサクに頼んである」


 本当に、根回しはきちんと済んでいる様である。


「最早、ゴネてもどうにもならんぞい。なら、自分なりのメリットを見つけるのが得策じゃぞ」


 ヤマカンの酷い言い様に、ディアスは、はぁ……、と溜息を吐きつつ、再びがっくりと項垂れるのであった。




 大量の物資がある事と、札幌への転移パスを持っていないメンバーが居る事もあって、2日掛りの長旅に。ついでに、道産子が人数分無い事も、ゆっくりせざるを得ない理由であった。

 とりあえず、隣であるにも係わらず、今まで行った事のなかった日高(ひだか)地域を経由する事にし、浦河(うらかわ)の転移パスを取っておく事に。

 これは、折角なので、と言うディアスの希望が通った形だが、


「浦河の名の由来は、アイヌ語で霧深き川を意味する『ウララベツ』から来ているんですよ」


 と、ウナルルの薀蓄(うんちく)がうざったかったので、ちょっと後悔。

 ここで1日目はダイブ・アウト。


 2日目は札幌に無事到着。何の問題も起きなかったのは、札幌の廃人達が交通網の整備を入念に行っていたためだろう。

 隣接する周辺地域まで延びた道は歩き易く、そのため速度も上がるし、休憩も予定より少なく済んだ。この辺は流石、としか言い様がない。

 それに、開発が進んでいるこの辺りの地域は、行っても行っても田舎風景が広がる十勝と違って、進む度に景色が変わるので、飽きが来なかったのも良い。


 そんな訳で、定山渓にある、ブシドー達のやっている宿に辿り着いたのだった。

 その宿も、改装後は少しずつ客が入る様になったとは言え、まだ大繁盛と言える程にはなっていない様子。ディアス達7名の団体客は喜んで受け入れられた。


「おお。ディアス殿! お久しぶりでござる!」


 パーティー・リーダーの筈だが、武士道プレイのため、宿の経営にあまり貢献出来ていないブシドーが、率先してディアス達を出迎えてくれた。


「ああ。久しぶり。今回はヤマカンの用事で来たんだが、俺はその間のんびり(くつろ)がせてもらうよ」


 ディアスは『校舎の図面』だけ起こして、後は温泉三昧で過ごすつもりになっていた。どうせヤマカンの発案だ。細かい事は丸投げで構わないだろう。と、思っている。この辺は、ヤマカンがちゃんとした計画を練っているだろう。と信用しているとも言えた。


「以前より人数が増えましたな。見知らぬ御仁が2名程……ぬおぅっ!?」


 ブシドーが一同を見渡していると、ある一点で視線が釘付けになり、突如奇声を上げた。


「ディ、ディアス殿……。こちらのくノ一な御仁は……?」

「お、おい! ハァハァ言いながら顔を近づけるな!」

「え? アタシ?」


 何故かやたらとチャイカに興味を示すブシドー。武士と忍者。何やら思うところがありそうである。

 ハァハァと、気持ち悪い感じに息を荒げているので、良からぬ事を考えているのかも知れないが。


「アタシはディアスお兄ちゃんの妹だけど?」

「何とっ!」


 ブシドーの気持ち悪い視線を避け、ディアスを楯にする様に背後に隠れるチャイカ。


「ディアス殿っ! いや、兄上! 是非とも妹殿を拙者の嫁にくだされっ!」

「断るっ!」


 ディアスは即答した。ここ最近、不本意ならが妹がいきなり3人も出来たのだ。それに気持ち悪い弟が1人プラスされたくはない。


「そんなっ!? 温泉宿にくノ一はベスト・マッチではござらんかっ! お約束のサービス・シーンは時代劇の華でござるっ!」

「そんなお約束は知らんっ! 妹にお色気シーン何ぞやらせられるかっ!」


 ディアスも自覚は無かったが、咄嗟にチャイカを妹と呼んで庇う程度には、可愛がっていた様である。


 ブシドーはマイナーなプレイに拘っている以外は、まともで普通の人間だと思っていたディアスであったが、今回、僅かな時間でそのイメージは激変した。

 以前はそれなりに武士らしい体裁を整えていたが、今やキモイとしか言い様が無い。

 一目惚れとは言え、ハァハァと顔を赤らめ、俺の嫁とか言い出す様は、所謂『キモオタ』と言う者に酷似していた。もう少し武士らしく、格好良く口説けば印象は違っていたろうが、1度付いた悪いイメージを払拭するのは難しい。

 と言う訳で、その恋が実る芽は一瞬で摘まれたのであった。……自業自得だが。本筋には関係の無い、どうでも言い話である。


 その後、少し冷静になったブシドーは、皆に白い目で見られている事に気付き、ゴホンッ、とわざとらしく咳払いすると、


「では、お客人方。こちらへ」


 と、部屋へと案内するのであった。……その背中には、冷たい視線が浴びせられ続けていたが。


 それはともかく、寛ぐ前にある程度仕事の話を片付けておく事に。


「『札幌農学校』ねぇ……」


 相談に応じたブシドー・パーティーの農担当、ゴンベエは思案した。

 ディアス達は、農学校での収穫を温泉宿に供給する事も視野に入れ、札幌では数少ない農民であるゴンベエの協力を仰いでいた。


「悪かねぇとは思うだ。何せ、無理な都市化のため、職にあぶれたNPC農民がわんさと居るだよ」

「なるほど。職員の当てはそれで良いか……」

「んだ。一応の体裁は整うと思うだ。ここの『農教』の職員も、偉く暇してるだから、それも引っこ抜いてええだろ」


 あそこも殆ど形骸化してるだ。とゴンベエは農の冷遇を嘆いていた。料理が見直されている現在、食材関係で農も見直されても良さそうなモンなのに。とも言う。

 だが、廃人達は物流の強化で、他所の地域からの輸入を推し進めたらしい。


「問題があるとすれば、何処に学校建てるか、じゃな」

「その辺も何とでもなるだよ。何せ、札幌は都市化が進んどるでなぁ」

「それとこれと、どんな関係が?」

「都市機能を維持するためには、人口密度が要るだよ。んだから、中央にばっか人が集まって、ここ位離れると、見ての通り土地が余ってるだよ」


 ゴンベエの言う通り、実際、定山渓の辺りは既にかなりの過疎地である。予めヤマカンが目を付けていた場所も、温泉宿からあまり離れていない場所だ。

 人が多いと言っても、結局は千人程度の石狩(いしかり)地域。結果的に、端の方はこうして空いた土地がまだまだあるのであった。


「まぁ……、詳しくはヤマカンの相談に乗ってやってくれ。今回のはコイツが主導の計画だ」


 ディアスはそう言って席を立つ。

 リアルの『札幌農学校』の位置を確保するのは不可能だろうが、そこまではディアスの気にする事では無い。


「何じゃい、聞いて行かんのか?」

「お前は既に自分なりの計画を練ってるんだろ。だったら、この件はお前がリーダーだ。最期まで責任持ってやってみせろ」


 ディアスの言う通り、これはヤマカンの計画である。パーティー・リーダーだからと言って、横から口出ししては顰蹙(ひんしゅく)物だと思っている。


「詳細が決まったら、後で教えてくれ。『校舎の図面』は幾つかのバリエーションを用意してあるし、実際の用地にあわせてすぐにでも調整出来る様にしてあるから」

「……相変わらず、非常識なまでの図面チート(キ○レツ)っぷりじゃのぅ……」

「今回のは、別にそう言うんじゃ無いが……。じゃあ、俺は一っ風呂浴びて来る」


 と、温泉へと向かうディアス。

 実際、今回の設計は楽な仕事である。大型建造物の図面は、【大工】アビリティの熟練が上がった事により、NPC大工より購入出来る。そして、その中には当然の様に『学校』もある。つまり、ディアスはそれをベースにして省力化するつもりなのだ。

 それに、農関係の施設は今までにも散々設計しており、それらを流用すれば農業実習用の施設も簡単に作れる。農学校の体裁を整えるのは、簡単なのだ。最悪でも、普通の農家をつくり、『農学校』と言い張るだけでも良い。

 だが、先程札幌で、『ランドマークの図面:演武場』を手に入れたので、これは使っときたい。と思っているディアスであった。

 相変わらず、名前だけだと何の図面か解り辛いのは『TONDEN FARMER』仕様。簡単に言うと、『札幌時計台』の事である。正式名称が『旧札幌農学校演武場』なのだから、『演武場』の表記で正しいのだが、一般的にはあまり知られていなかったりする。

 とにかく、この図面があれば、あの『札幌時計台』がそのまんま建てられるのである。

 ランドマーク系の図面は、相当の【大工】アビリティの熟練と、今までに建てた建物の数の実績が無いと入手出来ない、結構レアな物である。……外見を似せるだけならディアスには出来てしまうので、あまりありがた味が無いが……。

 故にディアスも、今回『学校』を1から設計するのが面倒で、NPC売りの図面に丁度良いのがないか探している最中に、始めて気付いたのであった。それを知っただけでも、今回の件はメリットがあった。と、ディアスは思うのであった。




「ふぅ……」


 温泉に浸かり、頭に手拭を乗せたディアスは、のんびりと旅の疲れを癒していた。

 疲れが取れる様な気はする。しかし、FDでは温泉の効能とかまで再現は不可能なので、結局は思い込みである。

 だが、リラックス出来る雰囲気は、確かに癒しになっていた。


 少し心に余裕が出てきた事で、ヤマカンの計画にもうちょっとだけ積極的に協力してやっても良いか。と言う気分にディアスはなっていた。援護射撃になる様な『切り札』を用意してやろうと、『高機能製図台(ハイ・ドラフター)』を起動させる。

 本人は温泉でのんびりしながらの余興のつもりで図面を弄っているが、その気になったディアスがやらかしてしまう事は何時もの事であり、実際、この図面を見ている者が居れば、慌てて止めたであろう代物が出来上がりつつあった。


「あんちゃん。一緒に風呂入ろう!」

「お兄ちゃ~ん。背中流しに来たよ!」


 ……折角の寛げる雰囲気が、台無し。

 調子良く図面に筆を走らせていたディアスは、ジェーンとチャイカが風呂に押しかけて来た事で、水を差されてしまった。

 この2人、最近では張り合う事は無くなった。どうやら、妹の座を争うのではなく、彼女等の中では、


 長男:ディアス

 長女:ジェーン

 次女:ハイサム

 三女:チャイカ


 と、格付けが決まった様だった。

 おかげで姉妹仲良く、一緒になってこうして暴走する事がしばしば。ディアスにとっては、張り合っていた頃と実害は大差ない。


 ディアスはウンザリしつつ図面を閉じると、


「背中流す、って冗談じゃなかったのかよ。アバターとは言え、恥じらいを忘れるなよ」

「大丈夫。この日のために、ちゃんと水着を用意して来たんだから!」

「エチゴヤ君に頑張って作ってもらったんだよ!」

「…………」


 競泳水着に身を包んだジェーン達を見、頭を抱えた。

 その姿は胸の薄さと相俟って、抵抗が少なく速そうである。エチゴヤ、グッジョブ。実はディアスも、競泳水着の機能美は大好物である。頭を抱えたのは、ガン見しそうになったのを抑えるためであった。

 倫理規定の所為でアバターは裸になれないが、そのどうしても脱げないインナーは、規定の範囲内で変更が可能。その1つが今回の様な水着である。


「流石に背中流すのは冗談だけど。倫理規定的にギリギリっぽいから」

「……俺の精神衛生的にも、そうしてくれると、助かる」


 ディアスもそんな事でGMの説教を受けたくはない。もしそんな事になったら、ゲームを止めてしまいかねない恥である。と思っている。


「あ、でも、これはお願い」


 と、ジェーンが眼鏡をディアスに手渡した。


「眼鏡、って、おい! まさか……」

「ハイサムちゃんが、『湯気で眼鏡が曇っちゃった』写真を撮って来てって」


 俺の妹はこんなんばっかだ……。と項垂れるディアス。リアル妹でないのがせめてもの救いである。


「一緒に来れなかったハイサムちゃんの、可愛い妹のため、一眼鏡掛けようとは思わないの?」

「そうよ。せめて、ハイサムお姉ちゃんへのお土産は必要だと思うわ」


 ジェーンもチャイカもニヤけながら言ってるので、本気でそう思っているのではなく、からかっているのだろう。ただし、その眼鏡は明らかにハイサムの新作で、故にハイサムから頼まれた事は事実であろう。


「えぇいっ! 掛ければ良いんだろ。掛ければっ!」


 結局、断った場合、涙ぐむハイサムが容易に想像出来たので、ディアスに断ると言う選択肢は無くなった。

 ディアスは眼鏡を受け取ると、スチャ、と掛ける。当たり前だが、眼鏡は既に曇っていた。


「これで、どうだっ!」


 どうもこうも無いが、とにかくジェーン達は色んな角度から画像を撮っていた。熱心に、と言うよりは、彼女等はメガネ・フェチでは無いので、どの角度がベスト・ショットか判らず、『数撃ちゃ当たる』をやっている様だった。

 こんな調子では、疲れがとれるどころか、ストレスが溜まりそうである。

 せめて眼鏡が曇ってなければ! 競泳水着で癒されるのに! とか思ってしまったのは、心の奥底に仕舞うディアスであった。




「始めまして。札幌の鉄道敷設計画を任されてるスチーブです」


 翌日、ヤマカンがその男とトラブルを連れて来た。


「……おい、NPC農民を連れて来るんじゃなかったのかよ?」


 正直って、ディアスは不機嫌だった。

 今日の仕事は役割を分担し、ヤマカンとドロレスは職員となるNPCを引き抜きに中央へ。ディアス達は空いた土地を訪れ、学校を建てる下準備の最中であった。

 しかし、測量を行い、校舎等の基本施設の配置を調整しようとしたところで、


「はいっ! 生き物の生態を知るため、『動物園』があると良いと思いますっ!」

「野良仕事は体力が資本! 『アスレチック』とか『スポーツ・ジム』が欲しいわ」

「先住民を蔑ろにしてはいけませんよ。『アイヌ・先住民研究センター』を忘れないでくださいね」

「『射撃訓練場』! 一応、『屯田兵』は兵士だろうが!」


 と、各々の言い分が飛び交い、難航していたのであった。

 一見、好き勝手な事を言っている様に聞こえるが、それを条件に協力を約束しているので、正当な言い分である。……約束したのはヤマカンであり、それを実現するのは、丸投げされたディアスであるのは酷い話だが。

 要するにヤマカンの安請け合いが原因で揉めていたところに、ヤマカンが新たなトラブルを持って来た訳だ。

 もっとちゃんとした計画を練っていると、信用してたのに裏切られた。と思うディアスが、不機嫌になるのは仕方が無いと言えた。


「仕方ないじゃろ。ワシ等の『学校計画』とヤツ等の『鉄道計画』が被ってしまったんじゃから」

「ほら、だから言ったじゃないか。折衝が厄介だって」

「どうせ使っとらん土地、ワシ等がどうしようが良いじゃろうが」


 ディアスとヤマカンは、コソコソと小声で言い合っていた。

 パーティー・リーダーの立場上、この場に居合わせているディアスであったが、正直、あまり参加する必要性を感じていない。

 ディアスは昨日の時点ではフォロー位してやるか。と思っていたのだが、それは温泉に浸かって気分が良くなっていた時の事。風呂は妹達に邪魔され、今日はトラブルが重なれば、その気が無くなったのも無理も無い。


「そう言えば、鉱山の発展の事もあって、鉄道がこの辺りまで伸びる、と言う話が出ていたでござる」


 失念しておった。とブシドーが今更そんな事を言う。


「確かに、土地の開拓・所有権は早い者勝ち。しかし、最低限のマナーと言う物があります」


 スチーブの態度は、どう見ても友好的には見えない。言葉の端々にも棘がある。


「聞けば石狩(こちら)に居を移すつもりも無いとか。移住希望者が開拓するなら問題ありませんが、他所の地域からの干渉で、つまみ食いの様に面白半分に土地を所有されては困ります」


 確かに、札幌には札幌のプレイヤー達の計画、プレイ・スタイルがある訳で、他の地域の者がやって来て勝手な事をするのは、一種の侵略である。尤も、侵略行為もその対抗手段も、『領地戦モード』がある以上、最初から想定されているのだが。


「……うぬ。そちら路線計画は見たが、確かにワシ等の学校予定地を縦断しとるのぅ」


 とりあえず、ヤマカンは適当に話を合わせる。


「ならば、ワシ等としては、敷地内を列車が通っても別に構わんが?」


 これで譲歩しているつもりなのだから、かなりの交渉ベタである。


「それに、この計画は元を(ただ)せば、農を蔑ろにされた事を嘆く、石狩の農民達の依頼により立っておる」


 ブバッ! とディアスは吹いた。ヤマカン、まさかの大嘘でっち上げである。


「故にマナーを言い出すなら、都市計画にそぐわない者を蔑ろにし追い出した、地上げ屋の如きプレイをしたおぬし等にこそ非があるのではないかのぅ?」

「確かに、我々は都市計画を推し進めて来ましたが、それを追い出しと言われるのは心外です。実際、都市化は中心部のみで、農地に使える土地は幾らでもあるではありませんか」

「なら、農のノウハウ蓄積のため、農学校を空いている土地に建てよう。と言う計画に口出しするのは筋が通らんじゃろ」

「しかし、路線計画の方が先にあったのです。沿線の開発計画も、です」

「じゃから、敷地内に線路を通す位は良い。と言っとるじゃろ。【縄張り】もしとらん机上の計画では、それ以上の主張は聞けん」

「机上の計画と言うなら、あなた方の学校も、教員の当てもろくに無いではありませんか。NPCからの教授で良ければ、新たに学校を建てる必要性はありません。『農教』で十分でしょう」


 あ~、逃げたい。と思いつつ、少しずつ出口の方に移動していたディアスであったが、


「ディアス殿、貴殿の力で何とかならんでござるか?」


 ブシドーに捉まってしまった。


「お前、俺を何だと思ってるんだ? 一介の『冒険家』に期待する事じゃ無いだろ」

「しかし、互いを否定するだけの言い合いは不毛でござる。ディアス殿なら、双方の計画の要訣を擦り合わせ、互いに益のある物に出来るのではござらんか?」

「……なんつぅ買い被りだ……」


 ディアスに出来るのは、精々計画に合わせて図面を描く事位である。既に出来上がっている学校の計画に、線路を通す位の修正なら出来るが、それがスチーブの納得行く物になる保障は無い。

 彼等が沿線の開発をどう予定していたのかは知らないが、みっちり隙間無く埋まっていた訳ではあるまい。その一部が学校に置き換わった位、許容出来そうなものだが。若しくは、学校と鉄道を別々に考えるのではなく、セットにする事で互いに有効活用出来れば……


「何とか、出来るかも……?」

「本当でござるかっ!? ならば何とかしてくだされっ! このままでは喧嘩になりそうでござる!」


 ディアスの呟きはブシドーにも聞こえていた様で、縋り付かれる事になってしまった。

 ディアスが思い付いた簡単な計画の修正案。あまり自信のある物では無いが、このまま喧嘩になれば、気分良くゲームに興じる事が出来なくなるだろう。それだけは避けたい。

 要するに既に選択肢が無いのだと言う事実に、ディアスは頭痛を感じながらも、話に割り込む事に。


「あ~、少し落ち着け。ゲームなんだから、もう少し仲良くしたらどうだ? 焦るのは解るけどさ。どうしても相容れないなら、俺達の計画は白紙に戻して撤退するから」


 上手い割り込み方とは言え無いが、とりあえず罵り合いに発展しそうだった言い合いを止める事には成功するディアス。

 ディアスの採った手段は、全てを無かった事にする、と言う乱暴なものだったが。とりあえず、拗れたのなら1からやり直した方が良いだろう。


「修正案として、線路を通すだけでなく、学校内に駅舎も建てよう、と思うんだが、どうだろう?」


 鉄道で学校に通えれば、ウチとしてもありがたい。とディアスは言う。


「今の札幌のは、食料も他所からの輸入に頼ってるんだろ。だったら、ここに駅を構え、農学校の収穫を鉄道で運べれば、そっちにもメリットはあると思うが?」

「そのメリットは認めなくもありませんが、長年温めて来たこちらの計画を、白紙に戻す程の物では……」

「ついでに、『豊羽(とよは)鉱山』からの鉱物資源の集積施設も付けよう」

「! …………」


 スチーブは言葉を継げず、固まってしまった。


「学校が邪魔なのは、単に線路敷設に被っていたからじゃ無い。この辺に駅を作る計画があったからだ。そしてその理由は、鉱山労働者の移送と、鉱物資源の運搬。……違うか?」

「こちらの計画を……、知っていたのですか?」

「それと、学校に精錬施設を備え、加工してから送り出せば、更に効率を上げられるだろう。って事でどうだ?」


 ディアスの提案は、スチーブ達の開発予定も、農学校のついでにディアス達が手伝う。と言う物だ。要するに、開発の手間を一部肩代わりする事を対価に、農学校の容認を要求しているのである。


 スチーブは、ふむ……、と考え込んだ。

 一見、共同での開発になるが故に、時間も費用も抑えられ、魅力的な提案に聞こえる。しかし、計画はディアス達の都合に合わせ、調整を余儀なくされるだろう。それが吉と出るか、凶と出るか。

 ここのところフラグが上手く立たない所為か、手間を掛けた割には発展が思う様に進行しない事もあり、中央の廃人達は、何としても計画通りに。と固執しているところはある。……スチーブ自身がその廃人であり、この辺りの開発計画を立てた本人なのだが。

 それに、最近は釧路の海運業に後れを取っている。と言われているのも、計画の進行を焦る原因になっていた。


「しかし、それらを学校施設に組み込む、と言う事は、そこで働く職員は教員としての義務を負ったり、その施設は熟練の低い初心者プレイヤーの実習に使われたりする。と言う事ですか?」

「まぁ……、学校だからな。当然そうなるな」


 ディアスの答えに、スチーブの表情は曇る。それが原因で効率が落ちるのは、受け入れ難い。

 つまり、『学校』である事自体が、素人を計画の重要部分に紛れ込ませる事になり、足を引っ張っているのである。

 廃人としては、初心者は段階を踏んでステップ・アップすべきであり、『学校』を名乗るなら、いきなり高度で責任の重い事をやらせるべきでは無い。と考えている。


「共同開発、としては面白い提案だとは思いますが、やはり学校である必要は無いでしょう」

「何れやる事なら、誰かが何処かで教える必要がある、と思うが?」

「我々も新人の教導には力を入れています。ですが、自分のプレイ・スタイルを崩してまで、教導をしろ。とは言えません。学校は、そう言う不自由さを強いる事になりかねません」


 スチーブのその台詞に、ディアスは、ああ。コイツ、学校嫌いなんだな。と思った。

 半ば偏見も入っているが、実生活を犠牲にゲームに入り浸っている廃人なら、その犠牲にした物の中に、当然学校が含まれるのだろう。


「……そもそも、学校って、何だ?」

「は? ……勉強をする場でしょう?」


 いきなり、何を言いだすんだこいつ? と思いつつ、スチーブは反射的に答えた。


「そうだな。新しい知識や技術を学ぶ場だ」


 ディアスも、うんうん。と頷く。


「それをゲーム的に言うなら、ノウハウやスキルを、対価を払って習得する場所。と言えんか?」

「…………」


 スチーブは上手く返答を返せない。何か、話が逸れた様な、核心に向かっている様な。その見極めも上手く出来ないでいた。


「ノウハウの価値の定格化。それに伴う、情報交換の安定・効率化。それが『学校』と言うシステムだ」


 ディアスは丁寧に、学校がある事にメリットを説いた。


「ノウハウの売買の折衝は、対価の算出が面倒で、トラブルになり易い。故に、学校を利用する事で、安心してノウハウを遣り取り出来る様にしたいんだ」


 言う程、ディアスもそこまで便利な物だとは思っていないが、嘘を言っているつもりも無い。そうしたノウハウの集積こそ、ディアスの優位性を形作る物だからだ。


「技術を金に変えたいヤツは授業を開き、それに興味があるヤツは授業料を払って教えを受ける。……そうやって学校を中心に様々なノウハウが集まる様になれば、それらの組み合わせで、今の閉塞した状況に風穴を開けられる、新しいアイデアが生まれるかも知れない」

「……そう、上手く行きますか?」

「札幌は経済・物流に優遇措置があったよな。だがそれは、物資の流れだけの事では無いぞ。人の流れ。人材を集め、動かしてこそこの先がある」


 ディアスの自信満々な態度は、まるで既に成功実績を積み重ねた、敏腕社長の様であった。


「『札幌農学校』は、日本で始めて学士号を授与した教育機関だ。未だ雌伏の時を過ごす多くの優秀なプレイヤー達の、能力を遺憾なく発揮する場として相応しい。とは思わないか?」


 ディアスは止めとばかりに、ニヤリ、と笑った。


 スチーブは混乱しかけていた。ディアスの言う事も尤もであり、そうなった場合、スチーブの権限を越えてしまって、判断しかねる状況だからだ。

 今まで効率的な発展を目指してきたが、それがここ最近芳しくないのは、自由度の高過ぎるゲームが故、完全な正解と言う物が無く、どうしたら効率が良いのか、判らなくなって来た所為であった。

 そのため、今以上の発展には、何らかのブレイク・スルーが必要。と言うのは、石狩地方のプレイヤーの共通認識でもある。

 そう言う意味では、様々なノウハウを持つ人材を集めよう、と言う学校計画は、アリだ。


 元々、スチーブとて彼等にイチャモンを付けに来た訳では無い。文句がある様な態度をとっていたのは、交渉術の一環だ。

 ヤマカン達が十勝から来たらしいので、何れは十勝からの農作物の輸入も検討していた札幌の面々は、これを機にパイプを通しておこう。と思っていたのだ。

 その上、石狩の地で何らかの計画を練っている様なので、それを理由に譲歩を引き出し、自分達に有利な形で協力関係を結ぼう。と言うのが、札幌のトップ達の総意であり、スチーブはその代表として来たのであった。

 しかし、蓋を開けてみれば、思いの外とんでもない物が出て来た訳である。


「……ヤマカン殿。ディアス殿はかなり酷い事を言ってるのではござらんか?」

「じゃのぅ。『札幌農学校』の名声で誤魔化しとる様じゃが、学校作ったからと言って、上手く行くなんて保障は何処にも無いんじゃが……」


 傍から見ていたブシドーとヤマカンは気付いた様だが、実際にはディアスの言う事はハッタリである。大嘘を付いたヤマカンの事を言えないのである。

 学校を建てただけで上手く行くなら、クラーク博士はアメリカで学校事業を失敗しなかっただろう。

 ディアスは自分の主張を推しているだけで、スチーブの懸念には一切回答していない。メリットがデメリットを上回る、と言うのは説得方法としては正しいのだが、そのメリットが実現するとは限らないのだ。


「……はっ!? しかしそれは、『絵に描いた餅』ではありませんか!」


 あ、気付いた。とディアスは思ったが、それを表情に出す事は無い。どうせ、ちょっと冷静になれば判る事なのだ。

 故に本題は、それを否定するのか、実現するために労力をつぎ込むか。2択である。


「確かにそうだな。だが、俺の描いた絵は、高く売れるぞ」


 更にハッタリの上塗りをするディアス。


「とは言え、このままでは唆しているだけ。と思われても仕方ない。……では、ついでに絵をもう1つ。呼び水となる、学校で提供する最初のノウハウは、俺達が提供しよう」


 ディアスは大仰に勿体つけると、図面の束、設計書を取り出した。……風呂で描いていた、あの図面である。


「これなら皆欲しがる事、間違い無し! 『戦車の図面』だっ!」

「…………」


 一気に静かになった。

 何でここで戦車? と言わんばかりの白けた視線がディアスに集まる。


「……あれ?」


 驚愕と賞賛を期待していたディアスは、何でこうなったのか解らない。

 ディアスとしては、最初から図面を対価として提供すれば、上から目線と見られかねず、自分達の能力に自負のある廃人達の反感を買い、まとまる交渉もまとまらなくなる。と思ったので、学校でノウハウを集めて発展に活かす。と言う方向で1クッション置いてから、上手く差し込んだつもりだったのだが。

 ……戦車なのがマズイ。とはちっとも考えていないディアスであった。


「おぬし、何と戦う気じゃ……?」

「いや……、俺等が欲しがりそうな物を一まとめにしたら……、戦車になった?」

「何でじゃい!?」

「ほら、戦車って、陣地設営や塹壕掘りなんかで、重機として使われる事もあるだろう」


 ぽつぽつ、と言い訳を始めるディアス。開拓用の重機は、ディアスの欲する物である。


「それに、強力な大砲をドドン! と載せて……」


 火器はシモヘイの趣味に合わせた物。


「動力は蒸気タービンを採用し……」


 車載用に新設計したそれは、確かにヤマカンも欲しい。


「外見を『タイガー戦車』にしてみた」


 それがジェーンが好きなモフ要素。……名前が動物なだけ。酷い手抜きである。


「…………」


 ヤマカンは呆れて物も言えない様。しかし、スチーブは別の意味で黙っていた。

 ハッキリ言って、スチーブも最初は、何言ってんだ、コイツ? 的な事を考えていた。確かに『戦車』は要らない。しかし、それを作るための個々の技術は非常に有益で、喉から手が出る程欲しい。

 そう考えれば、『戦車』と言うのもインパクトがあり、うまく使えば、皆の興味を引く宣伝効果が期待出来るだろう。


「少し拝見しても宜しいでしょうか?」


 鉄道計画担当であるスチーブとしては、特に新型の蒸気機関に興味がある。


「あ、それは……」


 ディアスの返事を待たずに、スチーブは設計書を手に取り、開いてみる。


《閲覧権限がありません》


 でかでかと、そう表示されていた。


「それ、『札幌農学校』の職員か生徒じゃないと見れない様、制限掛かってるから」

「職員になりますっ!」


 気が付けば、スチーブは反射的に答えていた。オマケ付きとか限定版に目が無い性格が災いした。と言えよう。

 言ってしまってから、しまった! とは思うものの、スチーブは即座に考えを切り替える。

 確かに、学校の件はその影響力から言っても、スチーブの権限を越えるだろう。しかし、この辺に駅を作る計画は元々あったのだし、学校は他のパーティーが主導の計画なので、素知らぬ顔をして誤魔化す事が出来る。

 そして、学校職員の立場を利用し、集積されるノウハウを活用出来れば、札幌の廃人達の中で、頭1つ飛び抜けた存在になれるかも知れない。


「と言っても、私に出来るのは鉄道関係の事だけですから。……そうですね、駅舎も学校の一部にして、私はそこの責任者兼、鉄道関係のノウハウの教員、とするのはどうでしょう?」


 と、提案するスチーブ。こうする事で、実質、職場を変えて今までと同じ仕事をするだけで、メリットを享受しようと、打算的な事を考えるのであった。


「じゃあ、その方向で調整しよう」


 ディアスもそれには気付いているものの、そのまま受け入れる。鉄道関係のノウハウは有用だし、出来ない事を無理にやろうとしても、トラブルの元になるだけだからだ。


「そうだ! ついでに、『列車砲』もどうだ?」

「それは要りません」

「そげなっ!?」


 交渉事の際、自分の価値観だけで推し進めると、トラブルの元となります。


 広い視野を持たないと、思わぬ落とし穴に気付かない事がありますので、注意しましょう。


「しかし……、釧路との物流ルートを強化しよう、としてた筈が、何でこんな事になってるんだろう?」

「ふっ。抜かりは無いぞい。今回の件でおぬしの技術が石狩に流れ込む事になったじゃろ。その価値を知る釧路の連中は、慌てて我先にと道路敷設位してくれるじゃろうて」

「……おい」

「何せ、十勝で1番の特産物は、ディアスの技術じゃからのぅ。今回は、如何におぬしを乗せるかが肝じゃったぞい。まぁ、トラブルを持って来ればドラ○もんの如く何とかしてくれる。と信じとったが」

「こら!」


 鴻之舞(こうのまい)を混乱に陥れた、ヤマカンの非道な手腕は健在でした。


 人に丸投げ前提で計画を立てるのは止めましょう。

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