チェーン・ソーはじめてみました
やたらと緑が少ない故か、吹く風に土埃が舞う。
無計画に、乱雑に開発された名残であり、また、鉱山から染み出した、鉱毒の影響もあるのかも知れない。
マゼランは、その寂れた街に足を踏み入れた。
建ち並ぶ家屋、手入れもされず痛んだそれらだけが、かつては多くの人が住んでいた事を示していた。
しかし、今はその大半が空き家であり、朽ちるのを待つだけである。物によっては、人が住んでいるものの、雨風さえ凌げれば良い。とばかりに、廃屋と区別が付かない物さえある。
「噂には聞いていたが……、こりゃ、酷いな」
「だったら、こんな街に足を踏み入れなさんな」
マゼランは少し驚き、声のした方を振り向く。何気なく呟いた言葉に、返事が返るとは思わなかった。
「あんたは?」
「そりゃ、こっちの台詞さ。この街に……、いや、もう街の体裁を成していないが、ここに残っているのは、夢破れて、他に何する気力も失った飲んだくれだけさ。前途ある若モンが来るとこじゃねぇよ」
そう答えた男は、酒瓶を抱えて建物の柱に寄り掛かりながら蹲っていた。正に、本人が言った通りの『飲んだくれ』にしか見えない。
「俺はレア・メタルの買い付けに来たんだ。寂れたとは言え、ここの鉱山はまだ尽きていないんだろ。だったら……」
「詳しい話が聞きたきゃ、そこの酒場に行きな。……そうすりゃ、少しは話す気力があるヤツも居るかも知れないさ。……まぁ、ウゼェ昔の自慢話混じりになるだろうがな」
もう喋るのも億劫だ。と言わんばかりに、男は話を拒否し、それっきり黙りこむ。……自分から話しかけてきた癖に。
これ見よがしにワザとらしく鼾をたてるあたり、どうあっても話を聞くのは無理だろう。
マゼランは少し考えたのち、辺りを見回した。男の言った酒場は、すぐに見つかった。他の廃屋に比べれば少しばかり手入れされており、一応『BAR』の看板も出ている。
他にそれらしい店舗も無い。違ったらその時改めて考えよう。と、マゼランはスイング・ドアを押して中に入った。
バーテンらしき男がカウンターの中でグラスを磨いているが、マゼランの方を一瞥しただけで『いらっしゃい』すら言わず。店内には3人の客が居たが、テーブルの2人は寝息をたてており、カウンターに陣取っている1人は、起きてこそいるものの、酔い過ぎたのか、
「うぅぐぅぅぅ……」
と、気持ち悪そうに唸っている。誰一人として、ろくに話を聞けそうに無い。無愛想だが、バーテンなら酒を頼めば無下にはしないだろう。と踏み、マゼランはカウンター席に着くと、
「酒。お勧めのを1つもらおう」
どんな酒が出せるのか。メニューも無いので分からず、適当に注文する。まさか、『酒場』を名乗っておいて、酒が出ない。と言う事はあるまい。
バーテンは黙って棚からボトルを取り出すと、トポトポとグラスに酒を注ぎ、カランと氷を浮かべる。
「マスター……、俺にも酒くれ、酒ェ……」
マスター、と呼ばれているが、1人で切り盛りしているなら、そりゃ、マスターがバーテンの仕事もしなければなるまい。
バーテン改めマスターは、マゼランにグラスを差し出すと、カウンターに突っ伏している男の注文には応じず、グラス磨きに戻る。
「デコーズ。あんたはもう飲み過ぎだ。味が判らなくなるまで飲むモンじゃねぇ」
「良いから、酒出せよぉ……。金ならあるんだ。金なら……」
マスターは何時もの事、と肩を竦めると、
「……飛び切りのをくれてやる。とっとと酔い潰れて寝ちまえ」
と、飛び切りのアルコール度数の酒を用意する。……ストレートで。
その様子を見つつ、出された酒をあおり、適当なタイミングを見計らってマゼランは聞いてみた。
「マスター、この辺でレア・メタルを買える所を知らないか?」
「……この辺りには、無いな。もっと大きな町に行けば、取引所がある筈だ。……中間マージンが入るんで、高くなるがな」
マスターはごく当たり前の答えしか返してくれない。マゼランがこんな辺鄙な所まで買い付けに来た理由は、安く手に入れるためであり、マスターはそれを見透かしている様だった。
「今でも、少しは掘ってるんだろ?」
「あんたが取引所より高く買い取ってくれるんなら、売るヤツも居るかも知れんが、それだと元締めに目を付けられる」
睨み付ける様なマスターの鋭い視線は、余計な事をしてくれるなよ。と言わんばかり。
「げぶらっ!?」
隣で酒を飲んでいた男が、キツイ酒を迂闊に喉に流し込み、盛大に吹き出していた。そのおかげか、ちょっとピリピリしていた空気が、少し和んだ。
「まぁ、なんだ。ここも昔は『金』が出る、って言われて、賑わっていたモンだが……」
マスターはマゼランを諭すためか、ポツポツと昔話を始めた。
「だが、集まって来たのは、欲に目の眩んだ、一攫千金を狙う山師ばかりさ。そこに商人共も集まりゃ、違って来たんだろうが、物流の不備の所為か、そうはならなかった」
「……金を稼いでも、ここじゃ使い道が殆ど無い、って事か……」
「そう言うこった。ある程度掘ったら皆出て行っちまう。誰もここに骨を埋めるつもりは無く、金も使わねぇ。結局、持ち出されるばかりで、入って来る物がねぇのさ」
寂れて当然だろ。と自嘲気味の笑みを浮かべるマスター。
「んで、見ての通り、残ったのは飲んだくれと、真っ当な街のルールに馴染めない荒くれ。……そして、そいつ等のために酒を振舞う俺だけ。って事さ」
それで終わり。大して長い話でもなかった。幾ら『金』が貴重とは言え、無制限に必要、と言う訳では無い。むしろ、値崩れを防ぐため、発掘量を制限する、と言う話をマゼランも聞いた事がある。
適当に掘り貯めた『金』を、偶に街に売りに行く。それだけで十分。それでは発展もしないだろう。あまり焦って掘っても、『廃鉱』となるのが早まるだけ。
つまり、発掘量を調整するため、元締めとやらが物流を制限し、態と発展しない様にしている可能性すらある。
だが……
「その割には……、良い酒を出すよな」
マゼランはあまり酒を嗜まないため、言う程味が判る訳では無い。しかし、偶に飲む安酒とは格が違う事位は判る。物流の滞った辺境で出せる酒とは思えない。下手したらここまで届けられる間に、中身抜かれて水で薄められたり、安酒と入れ替えられたりする事もあり得るのだ。
それだけでは無い。質の良いグラスに、氷。酒の保存環境。店のボロさと裏腹に、一流と言って良い。それは、ここのマスターがそれだけの権力を持っている。と想像させるのに十分な要素であった。
要するに、マスターが元締めなのではないか? とマゼランは疑っているのであった。
「この位は、コネがあれば何とかなる事さ。ここじゃ、酒位しか楽しみが無いからな。不味い酒を出した日にゃ、命が幾つあっても足りねぇよ」
マスターは何て事無いかの様に言うが、並大抵の苦労では無い筈だ。本当かどうかは検証しようが無いが。……その分、酒の代金が高いだろう事に、今更ながらに気付くマゼラン。
金が足りるかなぁ……、と、ウイスキーの相場と辺境の物流の手間考え、かなりの値段になると踏んだマゼランは、ちょっとばかり青くなる。
レア・メタルの買い付けに来たため、金はそれなりに持っているが、逆に考えれば、それ以外の事に無駄遣い出来ないのだ。しかも、想定より高くなりそう、となれば尚更だ。
「おう。邪魔するぜ」
マゼランが懐具合について悩んでいると、大男が店に入って来た。背後に何人か付いて来ている様だが、彼1人で入り口を塞ぎ、凄く邪魔な程の大男だ。しかも、肩に水牛を担いでいるとなれば、よく入り口を通れた物だ。と感心する。
その大男は、担いでいた水牛を店内に放る。
ガダァァァンッ!
と大きな音を立て、テーブルを押し退け転がった水牛は、仕留めたばかりなのか、転がると同時に血を撒き散らす。
この大音で、さっきまで寝ていた客も目を覚ましたのか、彼等を見て、
「ぅ……、ジャック一家……」
と嫌悪感も露に呟いたのが聞こえて来る。
「そいつが代金代わりだ。酒と食いモン出しな」
「ジャックよ。それは良いが、せめて血抜きをしてから持って来てくれ。血で汚れた床を掃除するのが面倒だ」
「細けぇ事ぬかすな。誰のおかげで、この街で『平和』に暮らして行けると思ってんだ?」
どう見ても平和の維持より、揉め事を起こす側にしか見えないが、まぁ、チンピラの言いそうな事だ。とマゼランは何処か他人事の様に、その様子を眺めていた。
ジャックと呼ばれた大男の後に続き、その子分らしき男たちが4人程ぞろぞろと店内に入って来る。
「そんな事より、ここ最近、余所者がこの辺をウロウロしてるらしいじゃねぇか」
ジャックの視線は、真っ直ぐマゼランの方を向いていた。
人の少ないこの街では、余所者は非常に目立つ。一目見ればそうと判り、噂が立つのも早ければ、こう言う変なのに絡まれ易くもある。
「……揉め事は止してくれよ」
「そんなつもりはねぇさ。揉め事を起こすのは、何時だって余所者の方さ」
ひっひっひ。と嫌らしい笑みを浮かべる子分達の様子から察するに、イチャモン付ける気満々である。とマゼランは読んだ。……思った様に買い付けが上手く行きそうに無いため、彼も何処かイラついていたのかも知れない。
「こんな僻地に態々遣って来るヤツなんざぁ、どうせろくなヤツじゃねぇさ。おい、お前!」
と、ジャックはマゼランの側まで来ると、
「俺の縄張りでおかしな真似したら承知しねぇぞ。ここには余所者と係わろうとするヤツはいねぇ。その酒飲んだら、とっとと出て行きな! 何なら、迷子にならない様、中心街まで送ってやっても良いんだぜ。勿論、金はもらうがな!」
ゲハハハハッ! と笑いながら身勝手な警告を言う。……と言うのはマゼランの主観だ。冷静に内容を理解すれば、言い様こそ乱暴だが、意外と普通の警告である。挑発が入っているのは間違いないだろうが。
「……ああ。出て行くさ。その前に……」
マゼランはグラスに残ったウイスキーを飲み干すと、
「無駄に図体のデカイ、目障りなチンピラを処分してからな」
ジャックに対し、露骨に喧嘩を売る。
「ハッ! おもしれぇ! その喧嘩、買ったぜ!」
ジャックは腰の脇に下げていた、大振りのナイフを引き抜いた。それにあわせ、子分達も次々にナイフを抜く。彼等は水牛狩りのためにショット・ガンを持っていたが、流石に店の中でそれを使わない程度の分別はあった様である。
そんな彼等の様子を見、マゼランも自分の獲物を抜く。彼も銃を持っているが、やはりそれは使わない。しかし、銃を使わなければ良識があるか、と問われれば、そうでも無い。マゼランの浮かべる笑みは、見る者を不安にさせ、むしろ悪役の顔になっていた。
ギュイィィィィィィィィィィンッ!
「……え?」
《PvPモード終了。勝者:マゼラン》
マゼランは勝つには勝った。しかし、どう見ても周りからは歓迎されていない。
余所者は厄介者。土地のルールを理解していない者は、長年掛けて作り上げてきた調和を乱す者でしかなかった。
「……へ? 退廃的辺境プレイ?」
つまり、そう言う事である。
「そうだよっ! マスター! 説明してなかったのか!?」
「いやぁ。つい、雰囲気重視で、細かい事言うの忘れてたよ」
はっはっは。と、マスターは陽気に笑いながら、失敗、失敗。と言う。
さっきまでと喋り方が違うのは、キャラ作りのためだとか。
「まぁ、見世物としちゃ、そこそこ面白かったけどな」
と、客の1人が言う。
「やられる方としちゃ、面白くねぇよ……。しかも、話が通ってなくて、一方的に悪者として扱われちゃ、尚更だ」
ジャックはやってらんねぇぜ。と酒をあおる。
まぁまぁ、とそんなジャックを宥めつつ、マスターは酒のお替りを注ぐ。
「要するに、ここは本格的な開拓より、退廃的な雰囲気の中、酒飲んでダラダラしたり、偶にならず者が暴れてストレス解消したりと、非生産的な事を選んだ、……なんて言うか、義務感に縛られない、そう言う『癒し』の場なんだよ」
「癒し? これが?」
「若いモンには解り辛いかもな。大人には、酒に溺れて管を巻きたい現実が、色々あるんだよ」
「そうそう。FDの酒は、幾ら飲んでも体壊しませんしねぇ」
どうやら、彼等の大半はサラリーマンの様だった。現実で酒に溺れるよりは、FD内で飲んだ方が、金銭的にも健康的にも良い。と言うのは、マゼランにも理解出来ない事では無いが。
「だからって、こんな廃墟みたいな場所でなくても……」
「馬鹿か。この雰囲気が良いんだろうが。この、働かなくても良さそうな雰囲気がよ。周りが齷齪働いている中、自分だけが飲んだくれていたら、かえって惨めだろうが」
「この環境を維持するために、自分等がどんだけ苦労してると思ってるんだ」
ゲーム・システム的に、手入れもされず放置された建物は、ゲーム内時間で2年もすれば朽ちて無くなる。それを防ぐため、適度に手入れし、程々に寂れた状態を維持しているらしい。……ハッキリ言って、馬鹿馬鹿しい努力である。
「維持、って、こんだけの建物を、全部か? 一体、何人でやってるんだ?」
「時々変動するが、大体20人ちょっと、ってとこだな」
マゼランは絶句する。元々街だったためか、建物の数は相当ある。ちゃんと数えてはいないが、100近いのではなかろうか。
「それに、俺らは害獣に荒らされない様、狩りもあるしな。全員が建屋のメンテに回れる訳でもねぇ」
と、ジャックは言う。平和が云々言っていたのは、ならず者プレイ的な台詞では無く、本当にやっていたらしい。
「まぁ、あんた等の事情は解った。だが、何だってこんなに寂れたんだ? 普通に鉱山掘ってても良さそうなモンだが……?」
「俺も移住組だから、事の起こりは伝聞になるが……」
皆を代表して、マスターが昔話を始める。口調も場末の酒場のマスターっぽいキャラ作りに戻している。
「ここに『鴻之舞鉱山』がある。と、あるプレイヤーが言い出したらしい。名をヤマカン、とか言ったか」
「へぇ……。よく分かったモンだな」
「ああ。最初は眉唾物として誰も相手にしなかったが、その内、ヤマカンは大量に金塊を積み上げ、自慢したらしい。おかげで他のプレイヤー達は騒然となったさ」
「……そりゃ、そうだろうなぁ……」
遠く離れたマゼランの所にも、詳しい話はともかく、『金山』位は聞こえて来た物である。
「それだけなら、大した問題でも無かったんだが……。このゲーム・システムだと、鉱山を開拓したヤマカンに所有権と採掘権がある事になる。つまり、独占状態な訳だ。しかも、まだまだ資源の残ってるこの鉱山を、ヤマカンが売りに出した事が、更なるトラブルの始まりさ」
「え? 普通に考えれば、その独占状態を止める、ってのは真っ当な判断だと思うが?」
「おまえ……、『金山』を幾らで買うつもりだ?」
「あ……」
そんな金、何処の誰も払える訳が無い。ゲーム開始直後の貧乏な頃ならば、全プレイヤーが共同で金を出したとしても足りないだろう。
「結局、『開拓案内所』が買い上げたのさ。『開拓案内所』預かりになった鉱山は、誰もが自由に掘れる様になる。となりゃ、我先に、と群がって来る訳だ」
「でも、自由競争はMMOでは普通だろ? 他のゲームだって、効率良い稼ぎ場は混雑してたし」
「人が集まって来るだけなら良かったんだがな。問題は、ヤマカンが馬鹿みたいに大儲けした所為で、皆金の事しか考えなくなっちまった事だ」
マスターは、ゲーム内で金儲けしても、虚しいだけだと思うんだが……、と呟いてから、
「ヤマカンは皆が興味を示すだけの量の金を掘って、それを見せびらかす事で鉱脈の価値を吊り上げたんだ。つまり、金掘って稼ぐより、鉱脈の採掘権を売り払う事で手っ取り早く大儲けする、ってシナリオを最初っから思い描いていた、って事さ。とんでもねぇレベルの土地転がしだよ」
「うわぁ……それは……」
何とも言葉の出て来ないマゼラン。開拓した土地を売って土地成金、と言うのはルール的に認められているが、ゲーム初期にそこまで出来るとは只者では無い。
おそらくは、鉱山を占有して掘り続ければ、もっと稼げるのだろうが、延々と掘るだけのゲームの何が楽しいのか? と言う問題になるだろう。
鉱山を売った金を元手に他のプレイ・スタイルに移行するには、どれだけ明確なビジョンを描いていれば可能なのか、些か想像し難い。
「しかも、ここで新しい事業を創めてくれれば良かったんだが、その金持って他所の土地に行っちまったからな。……それが原因か、何か嫌な流れが出来ちまってな。ここで稼いだ金を元手に他所で何かやる、ってのが普通になっちまった」
「何で、また? ヤマカンとやらが何考えてたかは知らんが、別にここで商売始めても良かったんじゃないか?」
「多分、それがまだゲーム初期の頃、ってのが一因だろう。まだ、皆貧乏な頃だ。金銭で他者を圧倒出来りゃ、一種のマネー・チート状態だ。色々と融通が効くんだろう。……金山のお膝元じゃ、皆金持ちになっちまって、その優位性が活かせないから、他所に行くんだろ」
結果論からそうと推測出来るが、実際にはこんなに寂れるまで、誰も有効な対策を立てられなかった訳で。
たった1人のプレイヤーの影響が、ゲーム・バランスを滅茶苦茶にしかねない、と言う、自由度の高さの弊害がここに現れていた。
「おまけに、出て行ったヤツ等の所為で、ここに『金山』がある、って知れ渡っちまったからな。金の亡者がウジャウジャ集まって来る、ってこった」
「まぁ、そんなトラブルを防ぐため、採掘や鉱物取引に制限が掛かったのは、仕方ない事だとは思うが。……結局、それが止めになって、ここまで寂れた訳だ」
「その制限の所為で、アテの外れたヤツ等が本格的なならず者プレイに走ったんだろうが」
「何だ、その、本格的なならず者プレイ、って?」
ジャックの台詞に、マゼランは興味本位で聞いてみた。
「阿寒湖の毬藻を乱獲して、売り捌いてるんだよ。『ゲーム内じゃ、天然記念物とか関係ねぇ』とか言いやがってな!」
おまけに、阿寒湖は釧路地域にあり、密猟者の拠点がオホーツク地域にある、と言う事で、この土地の評判を落とす原因にもなっている。
警察の縄張りでは無いが、NPCの行動も地域の範囲で制限が掛かっているので、地域を跨ぐと足が付き難いらしい。
「おかげで、ここだけじゃなくて、網走の中心街も発展が微妙でな。真面目にプレイしてるヤツ等が割を食っちまってるのさ」
聞いた話、ヤマカンはここでは相当嫌われている様である。今の状況は、どちらかと言えばならず者プレイヤー達の所為だが、彼等が集まって来た原因は、やはりヤマカンにある。
マゼランも、レア・メタルの買い付けが上手く行きそうに無いのもヤマカンの所為だ。と八つ当たり気味に怒りが込み上げて来た。
「とは言え、何だかんだ言ったって、所詮はゲームだ。皆、ヤマカンを言い訳に使って、羽目を外してるだけさ」
「まぁ……、否定は出来んな。俺等もこうして退廃的辺境プレイ、何てアホなプレイ・スタイルに興じている訳だし……」
実際、彼等の中に、ヤマカンに直接会った事のあるプレイヤーは殆ど居ない。噂が先行して、ならず者の代表格、的な印象があるのは無理も無いが。
「ふーん……。そのヤマカン、ってのに会ってみたくなったな」
「会ったら、ついでに俺らの分も1発殴っといてくれ」
「いや、別に殴りに行く訳じゃ、無いんだが……」
「ヤマカンなら、今は十勝に根を下ろしているそうだ」
何となく、変わったプレイをするヤツに興味が出た。と言うつもりで呟いたマゼランだったが、周りの雰囲気は、彼等を代表してヤマカンに報復しに行く。的な流れになりつつある。
殴る、殴らないはともかく、今後の方針は特に決まってないので、次の行き先は十勝にしておくか。と適当に決めるマゼラン。レア・メタルの件で愚痴を聞かせる位なら、構わないだろう。と思うのであった。
カン! カン! カン!
ここのところ、掃除とかで作業が滞っていた鬱憤を晴らすかの様、久々の『工房』フル稼働。この調子だと、またすぐに散らかりそうである。
「お~い。何作ってんだ?」
シモヘイは興味本位で覗きに来てみた。ディアスも一緒になって作ってる様なので、何かヘンな物を作ってるんじゃないか? と言う危惧もある。
「ん? 流石シモヘイ。焼けた鉄と硝煙の匂いを嗅ぎ付けて来たか……」
「いや……、別にそんな匂いはしないが」
一応否定してから、シモヘイはディアスの台詞を吟味し、その意味するところを察した。
「新しい銃を作ってるのか?」
となれば、俄然興味が出て来た。シモヘイが更に『工房』の奥に入ると、ヤマカンが組み立て中のそれが目に飛び込んで来る。
ゴツイ大型の機関部。バケツの様な弾倉。束ねられた6本の銃身。紛う事無き『ガトリング・ガン』である。
相変わらずディアスの独自設計で内部機構とかが違うためか、ミリタリー系の雑誌で見る様なリアルの物とは、ちょっとばかりバランスやディティールが違うが、その迫力は些かも損なわれていない。
「おおっ! すげぇっ!」
となれば、ガン・マニアのシモヘイが興奮するのも無理は無い。
その様子に気を良くしたか、ディアスはふっふっふ。と不敵に笑うと、自慢気に語り出す。
「有象無象を薙ぎ払う必要があって、ちょっと連射性の高い銃が欲しくてな。アサルト・ライフルを大量生産するのも芸が無いんで、この『マメバルカン』を新たに設計した訳だ。……こいつの扱いは、シモヘイ。お前に任せる」
「そりゃ良いが……、『マメバルカン』って、ネーミング・センスはどうかと……」
このネーミング・センスの無さは、ディアスの命名だろう。
シモヘイはミリタリー知識で、航空機搭載用のバルカン砲を小型化した、『ミニガン』の通称で呼ばれる兵器がある。と言う事を知っている。それを考えれば、『マメバルカン』のネーミングも、言いたい事は解らなくも無い。……ダサい事には違いないが。
「ヤマカン。何時もの厨二ネームはどうした?」
「ワシが自ら名付けるのは、自分で作った物だけじゃよ」
「こら。俺のセンスがそんなに不満か?」
「……小型のバルカン砲だからって、『マメバルカン』ってのはまんま過ぎるだろ」
「……ああ。そう言う勘違いか」
得心が行ったか、ディアスはポン。と手を打つ。
「もうすぐ節分だからな」
「節分!? って事は、マメって豆か! これ、こんだけ仰々しくても『豆鉄砲』か!」
「その通り。ついでに言うなら、空気圧で飛ばす、『エア・ガン』だ」
「そりゃ、火薬で豆飛ばすのは無理だと思うが……」
火薬の爆発を受ければ、豆など砕け散ってしまうだろう。工夫によっては何とかなるかも知れないが、そんな手間を掛ける位なら、圧縮空気を使った方が手っ取り早い。それこそ、玩具のエア・ガン等、簡単に参考に出来る物がある訳だし。
「って事は、電動ガンみたいに、モーターでピストンを動かして……、モーターは無いから、例によって蒸気機関を使うのか?」
「そんな事する位なら、直接蒸気圧で飛ばした方が早かろうが」
と、ヤマカンが突っ込む。以前にも蒸気圧を利用した、超超臨界圧銃『死を撒く霧』を作っていたので、ノウハウもある。
となれば、むしろ何でそうしなかったのか、シモヘイは首を傾げる事に。
「遊撃戦力用に持ち運ぶ事も想定しているからな。蒸気圧式だとでっかいボイラーを背負わなければならないから、ちょっと一工夫してみた」
と、ディアスは500mlサイズのペット・ボトルより、1回り大きい位の金属筒をシモヘイに渡す。
「これは?」
「『エア・タンク』だ。蒸気機関で圧縮機稼動させて、そいつに50MPa程詰め込んでみた」
「へ~。50……メガ!?」
シモヘイは驚きのあまり、その金属筒を落としそうになる。その圧力は、最早爆弾と大差無い。
「最初から圧縮空気を用意しておけば、動力部がコンパクトになると言う、この発想!」
容器の強度は大丈夫かなぁ……? と、恐る恐るのシモヘイを他所に、
「要するに、空気圧の形でエネルギをチャージする事で、サイズが大きくなりがちな動力源を切り離す事に成功したのだ!」
と語るディアス。……圧縮空気を動力源にする発想は結構昔からあったので、別に斬新と言う訳でも無いのに、まるで自分の手柄であるかの様に偉そうだ。
「はぁ……、それは良いとして、高が節分で、何だってこんな大げさな物を……」
シモヘイのその疑問も尤もだ。何せ、シモヘイがこれを見た時、『豆鉄砲』だとは気付かない様な代物なのだ。つまり、銃として実用に耐え得る程の強度が見て取れた。
多分、エア・タンクの替わりに、大型のボイラーを直接繋げば、十分殺傷能力のある威力で連射出来るんじゃなかろうか? と疑うシモヘイであった。
「あれ? お前、アップデート・インフォは見てないのか?」
「今期のアップデートから、リアルの年中行事がゲーム内で行われる様になったんじゃよ」
ディアスは逆にシモヘイに問い、作業が一段落着いたか、ヤマカンが簡単な補足説明をしてくれる。
「……あ、成る程。確かに節分イベントが入ってるな」
シモヘイは改めてインフォメーションを確認し、節分イベントのお知らせを確認した。正直、微妙だと思うが。
これがファンタジー系のゲームなら、オーガ系モンスターの大量発生&討伐イベント。とかでそれなりに盛り上げる事も出来るだろうし、実際過去にあった話でもある。
説明によれば、全ての年中行事を実行する訳では無く、要望の多かった物を実現。と言う事になっており、今回の『節分』は言わばサンプル的な扱いらしい。それは良いとして、リアルのカレンダー準拠で行われるので、ゲーム内との季節感のズレが半端じゃ無い。
「そう言や、節分って何日だっけ?」
「2/2。明日だよ」
シモヘイは節分の日付を覚えていなかったが、これは仕方の無い事である。
そもそも、『豆撒いた後の掃除が面倒』とか『アレルギーがあるから大豆食べられない』等の理由で、色々形を変えつつ、一般家庭では徐々に廃れていった行事である。神社とかでは厄払いの一環でやっていたりするので、まだ、『節分』と聞いて何の事かは解らない、と言う程にはなっていないが。
その上、日付で決まっているのではなく、暦の計算上、2~4日の間でずれたりするのだ。
そんな微妙な物が選ばれたのは、忘れられかけている行事だからこそ、せめてゲーム内だけでも、との思惑があったのだろう。この辺も国の監修が入っている事を匂わせる。
「明日かぁ……」
「より正確には、約1時間後からだな」
そんな訳で全く興味の無かったシモヘイと対照的に、ディアス達がやたらとヤル気を出していた。それは、昨日まで影も形も無かったガトリング・ガンが今ここに組上げられている事からも、容易に見て取れる。
ルールでは、鬼側は金属製の近接戦武器のみ、人側は豆を撒ける飛び道具のみが武装として許可されている、変則的PvPモードになるらしい。
これで陣取り戦をやって、より広い範囲を、より長い時間確保すれば、それに応じた点数が入り、順位が決まるとか。言葉通り、『鬼は外』すれば良い訳である。鬼側は倒したプレイヤーが点数になるとか。
『上位入賞者には豪華賞品を用意しています』と書かれていたが、詳細は記されておらず、かえってチープな感じがする。
「ディアス、『鬼役は籤引きで決める』って書いてあるぞ。俺らが鬼になるかも知れないんだが?」
その時は、折角のガトリングが無駄じゃね? と疑問を口にするシモヘイ。
「とりあえず、パーティーで登録してあるから、俺らが敵同士になる心配は無いし、もし鬼になった場合は、『森林喰らい』を持って暴れるだけだ」
「うわぁ……」
確かに、あれも『金属製の近接戦武器』の定義には当て嵌まるだろうが、蒸気機関で稼動する鋸状の鉈を持ったヤツに襲われるプレイヤー達はご愁傷様。とか思ってしまったシモヘイであった。
「どっちにしろ、準備万端、と言う事だ。このルールだと、入り浸ってる廃人達に有利なんで、俺ら普通のプレイヤーは可能な限りスタート・ダッシュで戦果を稼いでおきたい!」
出来れば2時まで……いや、3時までは粘れるか? と悩んでいるディアス。
『スケジュール実行機能』の『自動応戦モード』も使えるが、これはハッキリ言って弱いので、全くアテにならない。
「まぁ、出来る限り協力するけどさ。俺もそんなに起きてられる訳じゃ無いから、1時までにさせてもらうぞ」
「ああ。学生なら、そんなモンだろ。その代わり、明日は出来るだけ早くダイブ・インしてくれ」
「出来るだけ、な」
実はシモヘイも、豆鉄砲とは言え、ゲーム内初となるガトリング・ガンの実射には興味津々である。しかもアサルト・ライフルの時とは違い、大っぴらに撃てるとあって、心の中で、鬼役にならない様に、と願っていたりする。
「とりあえず問題は無さそうじゃが、試射してみるかね?」
「やるやる! 勿論、やる!」
と、シモヘイが飛び付くのも無理は無い。もし鬼役になった場合、これが24時間お預けになるのだ。だったら、今の内に撃っておくべきだろう。
ヴゥォォォオォォォォォォォォッ!
連続する銃声が1つになり、咆哮を上げる。……と言いたいところだが、エア・ガンなのでそんな筈は無い。実はこの音、機関部を駆動させる空気の一部が、『銃声っぽい音の鳴る笛』を通って排気されるためである。要するにただの演出だ。
そして、射程もエア・ガンらしく30m程度である。
そんなチャチな性能でも、シモヘイは大喜び。ガトリング・ガンには、独特の魅力があるのだ。
映画とかでミニガンを手に持って掃射するシーンがあったりするが、それが出来るのはフィクションだから。本当は、出来ない。そして、出来ない筈の事を出来る、と言う演出でもあり、それがある意味、ガトリング・ガンを特別な物に仕立て上げている。とも言えた。
「ふははははっ! 圧倒的ではないか。この銃は! これなら『自動応戦モード』でも、十分な戦果を上げられるぞ!」
「その必要もあって作ったんだしな」
十分な手応えに浮かれるシモヘイに、ディアスはさもありなん。と頷く。
「タンクの残圧に注意せいよ。1本でどれだけ撃てるか、感覚を掴んどくんじゃ」
必要事項を忠告するヤマカンだったが、それがちゃんとシモヘイの耳に入ったかどうか。
とにかく、楽しい時間はあっという間に過ぎる物。1時間が経過し、
《これより、節分イベントが開始されます》
突如流れた《システム・アナウンス》に、3人とも息を呑む。
《チーム『希望岬』は人陣営に配属になりました。マップで担当エリアを確認してください》
「じゃあ、行くか」
ディアスは大量の豆を詰め込んだリュックを担ぎ、ヤマカンは圧縮機とそれを稼動させるためのボイラーを担ぎ、シモヘイは『マメバルカン』を手に……
「おい! 飛び道具持ってるの俺だけか!」
今更ながら、それ以外の武器を用意していない事に気が付いた。
「……担当は、『市場:木材売り場』か」
「障害物が多いのぅ。どうせなら射線の通り易い『スポーツ・グランド』の類が良かったのぅ……」
「こら! 無視すんな!」
露骨に話を逸らそうとするディアスとヤマカン。……あれだけの物を作れば、そりゃ、他に何も出来ないだろうが。とはシモヘイも思っていたが。
「いやぁ~。俺たちは普通に手で投げて応戦するさ」
「そうじゃ。早よう行かんと、鬼共に先を越されるぞい」
有耶無耶に返答を誤魔化したまま走り出す2人。シモヘイは追及は後にしようと、とりあえず付いて行く。
イベント期間中は、『転移室』を利用した侵攻は出来ない様になっているので、走って行くしかない。だから、本当ならもっと早く出るべきだったのだが。……まぁ、走って行く、とは言っても、道産子に乗って、なのでそんなに時間は掛からないだろうが。
「良し、ポイント確保」
幸い、ディアス達は鬼の侵攻より早く、担当エリアの確保に成功した。外周のエリアでは既に戦闘の始まっている場所もあったので、際どいところだったと言える。
イベントが行われるのは、『公共施設予定地』『計画誘致予定地』を合わせた、直径3km程の範囲である。
ディアス達の確保した『市場』は公共施設であり、比較的中心に近い位置にあった。
この『市場』は、大型ショッピング・モールとホーム・センターを一緒にした様な造りになっており、リアルの物とは大分イメージが違う。当初はそうではなかったが、リアル『市場』を利用した経験のあるプレイヤーなんて殆ど居ないだろうから、普通の店っぽくした方が使い易いだろう。と言い出したとある商人プレイヤーの意向でこう改変されたとか。
「よう。そこはディアスの担当か」
「……タゴサクか」
すぐ隣の『煉瓦売り場』まで来ていたタゴサクが、ディアスを見つけ話しかけて来た。
「隣のエリアとは奇遇だな」
「そう言う訳じゃねぇよ。俺達の担当エリアはもっと離れてるが、今の内に空いてるエリアを確保しとこうと思ってな。正に『鬼の居ぬ間に』ってヤツだ」
一足先に着いていたタゴサクのチームは、随分手広くやっている様である。
「……そんなに手を広げて、守りきれるのか?」
「守りきる必要はねぇんだ。スコアは、広さと時間で決まる。って事は、一時的にでも広いエリアを確保しとけば、それだけ稼げる」
「その手があったか……」
と、ディアスは今更ながら後悔するも、もう遅い。今からでは余計な隙を作るだけである。
『マメバルカン』を量産して全員に持たせておけば、状況は違ったかも知れないが、どうせ【銃器】アビリティが無いと使いこなせない代物なので、そんな仮定に意味は無い。
「そっちは……、3人だけか? ジェーンはどうした?」
「リアルの事情で昨日徹夜したらしくて、今夜はパス。だと」
「それで、人数の不備を補うために、そのゴツイ銃なのか?」
「そう言う訳じゃ無いさ。ただ、豆を打ち出せる飛び道具、って条件を最大限に活かしたらこうなった、ってだけさ」
「最大限……って」
ディアスの言い様に、タゴサクは苦笑する。射程を稼ぐため、スリング・ショットを持ち出す位なら珍しくも無いが、ガトリング・ガンは狂気の沙汰と言える。
「まぁ、豆を詰め込んだライフル・グレネード用意した俺も、人の事言えないけどな」
どうやら、程度の差はあれ、飛び道具、と聞いて銃器を応用しよう。と考えた人間も少なくないらしい。
「と、もう話してる時間も無さそうだな」
周りから、鬼の攻めて来る雄叫びが聞こえて来た。外周部エリアの隙間を縫って、ここまで来たのだろう。雄叫びを上げる必要性は全く無いのだが、多分、その場の勢いとかノリなのだろう。
鬼達が中心部へ向かって攻めて来るのは、中心に近いエリアの守護を任されているプレイヤー程、倒した際のスコアが高いためである。
人側の事情から見れば、中心部にある『役所』を占拠されれば、人側全プレイヤーのスコアにペナルティが付く。と言う事である。
これらのルールから、人と鬼の組み分けはランダムだが、人側のエリア配置は強さにより決まっている。と言えた。
実際……
ヴオォォォォオォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォォォッ!
「何時もより長めに掃射しておりまぁすっ!」
と、鬼達が一方的に薙ぎ払われる様子を見れば、『無理ゲー』とすら言いたくなる難易度である。
「わははははっ! 撃っても撃っても向かって来る相手を、更に撃ちまくるのは、まるで『ゾンビゲー』だな!」
ちなみにルール上、鬼に豆をぶつけても倒せる訳では無い。豆をぶつけた程度のダメージは入るが。
ダメージは殆ど無いが、癇癪玉が炸裂した位の痛みと、砲丸をぶつけられた程度のノック・バック、それと、鬼の目を潰したと言う伝承にちなんで、『暗闇』の状態異常が付く。
要は、倒せはしないが、これで根気良く鬼を追い払う。となる筈だったのだが……、ガトリングによる機銃掃射は、連続発生するノック・バックで、鬼達を10m以上も吹っ飛ばしていた。
そうこうしている内、最初こそ一矢報いようと果敢に向かって来た鬼達が、心を折られたか、1人2人と、次第に数を減らしていった。
「なんだ、もう終わりか。他愛も無い」
などと言うシモヘイであったが、正直言って、そのガトリング・ガンの性能のおかげで勝ったのだと言う事を忘れるな! と突っ込みたいところである。……で、なんでそれを誰も突っ込まないのか、と言うと、
「ぜぇ……ぜぇ……」
「…は…ぁ……は…ひ…ゅ……」
シモヘイが気分良く掃射をしている間、ディアス達も当然の様に働いていたのだ。
正面の通路は掃射の所為でほぼ突破不可能。ならば遮蔽物を利用し回り込もうとする輩を迎え撃つべく、あちこち走り回っていた所為で、ディアス達は息も切れ切れに、疲弊していた。ツッコミを入れる気力も無い程に。
むしろ正面の鬼は、この回り込んでの奇襲のための囮であり、だからこそ撃たれても撃たれても粘っていたのであったが。
「……ふぅ……やっと、一息吐けるな」
「そう…じゃのぅ……。あれだけやっとけば、当面、ここに近寄ろうとは思うまいよ」
「俺としちゃ、些か撃ち足りないけどな。やっぱ、良いよな。ガトリング・ガン!」
シモヘイのその台詞に、ディアスが少しばかりムスッ、とする。
「シモヘイ。そいつの正式名称は『マメバルカン』だ」
「それは、ダサいからちょっと……、ヤマカンの厨二センスで良いから、何かハッタリの効く名前無いか?」
「ダ、ダサ……って、おい!」
「そうじゃのぅ……。無難に『魔を滅する物』でどうじゃ?」
「それが無難なのかよ」
「『魔を滅する』と書いて、『魔滅』と言う説もある位じゃしのぅ」
「…………」
「まぁ、ディアスをからかうのもこれ位にして」
と、ネーミング・センスを詰られ、おまけに無視され。床に『の』の字を書き始めたディアスを横目に、シモヘイは話題を戻す。
「連中は主戦力じゃ無かったみたいだから、次来るのはもっとキツくなると思うんだが」
「……武器が武器だったし、異論は無いが……」
なにせ、彼等が持っていた武器は、鍬に鎌、ちょっとマシなところで、鉈に斧、と言った物ばかりだ。おかげで、鬼が攻めて来た、と言うより、百姓一揆にしか見えなかったが。
つまりは、『金属製の近接戦武器』に該当する相応の武器を用意出来ない程度に、戦闘系のアビリティに通じていないヤツ等ばかりだった。と言える。
「妥当に考えて、戦力評価用の捨て駒、ってとこだな」
「しかし、ディアスよ。タゴサク等はその『捨て駒』にやられたみたいじゃぞ」
しばらく前、あっちのエリアから争ってる気配が無くなったんじゃが……。とヤマカンは言う。
「あ、あ~。途中で敵が増えた気がしたのは、そのためか……」
やられても《死に戻り》ポイントからリスタート出来るので、ゲーム・オーバーとはならないが、戻って来るまで時間が掛かるし、何よりデスペナはスコアの減少である。こんな序盤から《死に戻り》している様では、優勝争いから外れた。と言わざるを得ない。
「俺達かタゴサク達か、どっちかが優勝賞品手に入れられれば山分け、とか思ったが、あっちはアテに出来そうに無いな」
「そんな取引があったのかよ……。優勝賞品って、そんなに欲しいモンなのか?」
「さっき、イベント開始時に配信されたインフォに書いてあるだろ。『お米3俵』だ」
「より正確には、量は減るけど3位まではもらえるぞい」
「何か……、益々田舎のイベント染みてるな。米がありがたいのは解るが、そんなに食いたかったのか?」
そんなシモヘイの様子に、ディアス達は溜息とともに頭を振る。こいつ、解ってねぇ。と言わんばかりの態度だ。
「良く見ろ。銘柄が『黒毛』と『坊主』だぞ」
「……?」
「まだ解らん様じゃな。今までの『白髭』と『赤毛』より、更に北海道向けに改良された品種、と言えば解るか?」
「つまり、食べるんじゃなくて、田圃に撒くつもりか」
そこまで聞けば、専門外の事とは言え、シモヘイにも納得が出来る。米作りがまた1歩前進する訳だ。
だからこそ、『マメバルカン』何てアホなガトリング・ガンをでっち上げてまで、本気で優勝目指したんだろうなぁ……。と、そこまで考えて、シモヘイはおかしな事に気付く。
節分イベントが始まる前には、『豪華賞品』としか知らされていなかった筈だ。
「……お前等、何で事前に賞品の内容知ってたんだ?」
びくっ!
その反応だけで、図星だと確信するシモヘイ。
「まぁ、隠す程の事では無いか。この間から札幌の方とのパイプが太くなったんで、ちょくちょく物資の遣り取りしてたんだが、その時、お前の知り合いの料理人、ヤナギバさんのとこでなぁ……」
「スザンナが、札幌の発展が偏っとる所為で、米の品種改良のフラグが立たん。とかぼやいとってのぅ……」
中山久蔵が入植したのが札幌だったしのぅ。と、ヤマカンは言うが、シモヘイからすれば、誰だっけ、それ? である。
「挙句、酒飲みながら愚痴に付き合ってやってたら、テコ入れでイベント賞品の形で開放される、って洩らしてな」
「……大丈夫か、アイツ……」
酔った勢いで情報漏洩するNPCて。と、シモヘイはスザンナが処分されやしないだろうか? 少し心配になった。
「……お喋りの時間はここまでの様じゃな」
ヤマカンは、よっこいせい、と立ち上がる。
まだ遠いが、通路の向こう側から5人程のプレイヤーがやって来る。
「シモヘイ。随分と派手にやっている様だな! だが、俺が来たからにはそうはいかん! 仲間だからと言って、手加減なんかせんぞ!」
「……ありゃ、バロウズか」
良く見れば、全員猟師。当のバロウズはソロ・プレイヤーだった筈なので、鬼側に付いた猟師プレイヤーを集め、臨時パーティーでも組んだのだろう。
バロウズはこの辺りの猟師プレイヤーの代表、と言う肩書きもあるので、取りまとめは簡単だったろう。
「何で角なんて生やしてるんだ? お前……」
「これか? 勿論、装飾用のアイテムだ。参加賞みたいなモンだと」
さっきまでは片っ端から撃ちまくる事に集中していたため、鬼達に角が付いている事に、シモヘイは気付いていなかった様だ。
それより気になるのは、鬼達は全員、銃を装備している様に見えるのだが……
「総員、構え!」
「え?」
予想外の事に反応が遅れた、と言うよりは、まだ『マメバルカン』の射程外。鬼は近接武器のみのルールのため、油断しきっていた。
「撃てぇぇぇぇぇっ!」
パパパンッ!
「うおぅっ!?」
3人共、咄嗟に近くの棚の影に飛び込んだ。
「鬼が飛び道具使うなんて、ルール違反じゃねぇのかっ!?」
そこら辺の木材や棚に、びすびす、と弾痕が刻まれる中、シモヘイが抗議の声を上げる。
「……チッ、そう言う事か。ダメージ判定は無いが、使えない訳じゃ無いんだ」
「何じゃ、それなら! がふっ!?」
迂闊に飛び出したヤマカンが、銃弾をモロに喰らって吹っ飛んだ。
「……見ての通り、ノック・バックは有効だ。近接戦を仕掛けるための牽制としては、十分過ぎる」
「良くも、そんなルールの穴を……」
とシモヘイは呆れつつも感心したものの、近接戦技能を熟練してる猟師、って居たっけ? と疑問も湧いて来た。それに答えた訳では無かろうが、
「総員、着剣!」
「……え?」
「突撃ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
【銃器】アビリティ、隠しスキル【銃剣術】。
シモヘイが驚いた様に、『銃剣』何てアイテムがある事を、一般的な猟師プレイヤーは知らない。どうやってそこに辿り着いたのだろうか。
「おのれっ! 恩を仇で返しおって!」
と、ヤマカンが怒鳴りつつ起き上がった。台詞から察するに、『銃剣』はヤマカンが作ってやった様である。
「こうなったら、奥の手じゃ!」
「まだ開始から1時間経ってないのに、もう奥の手かよ……」
「ツッコミうるさい!」
ヤマカンはアイテム・バッグから、以前も使った事のある、蒸気圧で空飛ぶアイテム、『天空にある希望』を取り出した。
これは、推進剤たる水の搭載量が少なく、飛べはするものの極短時間しか持たない欠陥品だが、今回は簡易改造されている様で、その噴射ノズルの先も配管が続き、束ねられたパイプの後ろへと接続されている。その束ねられたパイプは、ロケット・ランチャーに見えなくも無い。ならば、その通りなのだろう。
ヤマカンはそれを背負い込むと、棚の影から出、矢面に立った。
「ファイアァァァァァッ!」
だから、蒸気圧なんだからファイアじゃねぇだろ。と突っ込む間も無く、ヤマカンがレバーを握りこむと同時に、
ボボボボボボボスンッ!
と、連続してパイプから豆を糊で固めた大玉が飛び出した。
それを喰らって吹っ飛ぶ猟師達。それを発射した反動で後ろに吹っ飛ぶヤマカン。
「お、……おのれ、……ぐふっ」
バロウズはダメージのあまり、地に伏した。
豆をぶつけても、豆をぶつけた程度のダメージしか入らない。故に、鬼を倒すのは事実上無理だった筈なのだが、豆を固めて丈夫に、大型化・大重量化し、それを高速で射ち出す事で、野球のデッド・ボール程度のダメージを実現していた。これも、ルールの隙を突いた手段と言える。
「相手が悪かった、と思って諦めな」
と、ディアスは銃剣付き38式歩兵銃を没収し、彼等の攻撃手段を封じていた。
「ま、まだだ……。先生、お願いします……がくっ……」
口でがくっ、とか言うところを見ると、まだ余力を残していそうだが、だからと言って、バロウズを警戒する余裕はディアス達には無くなっていた。
ギュイィィィィィィィィィィンッ!
木材が棚ごと両断され、大鋸屑が舞う。その程度、何の抵抗も無かったかの様に、両断した隙間から飛び込んで来たヤツの勢いは止まらない。
「チッ!」
1番近くに居たためか、それとも最大の脅威と判断されたか。シモヘイが真っ先に狙われた。
シモヘイはその斬撃を、咄嗟に『マメバルカン』で受ける。
ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!
「なっ!?」
金属同士の擦れ合う音は一向に止まない。
鬼の得物に設えられた無限軌道。そこに並ぶブレード・チップが絶えず切り付け続けているからだ。
そこにディアスが横合いから豆を投げ付ける。鬼はノック・バックに逆らう事無く飛び退き、間合いを取る。
「あれは……チェーン・ソー……」
バロウズに、先生と呼ばれた鬼が手にしているのは、正にチェーン・ソーであった。
ゲーム開始間もない頃、一時期掲示板を賑わせながら、あっと言う間に立ち消えた幻のアイテム。目の前にあるのがそれその物なのかは判らないが、
「初めて見た……」
ディアスの眼差しは憧れと感動が入り混じっていた。
「そんな暢気に言ってる場合じゃねぇだろ」
とのシモヘイの危惧も尤もだ。何せ、『マメバルカン』は銃身が2本まで切断され、回転軸にも歪みが出て、使い物にならなくなっていた。
「この辺にヤマカンのパーティーが居る、って聞いたんだが、お前がヤマカンか?」
「いや、ヤマカンはあっちだが……」
と、問われたディアスは、吹っ飛んで木材に埋もれたままになっているヤマカンの方を指差した。
「なんじゃい。ワシの客か」
ガラ、と木材を押しのけ、ヤマカンが顔を出す。
「そっちか。では……、死んでもらう」
「何でじゃっ!?」
「俺は鴻之舞の連中に代わって、怨念返しをするだけなんだ」
「鴻之舞からの刺客じゃと!?」
馬鹿なっ! あそこにも詫びを入れて和解した筈……。と、うろたえるヤマカン。
「ヤマカンっ! 落ち着け」
ディアスが間に割って入り、立ち塞がる。その手には『森林喰らい』を装備。例によってダメージを与える事は出来ないが、相手の攻撃を防ぐのには使える。
「『マメバルカン』の修理を急げ! シモヘイはヤマカンのカバーだ!」
手早く指示を出しつつ、ディアスは油断無く相手を見据え、構えを取る。
「ほぅ……。変わった武器を持ってるな」
「蒸気駆動式鋸鉈、『森林喰らい』だ。そっちこそ、音に聞こえしチェーン・ソーとはな。しかもその駆動音……、電動機か」
「ああ。我が1haボーナス、『電動機の基礎知識』より産み落とされた、無限連接電動刃、『不滅の刃』だ。そこを退いてもらおうか」
その厨二な武器紹介に、ヤマカンの同類だぁぁぁぁぁっ! と叫びそうになったシモヘイだったが、何とか堪えた。……別に堪える必要無かった気もする。
「リーダーとしては、黙ってやらせる訳には行かん。先ずは俺が相手だ。俺はディアス。武器の名だけ紹介して、自分の名を名乗らないのも変だろう。お前は?」
「それもそうだな。俺はマゼランだ」
2人はフッと、何やら通じ合った様に笑みを浮かべた。
「なぁ、ヤマカン。ディアスのヤツどうしちまったんだ?」
かつてあれだけ欲しがったチェーン・ソーが目の前にある所為で、何処か様子がおかしくなってる、とまではシモヘイにも理解出来たが、何なんだろう、このノリは?
「ん? ああ。互いの名に思うところがあるんじゃろ」
要するに、同類じゃ。と端的に説明するヤマカン。
「名前? ……ああ」
シモヘイも理解したか、ポン、と手を打つ。
「ガ○ダム繋がりか」
「違わいっ!」
「どっちも冒険家の名前だよっ!」
双方からシモヘイにツッコミを入れる。……気を取り直して、仕切り直し。
「とにかく、俺が勝ったらヤマカンの首はもらう」
「なら、俺が勝ったら、お前の1haボーナスをもらおう」
「……良いのか? 勝手に賭けの対象にされてるが」
「構わんじゃろ。どうせ死んでも、デスペナ付いて《死に戻り》するだけじゃし」
「じゃあ、アカウント賭けて」
「そりゃ酷い!」
勿論、冗談である。アカウントを賭けたりしたら、運営に怒られる。
かくして、戦いは始まった。
グギャガギャギャガガガガギャグガギガギギャッ!
『森林喰らい』と『不滅の刃』。2つの刃が打ち合わされる度、火花が飛び散り、異音を撒き散らす。
この時既に、ディアスの頭の中からは当初の目的、上位入賞して米Get! は消え去っていた。
シモヘイとヤマカンで可能な限りフォローしたものの、エリア確保そっちのけでマゼランとの戦いに興じていたディアスは、結局ダイブ・アウトギリギリまで戦い続け、翌日もイベントに身が入らず。
結果……、上位入賞は逃しました。
目標を決めたら、そこに向かう優先順位を定め、脇道に逸れない様にしましょう。
特に、リーダーがぶれると計画が破綻します。気を付けましょう。
「だが、チェーン・ソーが手に入ったんで、後悔はしていない!」
「しろよ!」
余談ですが、優勝は鬼側、最多撃破数を誇ったウナルルが持って行ったので、借金チャラと引き換えに米を分けてもらいました。




