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TONDEN FARMER  作者: 800
第1章 北海道開拓編
25/45

リサイクルはじめるべき

「ふむ……」


 ヤマカンは、そろそろ困った事になって来た『工房』の惨状に、その現実とは不釣合いな軽い反応を示した。

 片付けの出来ない人間は、片付いていない事によるデメリットを理解出来ないからだと言う。正にその通りの反応であると言えた。


 かつての釧路(くしろ)にあった家もかなり散らかっていたが、今のはそれに輪を掛けて酷い。

 設備が良くなった事と、ディアスとの共同開発で、以前とは比較にならない程、生産ペースが向上したのが原因だ。

 それと、本当にどう仕様も無くなったら、《廃棄》でアイテムを消滅させられるので、ガラクタが増えて行く事に危機感を持っていなかったのも原因の1つと言える。


「……この辺の試作品は……、使用履歴が全く無いのぅ……」


 使いもせず放って置かれていたガラクタの1つを持ち上げ、何で作ったんじゃったかのぅ? と首を傾げるヤマカン。

 そんな思い出せもしないゴミ同然の物が転がっている辺り、流石に整理整頓はするべきだろう、とは自覚するも、……少し考えた末、


「まぁ……、明日やれば良いか」


 と、何時まで経っても実行に移さない、定番の言い訳をし、ヤマカンは手にしたガラクタを適当にそこら辺に放る。

 態々口に出して言い訳するところは、ある意味、解ってて現実逃避しようとしている。とも言えた。

 実際、管理が適当過ぎて、既に使い物にならない位、錆びたり腐食したりしている物もあり、面白半分に作りっ放しにしていた物がこれ程あったか。とヤマカン自身、内心驚いていたりする。一応、普段使う物なら、ちゃんと手入れしているのだが。

 そして、ハッキリ言って『破損』判定になっているアイテム類も、修理してまた使うかも? とか考えると、やはり軽々しく《廃棄》出来ないヤマカンであった。

 この辺も、優柔不断で物を捨てられないが故に片付かない、典型的な片付けの出来ないパターンに嵌っている。


「『下手な考え、休むに似たり』とも言うしのぅ。明日、と決めた以上、今日はのんびりと対策を考えるかのぅ」


 と、自分に言い聞かせる様に独り言を呟き、ヤマカンはダイブ・アウトした。




「と言う訳で、リサイクルを始めようと思うんじゃよ!」

「……は?」


 唐突なヤマカンの台詞に、ディアスは草鞋(わらじ)を編んでいた手を止めた。

 と言う訳で、と言うが、実際には何も言っていない。ヤマカンが何を自己完結したのかは知らないが、もう少しちゃんとした説明が欲しいものだ。とディアスは自分も時々唐突に企画を立ち上げるのを棚に上げ、面倒臭そうなのを悟らせない様にしつつ、続きを促した。


「それで、何をリサイクルするんだ? 合成樹脂(プラスチック)の類はそんなに出回ってない筈だし……?」

「金属類に決まっとろうが。特に貴金属(レア・メタル)何ぞ含有する物は、間違って《廃棄》せん様に気を付けんとな」


 ディアスが真っ先に合成樹脂(プラスチック)を思い浮かべたのは、リアルではリサイクルと言えば合成樹脂(プラスチック)だからだ。何故なら、ヤマカンの言った様な金属類は、リサイクル技術が当たり前の様に浸透し、特に気にしなくても普通にリサイクルされているためである。


「それに、考えてもみんかい。このゲームでは、地下資源も有限じゃろ? 好き放題使ってれば、何時か痛い目を見る気がせんか?」

「普通に考えれば……、幾ら1/6スケールで、資源も有限設定とは言え、消費する人間自体が相当少ないから、サービス終了まででも尽きる事は無い、とは思うが……」


 だがなぁ……、とディアスはそんな真っ当な計算より、何となく嫌な予感がする。


「国の監修が入ってるからなぁ。『資源を大切にね!』的な仕掛けがあってもおかしくない、か……」

「そうじゃろう。リサイクルによって、何かフラグが立ちそうな気がするんじゃよ」


 と、実際にヤマカンから簡単な説明を聞いてみれば、そんなに突拍子も無い話では無い。

 手に入り易い鉄位ならともかく、貴金属(レア・メタル)の類は資源枯渇の心配の他、一部プレイヤーによる鉱山独占の恐れも無い訳では無い。

 それに、鉱山まで掘りに行く手間を考えれば、使わなくなった道具を溶かして再利用、と言うのはむしろアリだろう。

 と、そこまで考えたディアスは、他にもリサイクルやってるプレイヤーに思い当たる。


「そう言えば、ハリマオなんかも、『石英掘るより楽』って空き瓶回収してたっけなぁ」


 更に言えば、NPC売りの瓶詰めの保存食等があるため、《廃棄》していなければ各パーティーはそれなりの量の空き瓶を抱えている筈だ。そして、空き瓶はNPCに買い取ってもらえるため、よほど特別な事情でも無ければ、《廃棄》するプレイヤーも居ない。

 つまりは、僅かばかり買い取り価格に色をつければ、ガラスの材料が簡単に手に入る訳だ。


「むぅ……、流石ハリマオじゃな。もうやっておったか。ここは波に乗り遅れんようにせんと」

「いや、それは良いんだが、態々俺に言いに来る程の事か? 特別に新しい道具が必要になる事でも無いし、好きにやればいいだろ?」

「まぁ、新しい事する際には、一応リーダーに確認取っとくのがマナーじゃろ? ついでに、要らなくなった古道具は無いかのぅ?」


 ディアスのプレイ・スタイルからすれば、大工道具の消耗は激しそうだし、実験的な開発も良くやってるので、ボツになった試作品、も少なくないだろう。


「そりゃ、ある事には、あるなぁ……」


 道具は消耗品であり、壊れた道具は当然それなりの量が溜まっている。また、壊れていなくても、新しい、より良い道具を作って交換する場合も多く、そう言った古道具が無い方がおかしい、とも言えた。

 何で溜め込んでいるのか、と聞かれれば、その内鋳潰してインゴットにしてしまおうかと……

 と、そこまで考えたディアスは、あれ? と首を傾げた。


「なぁ、その『リサイクル』って発想は、何処から出てきたんだ?」


 よくよく考えてみれば、リアルならリサイクルにはそれなりの苦労があるだろうが、ゲーム内では【製鉄】アビリティを使う際、その素材が『鉄鉱石』だろうが、『砂鉄』だろうが、『壊れた鉄製品』だろうが、大差無い。

 それに、今までのゲームでも、不要なアイテムを分解して、素材に還元する、と言うのは良くある事だ。それで全ての素材が戻って来る訳では無いが、剣とかを溶かしてインゴットにする位は、大概のゲームで出来た事だ。

 となれば、そんな有り触れた事を、態々『リサイクル』と呼ぶ、のはちょっと微妙なんじゃないか、と……

 ディアスは、その様な事をヤマカンに言ってみたのだが、


「……何となく? リサイクル、と言っとった方が、良い事してる気になるじゃろ?」

「気分かっ! ……まぁ、呼び方はどうあれ、おかしな事する訳じゃ無いし。納屋に置いてあるヤツで、『不要』タグの付いてるのは持って行って良いぞ」

「それじゃ、早速……」

「その前に、兄さんはちゃんと掃除をしてください」

「ぬをぅっ!?」


 何時の間に来ていたのか。背後に立っていたドロレスに、大げさに驚くヤマカン。

 ドロレスはそんなヤマカンを放って置いて、ディアスに『ご無沙汰してます』とか丁寧に挨拶していたりする。


「……妹よ、ゲーム中にリアルの話を持ち込むなぞ、無粋じゃよ」

「いいえ。リアルの部屋は、受験勉強の忙しさで大掃除をサボった割には……、一応片付いているので良しとします。ですが、さっき兄さんの『工房』を覗いて来ましたが、あれは酷すぎます」


 こんな事だろうと、見に来て正解でした。と、ドロレスはウンザリして、兄さんが片づけが出来ないのは何時もの事ですが……、と頭を振る。


「ディアスさんも、兄さんが迷惑掛けてる事でしょう?」

「いや、『工房』はヤマカンのスペースだから、どう使おうがこっちは構わないが……」

「とにかく、私も手伝いますから、せめて足の踏み場位は確保しましょう。今後も時々チェックしに来ますよ」

「ゲームでもかっ! そう言うのは、リアルだけにして欲しいんじゃよ……」


 甲斐甲斐しく兄の部屋の掃除を手伝う妹。それ、何て幻想(ファンタジー)? と驚愕に目を見開くディアス。ツッコミたいものの、信じがたい物を見た所為で、口をパクパクさせる事しか出来ない。


「それに、言われんでも、今からガラクタをリサイクルしようとしてたところ何じゃが……」

「リサイクル……? ああ。さっきテレビで『都市鉱山』の話を見てましたね。それで、ですか」


 ドロレスは呆れつつも納得すると、


「もう、リサイクルでも何でも良いですから。不用品は片っ端から処分しますよ」


 と、ヤマカンを引き摺って『工房』の方へと歩いて行った。


「…………」


 その様子を無言で見送っていたディアスであったが、ふと、考える。

 テレビの影響で。と言う切っ掛けはともかく、方向性は間違っていない。そして、テレビで『都市鉱山』ネタが良くやっている、と言う事は、それだけ国がその方針を推している、と言う事でもある。

 となれば、国の監修が入っている初期FDゲーム群では、その影響が無いと言い切る事は出来ないだろう。


「1度、リサイクルについて調べて置く必要が、あるか?」


 と、自問するディアス。しばし考えた後、気になる事はチェックすべきだ。と言う結論に至り、早速動こうとして……


「まだ、草鞋編みが途中だった、か」


 1つの事に集中すると他を忘れるのは、ディアスの悪い癖である。




「リサイクル……、ねぇ……」


 リサイクルやってて、何か良い事あったっけ? と、ハリマオは腕を組んで考え込んだ。


 ディアスはハリマオのガラス工房に来ていた。

 ハリマオはかなり前からガラス瓶を回収・再生していたので、リサイクルに関して何らかのシステム的なメリットがあるなら、その恩恵を1番受けていそう。と言う訳で、その辺の事を聞きに来たのであった。

 ハリマオの反応からして、どうやら微妙そうだが。


「うーん……、読みが外れたか。リサイクル・ボーナス的な物があるかと思ったが……」

「ちょっと、そう言うのは心当たり無いなぁ……」


 ディアスは、態々調べる程の事では無かったか、と、リサイクルに過度な期待を抱いていた分、反動で何かどうでも良くなって来た。


「強いて言うなら、NPCに売る時、優先して買い取ってくれる、って話があった位か。だが、今のところ競争相手が居ないんで、そのメリットは実感出来ないなぁ」

「そんなモンか。それなら、無理してリサイクルに拘る必要は無さそうだな」


 リサイクルを推奨する、と言うにはちょっと弱い優遇だが、無いよりマシか。と結論付けるディアス。

 そもそも、明治頃の日本では、物を大切に使うのがあたりまえ。駄目になったからと言って、あっさり買い換えられる訳でも無い。そう考えれば、リサイクルをした位で何かボーナスが付く、との考えは甘過ぎたのだろう。


「まぁ、ガラスの場合はリサイクルした方が都合が良い、って事で始めたんだし。システム的なメリット、何て考えてなかったからなぁ……。役に立てなくてすまねぇな」

「いや、念のために調べてみよう、と思っただけだから。こっちも、適当なネタ見付けてリサイクル始めてみるさ」


 ディアスは、積極的にリサイクルしよう。と言う意思こそ薄れたものの、リサイクルその物を否定するつもりまでは無い。


「適当なネタ、ね。錆びた農具とかを、熔かして打ち直すか?」

「そう言うのはヤマカンがやる予定だ。俺は……、何しようか?」


 今まで特にリサイクルを意識した事が無いとは言え、ディアスも態と資源を無駄にして来た訳では無い。

 例えば、森の手入れのために枝打ちしたり、老木を切り倒したりした物は、木材として有効活用しているし、農作物の食べない部分、野菜の皮とかは、腐らせて堆肥として使っていたりする。

 これらも、リサイクルの一種、と言えない事も無いだろう。その所為で、新たに何かリサイクルしようとすると、ネタが全然思い付かなくなってしまった訳だが。


「ここで考える事でも無いか。家に帰ってから考えよう」


 と、ディアスは用事も済んだので帰ろうとしたところへ、


「ディアス様。よろしければ、少々お時間をいただけないでしょうか?」


 話の邪魔にならないよう扉の外に控えていたハリマオの弟子が、終わるタイミングを見計らって声を掛ける。

 彼女は名をハイサムと言い、ショートカットの髪型に、ホッソリしていて出るとこも出ていない体型。基本的に女性の色気を匂わせるパーツを使っていない所為か、美人であるのに印象に残り難い。髪はガラスをイメージしたカラーリングで、薄く緑がかった銀髪。奇しくももう1人の弟子であるアサツユと同じである。おかげで、姉妹キャラの地味な方とか貧乳の方、的な扱いを受けていたりする。


 しかし、1つだけ、特徴的な部分がある。

 眼鏡だ。視力矯正手術がお手軽に出来る現在、リアルでも眼鏡は珍しい。最近ではファッションとしても見かけなくなりつつあり、作業の都合上、目を保護するためのアイ・ウェアの類しか残っていない。

 ちなみに、ディアスは今までに他の眼鏡キャラは、函館(はこだて)のエチゴヤ位しか会った事が無い。彼の眼鏡はファッション用の伊達眼鏡だったが。

 ハイサムは眼鏡萌えで、そのため全くと言って良い程需要の無い眼鏡を作ろうと、誰にも見向きもされない努力を積み重ね、野垂れ死に掛けた変わり者である。普通にガラス細工をやってるアサツユとは偉い違いである。

 特にゲーム内では、視力の補正など幾らでも出来るので、態々眼鏡にレンズを入れ様とするのは、無駄な努力と言われても仕方無いのだろう。

 その所為かハイサムは、レンズ開発に唯一理解を示し、投資してくれるディアスを様付けで呼んでいる。


「ご依頼の品、ようやく実用化に成功いたしました」

「おぉっ!? 出来たのか、『双眼鏡』!」


 ガタッ! と立ち上がり、身を乗り出すディアス。この時既に、ディアスの頭の中からリサイクルの事は綺麗さっぱり消えていた。

 ディアスは長らく待ち望んだ双眼鏡を受け取ると、ほほぅ……! と感心しながら弄っている。


 一応、測量とかの関係で、NPC売りの『望遠鏡』や『双眼鏡』ならある。しかし、プレイヤー・メイドは無かったのだ。

 リアル歴史では、19世紀から20世紀に掛けて、双眼鏡の構造は大体出揃ったと言う事なので、『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』内でも図面の入手は難しくない。

 しかし、作製に必要な、レンズやプリズムを正確に作るための研磨技術が、どうやったら実現出来るのか、良く分かっていない。これは、それだけレンズとかの需要が無く、NPC売りの品質で十分。と言う良くある事が原因で、誰も真剣に熟練しようとしなかったため、であった。

 ちなみに、ヤマカンが以前に銃のスコープに使っていたのも、NPC売りの『望遠鏡』を改造した物である。


 そんな事情もあり、冒険のため、と称してコンパクトで高倍率の双眼鏡を欲していたディアスが、何とか作れないか、と今までハリマオの工房に投資して来たのだが、それがようやく実ったのだった。

 尤も、ハリマオはレンズ関係はほぼノー・タッチなので、弟子のハイサムに直接投資している様な物だったが。


「どう、でしょうか?」

「ああ。この倍率でも視界の歪みも無い。流石、唯一の『レンズ職人』だ!」


 と、窓の外の景色を、双眼鏡を用いて眺めたディアスは絶賛する。実際、この双眼鏡はディアスの設計だが、それを実現出来るレベルの精密研磨は、ハイサムだけしか持っていない。

 図面を正確に引けるが、生産能力が追い付いてないディアスにとって、こう言う精密加工の出来る職人は非常に重宝する。莫大な投資をしてでも育てる価値があるのだ。


「……よかった」


 その高評価に、ハイサムはホッと胸を撫で下ろす。

 その安堵は、スポンサーの期待に応えられた、と言うよりも、プレゼントを喜んでもらえた乙女の反応だ。

 ハイサムはそれだけディアスに好意を持っており、過去に、


「お揃いの眼鏡を掛けてください!」


 などと、彼女なりの精一杯の口説き文句を言っていたりするのだが、それでディアスが引いたのは言うまでも無い。


 ディアスは一通り窓から見える景色を眺めた後、もっと色々試してみたくなった様で、


「じゃあ、とりあえずこれは買ってくよ。ハイサム、今後も色々注文すると思うから、よろしくな」


 と、予め約束していた代金を支払うと、ガラス工房を飛び出そうとする。


「あ……、ディアス様。お出かけになるのでしたら、これを……」


 と、ハイサムは『サングラス』をディアスへと渡す。このサングラス、ハイサムの掛けている眼鏡とお揃いのフレーム・デザインになっている。


「雪目にならない様、目を労わってください」

「え? 今までなった事無いけど、ゲームでも雪目って再現されてるのか?」

「リアルの病状を再現している訳では無い様ですが、雪の中に長時間いると、視力にマイナス補正が付くのはホントの事らしいです」

「そうか……。ありがたく受け取っとく」


 と言って、ディアスは受け取ったサングラスを掛けてみる。顔に良くフィットし、付け心地は抜群と言える。流石眼鏡のプロフェッショナル、ハイサムの作品だけの事はある。……やけにフィットし過ぎて、ちょっと気味悪かったりするが。


「良くお似合いです!」


 と、ハイサムは凄く嬉しそう。

 それを横から見ていたハリマオの感想としては、……微妙。田舎(いなか)農民の衣装にサングラスは、どう見ても似合わないだろう。

 しかし、これで特徴の無いディアスのアバターに特徴が出来た、とも言え、ようやくキャラが立ったのはアリかも知れない。

 なので、ハリマオも、グッ! と親指を立てて(サムズ・アップ)、肯定の意を示した。




 ハリマオのガラス工房を後にし、ディアスは山に登っていた。双眼鏡の出来を試すため、高所から十勝(とかち)平野を見下ろそう、と言うのである。


「これは、思ったより良い出来だな」


 と、満足気に呟くディアス。視界に表示される目盛りが【測量】スキルの助けとなり、地図が更新されて行く。

 その成果に酔いしれ、時の経つのを忘れそうになるディアスであったが、程々にして山を降りるべきだろう。


 タァァァァーーーーーン…………


 さっきから、時々銃声が響いている。猟師達が、冬眠前の栄養を溜め込んだ獲物を狙っているのだ。

 PvPモードになっていなければダメージは受けないので、流れ弾は怖くない。しかし、猟師達が狙っている様な、熊とかがその辺をうろついている訳で、それらと遭遇する危険もあるのだ。

 時期的には今年度最後の大規模な狩り、と言う事で、シモヘイも参加している。本人は、『寒いのは嫌でござる。行きたくないでござる!』とか駄々を捏ねていたが、猟師仲間の付き合いがあるので断れなかったらしい。


「お……、ディアス、か?」


 と、そこへ遣って来たシモヘイと遭遇。シモヘイは狩猟区域に入り込んだ一般人に、流れ弾などの迷惑を掛けない様、マナーとして注意を促しに来たのだが。


「何で疑問形だよ」

「いや、何かヘンな物で顔を隠してるから……」

「ヘンな物、って……」


 ハリマオとハイサムに煽てられた事もあって、サングラスを結構気に入っていたディアスであったが、このシモヘイの言い様にちょっと落ち込む。


「まぁ、それはともかく、こんな所で何してるんだ?」


 とのシモヘイの誰何に、ディアスは、フッフッフ。と不気味な笑みを零すと、


「これを見よ! ついに完成したのだ!」

「あぁー、双眼鏡か。そう言や、欲しがってたもんなぁ……」


 と、自慢げに双眼鏡を見せびらかすも、シモヘイの反応は薄い。世間一般の反応がこんなだから、レンズ職人が育たないのである。……ただでさえ、そんなニッチな職に就こう、と言うプレイヤーは居ないのだし。

 シモヘイも初期の頃は、獲物を探すのにNPC売りの双眼鏡を使っていたのだが、【狩猟】アビリティ等の視力補正の効果もあり、次第に必要なくなって来たのだ。となれば、かなりデカイ双眼鏡を持ち歩かなくなるのは当然であった。

 そんな訳で、ディアスとシモヘイの間の温度差も、仕方の無い事だった。


「そんな事より、まだこの辺にいるつもりなら、流れ弾に注意してくれ。……まぁ、大体狩り終わってるんで、あまり心配する必要は無さそうだが」


 と、シモヘイは型通りの台詞を、一応言っておく。

 当のディアスは、そんな事、呼ばわりされた……、と落ち込んでおり、それ以降の台詞は耳に入っていなかった。


「あ、ついでに、獲物の回収、手伝ってくれねぇか? 俺、熊と猪を1頭づつ仕留めたんで、1人じゃ持ち運びが面倒で」

「……分かった」


 ディアスは、どの道そろそろ帰ろうか、と思っていたのだ。そのついでに獲物を運ぶ位、どうと言う程の事では無い。幸い、アイテム・バッグの余裕はそこそこある。

 シモヘイは他の猟師仲間に《通信》で先に上がらせてもらう、と別れを告げ、獲物を回収して家路に着いた。

 アイテム・バッグの容量はステータス依存なので、廃人クラスなら、この程度1人で持ち運べるんだろうな。などと、2人で話しつつ、手近な『転移室』へ。


 家に帰り、早速解体に入るのだが、その辺はディアスは熟練が足りないので、代わりにジェーンを呼んで手伝ってもらう。出来ない事は無いのだが、処理の上手さは味に係わってくるので、出来るだけ上手いヤツがやった方が良い。一応ディアスも問題無い範囲で手伝うのだが。


「あ、そうだ。ジェーン。弾丸(たま)取り出したら、捨てないで取っといてくれ。再利用するかも知れないから」

「そうなの? ……あ、でも、潰れてるけど、良いの?」


 と、ジェーンは頭蓋骨を撃ち抜いたためか、先端が少し潰れた38式の弾丸を渡す。

 ちなみに、シモヘイはFPSの影響で、ヘッド・ショットをしたがる。基本的に『TONDEN FARMER』でもヘッド・ショットは有効だが、用途によっては頭部に傷が無い方が良かったりするので、ちょっと困る事もある。


「あー、こりゃ、熔かして作り直した方が良いか」

「シモヘイ、それはどう言う事だ?」


 不思議に思ったディアスが問いただす。

 弾丸をプレイヤー自身で作製するのは、手間が掛かり過ぎて割に合わない。と言う事で、NPC売りのを購入する事を選択した筈だったのだ。


「何つぅか、最近、弾薬の値段が高くなって来てるんだよ」


 理由は良く分からんが、何かのフラグが立ったんじゃないか? と言うシモヘイ。

 しかも、一時的な物ではなく、今もなお少しずつではあるが、上がり続けているらしい。

 とは言え、アサルト・ライフル用に大量に買い溜めているシモヘイには、まだそんなに影響の無い話であるのだが。


「バロウズなんかは、開拓が進んだ所為で、開拓に投資した分を回収に入ったんじゃないか? とか言ってるんだが」

「まぁ、ありえない話じゃ無いが……」


 今まで開拓支援を受けていた、と言う事は、投資を受けていたとか、借金していたのに近い。だったら、投資元がその資金を回収するため、物資の値段を吊り上げる事もあるだろう。


「基本的にNPC販売品は、値下げ交渉出来ないしなぁ……。まぁ、それは仕方無いとして、1度使った弾丸(たま)をリサイクルしないといけない程なのか」


 そう言えば、俺もリサイクルで無駄を省こう、とか考えていたんだっけ。と、ディアスは途中からその事を忘れていたのを思い出す。


「38式実包の被甲は白銅で出来てるからな。銅やニッケルの産出量が増えれば、値段が下がるんじゃないか、って意見もあったが……、ほら、例の電気関係の発達で、銅線とかそっち方面に需要が流れちゃって、値上げに拍車が掛かった、っつぅか……」


 これも推測に過ぎないんだが、とシモヘイは言うが、今のところ否定する要素が何も無い。


「じゃあ、俺としてはお手軽に弾丸を作れる、って言うか、再装填(リロード)する道具でも作ってやれば良いか?」

「そんな都合の良いモンがあるんなら、願ったり叶ったりだが……、良いのか?」

「ああ」


 実は、ディアスは以前アサルト・ライフルを設計した際、ついでに銃弾の大量生産まで考えていたのだが、『戦争準備かっ!』と、セルフ・ツッコミを入れてお蔵入りしていた図面が既にあるのだった。


「その辺はヤマカンの都合とも合せなければならないが……、細かい事は明日だな」




 と言う訳で、翌日。


「今週は『リサイクル強化週間』とする!」

「…………」


 ディアスの宣言に、シモヘイ達3人は無言。別に突然おかしな事を言い出したから反応に困っている訳では無い。

 リサイクルネタは、それこそ昨日から言っていた話であるし、ある程度納得済みの事である。

 反応に困ったのは、ディアスの格好であった。

 『田舎農民衣装(冬物)』は何時も通りだから良いとして、問題はサングラスとコーン・パイプである。今更おかしな方向にキャラ作りに走った、と言うか、田舎者が間違ったオシャレに目覚めた、と言うか。どうにもコメントし辛い。


「……ディアス君、……変」

「なぬぅぅぅぅぅっ!?」


 ジェーンのストレートな物言いに、うろたえるディアス。


「何となく、それっぽい雰囲気を出したかったんだが……」

「それっぽい、って、何を目指してるんだよ?」

「いや、ほら。このコーン・パイプで廃材の再利用を象徴してみたり……」


 元々コーン・パイプは、普通のパイプが手に入り難いアメリカの開拓農民が、収穫後の廃材であるとうもろこしの穂軸から自作したのが始まりである。

 だから、開拓者的にも、今回のリサイクル的にも合ってる。……と、言えない事も無い。


「まぁ、タバコが無いのに、パイプだけ銜えてても変。ってのは認めるが……」


 酒があるのに、何でタバコは無いんだ? と突っ込まれる事の多い謎仕様。と言われるが、この辺は多分、生産自体が法律的に制限されているためだろう。

 ディアスの持つこのパイプは、そんな仕様を知る前、折角唐黍(とうきび)があるんだから、と洒落で作ってみた物である。タバコが無い以上、演出用の小物程度の意味しか無く、全然需要が無かったのだが。


「タバコが無ければ、ホウレン草でも突っ込んどけば良かろう」


 と、ヤマカンが良く分からないネタを振る。

 多分、コーン・パイプとホウレン草の組み合わせで、何かマイナーなネタがあるのだろう。とまでは何となく察したディアスであったが、結局元ネタは分からなかった。


「これは、置いとくとして、とりあえず、リサイクルやってみよう。ってだけだ。『週間』と言ったが、それは勢いで言ってみただけで、別に今週丸ごとリサイクルに費やす訳じゃ無い」


 ディアスは先ずはこれな。と、図面を取り出す。『生産設備:銃弾』と書かれたそれは、シモヘイの欲していた物ではあるが、彼の想定より規模が大きく、これの設置には1部屋丸々潰す事になるだろう。


「ヤマカンは昨日の掃除で、不用品を大分インゴット素材に戻したろ。それで、これを作ってくれないか? 勿論、代金はシモヘイ持ちで」

「ふむ……、材料は足りそうじゃから、ワシの方は構わんが、シモヘイはどうなんじゃ?」


 図面を一通りチェックしたヤマカンは、問題無く作れるだろう、と判断すると、金銭的な心配をする。

 シモヘイの方は、図面に併記された費用見積もりを見、難しい顔をしてウンウン唸っている。値上がりした弾薬の価格と、大規模な設備投資、どっちがお得か。銃弾を自家生産したとして、どれ位で元が取れるのか。判断基準が微妙なところと言えた。


「……とにかく、納得行くまで思う存分悩んで決めてくれ」


 これは、放って置くしかない。と判断したディアスは、後はヤマカンに任せて置こう。と、ジェーンの方に向き直った。


「んじゃ、こっちはこっちで話を進めるか」

「ん~、そうは言っても、リサイクルするような物って、何かあったかなぁ?」


 特に何も思い付かないのか、首を傾げるジェーン。


「家畜の糞とか……」

「……それを肥料にしよう、って言うのは解るけど、リサイクルとは違うんじゃ……?」


 しかも、その程度の事は今までもやって来た事だし。とジェーンは、ディアスが何をやりたいのか、益々判断に苦しむ。


「何て言うか、今まではその辺、大雑把にやってたろ。そこのところをもう少し計画的に、無駄が出ない様にやってみよう、ってだけの話なんだが」


 と、ディアスは前置きし、


「昔、家庭から出た生ゴミを堆肥にする、ちょっと変わったゴミバケツがあったんだが……」

「……え!?」


 語られる信じ難い内容に、ジェーンの顔が引き攣った。


「そんな……、誰得なのよ、それ?」

「……さぁ? 家庭菜園やる人向け、なのか?」


 農家だったら、もっと本格的にやる筈だし、どの客層を狙ったのか良く解らん。とディアスも言う。

 昔の田舎とか、悪臭に関する条例が緩い頃なら、存在する余地があったのかも知れないが、今となっては、腐臭を漂わせれば警察がやって来る事請け合いである。ついでに言うなら、害虫の発生源にもなったらしい。

 これらの問題点は、ちゃんとした生ゴミ堆肥化容器(コンポスター)なら発生しないのだが、ちゃんとしてない粗悪品や、素人が見よう見まねでトラブルを起こす、と言った事があったため、次第に下火となって行ったのだった。

 少なくとも現在では、生ゴミの堆肥化施設は地方自治体の管轄であり、一般家庭がそんな物を備えると言うのは、ちょっと理解し難い。


「それは、効率的かつ簡単に堆肥を作る方法を調べる過程で、偶々見つけただけだ。……まぁ、参考にはなったが。……話を戻すぞ」


 要するに、それをやや規模を大きくした物を作ろう。と言いたいのだとは、ジェーンにも解った。


「ただ、料理の際に出た生ゴミならともかく、とうもろこしの芯とか、キャベツの外側の葉っぱとか、家畜の餌にしてる物もあるだろう? だから、全部を堆肥にする訳にも行かないから、調整が必要なんだ」

「なるほどねぇ~。それは解ったけど、結局、何時も通り、ってところに落ち着きそうなんだけど?」


 ジェーンの言う事は尤もである。過去ログを見れば、必要な餌の量などすぐ割り出せるし、今までもそうして、問題無くやって来れたのだ。家畜が増えた訳では無いので、今年も同程度の量を確保しておけば良いだろう。

 万が一、何かミスして足りなくなっても、備蓄の食材は山程あるし、その一部を家畜の餌にする位、どうと言う程の事では無い。


「じゃあ、そっちは何時も通りでやっとくとして、残りは全部堆肥にするか……」


 と、ディアスはその量から、堆肥化施設のサイズを検討する。


「でも、そんなに大量に作って、大丈夫なの?」

「大半は田圃(たんぼ)の土壌改良に使う予定だから、大量に余らせて困る、と言う事は無いとは思うが……」


 え~と、何時もは穴掘って埋めるだけの物も堆肥にするんだから……、と、堆肥の増産量を計算するディアス。それを消費と比較し、


「若干余りそうだが、肥料が足りなくて育ちが悪い、よりは良いか。余った物は売れば良いんだし」


 問題無い。と結論付ける。


「ディアス君。どうせ専用設備作るなら、風車動力とか使って、攪拌を自動でやらせる様にしようよ! 家畜の糞と麦藁を混ぜる作業から開放されれば、随分楽になるよ!」


 幾らゲーム・システム的に悪臭が抑制されているとは言え、糞の処理は辛かったんだよ。と微妙に涙目になるジェーン。

 よくよく考えれば、糞の処理をしなければならないゲームって、ちょっとどうなのか……、と思わないでも無いが、その辺が『TONDEN FARMER』クオリティー。何と言うか、皆諦めている。

 糞のために大量のリソースを割いては、誰も畜産をやらなくなるためか、一応リアルよりは量が少ない、らしいのだが。

 他のゲームではペットが餌を食べる事はあっても、糞するのまで再現されている物は殆ど無い。それを考えれば、流石『農家の跡継ぎ御用達』と呼ばれるだけの事はある。


「わかった、わかった。じゃあ、糞の処理がし易い様に、厩舎に併設する様にして……、あれ? 畜糞タイプと生ゴミタイプの堆肥は、別けて処理した方が良いんだっけ?」


 細かい設計は、調べ直してまた後日、となりそうである。

 とりあえず今日の内に出来る事、内部設備はともかく、建屋だけは建てとくディアス。匂い対策に、燃料として買っといた炭を、脱臭炭として大量に使ってしまったが。




 更に翌日。


「あれ? シモヘイはどうした?」

「うぬ? シモヘイなら、金払ったら貯蓄が少なくなり過ぎた、とかで、金策に走っとる様じゃが……」


 具体的に何しとるか、までは知らん。と言うヤマカン。


「しかし、作ってしまってから言うのも何じゃが、本当に作ってしまって良かったんかいのぅ?」


 と、首を傾げるヤマカン。弾薬の大量生産設備、何ぞ、どう考えてもやり過ぎである。

 しかも、これがシミュレーターである以上、この図面通りにリアルで実際に作ってしまえる。と言う事になり、一般人が作り方知ってて良い物じゃ無い気がするんじゃが……。と、本当に今更な事に悩むヤマカン。


「それを言うなら、アサルト・ライフル作った時点で問題になってるよ」


 アサルト・ライフルに搭載した様なフル・オート連射機構は、本来、民間用の銃には禁止されている物である。でも、運営から何の通達も無いので、無闇に図面をバラ撒かなければ許容範囲なんじゃないか。とディアスは思っている。

 弾薬生産の方も、全自動化(オートメーション)している訳でも無いので、この程度は。と思っており、もし運営に何か言われたら性能下げよう。と、少しだけショボくした図面も用意しているディアスであった。


「ディアス君、ディアス君。あれ、もう完成してるんだよね? 動かして良い?」


 と、さっきまで堆肥化施設で何やらやっていたジェーンが、ディアスに催促しに来た。


「そうだな……、生ゴミ入れる前に稼動テストしとくか」

「え……、もう藁と畜糞は放り込んじゃったよ……」

「おい、こら」


 と、ジェーンを軽く叱るディアス。


「まぁ、やっちまった事は仕方無い。……多分、大丈夫だと思うし」


 とりあえず、厩舎脇に新たに建てた風車の下へ。ちょっと見物。とヤマカンも付いて来ている。

 結局、動力は風車にした訳だが、これはジェーンがタゴサクの所の風車を羨ましがっていた所為でもある。あと、位置的に水車を使い難い、とかもあったのだが。

 中に入ってみれば、堆肥化容器が3つ備えられていた。それらは斜めに倒された円筒形で、何か洗濯機のドラムの様である。


「流石に……、臭いのぅ……」

「攪拌させると、更に臭うぞ」

「ぬぅ……」


 一応ディアスは警告してから、レバーを『回転』の位置にセットする。ゆっくり回りだす斜めドラム。

 堆肥の攪拌は、常にやらなければならない事でも無いので、こうしてクラッチでON・OFF出来る様にしている。


「トルクは十分足りてる様だな。……異音も無し、と」

「じゃあ、こっちにも生ゴミ入れとく?」

「ある程度細かく砕いてからな。それと、腐葉土も一緒に入れとくんだ」

「? 何で?」

「堆肥化にはバクテリアの働きを利用するんだが、腐葉土には都合の良いバクテリアが含まれてるんだよ」


 大体、バクテリアが含まれてるから、葉っぱが腐るんだ。と簡単に説明するディアス。

 説明が大雑把過ぎるのは、ディアス自身、調べるのが面倒になった所為である。正直言って、温度管理とか、含水率とか、pH値とか、C/N比とかややこし過ぎる。化学肥料って、偉大だなぁ……。とか逃避してしまったのも無理も無い。


「にしても、テストが終わったんなら、外に出んかね?」


 農にあまり携わらないヤマカンは、この臭さに対する耐性が低い様で、かなり辛そう。

 確かに、やる事はやったので、何時までもここに留まる必要も無い。適当なところで攪拌を止め、3人とも外へ。


「……堆肥作りとは、大変なモンなんじゃのぅ……」

「あれはかなり分解が進んでるから、それ程臭くないんだが……」


 臭い事には臭いが、不快な臭さでは無いだろう。と言うディアス。


「この程度で音をあげてちゃ、『肥溜め』何かは地獄だぞ」

「あれって、実在するの!?」


 嘘でしょ? とジェーンはやたらと引いていた。


「……いや、実在しなきゃ、何だと思ってたんだよ?」

「漫画的な、演出か何かだと……」


 あんな地獄の落とし穴が実在するなんて、田舎って怖いとこだよぉぉぉぉぉ……。と脅えだすジェーン。

 その様子に嗜虐心を刺激されたか、ディアスは言い募る。


「田畑で遊んでると、誰か1人は必ず落ちるんだよなぁ」

「ひえぇぇぇぇぇぇ……」

「巻き糞を枝の先に差して走り回る子供が居たり」

「うわぁぁぁぁぁぁ……」

「度胸試しに野糞に爆竹さして、誰が最後まで逃げないか、とか」

「はうぅぅぅぅぅぅ……」

「この様に、田舎の子供とウンコは切っても切れない関係で……」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 田舎怖いよぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「こら! 止めんか!」


 びすっ! と、ディアスの後頭部にチョップを入れ、黙らせるヤマカン。


「あまり怖がらせるんじゃない。そんなのは、それこそ漫画の中の話じゃろうが」

「……ほんとに? 肥溜めは、無い?」

「ほんとじゃよ。かなり昔に条例で禁止されとる。肥溜めが実在したのは、過去の話じゃ」


 と、ヤマカンがディアスに呆れつつ、ジェーンを宥めていたが、


「ふっ。甘いなヤマカン。漫画の中でやってる、って事は、自分でもやってみたくなるのが、男ってモンだろう?」


 何やら不穏な事を言い出すディアス。


「ま、まさか、おぬし……」

「そうさ。俺はやったぜ!」

「おぉぅ……、とりあえずやってみるおぬしの主義は、リアルでも顕在じゃったか」

「まぁ、逃げ損なって、飛び散ったウンコを浴びたけどな。お袋に怒られて、『爆竹買うなら、お小遣い上げません!』と言われたのも、今じゃ良い思い出さ」


 感情の篭らない目で遠くを見つめるその様は、到底『良い思い出』と思っている様には見えなかったが。


「よくやるのぅ……。『勇者』と呼んでやろうか」

「それを言うなら、『冒険家』と言ってくれ」

「うぬぅぅぅ……、『(けわ)しきを(おか)す』と呼ぶに値すると認めよう」

「何馬鹿な事言ってるのさ!」


 本当に馬鹿馬鹿しい話をする2人に、ついに耐え切れなくなったジェーンが、声を荒げて話を遮る。


「それを洗濯する母親の身にもなりなさいっ!」

「ハイ……」

「スミマセン……」


 ジェーンの言う事は、あまりにも正論だった。

 ウンコの話で盛り上がるなど、今時小学生でもするまい。




 余談ですが、結局、堆肥は売れませんでした。


 堆肥の臭さは、農業が嫌われる理由の1つ。自分で堆肥を作らないプレイヤーが、態々他所から堆肥を買う筈がありませんでした。


 彼等曰く、


「ウンコは買わない」


 だそうです。


 リサイクルも良いですが、需要があるかどうかは、ちゃんと調べておきましょう。

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