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TONDEN FARMER  作者: 800
第1章 北海道開拓編
24/45

新年はじまります

 だから、名が売れるのは困り物なんだ。


 ディアスは今の状況に溜息を吐いた。これでは趣味の冒険も出来やしない。と。

 冒険、と言っても大した事をしている訳では無い。畑仕事等の予定が入っていない間、出来るだけ広い範囲を隈なく歩くだけの事。ついでに、今まで適当に建てて来た『転移室』のメンテナンスの巡回も兼ねていたりする。

 それでも森に入ったりすれば、熊に襲われたり、毒蛇に咬まれたり、はたまた崖から落ちたり、川に流されたりと、《死に戻り》も珍しくは無い。

 この程度じゃ、リアル冒険なんか出来ないなぁ。と苦笑しつつ、それでも他のプレイヤーから見れば対して意味の無い事を、ディアスが止める事は無かった。


 ……のだが、最近は何か色々ディアスを頼る人が多過ぎて、自由になる時間が減って来ている。


「……って、訳なんだが、どうにか出来るか?」


 と、今回の依頼主はシモヘイの猟師仲間で、彼に繋ぎを頼んで依頼を持ち込んだのだった。


「俺は宗教関係には係わりたく無いんだが……」

「いや、確かに宗教、って言っちゃ、宗教なんだが、折角だから『初詣(はつもうで)』のために神社建て直したい、ってだけだろ?」


 別に、布教とかそう言う意図はねぇよ。……多分。と言うシモヘイ。


 そう。初詣なのだ。

 ゲーム内では稲刈りが終わって一息吐いたところだが、リアルではクリスマスが終わったところ。もうすぐ年末年始。行く年来る年である。気分を出すために初詣、とか言い出す気持ちはディアスにだって解らない訳では無い。

 ちなみに、そのクリスマスには、ジェーンが『クリスマス・プレゼントだよ!』とか言って、やっと完成したマフラーを皆に配ったり、ちょっとクリスマスっぽい料理を作ったりして、ささやかながらパーティーをやったりもした。


「クリスマス・パーティーはやったくせに……」

「あれは、ただクリスマス・ケーキを食うための口実だ」


 シモヘイに突っ込まれるも、何と言うか、日本人らしい言い訳をするディアス。


「だったら、ちょっとした縁起物、って事で、こっちの件も引き受けてくれよ。何つぅか、リアル新年だろ? 本格的に参拝客増やして盛り上げたいらしくて、もっと立派にしたい、って」

「……自分でやれば良い物を……」


 ディアスは視線を横に逸らしつつ、ヤル気の無さをアピールする様に、何度目かの溜息を吐く。


「俺が得意なのは『ログ・ハウス』だぞ。神社の様なのは……出来なくも無いが、他のヤツに頼んだ方が良いのが出来るだろ」

「そうでも無いんだよ。『神社の図面』何てのが無い以上、腕だけあってもなぁ……」


 本格的に神社を知っているプレイヤーが居ないらしく、神社らしいカッコ良さ? が出ないんだと。とシモヘイ自身も良く分かっていないものの、聞いた話を伝える。


「だから、図面引いてくれるだけで良い、ってさ」

「神社のカッコ良さ、って、歴史を積み重ねた風格だろうが。俺だって、そんなに神社に詳しくないし、どうやったらそれらしくなるのか、何て分からん」


 つまり、1から調べる必要があるが、そんな事してたら到底新年には間に合わない。こんなギリギリの時期になって、今更依頼を持ち込まれても、流石のディアスにもかなり無理がある。


「それに、初詣を理由に神社を建て直したら、除夜の鐘を理由に寺を建ててくれ、とか言い出すヤツが出て来るだろう?」

「言われてみれば、ありそうだな……」

「そうなると、今度はクリスマスに教会……とか、喧嘩の種になる訳だ」

「うぐぅ……」


 と、言葉に詰まるシモヘイ。

 何より問題なのは、ディアスの能力なら、新年まで後数日とは言え、1件だけなら無理すれば何とか出来てしまう事だ。つまり、その座を巡って争いが起きるかねない。

 だから、全て等しく断るのがベスト。何処か1つを贔屓(ひいき)すると、宗教的な意図があると取られかねず、ややこしい事になる。


「そんな、深い意味は無かったんだけどなぁ……」


 と、シモヘイは困り顔で頭を掻いた。

 ただ単に、猟師仲間の1人が狩りの成功祈願に、と簡単な社を建て、偶に獲物を奉納していたりと、そう言うプレイをしていたのだ。

 その辺は、またぎにも通じるところがあるので、シモヘイもちょっとした縁起物、と言うか験担ぎのつもりでお参りをしていたりする。

 その内猟師仲間の間では、その社で何となくお参りするプレイヤーが割と増え、折角なのでちょっと立派にしてみないか? と言う話が持ち上がったのだった。


「まぁ、自分達で出来れば良かったんだけどな。結局、専門家じゃ無いんでグダグダになって、こんな時期まで何にも出来ず、ってオチなんだが……」

「だったら、諦めとけ」

「でもなぁ……、『イベント申請機能』で『夏祭り』やりたい、とか話も出ててな。そのためには、御本尊とか御神体なんかを立派にしとかないと格好が付かないし、人も呼べない、ってな」


 だから、丁度良い区切りとして、新年に合わせて改築し、初詣でお披露目。って出来たら良いな。と言うのが猟師プレイヤーの総意だったらしい。


「そっちの事情はともかく、師走(しわす)はリアルの(しがらみ)で用事も多いし、ゲームの方でも収穫した米の改良とかで、タゴサクと協議しなければならないし……」


 どんなに技術があろうが、時間が無いのはどう仕様も無い。

 それにディアス自身はその技術と裏腹に、日曜大工位のつもりでやっているので、態々忙しい時期に大工仕事を受ける事は無い。余程ディアスの琴線に触れる様な『何か』があれば話は別だが。


「とにかく、諦めろ、って事だ。時間に余裕が出来たら、その『夏祭り』に間に合う程度になら、何とかしてやれなくも無い」

「駄目か? ゲーム内の新年じゃなくて、リアル新年だぜ? この機会を逃すと、1年待たなくちゃならないんだぜ?」

「だったら、リアルで初詣しろよ。それに、そんなイベントは、札幌(さっぽろ)の北海道神宮とか、釧路(くしろ)の厳島神社、辺りの有名所に任せとけば良いんだ」

「……お前、実は神社詳しいだろ?」




 『猟遊会』の施設にある会議室で、多くの猟師達が屯して話し合っていた。

 この『猟遊会』、例によってリアルの組織名を付けるのを嫌がり、少し表記を捩っている。と思われているが、実際は名前がどうこう以前に完全に別物である。……ゲームなんで、当たり前だが。


「……やっぱり、駄目だったか……」


 十勝(とかち)の猟師プレイヤーのまとめ役、バロウズは、もうちっと早く手を打ってりゃぁ……、と頭を掻いた。

 この男、猟師プレイをしていながら、アバターにウイリアム・テルごっこで妻を射殺した作家の名前を付ける辺り、かなりの捻くれ者と言える。

 自由に弄れるが故に整った容姿のアバターが多い中、彼はボサボサの髪にモジャモジャの髭。微妙に痩せていて不健康な感じが漂っている。これを一言で表現するなら『下っ端山賊』であり、態々改悪化している変わり者である。若しくは、造形センスが無いだけかも知れない。

 容姿に拘りが無いなら、プリセット・パターンでも使ってれば良いのに……。と仲間の猟師達は常々疑問に思っているのだが。


「やっぱ、時間だけはどうにもならない、ってさ。ディアスは和風建築はあまりやらないんで、ノウハウが無いのが致命的だと」


 と、シモヘイは断られた理由を簡単に報告する。

 ゲーム内でのノウハウの蓄積が無くとも、リアルで調べて図面を起こせるディアスだが、リアルで調べるのは、他の皆が思うより、面倒で効率が悪い。普通は使わない、非常手段の様な物。と思って置いた方が良い。


「神社なら、宮大工にでも頼めば良いだろう、って札幌のジンゴロを紹介されたけど……」

「微妙に解ってないよな……。こう言うのは、十勝の中だけでやりたいんじゃないか」

「だよなぁ。何つーか、村興しの一環、のつもりなんだし。余所者の手を借りるのは違うだろ」

「んじゃ、どうする? ディアス以外に神社建てられそうなヤツ、誰か心当たりあるか?」

「…………」


 誰1人として、建設的な意見が出せない。さっきから、何とかディアスに頼めないか、他に誰か候補が居ないか、の堂々巡りである。


「もうここまで来たら、諦めるか、適当なところで妥協するしかないだろ。唯一、今からでも間に合わせる可能性のあるディアスは、ゲームに宗教持ち込む事に否定的だし……」

「別に、宗教やってるつもりは無いんだけどなぁ……」


 VR(ヴァーチャル)にリアルの柵を持ち込むのは、マナー違反であるのは誰もが良く解っている筈である。

 その中でも、宗教とスポーツ・ファンの話は、人間関係が拗れ易いので、タブー中のタブーである。

 だが、多くの日本人にとって、宗教は真剣にやっている物では無く、特に神道は仏教やキリスト教に比べ、何となく縁起物、程度の感覚でやっている。例えば、お守り1つに深い意味を求める人は、殆ど居ないだろう。と言う事だ。


「何となく、お祈りとかしとくと、幸運値が上がるんじゃないかなぁ……、何て、漠然と期待してみたり……」

「そんなパラメータ無いだろ。……って、言いたいとこだが、どんな隠しパラメータがあるか、分かったモンじゃ無いからなぁ……」


 シモヘイは一応ツッコミを入れるも、完全に否定しきれない。シモヘイ自身、撃つ前についつい祈ったりする事がある位なので、尚更である。


「神社の名前、『十勝神社』にしたのが不味かったかなぁ……? 単に十勝地域の神社、ってだけのつもりだったんだけど……」


 と首を傾げるバロウズに、シモヘイはかつて聞いた話を思い出す。

 シンプルなネーミングは、誰でも思い付くが故、適当に付けたつもりでも、リアルと名前被りする事がある。と。


「それに、それっぽい流木拾って来て、御神体にしてるし……」


 その辺は、リアルに十勝神社がある、と分かった時、面白半分に真似してみたのだが、意図的にリアルに寄せているが故に、宗教色が無い、と言い切るのは微妙である、とも言えた。

 しかし、元々バロウズは狩猟の成功祈願のため、山の麓に神社を建てており、リアルとは別の場所にあるし、建物も似せている訳でも無い。そもそも、リアルの十勝神社にどんな御利益があるのか、バロウズ自身も知らない。

 と、ここまで来れば、リアルの十勝神社と結び付けて考える必要も無いだろう。


「別にそれ位は良いんじゃないか? 実際、ディアスだってああは言ってるけど、本気で宗教とか気にしてる訳じゃ無い。夏祭りのためなら、手を貸さなくも無い、って話しだし」


 一般的にはタブーとは言え、本格的な宗教活動とか、勧誘とかしなければ問題無い範囲である。

 今までのMMOとかでも、クリスマス・イベントとかの宗教イベントが、年中行事に混じって催される事は珍しくは無い。


「いっその事、オリジナルの神様、祭ってみるか?」

「その方が、本気で新興宗教に走ってるっぽいだろ。止めとけ」

「例えば、住む場所を無くして困っている人に、家を建ててくれる神様、とか?」

「そりゃ……、むしろ、嫌がらせだろ」


 いいアイデアが出ないためか、どうでも良い方向に話が逸れて行く。

 ちなみに、家を建てて云々は、かつてディアスが行った事である。ただでさえ目立つのが嫌いな彼を、勝手に祭ったりしたら確実に怒る。

 とにかく、このままでは埒が明かない現状に、シモヘイは修正を試みる。


「確かに、宗教がどうこう、って言うのは、断られた理由の1つだが、今更そこを何とかしたところで、引き受けてもらえるとは思えん。もっと、こう……、積極的にやってくれそうなメリット、って言うか、交換条件か何か、出せないのか?」

「…………」


 本当に何のアイデアも出て来ないのか、さっきまで適当な事を言い合っていたのが嘘の様に静かになる。


「これだけいて、誰も思い付かないのかよ?」

「いや……、人事みたいに言ってるが、シモヘイよ。ディアスとの交渉は、お前に一任されていた、と思うんだが?」

「え……その……、だから、別にディアスに拘る必要は、無いんじゃないかなぁ……、とか思ったり……」


 バロウズにツッコミを入れられ、しどろもどろに言い訳をするシモヘイ。

 バロウズの言う通り、どうやったらディアスと交渉出来るか、この中で1番詳しいのは同じパーティーのシモヘイである。


「真面目な話、宗教がタブー、ってのが反映されてるのか、このゲームに神社とか寺とか、そう言った図面は無い。だったら、オリジナルで高度な図面を起こせるディアスに頼むしか無いだろ」


 うんうん。とバロウズの言葉に頷く面々。

 色々考えた挙句、結局はディアスを説得するのが1番の近道、とバロウズが結論付ける。

 単純に【大工】アビリティの熟練だけなら、ディアスに匹敵するプレイヤーは結構居る。ただし、適当な社を建ててお茶を濁すならともかく、本格的な神社を建てたい、と言うなら、今バロウズが言った通りなのだ。が、それに気付くのがちょっと遅かったから、今こうして困っているのだが。


「と言う訳で、ディアスが欲しがってる物で、俺たちに用意出来そうな物は何だ?」

「えぇ……」


 ディアスは、欲しい物は大概自分で作りたがる。故にシモヘイもろくな物を思い付かないから、皆で話し合おうと思っていたのだが。


「些細な事でも良い。本当に何も無いなら諦める!」


 と、そこまで言われれば、シモヘイも何も言わない訳には行かない。しかして、辛うじて搾り出した答えは、


「……味噌?」


 ……間違いでは、無い。それをどう交渉に使うのかは、解らないが。

 ディアスは既にそれなりのレベルで味噌を造れるので、人から味噌をもらっても、さほどのメリットは無い。


「……シモヘイ」

「え……他には……、そうだ、米だ! 稲作か品種改良のノウハウでも、あれば……」


 それも、間違ってはいない。そんな物、猟師プレイヤーにはどうにも出来ない、と言う欠点はあるが。

 シモヘイも勢いに任せて言ってはみたものの、すぐにその事に気付き、段々と勢いを失い、尻切れトンボとなる。


「よくよく考えりゃ、……そりゃ、そうだよな。猟師プレイヤーに何とか出来る事なら、シモヘイ経由で既に手に入れてる筈だし……」


 バロウズは交渉の難しさに、頭を抱える。

 別に『猟師』が『大工』に劣っている訳では無い。生活基盤として必要な『衣』『食』『住』の内、猟師は主に『食』に貢献し、大工は当然『住』である。つまりは得意分野が違うだけで、どちらも必要でほぼ同格である。と言える。

 にもかかわらず取引にならないのは、トップ・クラスの大工にしか出来ない事を頼みたいのに、相手は、トップ・クラスの猟師にしか出来ない事、を特に必要としていないからだ。

 更には、ディアスはそれだけの技量を持ちながら、『大工』じゃ無い。と言い張っているので、一般的な大工仕事の相場、金銭による対価が通用しない。


「大体、ディアス以外の大工が、オリジナル図面を起こすのが下手、ってのが悪いんだ……」


 などと、八つ当たり気味に話が逸れる始末。

 事実、他所の地方では廃人達がオリジナル建築を建てる、と言うのは良くある話。その分、値は張るのだが。だが、ここの大工達はアレンジするので精一杯。と言うより、正しいノウハウが無いためか、オリジナルを作ると何処かおかしくなると言う。


「はぁ……」


 誰かが吐いた溜息を切っ掛けに、諦めムードが蔓延し始めていた。




「まだかなぁ~、まだかなぁ~?」

「落ち着かんかい。うろうろしたところで、完成が早まったりはせんぞい」


 人の身長程もある大きな鋳型(いがた)の周りを、完成を待ちかね、今か今かとぐるぐる回る男が1人。

 それがいい加減鬱陶(うっとう)しくなったか、ヤマカンはややウンザリした様に言うも、男がそれで止まる気配は無い。大体、似たような台詞を吐くのはこれで3度目である。


「そんなに暇なら、他の仕事しとりゃ良いじゃろうが」

「そうやって、さっきからちょくちょく仕事片付けてりゃ、もう無くなっちまったよ」


 元々、大した仕事抱える程、売れてる訳でもねぇよ。と、その男は肩を竦める。

 この男、名をラーメンと言う。食べ物のラーメンでは無く、建築のラーメン構造から付けた名だとか。

 その名から察する通り、最初から大工プレイを目指していたのだが、一応『大工』にはなったものの、その過程で彫刻に嵌ってしまい、『彫刻家』を自称している。

 そのため、木像や石像を売り物にしているのだが、そう言う芸術的な物を楽しむ余裕は、皆まだ持っていないので、当然の様に売れていない。

 一応、大工の腕もそれなりにあるので、それで家具を作り、ついでに彫刻を施したりして売っている。これらは、ちょっと高級感のある家具、と言う事で、そこそこ人気があったりする。


「なぁ。後どれくらい掛かるんだよ? まさか、間に合わないんじゃねぇだろうな?」

「そこまでは掛からんわい。……まぁ、丸1日は待っといた方が良いじゃろうな」

「うげ……、あと3時間も、かよ……」

「だが、『除夜の鐘』には十分間に合うじゃろ」


 ヤマカンの言う通り、この鋳型の中はお寺の鐘、『梵鐘(ぼんしょう)』である。リアルで近所に鐘を撞けるお寺が無い、と言う訳で、折角なのでせめてVRの中だけでも、とラーメンの依頼で作られた物だ。


「でも、1人で108回も撞くのは面倒だよな。誘ったら人集まるかね?」

「どうじゃろ? リアルで除夜の鐘を撞きに行っとったり、何かしらの用事があったら、ダイブ・インしとる輩は相当少ないと思うぞい」

「だよなぁ。俺だって、去年は年末特番とか見てたし」


 ただでさえ人の少ない『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』の、更に少ない十勝地域。そこにリアルの事情によるダイブ・イン率の低下を考慮すれば……、とラーメンは適当に見積もって、


「残るのは20~30人、ってとこか?」


 大体こんなモンだろう。と考える。

 廃人が居ればもっと増えるだろうが、十勝地域は色々と人の移動の末、スロー・ライフとか牧歌的なプレイ・スタイルがメインで、リアル行事を蔑ろにしてまでゲームやる程の廃人には、むしろ住み難い土地だ。


「じゃのぅ。ワシも年越し蕎麦食った後、顔見せにダイブ・インするだけのつもりじゃしのぅ」


 確かに、ヤマカンの言う通り、ほんの短い間だが、そのタイミングだけダイブ・イン率は跳ね上がる事は予想されている。ゲーム仲間に新年の挨拶をするだけ、なので、1時間足らずだろう。と言われている。

 基本的にリアル情報は隠蔽する事が推奨されるため、昔は良くあったと言う『オフ会』は今は無い。故にゲーム内の友達に会いたいなら、やはりゲームにダイブ・インする必要があるからだ。

 ヤマカン達も、本格的にプレイするつもりは無く、0時過ぎ位にちょっと集まろう、と言う約束をしているだけだ。


「そうすると、俺は1人寂しく鐘を撞いてる、って事になるのか?」

「ややこしく考えんでも。別に新年になってから撞いても良かろう。予め宣伝しとけば、鐘の音が聞こえてくれば、近場のプレイヤーは寄って来るかも知れんぞい」

「……だな。その線で行ってみるか」




「と、言う訳で、神社の建築を請け負う事になりました……」


 そう言うディアスの表情は、少しばかり引き攣っていた。

 それもその筈。何の因果か、断った筈の神社の一件が、断る口実にした宗教上の云々が逆に作用し、引き受けざるを得なくなったからだ。

 ディアスは横目でヤマカンを睨む。が、ヤマカンは全く気にせず、飄々(ひょうひょう)としている。別に悪い事をした訳では無いので、その態度も当然なのだが。


 何があったかと言うと、ヤマカンに『梵鐘』を作ってもらったラーメンが、


「時間があったら、ウチで『除夜の鐘』を撞いて行かないか?」


 と、近所のプレイヤーに声を掛けまくったのだ。これにより、ディアス達のパーティーが『仏教』に係わった、と広く知れ渡る事になる。

 この事は当然バロウズ達の耳にも入り、『特定の宗教に肩入れしない』と宣言していたディアスは、そこのところを突っ込まれると弱く、バランスを取るために神社の仕事を引き受ける羽目になったのだった。

 要するに、下手な言い訳したディアスが悪い。と言える。


「引き受けてくれるのは嬉しいけどさ。間に合うのか?」


 何だかんだ言って、結局ディアスの説得役を押し付けられていたシモヘイは、一応安堵しつつも、次の不安が鎌首を(もた)げて来るのを感じていた。


「正直言って、1から設計してたんじゃ、到底間に合わない。……と言う訳で、ここに定山渓(じょうざんけい)の一件で、ジンゴロからもらった和風建築の図面がある。これをベースにアレンジして、神社にする」


 そんな物があるなら、最初から引き受けてくれても良さそうなモノなのに。と思うシモヘイだったが、余計な事を口にして、ディアスの機嫌を損ねるのも馬鹿らしいので黙っている。


「だが、本格的に施設を全部作ると、流石に間に合わないだろう。だから、『本殿』『拝殿』『社務所』『納札所』『手水舎』『狛犬』『燈篭』『参道』『鳥居』と、簡略化してこれ位で良いだろう」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、待て……」


 シモヘイは軽い目眩を覚えつつ、何とか待ったを掛けた。


「簡略化、とか言ってるが、スゲェ本格的に聞こえるんだが?」


 今までの物が、申し訳程度の掘っ立て小屋と、一応神社っぽく見せるための鳥居、程度の物だったので、雲泥の差である。

 そして、それだけの物が後数日で建てられるとは、到底思えない。……正確に言えば、とんでもないオーバー・ワークを強いられそうな予感を、ヒシヒシと感じるシモヘイであった。


「別に、ウチのパーティーだけで建てなければならない、って訳じゃ無いんだ。複数の『大工』に依頼すれば良いだろ。と言うか、元々、俺は図面だけで良い、って話だった筈だが?」

「まぁ、それなら何とかなりそうだが……」


 本格的な大工プレイヤーで無くとも、【大工】アビリティをそれなりに熟練しているプレイヤーは多い。特に古参のプレイヤー達は、何も無い所に自分で家を建てなければならなかったので、誰もが当たり前の様に初級レベルは超えていると言って良い。


「と言う訳で、5~6組のパーティーに声を掛ければ良いだろう。ちなみに、ウチは『拝殿』を請け負う。『本殿』は『猟遊会』の面々でやってくれ。図面通りに建てるだけの、簡単なお仕事です」

「いや、図面だけで何とかなったら、誰も苦労しねぇよ」

「苦労しろよ」

「あ…うぅ……」


 オーバー・ワークが……、と言うシモヘイの予感は当たっていた様である。


「ここのところ、リアルの事情でダイブ・イン率が下がってるから、人手の確保が面倒だが……」


 と、ディアスは知り合いのゲーム内スケジュールを確認する。知り合い同士だと、ゲームを一緒に遊ぶ都合上、問題無い範囲でスケジュールを教える事は多い。


「タゴサクは年末年始入れる、ってジャンヌが言ってたな。こいつに『社務所』を任せるか。ラーメンも除夜の鐘が出来上がってるならしばらく暇だろ。『狛犬』と『燈篭』を発注しても問題無いな」


 ディアスは仕事内容を吟味し、テキパキと割り振って行く。

 その様子を見つつ、シモヘイは冷や汗が流れるのを感じていた。かつて、タゴサクが『お前の名なら十勝地域のプレイヤーなら殆ど集まる!』とディアスに言っていたが、それが現実の物になろうとしていた。

 それだけ事が大きくなり、十勝全域の期待を背負う事になってしまった。と言え、こうなってはもう下手な事は出来ない。当初の予定では、ちゃんと神社らしい体裁を整えるだけ、のつもりだったのだが、何でこうなった? とシモヘイは半ば現実逃避しつつ考え込んだ。

 シモヘイが思い返してみれば、ディアスには微妙に神社に詳しい素振(そぶ)りが見えていた。つまり、シモヘイ達が考える『ちゃんとした神社』と、ディアスの考える『ちゃんとした神社』の間には、雲泥の差があったのだろう。今更気付いても手遅れだが。

 ディアスが最初からこの規模の改修を想定していたなら、この忙しい時期にそんな依頼を持ち込めば、渋られるのは当然とも言えた。


「ディアス君。桜植えようよ。リアルの十勝神社は、お花見スポットとしても有名だよ!」

「リアルに寄せるつもりは無いが……、お花見はアリだな」

「じゃあ、持って来るよ! こんな事もあろうかと、桜の苗木を育てていたんだよ!」

「こんな事もあろうかと、か。言う様になったな。……そう言えば、ジェーンは【裁縫】スキルも熟練してたよな? 巫女装束とか作れるか?」

「巫女装束なら……、時間的に5着位なら何とか。と言っても、正確な作りを知らないから、コスプレ衣装っぽくなっちゃうかも。神主さんの方はお手上げ、かな?」

「コスプレ上等。神主のも写真か何かを参考に、適当にそれっぽくなれば良いだろ」

「ワシも、【鍛冶】で必要な物を作っとこうかのぅ。賽銭箱の上にあるガラガラ鳴らすでっかい鈴とか」

「『本坪鈴(ほんつぼすず)』な。他にも、刀とか鏡とか、それっぽい物を幾つか作ってくれ。多少いい加減にやって、正式な神道の作法から外れた方が、布教の意図は無い、って言い訳になって良いだろう」

「良かろう。ついでに、こりゃ、周りの森を切り開く必要があるじゃろうて。久々に『森林喰らい(フォレスト・イーター)』の出番じゃな!」


 シモヘイがぼぉ…ぅ、っとしている間にもどんどんと話は進み、ヤマカンもジェーンも、早速己の作業を始める。


「ほら、シモヘイ。これ持って行け」


 ぽす、と渡された、紙の束を確認するシモヘイ。それは『神社の図面:本殿』であった。


「早っ!? もう出来たのかよっ!?」


 幾らベースがあったとは言え、即興にしても早過ぎる。その上、この短時間で作ったとは思えない出来栄えである。

 シモヘイはペラペラと捲りながら、一通り確認する。が、それがちゃんと神社らしいのか、今一判断が付かない。それもその筈。『本殿』は『拝殿』の後ろにあり、普段の参拝は『拝殿』で行われるのだ。つまり、一般人にとっての神社のイメージは主に『拝殿』であり、滅多に見ない『本殿』がどうなっているか、など解る筈も無い。


「それと、これもな」


 と、更に渡されたのは地図。そこには確保する土地の位置と広さ、参拝客の交通の便を考えた道路の整備、等が書き込まれていた。


「『猟遊会』の方にも、出来るだけすぐに動く様に言ってくれ」

「お、おぅ……」


 や、やべぇ……、と内心ビクビクしつつ、シモヘイは頷く。

 元々バロウズが建てた神社だけに、神様を祭る『本殿』を『猟遊会』で受け持つのは至極当然の流れとは言え、それは本来なら避けたい事であった。

 一応は彼等も【大工】アビリティの熟練を多少はしている。とは言え、今までの物が掘っ立て小屋だった事からも判る通り、その腕はお世辞にも良いとは言えない。

 ディアスの図面は解り易く、難易度を下げてくれるが、それでも他の大工達が請け負う施設と比べれば、圧倒的に出来栄えが劣る事になるだろう。よりによって、『本殿』の出来栄えが、だ。

 本職が『猟師』何だから仕方ない。と言う言い訳は通用しない。十勝地域では専業『大工』は殆どおらず、他の職と兼業なのが普通だからだ。これは人口が少ない所為で、大工仕事の需要がそれだけでは食って行けない程度に少ないためである。


「じゃあ……、行って来る……」


 シモヘイはヨロヨロと立ち上がると、『転移室』へと向かい、行き先を『猟遊会』へと指定した。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


「これぞ逆転の発想! 『蒸気機関』が重過ぎて車載に向かないなら、重くても構わん物に搭載すれば良いんじゃ!」


 地響きを立て、地面を平らに均して行くロードローラーの上で、ヤマカンは満足気に、カッカッカッ! と哄笑していた。


「お~い、ヤマカン! 全部踏み均すんじゃ無いぞ!」

「解っとるわい。植樹する場所はちゃんと避けて整地しとるぞい!」

「…………」


 今はリアルだと既に12/27の22時過ぎ。もう新年まであまり時間は無い。それを何とか間に合わせるため、無茶を押し通すため、今まで見た事も無い技術が色々投入されていたりする。目の前のロードローラーもその1つだ。

 そのあまりの光景に、慣れない人間はポカンと立ち尽くし、作業の手が止まっていたり、それを叱責されたり。


「つぅか、ヤマカンのヤツ、蒸気機関式の重機なんて、何時の間に作ってたんだか……」


 柱を(かんな)掛けで仕上げつつ、シモヘイは今までとは全く違う、正に工事現場、と言った雰囲気になっている周りを見渡した。

 他にも、でっかい丸鋸が丸太から木材を切り出したり、そうした資材をフォークリフトが運んだり、柱を立てる穴をドリルで掘っていたり。何と言うか、やりたい放題である。

 スロー・ライフは何処行ったんだ! と、声を大にして叫びたいシモヘイであったが、自分等の依頼が原因なので、お前が言うな! と突っ込まれて終わりだろう。と、自重する。


「あれ? シモヘイ、バロウズを知らないか?」

「さっきジェーンに連れてかれた。神主やらされる嵌めになったんで、衣装の採寸って事だったから、すぐに戻って来ると思うが?」

「マジかよ? 現場監督がどっか行くんなら、指示出してからにしろよ……」

「いや、あいつ、元々現場監督としちゃ、役に立ってなかったろ……」


 『本殿』を『猟遊会』が受け持つ、と言う事は、その代表であるバロウズが現場監督になる訳だ。しかし、バロウズの【大工】アビリティの熟練は、工程管理がしっかり出来る程の物では無い。

 そして、それを裏付ける様に、『本殿』の進捗だけ、他から遅れだしていた。特にすぐ前にある『拝殿』と比べると、その違いは顕著であり、焦りが出るのも無理は無い。


 その『拝殿』は、一応ディアス達のパーティーの受け持ち、と言う事になっているが、シモヘイは『猟遊会』の方に参加し、ヤマカンは持ち込んだ数々の重機の操作に携わっている。ジェーンは衣装作製、と全員ばらけており、要するに、『拝殿』はディアス1人で建てている状況だ。

 にも係わらず、既に柱まで立っている。周りに作られた足場を兼ねた枠組みや、景観のため意図的に残された樹木の間に渡されたロープを巧みに使い、梃子の原理とか利用して、でっかい木材を1人で組み立てて行く様は、何処かおかしい。

 とか、思っていたシモヘイだったが、周りを見てみれば、程度の差はあれ、何処も割りと似たような物で、作業が遅れている所も、腕が悪い訳では無く、ロードローラーが一台しかないため、整地が遅れているから。であった。

 これでもスケジュールの都合で、トップ・クラスばかりを集められた訳では無い、と言うのだから、猟師プレイヤー達が如何に早い段階で【大工】アビリティの熟練を諦めたか、判ろうと言う物だ。


「どうするよ? シモヘイ。ウチが圧倒的に手際悪いぞ」

「どうする、って言われてもな……。競争してる訳じゃ無いんだから、慌てるなよ。そんな事より、焦って雑な作りにならない様に注意しとけ」

「お、おう。やっぱ、シモヘイは頼りになるな!」

「いや、狩りの時はバロウズの方が頼りになってるし……」

「そりゃ、認めるが……、実際、これだけの大仕事の依頼料、払えたのはバロウズのおかげだしなぁ……」


 バロウズは己の腕だけを頼りに、各地を渡り歩く、と言うプレイ・スタイルをしていた時期があった。その期間に手に入れた、秘蔵のレア・アイテムとかを大放出。対価に当てたのであった。

 ちなみにこのプレイ・スタイル、生半可な腕の猟師では収支がマイナスになり、途中で野垂れ死ぬ事請け合いである。おかげでバロウズは、『エクストラ・ツール』持ちなんじゃないか、と噂されていたりする。


「どうせならその金で、こっちにも大工を何人か回して欲しいんだが……」


 シモヘイはディアス達の手伝いを良くさせられる分、猟師の中では1番【大工】アビリティの熟練が高い。

 では、それ以外の猟師達の腕前がどの程度か、と言うと、鉋掛けもまともに出来ず、木材を駄目にしてしまう恐れがあるので、迂闊に仕事を任せられないのが殆どだ。

 その辺は周りの大工達も解っているので、用意された木材の大半は加工済み。後は組み立てるだけである。

 そのため、サイズがデカイとは言え、何かプラモデルでも作っている気分になって来るシモヘイであった。実際、『本殿』の図面は、プラモデルの組み立て説明書に近い書き方になっていたり、『超初心者向け』と言わんばかりである。


「まぁ、なぁ。こんだけ解り易い図面があって、それでもなお揉めるんだからなぁ……」


 だから、リーダーが居ないと困るんだが、と、バロウズを探していた猟師は、何やら言い合って、作業の手が止まっている一団の方に視線を向けた。

 シモヘイも釣られてそちらへと意識を向ける。聞こえて来る話から察するに、システム・アシストで表示されるガイド・ラインを、どう活用したら良いのか、あまりよく解っていない様であった。


「……ほんとに間に合うのかよ……」


 この作業の間に、【大工】の熟練度が伸びる事に期待するしか無い。と思い、シモヘイは何か絶望的な気分になるのであった。




 ごぉぉぉぉぉ…………ん………………


 年明けて新年。

 ゲーム内カレンダーは5年目の10/7なので、季節感がちょっと違和感あるが。

 それはともかく、神社は何とか間に合った。結局、猟師の多くは役に立たず、大工達に多大な迷惑を掛ける事になったのだが。


「うむ。あけおめじゃよ。皆の衆」

「おう。あけおめ。遅かったな、ヤマカン」

「寺の方で除夜の鐘を撞いて来たからのぅ。ワシが作った手前、様子見に行かねばならんじゃろ」


 聞いての通り、良い音色じゃろ? と顎鬚を弄りつつ、ドヤ顔のヤマカン。


「それにしても、ディアスにシモヘイ、おぬし等2人だけか? ジェーンはどうしたんじゃ?」

「ジェーンなら、巫女さんやる、ってさ。社務所にでも行けば会えるんじゃないか?」

「巫女……、そう言やワシの妹も、巫女さんやる、ってさっき言っとったなぁ……」


 態々そう言った、と言う事は、見に来い、と言う事じゃろうか? と首を傾げるヤマカン。


「とりあえず、【裁縫】スキル持ってるヤツ等総出で巫女装束作って、未婚の女性キャラに片っ端から声掛けまくってたからなぁ……」


 最終的に10人以上の巫女さんを集めた筈。と何処か他人事の様に言うシモヘイ。

 この件は大工仕事で役に立たなかった猟師達が、どんな形でも良いから何か貢献しよう、と苦肉の策で行った物だ。だから、シモヘイは係わっていないので、実際に他人事であった。


「とりあえず、皆揃った事だし、参拝しよう」


 と、3人とも鳥居を潜り、参道を歩いて行く。

 参拝客は思ったより多い様だが、もし全員がダイブ・インしたとしても、300人程の十勝地域。神社の敷地を広めに確保した事もあり、混雑している感じはしない。


 『手水舎』での清めや、参拝の作法は正式な物がある筈なのだが、細かい事は誰も気にせず、皆それぞれ微妙に違う。

 ディアス達も『本坪鈴』をガラガラ鳴らすと、パンパン、と拍手を打ち、


「今度こそは、美味しいお米が出来ます様に! 美味しいお米。……米、米、米ぇぇぇぇぇぇ……」


 参拝、と言うより、何か呪いでも掛けそうな不気味さを漂わせるディアス。その様子に、シモヘイとヤマカンはドン引きである。


「おい、こら、ディアス。宗教嫌がってたヤツが、真剣に祈ってんじゃねぇよ」


 ちなみに、ディアスだけ真面目に『二拝二拍一拝』の作法を守っていたりする。言ってる事とやってる事が違うので、シモヘイのツッコミも尤もなのだが、ディアスはそんな事気にしない。


「後は、おみくじでも引いてから帰るか。親が『初日の出見に行こう』とか言ってるんで、早く寝ないと」


 と、シモヘイは、社務所におみくじ用意してたっけ? と、ちょっと悩んでしまった。

 その辺は例によって、大工仕事で貢献出来なかった猟師達の仕事になっていたので、どの程度の物が用意されているのか、微妙に分からないところである。ちなみに、『破魔矢』だけは絶対に外せない。とか言っていたらしいが。


「あ。ディアス君達だ。お~い、あけおめだよ~」


 と、ディアス達を見つけたジェーンが、とてとてと走り寄って来る。

 着慣れない巫女装束で、背中に箱を背負い、両手でみくじ筒を抱えながら走ってくる様は、今にも転びそうでちょっと危なっかしい。が、それが保護欲をくすぐり、微妙な可愛さを醸し出していた。

 その所為か、ジェーンのおみくじは売れている様である。……後で聞いた話だが。


「おう、あけおめ。丁度良いところへ。シモヘイ、おみくじが向こうから遣って来たぞ」

「何? シモヘイ君、引くの? それじゃ、1回100円だよ!」


 シモヘイから100円を受け取り、はい! と、代わりにみくじ筒を渡すジェーン。

 シモヘイがガチャガチャとみくじ筒を振っている間にも、


「巫女装束、結構似合ってるな。可愛い。可愛い」

「『馬子にも衣装』じゃのぅ」


 と、ディアスとヤマカンに褒められ、満更でもない様子のジェーン。ちなみに、『馬子にも衣装』は褒め言葉では無いが。


「ジェーン。47番、って出た」

「は~い。かむぞう、47番取って」


 シモヘイが出て来たみくじ竹を見せると、ジェーンはペットのエゾオコジョに、背負った箱の中から47番の籤を取って来させる。

 その中身は……


 小吉

 学業:ゲームやってないで勉強しろよ!

 金運:課金アイテムは正義!

 恋愛:VRで恋愛とかwww

 健康:ゲームのし過ぎで運動不足じゃね?


「誰だ! これ書いたのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


 誰がどんなつもりで書いたのかは知らないが、確かに酷い。沢山書いている内に、面倒臭くなったんじゃないだろうか。と、ディアスは思う。

 周りからはシモヘイと同じ様なツッコミの叫びは聞こえて来ないので、全部が全部こんなのでは無いのだろう。


「こら。こんな所で大声上げたら、周りの人に迷惑ですよ」

「あ、ハイ。スミマセン……」


 通りすがりの巫女さんに注意され、ペコペコと頭を下げるシモヘイ。


「って、ウナルルじゃねぇか。アイヌ民族が神道の巫女さんやって良いのかよ?」

「これはリアルの神道じゃ無いから、大丈夫ですよ。『本殿』にもエゾヒグマの頭蓋骨を置かせてもらいましたし」


 かなりチャンポンな宗教観になっている様である。

 だが、何にせよ滅茶苦茶な事には変わりなく、こんな事ばっかりやってて、ウナルルの本来の目的である『アイヌ文化の体験レポート』が書けるのか、甚だ疑問である。


「それに、この巫女装束も、アイヌらしくアレンジしてるんですよ。似合います?」


 似合うかどうか、で言えば、黒髪美人に和服は恐ろしく似合う。そんな美人さんと話しているだけで、羨ましそうな、嫉妬の篭った視線が集まり、非常に鬱陶しい。

 ちなみに、アレンジについては、言われなければ判らない程度である。元々巫女装束には規定が無い事もあるが。

 一応、アイヌの伝統衣装にある、四角いパターンのアップリケや刺繍が施されている様だが、あまり派手に目立たせず、巫女装束の雰囲気を壊さない範囲に留められていた。


「似合っては、いるが……。何か、益々似非アイヌ、って感じが……」

「手に持ってるのも、御幣(ごへい)祓串(はらえぐし)じゃ無くて、イナウか……」


 その無理矢理混ぜた感じが、フィクションに出て来るオリジナル宗教っぽくなり、見れば見る程、コスプレに見えて来る。

 だが、本人が満足している様なので、あまり深く突っ込まないで置こう。と思うディアス達であった。


「そう言や、ウチの妹、ドロレスは一緒じゃ無かったんかいのぅ?」

「ドロレスさんなら、あちらで甘酒配ってますよ」


 と、ウナルルは社務所の脇に出来た人だかりの方を指した。ドロレスはその中心で、ニコニコと微笑みながら甘酒を振舞っている。

 金髪に巫女装束はあまり似合っておらず、そこにウナルルが並ぶとバランスが悪いので、2人は同じパーティーでありながら、別行動を取っていた。


 ドロレスは結局、ディアス達のパーティーには入らなかった。リアル兄妹が同じパーティーに居ると、ついうっかり個人情報が会話の端々に混じる恐れがあるからだ。

 そんな事情もあり、4ヶ月以上プレイしていながら未だパーティーが見つからず、寂しくソロ・プレイしていたウナルルに押し付けたのであった。

 結果的には、それなりに仲良くやっている様である。……ドロレスは、アイヌ民族プレイには染まらなかった様だが。


「んじゃ、ワシゃ甘酒飲んでから抜けるぞい」


 と、ヤマカンはパーティー離脱。


「あ、やべ。俺もとっとと寝ないと不味いんだった」


 シモヘイも慌ててダイブ・アウトしようとする。……が、その前に、


「まだ、バロウズに挨拶してなかった。あいつ、神主やる、って話だったよな? 何処行ったんだ?」


 猟師プレイヤーのまとめ役には挨拶してから抜けよう。と、シモヘイは思い直す。しかし、そのバロウズが何処に居るのやら。神主って、初詣の時は何してるんだっけ? と首を傾げる。


「……ああ、バロウズさんでしたら……」


 ウナルルは言い淀み、ジェーンも何やら苦笑している。




 その頃、『本殿』にて。


「神主って、何すりゃ、神主なんだろう……?」


 今回の大出費の埋め合わせのため、バロウズは有料で厄払いやってたりしたのだが、それがGMに咎められ、現在、行動制限ペナルティ中。


 MMOを宗教活動に利用する事は、ユーザー規定で禁じられています。


 場合によっては、『アカウント抹消』もありえるので、注意しましょう。

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