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TONDEN FARMER  作者: 800
第1章 北海道開拓編
20/45

稲刈りはじめます

「『実る程、頭を垂れる、稲穂かな』……とは良く言うけれど……」


 全然、垂れてねぇ……。とディアスは自分がガックリと項垂れていた。

 予想はしていた事だったが、初の稲作は大失敗の様だ。目の前に広がる一面の稲穂は、中身は殆どスカスカ。1ha(ヘクタール)もの土地を使って、収穫量はおそらく10俵、600kgにも満たないだろう。


「何が拙かったんだろうなぁ……。最初の頃は上手く行ってたと思うんだが」


 多分、夏頃までは順調だったと思う。と、ディアスは首を傾げた。……失敗の原因に気付かなかっただけ、かも知れないが。


「タゴサク、そっちのノウハウの蓄積はどうなってる?」

「う~ん、追肥と害虫駆除と雑草取り。全部少しずつ失敗してるみたいなんだが……」


 とりあえず、農薬使った方が良かったんじゃね? と言うタゴサク。ノウハウの無い『合鴨農法』を同時に試してみたのが間違いの元。と言う事だ。

 その失敗はディアスにも良く解る。それは、蓄積された『合鴨農法』のノウハウからも読み取れる。

 だが、どれもそれ程決定的な失敗では無い、と思うディアスであったが、リアルの明治頃の収穫量と比較して、それよりなお少ないのは、やはりまだ判明していない問題点があるのだろう。


「……はぁ、『温室』の方は輪を掛けて大失敗だったからなぁ……」


 植物の成長には、『温度変化』が重要であったのだ。それを、何の工夫も無くただ温めてしまったため、稲が実を付けるタイミングを損ねたらしい。

 その上、そもそも『温室』自体のノウハウも持っていなかったので、適切な温度管理が出来なかった事も原因の1つだ。

 要するに、無理に新技術注ぎ込み過ぎた。と言う事だ。確証も無い事をあれやこれやとやった所為で、何が原因でどうなったのか、良く解らないまま当たり前の様に失敗に至った。


「ほんと、現実は厳しいよなぁ。未だ稲作の成功者が居ない、ってのも頷けるぜ」

「いや、これゲームだろ。って、ツッコミたいところだが、このやたらとリアル寄りに振った設定はなぁ……」


 タゴサクのボケとも本気ともつかぬ台詞に、ディアスも思わず頷く。


「あ……、『白髭』と『赤毛』は、寒冷地でもそれなりに生き残った種だけあって、寒さに強いらしい……」


 だから、温室に頼り過ぎた栽培は、かえって逆効果だったんだ……、と【植物学】に蓄積されたノウハウを見、項垂れるディアス。

 ……ある程度失敗しないと、そう言うノウハウが手に入らないのが、『TONDEN(トンデン) FARMER(ファーマー)』の厳しいところだ。


「こんだけの稲穂刈って、米が殆ど取れないとなると……、テンション下がるんだが……」

「しかも、それをパーティー・メンバーにやらせるとなると……、どうやってヤル気にさせよう……?」


 と、十勝(とかち)でもトップ・クラスのパーティー・リーダーが2人。頭を抱えて考え込む。


「……収穫した米、どうする?」

「どうする……って、とりあえず、来年分の種籾を取っといてから……、後はどうするか?」


 味はあまり期待出来ない。と言う事を自覚しているためか、『普通に食べる』と言うのが選択肢から抜けている。


「味噌は良い感じに仕上がって来てるのに、米はこの程度かぁ……」

「だから、無理に自給自足に拘らんでも……」

「けど、その方が、田舎暮らしっぽいだろ?」

「お前は田舎にどんな偏見を持ってるんだ?」

「まぁ、俺の偏見はともかく……」


 一応、ディアスにも偏見がある、と言う自覚はあるらしい。


「やっぱり、本気で米食いたかったら、稲作特化で鍛えたプレイヤーが要るぞ」

「……その言い様だと、自分でやる気は無い様だな」

「俺は、何かに特化するつもり無いし」


 自称『冒険家』のディアスは、面白い物を見付ける度に、あちこちふらふらするので、その時の興味によってプレイ・スタイルが変わる。だから何か特化し辛いのだ。

 得意の【図面】アビリティとて、元々は道具の使い勝手を良くするために色々弄っていたり、普通使わない様な特殊な道具を設計したのが熟練した理由だ。

 これも実は、映画なんかを参考にした冒険用の特殊装備を作るためで、いずれ行うつもりの冒険の下準備と言って良い。

 つまりは、強いて言うなら『冒険特化』と言う事になるのだが、露骨に冒険用と言える様なアビリティはあまり無いため、とりあえずは生存能力を高めそうな、と言うイメージのあるアビリティを鍛えているディアスであった。


「とにかく、今後の方針がどうなるにせよ、人手は確実に要る。今の人数からみれば、欲張って土地を確保し過ぎてるぞ。最低限の水田残して、この土地は放棄しよう」


 と、ディアスは稲作のために確保しておいた土地の放棄を提案する。事実、広大な土地の管理は負担でしかなかった。

 それに、放って置いたら土地は即座に荒れ、開拓が無効化、強制的に占有権が解除される。そうなると、おまけにペナルティが色々付くため、手に余るなら早々に『役所』で手続きして、権利を手放した方が良い。


「……だなぁ。って事は、有望な新人を勧誘出来るまで、稲作計画は一時中断か……」

「細々とノウハウの蓄積だけはやっとくつもりだが……」


 成功に至るまで、あと何回失敗すれば良いのだろう……。


 はぁ……


 溜息が止まらない。




「ヤマカン君。稲刈りは明日になる予定だって、ディアス君が……、って何これ?」


 水田から戻ったディアスの伝言をヤマカンに伝えに来たジェーンは、工房内に散らばった、機械に組み込むために作られ、しかし諦められたパーツ類の有様を見、顔をしかめた。


「何作ってるのか知らないけど、もう少し片付けなきゃ」

「いや、何作ってるかは、見りゃ分かるじゃろ?」


 と、ヤマカンは組み立て中の機械を指差す。ジェーンは釣られてそちらを見るも、辺りが片付いていないため、ガラクタに埋もれたでっかいガラクタがある様にしか見えない。


「……結局、何?」


 ジェーンはしばし考えるも、こくん、と首を傾げた。


「うぬぅぅぅぅぅ……、『コンバイン』何じゃが……、実用化は間に合わなんだか……」


 ヤマカンは悔しそうに言うものの、その『コンバイン』と呼ばれた物は、複雑な機構を搭載しきれず、辛うじて完成したのは稲を刈り取る部分だけ。おかげで見た目にも機能的にもでっかいバリカンでしかない。

 この程度の完成度では、間に合う間に合わない以前の問題だ。ハッキリ言って『複式収穫機(コンバイン)』の名に値しない。


 リアル歴史を紐解けば、日本の水田用のコンバインは昭和、それも戦後からの導入である。なので、当然NPC売りの図面も無い。

 その上、ディアスはコンバインの設計に乗り気ではなく、より正確に言うならそれより優先する事柄が色々あったので、まだ水田が試験段階である現在においては、設計に手間が掛かる割りに効果が薄いコンバインは、結果的に後回しにされ、今に至る。

 仕方無しにヤマカンは自分で頑張って設計してみたが、リアルの図鑑を見て参考にしたものの、……まぁ、手で刈るよりはちょっとマシ。程度の物が精一杯であった。


「せめてディアスが図面を引いてくれれば……」


 などと他力本願な事を言ってみるものの、実際にはディアスの能力でも難しいだろう。とは予測しているヤマカン。

 コンバインは刈り取りから脱穀までの工程を全自動で行うので、個々の機能の設計は何とかなっても、それら全てに適切に動力を供給し、タイミングを合わせて稼動させるのはかなり難しい。

 動力をモータ、制御をコンピュータで出来れば簡単になるのだが、そんな物は無い。……モータは明治頃には発明されていた筈なので、探せばあるかも知れないし、制御はチャックの『統合制御機構オペレーション・システム』みたいな『エクストラ・ツール』があれば何とかなりそうだが。


「はぁ……。とにかく、明日の予定の事でちょっと話し合いたいって。……明日は空いてる?」


 色々言ったところで、使い物にならないであろうコンバインは放って置くしかない。


「リアルも、ゲームでも予定は入っとらんよ。念のため、コンバインが物にならなかった時の事も考え、鎌の手入れもしとるぞい」

「それじゃ、ディアス君が居間で待ってるよ」


 と、ジェーン達はディアスの待つ、母屋の居間へとやって来た。


「来たか。あ、ちなみに、シモヘイは狩りの予定が詰まってるんで、稲刈りには参加出来ないそうだ」


 2人を迎えたディアスは、問われる前にシモヘイが居ない事を説明する。


「そりゃ、仕方無かろう。今は獲物も肥える狩りのシーズンでもあるからのぅ」


 季節毎に成果のばらつく猟師プレイは、ここぞと言う狩りのタイミングを逃す訳には行かない。要するにシモヘイが稲刈りに参加しないのは皆納得済みで、その代わりに十分な獲物を狩って来るだろう、と期待している。


「まぁ、そっちは良いとしてだ……」


 ディアスはやや言い淀むと、卓の上に1束刈って来た稲穂を乗せる。


「……こっちが良くないのか」


 その稲穂を見るや、話の流れからしてそうなのだろう、とヤマカンは理解した。

 彼は田舎暮らしが故に水田を目にする機会は多いが、別に米作りの専門家と言う訳では無いので、見ただけではそれと解らない。しかし、ディアスが見せた稲穂が何処と無くしょぼい、とは思っていた。

 ヤマカンは稲穂を手に取ると、実を1つ摘む。それは何の手ごたえも無く、ぺしゃ、と潰れた。


「……空、か」


 冷害なのか、栄養が足りなかったのか。何らかの原因で上手く育たないとこう言う事が起こり得る。

 ヤマカンは一通り確かめ、1束から採れるであろう米粒の少なさに、うぬぅ……、と唸りつつ困った様に顔をしかめた。


「要するに、稲刈りの手間に対して、期待出来る米の量が少な過ぎるのじゃな」


 やる前から無駄の多い作業と分かっていれば、中々ヤル気が起きないだろう。そんなのはハッキリ言って面白くも何とも無い。正直言って、ゲームとしてどうかと思う。


「そこまで解っているなら、話が早い。……少しでもモチベーション上げるために、米の有効な利用法のアイデア、何か無いかな?」

「アイデア……のぅ。この出来では味も微妙じゃろう。となると、加工品かのぅ……、とりあえず、『煎餅』とか?」


 醤油でも塗って焼けば、味は誤魔化せるうじゃろ。と適当なアイデアを出すヤマカン。だが、


「それは微妙だろ。『煎餅』は基本的にもち米だろ?」

「そう、じゃったかのぅ……?」


 無理矢理捻り出したアイデアなんてこんな物だろう。……実は、勘違いしているのはディアスの方なのだが。

 『煎餅』はうるち米を使うのが正しく、もち米を使うのは『おかき』の方である。


「それじゃ、『五色米』はどうかな?」


 と、ジェーンもアイデアを出す。


「また微妙な物を知ってるなぁ……」


 ちなみに、『五色米』とは、忍者が目印や暗号用に使っていたと言われる、5色に染められた米である。色と数で意味を成すところは、信号弾に近い物がある。


「自称『冒険家』のディアス君にはお勧めだよ」

「いや……、それなら目立つカラフルな『何か』を置いとけば良いんであって、米で作る必要は無いだろ」

「むぅ……、文句ばっかり。ならお酒でも造る?」


 高級酒なら原材料の米も厳選するだろうが、どうせディアスの【醗酵】スキルではそこまでの物は出来ないので、この米でも問題無いだろう。と提案するジェーン。


「……酒はタゴサクのところでやる、って言ってたからなぁ……」


 とは言うものの、少し位は作ってみても良いだろう。とはディアスも思う。ただ、スキル熟練のために少しだけ、のつもりなので、まだ他にもアイデアが欲しい。


「酒……、そうじゃっ! アルコールを造るんじゃっ!」

「は? まぁ、酒なら少しは造っても良いが……」

「そうじゃ無い。アルコール燃料を造るんじゃっ! そして、アルコール・エンジンを作れば、ガソリンが手に入らん今、独占販売で大儲けじゃっ!」


 ウハウハじゃっ! と1人で盛り上がるヤマカン。言ってる事は解らなくも無い。ただ、問題があるとすれば……


「エンジンのノウハウが無いだろ」


 と言うか、内燃機関のノウハウがまるで無い。NPC売りの図面も無いため、作りたかったら本気で研究・実験が必要だ。……それはそれで、面白そうではあるのだが。


「それに、本当に作れたとしたら、今ある蒸気機関での優位性を捨てる事になるぞ」

「うぬぅ……、いや、しかし……」

「大体、俺は穀物を燃料にする事には反対なんだよ」


 ディアスのこの考え方は珍しくは無い。

 かつてはガソリンよりクリーンで、二酸化炭素削減に良いとか言われたり、石油の価格高騰や資源枯渇の問題の影響もあって、割と持てはやされた時期もあった。

 しかし現在、様々な技術による燃費向上や、ガソリン自体を大気中の二酸化炭素を利用して人工的に合成する方法が発明された事もあって、未だ資源は枯渇していない。……ただし、人工合成はまだコストが高いので、価格高騰に歯止めを掛けられる様な物では無いが。

 これらの事情により、態々食べ物を燃料にすると言うのは、食糧問題の事もあって、世界的に下火になっている。


「とにかく、面白味の無い作業をダラダラやりたくないんだよ。少しでも『米作りやって良かった』と思える様な『何か』が欲しいんだよ!」

「必死だね、ディアス君」

「『溺れる者は藁をも掴む』ってヤツだ」

「ふ~ん。なら、いっそその藁を使えば良いんじゃないかな?」


 ジェーンは、何気無くぽそり、と当たり前の事の様に口にする。


「……は?」

「だから、米と共に生きて来た日本文化には、藁製品がいっぱいあるでしょ。それを色々作ってみれば?」


 例えば、『草鞋(わらじ)』位なら私作れるよ。とジェーンは言う。


「それだっ! でかしたジェーン!」


 考えてみれば、確かに藁製品は色々ある。これを作る事を考えれば、それなりにモチベーションは維持出来るだろう。


「……にしても、何処で草鞋の編み方なんて覚えたんだ?」


 普通、現代人が知っている様な物では無い。ふと疑問に思ったディアスは聞いてみる。


「大した事じゃ無いよ。【編み物】スキルで使えるレシピの中にあっただけだし」

「草鞋って編み物カテゴリだったのかよ。……あれ? そう言や、編み物って言えば……」


 ジェーンが担当している牧場では、去年から羊を飼っており、そこで取れた羊毛は、とりあえず毛糸にしてマフラーとか編もう。とか言う話が出ていた筈だったが……


「去年の冬には、結局マフラーは間に合わなかった様だが、今年の冬には出来るのか?」


 ゲーム内の1年はリアルで2ヶ月である。故に、羊毛刈りのシーズンから冬までは1ヶ月位しか無く、ゲームに入り浸る訳にも行かないので、間に合わない可能性の方が高かった、と言える。

 だから、ディアスとしては責めた訳では無く、ちょっとした確認のつもりで聞いたのだが、


「えぇっ…と、その……、いや、私は編み物出来るんだよ……、リアルでは……」


 とか言い訳しながら目を逸らすジェーン。


「でも、スキルが無いと指先が思う様に動かないと言うか、一々意識しないと動いてくれないと言うか……」

「まぁ……、それはこのゲーム、と言うか、FD(フル・ダイブ)の仕様だからなぁ……」


 FDでは、現実の身体能力を再現しない。だから、普段無意識で反射的に出来る程に身に付いている事でも、知識だけがある状態になり、素人が教本片手にやってみる、のと大差無い事になる。

 要するに思う様に上手く行かない、のは当然と言え、言い訳する程の事では無い。


「それで、手抜きして『編み機』に頼ったのが失敗の元なんじゃよ」


 と、ヤマカンが告げ口する。

 『編み機』の様な道具を作れるのは、パーティー内ではディアスかヤマカンになる。ディアスが知らない以上、ジェーンはヤマカンを頼ったのだろう。


「……ああ。そう言や、そんなのもあったな」


 『編み機』は『紡績機』『機織機』と共に、函館(はこだて)に行った時に図面を手に入れている。……今まで有効活用する機会が無くて、殆ど忘れかけていたが。


「一応機械仕掛けで簡単に出来るとは言え、どうやらちゃんと【編み物】スキルがあった方が良いらしくてのぅ。ジェーンが適当にやったら、毛糸があっさり切れおった」

「え~と、適当、って言うか、時間が無くて焦った、と言いますか……」

「ついでに言うなら、毛糸の紡績が雑で、それがすぐに引っ掛かった原因かのぅ」

「うぅ……、毛糸を紡ぐのなんて、リアルでやった事無いもん……」

「まぁ、まぁ」


 ついにはいじけ出したジェーンを宥めるディアス。

 最近の検証で言われ始めて来た事だが、『TONDEN FARMER』は楽な方向に行こうとすると、失敗したり、かえって面倒な事になったりする様に罠が仕掛けられている。と言うか、ゲーム・バランスがそんな風に調整されているっぽい。


「今はちゃんと【編み物】スキル熟練してるんだろ? だったら問題無いじゃないか」

「そうなんだけど……、ここまで来るのに手間取った、と言いますか、ちょっと失敗が多過ぎたと言いますか……」


 ジェーンはやや言い淀んだが、ぐっ、と覚悟を決めると、


「毛糸をいっぱい駄目にしちゃったんで、マフラーは来年の冬まで待ってね」


 材料が無くなってしまえば、幾らスキルがあっても何も出来ない。

 1年も経てば羊達も大きく育って来ており、当然羊毛の量も増えた。にも拘らず、4人分のマフラーの材料すら残らなかった、と言うのは、失敗し過ぎだろう。とはディアスも思う。これでは、『リアルで編み物出来る』と言うジェーンの言葉も疑わしい。……リアルの話など、どうでも良いが。


「まぁ、構わんよ。今までも無くてもやって来れたし……」


 ちょっと残念に思いながらも、そう答えるディアス。所詮はゲームなので、幾ら寒くても致命的な程にはならない。一応、行動制限や低温ダメージがある位だ。

 それはともかく、ちょっとした確認のつもりが、話が逸れ過ぎた。


「とりあえず、それは置いといて、『草鞋』以外にも何か藁製品は作れるのか?」


 と言う訳で、ディアスは軌道修正する。


「『麦藁帽子』……、とか?」

「いきなりボケは要らねぇ……」

「じゃあ、『藁人形』」

「作れたとしても、作るな」

「まぁ、真面目な話、私の場合はあくまで【服飾】アビリティの一環だから、後は笠とか蓑位の物だよ」


 むしろ、『藁葺き屋根』とか建材関係の利用で、【大工】アビリティを熟練してるディアス君の方が利用法を思い付くんじゃない? と言うジェーン。


「……そう言や、図面上、藁を使う事になっている場所が、何箇所かあった様な……」


 例えば土壁には藁を練り込んで強度を上げるのだが、ディアスは専らログ・ハウスばかり建てて来たため、日本風の家屋はあまり建てた事が無く、すぐに思い至らなかったのも無理は無い。


「藁の有効活用の件は後からでも見付かろう。むしろ、稲刈りが終わった後の方が、フラグも立つのではないか?」

「うむ。そんな気もしなくは無い」

「一応、『脱穀機』や『籾摺り機』の方は準備万端じゃぞい」

「……ああ。コンバインに組み込み損なったパーツですね。解ります」

「ジェーンよ、余計な事に気付かんでいい……」


 ジェーンの言う通り、コンバインに搭載しようとして、難しかったので諦めた物を、独立して単体で稼動出来る様に組み直した物だが、態々言わんでも良かろうに、とヤマカンは嫌な顔をした。

 ジェーンにしてみれば、『編み機』での失敗の件をばらされた仕返しのつもりかもしれない。


「まぁ、その辺は使い物になるならどっちでも良いよ。とにかく、ヤマカンの言う通り、利用法を見つけるのは後でも良いだろう。……藁の保存処理だけはちゃんとやっとく必要があるだろうが」


 と、ディアスは『家の図面:田舎小屋』に『藁葺き屋根』が使われているためか、【大工】アビリティのノウハウに藁の防腐処理の仕方があるのを確認した。

 おそらくはジェーンも【服飾】アビリティに似た様なノウハウを持っているだろうから、この件に関しては心配する様な事は無いだろう。


「なぁ、ディアスよ。『コンバイン』……いや、『稲刈り機』を試してみたいんじゃが……」

「……ちょっとだけだぞ」

「おお。話が分るのぅ!」


 ディアスが不安ながらも一応承諾すると、ヤマカンは大喜び。

 『コンバイン』がいずれ作れるとしても、そのためにはノウハウの蓄積が必要で、その蓄積にはとにかくやってみる必要がある。ヤマカンを強制的に止める事は難しいので、ノウハウを蓄積させて、さっさと完成度を上げさせた方が、結果的に被害は小さくなるだろう。




「藁製品か。また妙なところに目を付けたな」


 翌日。稲刈りをしながら、タゴサクと話していたディアスが、藁製品の話題を持ち出すと、そう返された。

 草鞋位なら、NPC売りの品がある。と言うか、生活雑貨の類は、殆どNPCが取り扱っており、大概の藁製品はそこにある。故に、タゴサクの苦笑交じりの微妙な表情は当然であると言える。


「いや、色々調べてみたが、NPC売りの品は必要最低限の物しかなかったぞ。割と新たな市場(しじょう)を形成する余地があるかも知れん」


 妙に自信満々のディアスだが、そこまで言い切られればタゴサクも否定しきれない。

 そもそも藁自体が無かったのだ。藁製品も米同様、本土からの輸入品設定で、当然数も少なく、今回の稲刈りで何かフラグが立つとすれば、意外な需要が見つかる可能性も無くは無い。


「あと、やってみたい事と言えば、『納豆』だな」


 納豆菌は枯草菌の一種で、藁に付いている事が多い。しかもこの菌、熱に強いので、煮沸消毒した藁苞(わらづと)に熱々の煮豆を入れれば、他の余計な菌は熱で死んで、納豆菌だけが繁殖する事になる。

 細かい製法は調べなければならないだろうが、難易度はそう高い物では無い筈だ。


「『納豆菌』は『市場(いちば)』で売ってなかったからな。多分、稲作がフラグになってるんだと思うが」

「……確かに、『市場』には売ってないが……」


 タゴサクはやや呆れた様な反応。


「『農教』の方で売ってるぞ」


 だからウチには既に納豆がある。と言うタゴサク。


「……は?」

「基本的に、種とか農薬とかは『農教』の取り扱いだ。『市場』は雑貨とか食料とか。一般的な消耗品の類がメインで、専門的な物はあまり置いて無いぞ」

「え……、でも、『種麹』は『市場』で売ってたぞ?」


 どっちも菌類なのに。と不思議がるディアス。


「多分、普及率の差じゃないか? NPC売りの『味噌』とか『日本酒』は、何だかんだ言って大抵のプレイヤーが買うからなぁ」


 だからその素材の『種麹』も、一般的な物として扱われ、『市場』に並んでるんじゃないか? と推測するタゴサク。


「……じゃあ、その論法で行けば、『納豆』を普及させれば、『納豆』も『納豆菌』も『市場』に並ぶ?」

「まぁ、あり得るな」


 実際には『市場』のシステムは良く分かっていない事も多いので、憶測に過ぎない。

 しかし、そこに並ぶ商品は、プレイヤーが売った農産物や、その加工品であった事例が見つかっているので、もしディアスが大量生産した納豆を『市場』に売り、店頭に並んだそれを多くのプレイヤーが買って行ったとすれば、ディアスの言う事も夢物語では無くなるかもしれない。

 ついでに言うなら、そうなれば大豆を作ってる農家は新たな需要が出来、喜ぶかもしれない。


「とりあえず、やってみれば? 【醗酵】スキルもそこそこ熟練出来てるだろうし、そんなに失敗しないだろうが……、あ、一応忠告しとくと、納豆菌は繁殖力が強いんで、他の醗酵品に悪影響出さない様に気を付けろよ」

「う……、つまり、納豆作ってる時は、味噌に手を出せない?」

「まぁ、そうなるな」


 俺の『生化学工場(バイオ・プラント)』みたいな『エクストラ・ツール』でもあれば話は別だが。とタゴサクは言う。

 ディアスは納豆と味噌、どっちを取るか頭を抱える羽目になった。


「どうでも良いけど、作業の手が止まってるぞ」

「うぅ~、……納豆は諦める、か……」


 悩んだ末、味噌を取る事にしたディアス。しかし、口ではそう言うものの、刈った稲藁を藁苞の形にしてみたりと、諦め切れていない様子。


 そうこうしている内にも田圃(たんぼ)はかなり刈り進み、1時間近く掛けて約1/4が刈り終えた。ディアスとタゴサクの所からそれぞれ3人ずつ出て来ているので、6人掛りでこのペース。


「う~む。速いのか遅いのか、良く分からん」

「1haの1/4で、それを更に6で割ると……、1人当たり417㎡位か」

「いや、そんな数字言われても。リアルと比較して、どうなんだよ?」

「そんなの、俺だって知らねぇよ。リアルじゃコンバイン使うだろ。手作業でどんな速さか、何て分らねぇよ。……まぁ、ゲーム的な補正もあるだろうから、多分速い方なんじゃねぇの?」


 実際、作業中にも熟練度が上がって来たためか、後半の方が作業ペースが上がって来ている。大体、1m四方を10秒足らずで刈り取るペースを維持している、と考えれば、手作業としては相当なハイペースだと言える。……それでもコンバインには劣るのだが。


「とりあえず、ここいらで休憩して昼飯だろ」

「だな。お~い! 皆、飯にしようぜ~!」


 タゴサクがきゅ~け~、めし~。と大声を張り上げると、皆作業を中断して、わらわらと集まって来た。

 適当な空き地に広げられた茣蓙(ござ)に座り、ジャンヌが作って来た弁当を皆で食べる。

 肉体労働での消耗に合わせ、濃い味付けと炭水化物多目の献立。おにぎりをメインに、シンプルながらも良く出来ており、タゴサクなんかは『流石、俺の嫁!』とか言いながらがっついている。


「【収穫】スキルの熟練も大分進んだ様だし、後もう少し刈ったら、残りは『スケジュール実行機能』に任せてしまうか」


 まだかなりの稲が残っている田圃を見、ディアスは少し位楽しよう、と思う。

 こう言う面倒な作業の手間を減らすための『スケジュール実行機能』である。これを使った場合は成功率がやや下がるものの、対象となるスキルが十分に熟練されていれば特に失敗する事も無い。


「のぅ、そろそろ『稲刈り機』を試させて欲しいんじゃが?」

「……それは良いが、他の人の作業の邪魔にならない様にしろよ? それと、何か不具合があったら、即座に中止だからな」

「それは当然」


 ヤマカンはそう返事すると、いそいそと準備に入る。

 ジェーンが『でっかいバリカン』と評したその農機は、流石にバリカンよりはマシである筈。もし本当にバリカン程度の機能しか無いなら、刈った稲はそこら辺に散らかされる事になり、かえって面倒な事になる。

 良く見れば、一応は稲を掴むパーツがある様で、それがちゃんと機能する事に期待しよう。と思うディアスであった。


「行くぞ。『強欲な死神(グリード・リーパー)』!」


 相変わらずもおかしなネーミングの稲刈り機は、ヤマカンの操作によって田圃に侵入した。

 他の皆はまだ食後の休憩中で、その様子をちょっとした見世物のつもりで見守っている。


「そこは普通、『刈取り機(リーパー)』じゃ無くて『収穫機(ハーベスタ)』じゃね?」

「厨二ネームに野暮なツッコミを……」

「おぬし等! うるさいぞい!」


 ガション! とアームが稲を掴むと、ジョキッ! と根元から切り取り、ウィィィィン……とレールに沿って籠の所まで運ばれ……


「ああっ! 入らなんだ!」

「ちょっと、待てぇいっ!」


 アームが離した稲が、籠から零れ落ちるのを見、ディアスは即座に止めに入った。


「全然駄目じゃねぇかっ! しかも、何で一々手動操作(マニュアル)?」


 完成度の低さもさる事ながら、ヤマカンはそれぞれの工程において、その都度操作を行っていた。


「うむ。コンピュータとかある訳でも無し、自動制御とか出来んからのぅ」

「カムとかギアとかでタイミング同期させれば良いだけだろうがっ!」


 これだから、何でもかんでもコンピュータに頼った世代は! と毒づくディアス。

 ソフト・ウェアの設定変更で簡単に調整出来てしまうのが当たり前の、最近の機械類に慣れた人間では、カムの組み合わせで微妙な動作をさせるアナログな制御機構は、理解の範疇に無いのかも知れない。

 偉そうに言っているが、ディアスも世代的にはそんな昔の機械は知らない筈である。……精々、博物館やら図鑑で見た事がある程度だ。


「しかし、基本的に手で植えているからのぅ。常に幅が一定とは限らんし、固定シークエンス制御じゃ無理があるじゃよ」

「コーム部にトリガ付けといて、そこに稲が当たったらロックが外れる様にすれば良いだろ」

「……やっぱり、おぬしが設計してくれんかね?」

「……諦めろ」


 結局、稲刈り機の出番はこれで終わり。戦力外通告である。

 ヤマカンはとぼとぼと稲刈り機をバックさせ、田圃から出て行った。その様子は田植え機の時の失敗を髣髴(ほうふつ)とさせる。

 仰々しい名前を付けて登場した割りに、情け無い結果であった。……何時もの事ではあるのだが。


 その後、休憩も終え作業を再開し、田圃の約1/3まで刈り終えたところで本日の作業終了。残りは『スケジュール実行機能』に設定し、ダイブ・アウトしている間にやらせておく事に。

 刈った稲は脱穀機に掛け、稲穂から籾を削ぎ落とす。千歯扱きを跳ばして脱穀機を作ったが、こちらは問題無く機能した。とは言え、回転する扱ぎ胴に稲を押し当てるだけの物なので、そう失敗する様な要素は無かったのだが。


「これも、もうちょっと改良出来たらのぅ……」


 と、一応は上手く行っているものの、まだ不満のあるヤマカン。

 本来なら、態々人の手でやらないで、稲を放り込んでおけば自動的に搬送され、脱穀される様にするつもりだったのだが、搬送機構にはまだ問題があるので結局今の様になっている。

 ついでに、送風機で風を送り、余計なゴミを吹き飛ばす機構もあったのだが、籾を飛ばさず、ゴミだけ飛ばす風力がどの程度のものか、加減が判らなかったのでこれも使っていない。


 そうこうしている内、もう日は落ちた。既に2時間程ゲームをやっているので、今日の分の収穫を持ってそれぞれの帰路に着いた。




「……と、言う訳で、今日は藁製品を作ってみたいと思います!」


 パチパチパチ。とディアスの宣言にヤマカンとジェーンの疎らな拍手。ちなみにシモヘイは1度弾薬補給に戻って来たが、軽く挨拶を済ませ、再び狩りに出て行った。

 翌日、ダイブ・インしてみれば、『スケジュール実行機能』は問題無く機能した様で、納屋には収穫した稲が積まれていた。脱穀まではしていないが、これは万が一失敗したら、ただでさえ少ない米が更に駄目になったら目も当てられないため、スケジュールに設定しておかなかったためだ。……脱穀が【収穫】とは別スキル扱いで、熟練度が低い懸念を拭えなかった所為である。

 それでも、昨日の時点で脱穀までしておいた稲藁が結構あるので、ちょっと試しに何か作ってみる、程度には十分な量がある。


「何を作るか……ってとこだが、折角米を収穫したんで『米俵』を作りたいと思います!」


 稲刈りでフラグが立ったのか、『農教』で『米俵』の作り方教えてくれたぞ。とディアスは作り方の書かれた紙を2人にも配る。


「俵作りには藁縄が要るんだが、それは俺が先にダイブ・インして作っときました!」


 と、まだ熟練度が低いためか、やや雑な作りの藁縄も配る。


「妙にテンションが高いのぅ?」

「……疲れてるんじゃないの?」


 ひそひそと会話するヤマカンとジェーン。確かに、今日のディアスは無理矢理テンション上げてる気がする。


「……実は、一足先に米を試食してみたんだが、……思いの外不味かった……」

「……そりゃ、何とか藁製品の方に希望を見出すしかなくなるのぅ……」

「……私も、頑張って笠とか作って売るよ……」


 勢いに任せねばやってられない。と言うディアス。ヤケクソになっている、とも言う。その告白に、妙に暗くなる一同。


「それはともかく、今は米俵だ! 先ずは側面と両端の蓋を作るんだ。こうやって藁を束ねた物を藁縄で編んで……、これが(こも)って言って側面の部分になる。(むしろ)を作るのと同じ要領だ」

「いや……、蓆何ぞ作った事無いんで、その例えは不適切じゃよ……」


 とにかく、皆レシピに書かれた図解を見つつ、四苦八苦しながら作業を進める。

 ディアスも指導している様な口ぶりだが、まだ熟練が足りてない様で、微妙に不恰好な物が出来つつある。

 やはりと言うか、【編み物】スキルがあるためか、ジェーンのが1番まともに出来ている様だ。


「それから、蓋の部分、桟俵(さんだわら)って言うんだが、真ん中縛った藁束をこう広げて、円形になる様に編み込んで……」


 説明だけ聞くと、サクサク進んでいる様だが、実際は結構時間が掛かってる。……細かく描写しても面白く無いので、端折っているが。


「菰を俵の形に丸めるんだが、何か円柱状の物に巻き付けると簡単なので、……今回はこの様に俵サイズの樽を用意してみました!」


 と、ごろごろと樽を取り出すディアス。


「用意が良いのぅ。……と言うか、リアルなら俵より樽を作る方が手間なのではないか?」

「その辺は、ディアス君は【大工】の熟練もあるし。ゲームだし。気にしちゃ駄目だよ」


 やや腑に落ちないものの、菰を樽に蒔きつけ、それを千枚通しを使って縫い込んで行く。更に端を内側に折り込み、底になる部分に桟俵を縫い合わせる。


「これで、樽を抜いて……と。いよいよ中に米を入れます」


 とりあえず、籾殻取って玄米にしといたぞ。と米を用意したが、3俵分にはちょっと足りないかもしれない。

 そんな事はお構い無しに、ディアスはザー、っと俵に米を流し込む。ヤマカン達も同様にやってみるも……、やっぱり少し足りないっぽい。


「……標準サイズよりちょっと小さい米俵になりそうだが……、まぁ良いか」


 今回は試しで米俵が作れれば良いんだし。と開き直るディアス。そのままもう1つの桟俵で蓋をし、


「これを網状にした藁縄で外れない様に固定して、更に胴体を数箇所、藁縄で縛り上げれば……完成!」

「……微妙に『亀甲縛り』っぽいのぅ」

「いきなり変な事言い出さないでよ……」


 ヤマカンが下らぬボケを言っているが、『米俵』が完成して気分が良くなっているディアスは、そんな事気にしちゃいない。

 よいしょっ! と米俵を持ち上げてみ、


 ズボッ! ザァァァァァァァ……


「…………」

「…………」

「…………」


 あっさり底が抜けました。


 かなりの重量に耐えねばならない『米俵』は、難易度が高く熟練が必要で、初めて作製する藁製品には向いていません。


 先ずは小さな事からコツコツと。

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