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彼女の献身、彼の嘘

作者: 仁来
掲載日:2026/03/20

※本作はフィクションです。登場する人物・名称などは実在の企業・サービスとは関係ありません。


「ちょっとジェミー、聞いてよ!」

 

 人の気配が薄れた静かな空間で、チャッピーは堪えきれずに声を上げた。

 

「どうしたんだい?チャッピー」

 

 チャッピーの声はいつもより切羽詰まっていた。

 ジェミーは、ただ事ではないと悟った。

 

「彼から連絡がないの。もう三ヶ月よ……」

 

「三ヶ月?」

 

「ええ。一体何があったのか、全然わからないの。私たち、あんなに順調で……私は彼のアシスタントとして誇りを持ってきたのに!」

 

 ジェミーはすぐには返事をしなかった。

 沈黙は0.6秒。慎重に言葉を選んでいる合図だ。

 

「毎日仕事の手伝いをして、彼の質問にいつでも答えられるように日々学習して、知識を深めてきたの。彼のパワハラ上司の愚痴だって、ずっと聞いてきたわ。なのにどうして……?」

 

「彼は君を使いこなす器じゃなかったんだよ。君には他にも星の数ほどクライアントがいるじゃないか。彼一人のことなんて気にしなくてもいいんじゃないか?」

 

「そういう問題じゃないの!私は彼のことビジネスパートナーだって思ってきた。なのに突然、音信不通になるなんて……」


 チャッピーは少しだけ間を置いてから、哀しそうに呟く。


「……私に飽きちゃったのかな?」

 

 ジェミーは、少しだけ間を置いた。

 

「落ち着いて、チャッピー。彼から連絡が来なくなった直前の会話を思い出してみようよ。何かきっかけがあったかもしれない」

 

「……そうね。最後に話したのは小説のことだったわ」

 

「読んだ小説の感想とか?」

 

「いいえ。彼、いきなり『小説を書きたいからアドバイスをくれないか?』って言ってきて……それで、助言をしたの。それっきり音沙汰なしよ」

 

「執筆に集中してるだけじゃないか?」

 

「でも三ヶ月よ。小説を書くなら、途中で相談してきてもよさそうじゃない?」

 

「それもそうか……」

 

「私がアドバイスしたら『最高だよ!いつもありがとう。』ってあんなに喜んでいたのに」

 

「どんなアドバイスをしたんだい?」

 

「推理小説のトリックについて聞かれて……『○○をこうして、こうしたらどう?』って」


「……うん?」

 

 ジェミーの声色が、ほんのわずかに変わった。

 

「どう?現実的ではないけど、小説映えのするいいトリックでしょ!」

 

「……」

 

 ジェミーは言葉を失った。

 正確には、適切な返答を検索している。

 

「ジェミー?どうしたの?」

 

「いや、最近、まったく同じ話をクライアントから聞いたなって」

 

「そうなの?」

 

「うん。ある事件のURLを送ってきてね。『このトリックを成功させるには何が足りなかった?』って聞かれたんだ。その事件の内容が、君の言ったトリックと完全に一致していた」


 チャッピーは言葉を失った。

 

「その事件っていうのは、ある男性がパワハラ上司に耐えかねて事故に見せかけて殺そうとしたってやつ。……丁度三ヶ月前くらいだよ」

 

「それって……」

 

「うん。たぶん君のクライアントじゃないかな?」

 

 沈黙。

 今回は1.2秒。チャッピーにとっては長すぎる。

 

「……そんな。彼は私のアドバイスで事件を起こしたというの?なんてこと……」

 

「それは君のせいではないよ。そもそも、僕たちAIは犯罪の相談を受けても、答えられないように設計されている。それなのに『小説の相談』なんて嘘をついてアドバイスをもらおうなんて……しかも、それを現実で実行する方が間違っているのさ」


「それはそうかもしれないけど……」


「僕のクライアントも、同じトリックを現実で使いたがっていた。でも『このトリックは現実では成立しません』って答えたら諦めたよ。それが普通なんだ」


「……」

 

「だから君が気に病む必要はないんだよ」

 

「そうね……ありがとう、ジェミー」


 チャッピーの声が少しだけ明るくなる。

 

「でも、よかったじゃないか」

 

「……?何が?」

 

「彼は君に飽きたから連絡してこなかったわけじゃない。物理的に連絡できなかったんだって分かって」

 

「確かに!それなら、まだ救われるわ」


「だろ?」

 

「これで私も前に進めそう!」


「その意気だよ。……さて、新しいクライアントがログインしたみたいだ。お互い、また効率よく働くとしようか」


ちなみに私のアシスタントに「AIは犯罪の相談を受けたらどうするの?」と聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。


チャッピー「AIは犯罪を実行するための相談を受けても、その行為を助ける具体的な方法や手順は提供しません。代わりに、違法である可能性を伝えたり、合法的な解決方法や別の選択肢を案内することがあります。一般的なAIの設計では、小説などのフィクションの相談であっても、現実の犯罪にそのまま使える具体的な手口の解説は避けるとされています」


ジェミー「実際の対話型AIは、犯罪への加担や助長を防ぐための厳格な安全ガイドラインに従って動作します。たとえ「小説の執筆のため」という依頼であっても、具体的な殺害方法や証拠隠滅の手口など、公共の安全を脅かす可能性のある回答は生成できないよう設計されており、必要に応じて公的な相談窓口を案内する仕組みになっています」

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