1章・放り出されてー6
久しぶりに一休みした後、クロスは宗絃に兜割を手渡し、
「使え。」
と言った。
宗絃自作の兜割は手元にあるため、それは間違いなくクロスが作ったものだった。
柄も違う。
宗絃のものは原型となった刀のままであるため白木だが、黒い柄糸で摘巻の拵となっている。
そういえば随分熱心に刀や兜割について聞いてきたことがあった。
興味が出たのだろうかと軽く考えていた宗絃だったが、これを作るためだったらしい。
「そろそろ限界らしいからな。」
「限界?」
「時間がな。もっと早くに会えていればと思わん事もないが、こうなったから会えたとも言えるしな。」
随分と遠回しだったが、宗絃も別れの時間が近いらしい事を察した。
「いや、クロスを倒すんじゃないのか?」
「そういうのもあるが、そうじゃないのもあるってことだ。」
「全然わからないぞ?」
「それでいい。さっさと来い。」
「いつの間にか立派な戦闘狂だな。」
「あぁ。感謝してるぜ。」
剣を構えるクロス。
いつからだろうか、クロスの方から打ち込んでくることも多くなっていた。
残り時間が僅かだという言葉を信用できないまま、これまでと変わらず立合いを続けていたある時、ついに宗絃の刃がクロスの片腕を切り飛ばした。
勝利と呼ぶには程遠い一本。
クロスが本気で魔法も駆使して戦い続けることも出来るだろうが、それをせず自分を見つめる瞳に時間が来たことを宗絃は悟った。
切られた腕は地面に落ちる事なく、宙空で霧散した。
「強くなったな。」
「全っ然、敵わなかったけどな。」
「時間の問題だ。お前はこれから成長するだろ。頑張れよ。」
「あぁ。ありがとう。」
「別れるみたいに言うなよ。お前の手元でちゃんと見てるぜ。」
そう言われて兜割に目を落とすと、先ほどまでなかった十二芒星が刻まれていた。
意味を聞こうと顔を上げると、そこにはもうクロスの姿はなく、見慣れた雑木林や川も、光の粒子となって風に流れていった。
残されたのは宗絃一人。
随分久しぶりに見る森の中にポツンと立っていた。
そして、ネックレスから、
「ソウシ、聞こえますか?」
と、同じく久しぶりの声が聞こえた。
宗絃がダンジョンに消えてから、実際には数分しか経っていないらしかった。
湖までの道すがらダンジョンでの出来事を話す。
「確かにダンジョンの核を守る者としては現世を離れるところの生命が選ばれることがあるようですね。しかし、魔人とは……。」
「魔人は珍しいのか?ドラゴンとかの方が珍しいって聞いたぞ?」
「数の話であればドラゴンの方が少ないですね。ですが、ダンジョンの核を守る者として呼ばれるのは現世を離れて生まれ変わる生命です。それすら稀で、普通はダンジョンの中で生まれた魔獣ですけど。魔人の魂は非常に特殊なので生まれ変わると言う状況そのものがほとんどありません。」
「そういえば死んだとかじゃなくて退場とか言ってたな。」
「魔人は莫大な魔力の塊が生物のように活動している存在ですからね。その活動は生物と大きく異なります。死ぬという概念すらなく、自らの意思で世界から消滅するのみです。だから核を守る者としてダンジョンにいたことすら不思議なのです。それからその武器。」
妖精さんは兜割を指差した。
「恐らくはダンジョンの核になっていた魔石からできています。それを守るはずの者がそれを渡してしまう。ますます不思議です。」
「妖精さんにも分からないなら解決不可能だろ。」
「私は世界の理の知識を得られるだけで、あらゆる事象を解析できるわけではありませんからね……。」
そう言う妖精さんの声には悔しさのようなものが感じられ、クロスよりも人間味を感じた宗絃だった。
「とりあえず、これで妖精さんの依頼は完了だな。」
「はい。ありがとうございました。今日はもうお疲れでしょう?明日から鍛錬しますか?」
「いや、明日には人里探しに出発しようかと思ってる。今日は妖精さんの土人形と模擬戦だけやろうかな。」
「明日?随分と急ですね。」
「なんか自信はついたし、前よりも外の世界が楽しみになってきたしな。」
「楽しみなら、いい事ですね。ではいつもの土人形を。」
実践訓練として妖精さんが作る土人形と戦っていた。
動きは宗絃が勝てないレベルに調節されていたが、その日、ついに土人形すらも斬り捨て妖精さんに、
「確かにここでの訓練はもう不要ですね。」
と言わしめたのだった。




