1章・放り出されてー3
妖精さんが用意したのは木造の家だった。
内部は一人暮らしのワンルームマンションとほぼ同等。
彼女の湖付近を流れる川に面して建てられ、中には寝具と、宗絃に合わせたサイズの衣服も用意されていたため、確かに衣と住についての心配はまとめて解決された。
時間が分からないこの環境では窓から差し込む陽光で目を覚ます。
ベッドから立ち上がると大きなあくびと伸びをして食器棚からコップを取り出し、魔法で水を注いで飲み干した。
昨日手に入れたリンゴのような植物に齧り付きながら小屋の外へ出る。
この森の植生環境は元いた世界に近いらしく、似通った果実も多いのは助かった。
湖に到着する頃、一分も経たないうちに果実を食べ切ると残った芯を森の中に投げ捨てる。
「ここでの生活にはお慣れになったようですね。」
「まぁ、生きる分にはかなり余裕が出てきたかな。魔法もそこそこ使えるようになったし。」
「そこそこなんて、ご謙遜を。これほどの魔法使いはそうそういませんよ。」
「お褒めに預かり恐悦至極。教えてくださった妖精様のおかげです。」
宗絃の言い方は少し投げやりだったが、妖精さんは非常に満足した表情を浮かべて胸をはった。
「そうでしょうとも!感謝を忘れぬ素晴らしい教え子で鼻が高いです!」
どこまで本気か分からないが、この乗せやすい性格は接しやすく、宗絃も好むところだった。
普段ならこの嬉しそうな顔のまま「今日は何の訓練からしますか?」と魔法や剣技の練習に付き合ってくれるのだが、何故か少し暗い表情を覗かせた。
「どうかしたのか?」
「はい。鍛える条件にしていたお願いを、そろそろ頼もうかと思いまして。」
「ようやくか。結構待たされたな。聞いても教えてもらえなかったし。どれぐらい経った?」
「ざっくり四年です。」
「え?もうそんなに経ってる……?」
「はい。ソウシの伸び代はまだ感じますし、もう一年は余裕があると思っていましたが状況が変わりそうなのです。」
「話が全然見えないけど?」
「そうですよね。では、私のお願いについてお話しします。内容は現場に向かいながらお話しするので、こちらのペンダントをお持ちください。目的地の方向を向くと少し光りますから、そちらへ向かってください。遠隔でもお話はできますから。」
そうして妖精さんが手を開くと、銀のネックレスが乗っていた。
小さな青い石が付いたシンプルなデザインである。
「それともう一つ。」
妖精さんがそう言うと、水が湧き上がり抜き身の剣が現れた。
前に倒したモンスターが持っていた剣だ。
死体は気付かないうちに妖精さんが「処分した」と言っていたので宗絃も今まで忘れていたものだった。
「刃に少し魔法をかけました。簡単に切れ味が落ちることはないはずです。」
普通に使えば血の脂ですぐに斬れなくなってしまうのだが、その対策をしてくれたらしい。
問題があるとすれば抜き身のままということだ。
「ありがとう。助かるよ。」
剣を受け取った宗絃は近くに無造作に放り投げられている木刀を何本か拾った。
魔法の練習を兼ねて剣の修行用に宗絃が作った物の残骸である。
宗絃が目を閉じて魔法を使うと数本の木刀と剣は形を変え始めて一つになり、最後には白鞘の日本刀へと変化した。
宗絃の見事な魔法を見て妖精さんも満足げな「ワシが育てた」という自慢が多分に含まれる表情を浮かべている。
それを見て少し笑った宗絃は、
「じゃあ、行ってきます。」
と告げ妖精さんの湖を後にした。




