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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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5章・諸国会議−9

「おい、あんなのがあるなんて聞いてないぜ!」

「奇遇だな!俺もだボケナス!今更引き返せねえ。この策は一回きりの使い捨てなんだ。突っ込め!必ず教皇の首を取るんだ!」

 迎賓館の襲撃を目指す一団は内部で爆発騒ぎを起こしたメンバーとの合流を目指して市街地を走り抜けた。

 今夜から会議が終わるまでの二日間、夜間には極力出歩かないよう通達のでた町に彼ら以外の人影は見当たらない。

 先ほどの攻撃でもっと大きな混乱が起きる予定だったが、全弾あっさりと防がれたせいで彼らが迎賓館へと向かっているのは丸見えだろう。

 だが、あの魔道具は使い捨て。

 このまま引き下がることはできないのだ。

 衛兵たちは早々にこちらに気づき、防衛体制を整えているが、各国の護衛がひしめいているのが災いし、統制が乱れていた。

 それを見逃さず、戦闘を走る男が指示を出した。

「作戦は変更だ!アレで一気に蹴散らす!」

 懐から取り出したのは拳ほどの大きさの魔石だった。

 投げつけられたそれは乱れる兵士たちの中心付近に着弾し、同時に突風を引き起こした。

 大の男が軽々と吹き飛ばされるほどの突風が吹き乱れ、迎賓館へ続く道に待機していた兵達は四方八方へ投げ出された。

 奇襲をかけた一団は邪魔になる者のみを切りつけ、戦闘力を下げるだけで殺す事には固執せず駆け抜けていく。

 兵達は立ち上がった者から一団に襲いかかったが、一団は連携の取れた動きで一体多数を作り出し即座に勝負を決めていく。

宗絃のいる付近まで戦線が広がり、一帯は乱戦の様相を呈していた。

 こうなってしまっては広範囲の攻撃は味方を巻き込む事になる。宗絃では手が出せない。

 宗絃が待機に選んだ場所が少し離れた場所なのは『仕込み』とセルディスとの合流をスムーズに行うためだったが、この騒ぎに巻き込まれないと言う点でも大きなプラスになっていた。

 喧騒に巻き込まれず息を落ち着けながら周囲の探知を続け、目当ての反応を見つけて口元が緩む。

 そして、その口元が緩む。

「さっすが。移動速度も、速い……。」

 賊の目をかいくぐりながら進んでいるはずだが、かなりのスピードで接近している。

 そして、迷いなくこの場所を目指している。

 宗絃達のいる場所の方が明かりが少なく暗いため、向こうからは真っ暗な闇に近いはずだが、それでも躊躇いがあるとは思えないスピードで接近しているのだ。

「戯け。私は全力でここを目指す。お前が動きさえしなければ必ず合流できる。」

 そう断言したセルディスの表情を思い出す。

 自信は伊達ではなかったということだ。

 宗絃が範囲を広げた探知魔法で周囲の確認を行っている間にセルディスが姿を現した。

 しかし、その瞬間に宗絃の顔色が変わった。

 セルディスの腕には豪奢なドレスを着た恐らくはどこかの姫君が気を失って抱えられていたのだ。

 一見すれば混乱に乗じて拉致して来たとしか思えない。

「待て。これには訳があってだ……。」

「早くここから離れよう。」

 恐らく最も必要と思われる事を説明しようとしたセルディスだっだが、宗絃はそれを遮って提案した。

「な……何?」

 逆に驚いたセルディスだったが、再度の確認にも宗絃の答えは変わらなかった。

「早くここを離れた方がいい。」

 探知に何かが引っかかったらしいとセルディスが察して動き出そうとしたのと、脱出を見咎めた襲撃は同時だった。

 投擲されたナイフは正確にセルディスを目掛けて飛来し、透明な氷の壁に阻まれる。

 何の害もなかったが、足を止めたせいで背中を見せて逃げられない程度には十分な時間を稼がれた。

 宗絃は舌打ちして踵を返すと迫り来る襲撃者達に向かって突っ込んだ。

 いつの間にか抜いた兜割に水で刃を生成し、一人目の短剣を受けながら真横を走り抜けようとした二人目の襟元を掴んで引き倒す。

 続いた襲撃者達は警戒度を引き上げ立ち止まった。

「身体強化だ!」

 誰が使用したかは分からないが、鍔迫り合いを一気に押し込まれた宗絃は急いで柄を両手で握り、拮抗した瞬間に正面蹴りで相手を蹴り飛ばした。

「……大丈夫か?」

 後ろから声をかけたセルディスもまだ息が荒い。

 両手を塞がれたままでは足手纏いにしかならないが放り出すこともできず、この場は宗絃一人で切り抜けるしかないだろう。

 だが、宗絃が危ぶんでいるのはそこではないとセルディスは察していた。

「あぁ。隙を見て走れるか?」

 仮に危害を加えられなかったとしても、この場にとどまること自体を危惧している事は二度も離脱を促したことから明らかだ。

 先程探知した『何か』と接触したくないのだろう。

「お前と離れてもか?」

「最悪は。」

「……分かった。」

 二人が逃げることを察した襲撃者達が三人同時に飛びかかる。

 そのうち一人の攻撃を受け流しながら別の一人にぶつけて二人同時に動きを止める。残った一人も攻撃を受け流しながら柄尻を鳩尾に叩き込んで無力化した。

 出来た隙を突いて走り出そうとした二人だったが、別の方向から聞こえた、

「待て。」

という声に思わず足を止めてしまった。

 逃げるという行為に慣れてはいるものの、声の方向が襲撃者達とは違う方向から聞こえたために警戒したからだ。

「そのお方を連れてどこへ行く?」

 暗闇から姿を現した男はセルディスに視線を向けている。

 指しているのは抱えている姫君だろう。

 襲撃者達の様子から別勢力であることも分かる。

 そして、発する圧力は生死をかけた実戦の経験がないセルディスでも分かるほど圧倒的だった。

 男を見て、宗絃が早くこの場を離れようとした理由をセルディスは察した。

(この男、恐らくアルセリアのクレイ・ストラウド。逃げようとしたのはコイツが理由か。)

 伝え聞く彼の評価を鑑みれば、宗絃といえどセルディスを守りながら逃げるなど不可能だろう。

 早々に離脱を選択した宗絃の判断力にセルディスは感心したが、同時に二人揃っての逃避が絶望的であることも理解してしまった。

 宗絃に足止めを任せ、少しでも早くセルディスが逃げ出すことが現状では最適の選択に思えた。

「そのお方を連れてどこへ行くのかと聞いている。」

 再び響いた問いに答えたのは宗絃だった。

「どこか、は答えられないな。パーティーが襲われて俺達も逃げるところだ。」

「お前たちが襲った一団で逃げるように見せかけて拉致しようとしているように見えるが?」

「こちらとしては『違います。』としか言えないな。」

 セルディスは腕の中を見て心の中で舌打ちした。

 彼女さえ抱えていなければクレイは二人を素通りしたはずだった。

 このたった一人を抱えているために宗絃をこの危険に巻き込んだ上、自身にここを無事にに乗り切る案が浮かばないという二重苦に、二人の問答を聴きながら苛まれている。

「ではそのお方をこちらに渡して逃げるがいい。」

「無理だろ。俺にはアンタがこの人を攫いに来た人間に見える。」

 クレイの眉がピクリと動く。

「私が賊に見えると?」

 クレイの身なりは貴族然としており見た目だけなら賊には見えないが、それであればセルディスも同様である。

 宗絃としては当然の指摘だったが、賊と同列に扱われたという事実は王国貴族としての誇りを重んじるクレイにとって屈辱的な扱いである。

 その場にいた者たちを縛り付け動けなくしている空気がさらに重くなったが、次に声を発したのは襲撃者の一人だった。

「我らの標的は教皇のみ。奴を討てば他のお方は無傷で解放することを約束する。この場は一度大人しく……。」

 男の言葉は爆音で遮られた。

 話している途中、クレイが指先を向けると彼の体が爆発と共に吹き飛ばされたのだ。

「私はクレイ・ストラウド。アルセリア王国の代表として此度の諸国会議に派遣されている。これ以上無駄な問答を続けるならば何人であれ我が祖国に敵対する者と認識し実力で排除する。」

「それはどうも。俺はソウシ・カンダ。ゼルファード帝国から護衛役に任命されたDランク冒険者だ。」

「何?ではそちらは……。いや、その言葉を証明する物は?」

「ない。」

「では、」

「アンタの言葉を証明する物は?」

 クレイの眉が、今度はピクリピクリと二度揺れた。

 誇り高い帝国の貴族が言葉の上では認めていないとはいえ最大のライバル心を燃やすゼルファード帝国の冒険者、しかもDランクに疑われるのは屈辱的だった。

 加えて宗絃の口元に浮かぶ笑みからは小馬鹿にしたような印象を受ける。

 セルディスが小声で投げかけた、

「お前は油の魔法でも使えるのか?」

という問いに答える時間は宗絃にはなかった。

「問答は、止めだ。」

 静かな、だが周囲にはっきりと聞こえた言葉と共にクレイからこれまでと段違いの魔力が放たれ、魔力は炎にり、炎は火球へと形を変えてセルディス以外の全員に襲いかかった。

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