5章・諸国会議−8
教会から出た宗絃は呟いた。
「次はアルセリア王国かな〜。」
「あそこまではっきり場所まで分かるとな。そこまで自由に動けるのは羨ましい限りだが、アルセリアか……。」
セルディスは難しそうな表情を浮かべた。
「帝国からは隣だろ?」
簡単に行けると思っていた宗絃にはその表情の理由が分からなかったが回答はシンプルだった。
「国境を越えるのが難しい。あまり友好的ではないどころか、かなり険悪だからな。特に今の国王になってからは婉曲な妨害工作が増えたと聞く。王国側からの呼び出し以外で入国する方法を私は知らんな。」
「冒険者ならもっと自由だと思ってたけど、ダメなのか?」
「王国からの依頼があれば行けるだろうが、自由に国内を動き回れるとは思えんな。」
案の浮かばないセルディスは空を見上げていたが歩みを止めた。
数歩分手前で宗絃が止まっていることに気づいたのだ。
彼も同じように空を見上げているが、その表情は何かを考えている様子ではなかった。
「ソウシ?どうした?」
「何か、嫌なものを感じた気がする。」
「それはまた随分と大雑把な……。」
「悪い、護衛なのに。けど、これ以上は俺には分からない。」
「そうか。だがここはゾゾだぞ?」
「ああ。けど、風に乗った悪意みたいな魔力が確かにあった。流れて消えたみたいに微かだけど。」
「警戒はしよう。さっきの神官にも話だけしておくか?今後情報も貰わなければならんかもしれんだろ?」
セルディスとしては軽口のつもりだったが宗絃はそう取らなかった。
「あの人なら大丈夫だ。そこらのCランク冒険者なら余裕で撃退できる。」
確信めいた言い方にセルディスは目を見開いた。
「……そんなにか?」
「どんな魔法を使うとかは分からないけど、鍛え方は並じゃない。あんなに簡単に背後を取られると思わなかった。」
熟達した者ほど存在感が自然と一体化し、気配を感じ取れなくなるものだと、宗絃は師匠やクロスを見て学んでいる。
「あの時のはそう言うことか。」
セルディスは教会に入った時のことを思い出して宗絃は『話せなかった』のだと納得した。
それと同時に、言い方以上に宗絃が警戒心を強めている事を感じ気を引き締め直した。
「風雲は急を告げる、か。来るなら明日、会議が始まってからだと思っていたが、今夜の前夜祭から危なそうだな。時間はないが緊急時の対応を再確認するぞ。」
「了解。」
二人は散策を切り上げ、早足で宿に向かうのだった。
おやつを買い込むことは忘れずに。
教会の総本山であるカテドラルは円形の湖に内接するように作られている。
前夜祭が行われる迎賓館はカテドラルと岸の間にあった。
遠目に見た時はイメージ通りの迎賓館だったが、訪れて初めてその大きさを実感した。
「カテドラルがデカ過ぎるんだよな……。」
湖のほとりにしゃがみ込んで水に手を浸しながらしみじみと呟く。
各国の護衛が少しでも迎賓館近くを陣取ろうとする中、その姿は異質と言っても過言ではないだろう。
ちらちらと視線を向けられる中、休憩しようと立ち上がり、腰を捻ったところで宗絃の表情が豹変し迎賓館へと振り返った。
直後、迎賓館から爆発音が聞こえ、火の手が上った。
「中から?」
迎賓館から悲鳴や怒号が小さく届き始め、迎賓館に行かせろと叫ぶ護衛と混乱を招くなと、それを止める衛兵で諍いが起き始めたのを尻目に、宗絃は再び腰を下ろして湖に手をつける。
探す声にも動かない宗絃気を取られた衛兵だったが、今度は湖の周囲から大型の火球による攻撃が放たれた。
それに気づいた衛兵の誰もが防ぐ手立てを思い付かず、息を飲み動けなくなった。
自身の身を守ることすら危ういと彼らが思い到った瞬間、湖の水が螺旋状に立ち上がり、カテドラルごと迎賓館をすっぽりと囲う水球を作り上げた。
水の膜はカテドラルを襲った魔法がぶつかると水面に小石が落ちたような波紋が立ったが、一つたりとも内側に通すことなく防ぎ切り、波紋が静まった後は逆再生のように湖へと帰っていった。
ざわつく衛兵達の一団をよそに、宗絃は少し乱れた息を整える事に集中する。
探知能力は迎賓館の爆発と同時に現れたいくつもの悪意を孕んだ反応を捉えているのだ。
衛兵達にもその情報は入ったらしく防衛網の構築が始まった。




