5章・諸国会議−4
術式の展開と同時に前衛の三人が一気に宗絃に飛びかかる。
そしてほぼ同時にあるラインの前で立ち止まり、振りかぶったそれぞれの武器を振るった。
外野の全員が急停止の意味が分からなかったが、次の瞬間理解した。
彼らが攻撃した空間にヒビが入ったのだ。
そこにあったのは宗絃が多用する透明な氷の壁。
魔法使いの攻撃で更にヒビが大きくなり、続く三人の同時攻撃で氷が砕けた。
(七発……。)
一撃はクレアほど重くないが、手数のせいで宗絃も連続で壁を作れず、ルギウスとセルヴァン、そしてフィオルが心待ちにしていた対決が始まる。
最初の攻撃を放ったのは身軽な格闘家ではなく盾使いだった。
剣ではなく盾を叩きつけたのだ。
受ければ動きが止まるため続く二人からの攻撃にさらされるため宗絃は小さなバックステップで回避した。
舞い上がった土埃をの中から格闘家の拳が迫るが、こちらも上半身を柔らかく使って回避すると、三発目の腕を掴んで一本背負で盾使いに投げつける。
対処を急いだのは剣士が続いて迫るからではなく、後方からの魔法を察知していたからだ。
素早くその場を離れると、直後に火球が着弾した。
(本気で殺さなければ怪我させてもいいと思ってやってるな、コレ。)
剣士が炎を飛び越えて攻撃を仕掛けてくると、避ける暇がないことを察した宗絃は兜割を抜いた。
振り下ろされた攻撃を避けると鈎を使って上から押さえつける形で動きを封じ、使わなかった左手で顔面を殴りつけた。
全身甲冑なら兜があったはずだが布製ならば問題ないと考えたのだ。
しかし剣士は剣を握っていた右手だけ離すと拳を受け止めた。
「舐めるな!」
反撃の蹴りをくらい、威力を殺すために後方へ飛ぶ。
大したダメージがないとはいえ、初めて人間から攻撃を当てられたのだ。
指摘された事実を反省した宗絃の目が真剣なものに変わり、身体強化を一段階上げる。
飛び込んできた格闘家の拳を兜割で受け流し、泳いだ体を蹴り飛ばす。
対応出来なかった格闘家は呻き声を上げて宙を舞い、背後にいた盾使いにぶつかった。
視界を奪われたのは一瞬だったが、その間に喉元には水で生成された刃が突きつけられた盾使いは両手を上げ降参の意を示した。
地面に落ちた格闘家も足で押さえつけられており、こちらも戦闘不能だろう。
「お二人は引いてください。」
と剣士が言い、その後ろからは魔法使いが、
「もうよいのでは?」
と声をかけた。
(そういえばこの人はずっとやる気というより殺気に満ちてたなぁ。)
呑気に会話の行く末を見守る宗絃だったが、ルギウスは、
「どうする、ソウシ?」
と委ねて来た。
その答えは、
「やりましょう。」
という大方の予想を裏切るものだった。
誰とでも戦いたがるわけではないので勘違いされがちだが、宗絃は全ての争いを避けているわけではない。
中学時代、師匠に出会うまでは売られた喧嘩は全て買うほどだった。
かといって喧嘩好きでもなく、上下をつけてしまった方が後々面倒が少ないと思っていたからだ。
師匠に鍛えられ始めてからは彼から学んだ強さを喧嘩に使いたくないと思い始め、気が付けばどれほど挑発を受けても相手にしなくなっていた。
それでも稀に純粋に強くなりたいなど、どこかの芯を感じさせる者の喧嘩は買っていた。
この剣士の殺意に似た気迫からも似通ったものを感じたのだ。
ルギウスは嬉しそうに、
「よーし。じゃあ一騎打ちだ。」
と言って他の三人を外に出させた。
練兵場の中心に残された二人は向かい合い、剣士が布を取る。
その下は帝都でも滅多に見ないほどの美少女だった。
声から女性だと思ってはいたが年齢も近いことに宗絃は驚き、その綺麗な顔を殴り飛ばしていなくて良かったと安堵した。
すぐに治してもらえるとはいえあの顔を傷つけるのは忍びなかった。
ミナには鼻血を流させたが。
余計な考えを頭の隅に追いやって礼をした宗絃に、少女は声をかけた。
「殿下の護衛は騎士団が就くべきです。誇りのない人間がその責を完う出来るとは思えません。一冒険者には重すぎる。貴方に勝てば任せていただけると、陛下はおっしゃいました。私は本気で行きます。痛い思いをしても知りませんよ?」
(あ、見込み違いだったかな、コレ。)
芯があっても面倒臭いのはごめん被りたかった。
早く切り上げようと思い直し、
「頑張ってくれ。」
と短く返した言葉は少女のボルテージを上げる結果となった。
「他人事みたいにッ!」
身体強化を発動し突っ込んで来た少女に内心、
(アンタのお気持ちは他人事だろ。)
と思いながら一撃目を受け流す。
ほとんど体勢を崩さず、放たれた二撃目の剣は炎を纏っている。
「なるほど。彼女は魔法も使えるのですね。」
フィオルは感心した。
戦いながらの発動は難しいはずだが、しっかりと制御して使えている。
視線の先では剣に纏うだけではなく火球による攻撃も織り交ぜ始めた。
宗絃はその全てに水の魔法で対抗し氷の礫による反撃も行っていた。
ルギウスは楽しそうに、
「うーん、アイツも天才と呼ばれるレベルなんだけどな。」
と答えた。
「ではやはりあれが噂のサリア嬢ですか。」
「そうだ。世間話ついでにセルディスの護衛に冒険者を付けると言ったら随分と怒っていたからな。自力で勝ち取れと言ってみたんだ。」
どれだけ名前が聞こえて来ようと騎士団の新人と皇帝が世間話などあり得ない。絶対にこうなることを確信して伝えたのだ、元老院の二人は確信した。
一方で二人とも彼女をぶつけたのは理に適っているのも認めた。
遠距離で高火力の魔法、近距離では有能な剣士という兵はたまにいる。
事前情報で宗絃もこのタイプだと誤認していたが、今の銭湯では近距離であっても魔法を交えて戦っている。
剣士が最も嫌うのは威力が弱くても近接で魔法を使える相手である事はよく知られている。
意識を割かねばならない搦手が圧倒的に多いからだ。
事実、ウィルも一度は宗絃に上手くやられている。
これ程の使い手がBランク以上でない事実に驚きながらサリアにとっても世界の広さを知れるいい機会になっているだろう。
想像以上に良い結果が見られたルギウスは満足し、
「ソウシ、そろそろ終わらせろ。」
と声をかけた。
サリアの攻撃を全て防ぐ宗絃は息切れを狙っていたのだが、それすら見透かされていた事を察した。
再び水の刃を生成すると独特な動きを見せ、サリアの剣は彼女の手を離れた。
水を操作して刃を動かしたわけではない。
巻き技と呼ばれる特殊な技にサリアが対応出来なかったのだ。
即座に魔法攻撃に意識を切り替えた反応は素晴らしかったが、宗絃の方が圧倒的に早かった。
高速で生成された氷の礫が襲いかかり、咄嗟に顔を覆ったが腹部にサッカーボール大の礫が当たり、身体ごと跳ね飛ばされる。
咳き込みながらも立ちあがろうとしたサリアだったが、彼女の周囲の「当たらない位置に」氷柱が八本突き立てられた。
圧倒的な差に愕然とするサリアの目の前で氷柱は風に舞う砂のように輝きながら消えていき、最後に残った周囲の冷気も彼女の頬を撫でて流れていった。




