5章・諸国会議−3
生活リズムが違うせいで滅多に会わない二人だったが、その日は時間を決めてアイラが宗絃の部屋へ迎えに来た。
「仕事が早いですね。素晴らしい。朝から二人でというのは勘繰ってしまいますが。」
揃って帝城にやって来た二人を見たシャミの言葉にアイラは赤面し否定した。
「ち、違います!たまたま近くで私が見つけて声をかけただけです!」
そしてそれをよそにボソリと、
「私もいつか……。」
と呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。
すぐに気を取り直したシャミは二人を連れて練兵場へと進んだ。
大きく帝城とは呼ばれるものの二つの意味がある。皇帝のいる城そのものを指すこともあれば周辺の施設を含めた帝都のエリアの一つを指す場合もあり、一般的には後者の使われ方である。
帝城にある練兵場にも複数あるが、今回シャミが向かったのは最大規模の一つである。
三人が入るとそこにはすでにフィオルがルギウス、ヴォルミン、セルヴァンと共に待っていた。
ルギウスとセルヴァンは興味深そうに丁寧に名乗り、挨拶をする宗絃を見ている。
昇格試験は遠くから見ていただけなので、思っていた以上に小柄な宗絃に驚いたのだ。
転生前の年齢程度に成長しており、身長もかなり伸びたがそれでも元から大柄な上に筋骨隆々のルギウスやセルヴァンとは比べ物にならなった。
ヴォルミンも二人を嗜めるべきだと思ったが、彼自身も二人が言っていたほどの剣士に見えない姿に驚き、似たような視線を送ってしまっている。
「よろしく頼む。今日は見てる奴もほとんどいないから、気安くやらせてもらうぞ。」
流石に軽すぎた挨拶に、
「陛下!」
と短く言うとシャミとアイラが同時に驚いた。
二人の反応を見て楽しそうに笑うとルギウスは、
「ああ。俺が皇帝のルギウスだよろしくな!」
と言って宗絃に手を出し、宗絃、シャミ、アイラの順に握手を交わした。
ヴォルミンとセルヴァンが元老院議員である事にも驚き、場違いなところに来てしまったと縮こまるアイラと対照的に宗絃の表情はほとんど変わっていなかった。
「どうかしたか?」
ニヤニヤと笑いながらルギウスが宗絃に話しかける。
「いやぁ、何をやらされるのかと不安で。」
と言いながら、宗絃は一点を見つめていた。
「なに。こっちで用意した腕利き共相手にどれだけ戦えるか見せて欲しいんだ。頼む側なのに上からでスマンが、こっちにも事情があってな。四人パーティーだから勝てなくて当然だが、力はしっかりと見せてくれ。有能な治癒魔法使いも揃えてるから、死なない限りは大丈夫だ。気楽にやってくれ。」
軽い物言いだが、宗絃は訝しげな視線をルギウスに向けた。
「気楽に、と言う割にあちらの四名は随分とやる気のようですが?」
魔力による探知は機械的な数値でない代わりに精神的なものも感じることができる。
奥で出番を待っている四人は宗絃達が入って来た時から殺意と言ってもいい気配を漲らせていた。
「なるほど。気配は感じ取れていたか。加点しておこう。」
やり方は任せろと言い放った皇帝が何を用意したのかヴォルミンは知らないが、見たいと思った実践形式を用意しただけであることは明らかだ。
点数についてなど考えているはずがないだろうとツッコミを入れたい気持ちを、協会の者達の前だからと自分に言い聞かせて必死で押さえつけた。
何が嬉しいのかルギウスは上機嫌で、
「お前ら、出てきていいぞ。」
と彼が用意したパーティーを招き入れた。
姿を現した四人は魔法使い以外、練兵場で普段から使われているであろう武器を装備しており、剣士、格闘家、盾使いであることが見てとれた。
共通しているのは布でできた被り物で顔を隠しており誰だか分からないことだった。
見た目の異様さもさることながら姿を現したことで離れているにも関わらず闘志もひしひしと伝わってくる。
「よーし。じゃあソウシも中心へ行ってくれ。周りに被害が出ないように結界術式も使うからな。」
そう言いながらルギウスは後ろから宗絃の両肩を押していく。
相手パーティーが待つ修練場の中心までこのまま行くのかと宗絃が疑問に思った時、ルギウスが耳元で囁いた。
「お前が隠しているのは、二属性か?三、いや、まさか四属性?」
足が止まり、振り返るとルギウスは優しい笑みを浮かべ、
「そんなに分かりやすく顔に出すなよ。」
と言った。
(カマかけられただけ?ロクなもんじゃねぇ。)
ミナの事を思い出し、何かの確信があると思い込んだのが間違いだった。
ルギウス自身も半信半疑の可能性だったが、ここまで上手く引っ掛かるとは思っていなかったのだ。
「まさか四とはな。安心しろ。信用できる奴しかここには入れてないから、使っても絶対漏れる事はない。何属性使おうが、実践で役に立たなきゃ無意味だしな。」
ルギウスはそう言って軽く押しだし、自分は場外に戻っていった。
「よし、やってくれ!」
どこにともなくルギウスが声をかけると結界が展開され、宗絃達五人は巨大な立方体に閉じ込められた。




