3章・目立つらしくてー14
ワイバーンの情報が行き渡り、冒険者協会に着いて行く者と別行動を取る者に分かれ始めた頃、ウィルが再びシャミ達の前に現れた。
出来ることもないからと会議には顔を出さないミナも、流石に今は彼女の隣にいた。
いつも通りの軽い口調でウィルに声をかける。
「やあ、ウィル。剣は見つかったの?ってこれ?え?これ⁉︎」
剣を見た瞬間から態度が一変した。
「そうだ。俺もしばらくは近くにいるようにするから、よろしくな。」
「それより、ちゃんと剣を見せてよ。」
興味津々でミナは覗き込む。
「ちょっ、近い近い。」
少し赤くなりながら下がるウィルの服を掴むと、シャミは強引に近づく。
(ソウシのヤツ、よく平気な顔でいられたな……。)
「使いこなせるの?」
ウィルは剣を見るために屈んだ姿勢から見上げる視線を直視できない。快適さを重視した長旅用の服の内側、鎖骨あたりまでしっかり視角に入ってしまう。
「さっきちょっと振っただけだけど、そこらの剣よりはまともに戦えるはずだ。」
聖剣、魔剣は共に使用者の練度によって引き出せる力に差がある。
よく言われる両者の違いは二つ。
聖剣は主人と認められた者にしか力を発揮できない代わりに個人の差が小さく、魔剣は大抵の者が使える代わりに発揮できる力に大きな差が生まれる。
もう一つの違いは単純にその見た目から受ける印象である。
アモンを魔剣と見たミナはその力を引き出せるかを気にしたのだ。
ウィルも不安が残るところではあったが先程まで帯びていた剣よりは圧倒的に手に馴染むし、ワイバーン相手でもそう簡単に折れることはないだろう。
シャミに戻ったことを報告すると協会組はすぐにでも予定の時間を過ぎていることもあり、すぐにワイバーンの目撃情報が出た町へと出発した。
ちょうど目的地の中間に差し掛かった頃、先頭を行く本部職員が前方上空のワイバーンを発見した。
視力に自信のあるミナですら目を凝らしてようやく見える程度だったため思わず、
「本部にも凄い人がいるものね。」
と零したほどだった。
この時点で引き返す者もいたが、協会組は躊躇うことなく道を進む。
先の町では助けを必要としているかもしれないのだ。
だが、発見から大して進みもしないうちに事情が変わる。
「こっちに向かってるぞ!」
前方から迫る一頭は確実に高度を落としていた。
続く二頭も追うように迫るが高度は落としていなかった。
「交戦準備!」
シャミの号令と共に戦闘員が一団から離れ、使える者は魔法の準備を始める。
間も無もなく地上付近に降りてきたワイバーンは風魔法を乱れ撃った。
迎撃用の魔法が放たれ、直撃コースの魔法は全て相殺された。
その魔法で飛ぶ余力を無くしたらしいワイバーンが地上へと降り立つと、多くの者がワイバーンの傷に気づいた。
残る二頭は分からないが、少なくとも地上に降りてきたもの傷を負って王国からこちらへ逃げてきたのだろう。
「気の毒ですが見逃すことはできません!討伐してください!」
シャミの声に反応して攻撃魔法が放たれたが、ワイバーンが振り回した尻尾の一撃で全て振り払われた。
「ウィル!降りてきたヤツ、倒せる?上からの魔法は私が対応する!」
上空の二頭は地上の一頭を襲っていたわけではないらしく、援護するように魔法を撃ってくる。ミナはそちらの対応だけで手一杯だった。
最短で狩るには近接戦が不可欠だが、今の戦力でそれが出来るのはウィルだけだ。
「了解!」
走り出したウィルに身体強化がかけられ、加速する。
(誰だ?これだけならチャロと同レベルか?凄いな本部。)
走るウィルに正面から風魔法が放たれる。
正面から迫る空気の塊に剣をはね上げると、弾かれた魔法が明後日の方向に飛び去った。
後方から上がる驚きの声と、ウィルの感想は同じだった。
本能的に体が動いただけだったのだ。
(この剣、すげぇ。これが魔剣の力?)
続けて振り回された尻尾を屈んで躱すと、頭上を轟音と共に尻尾が通り過ぎる。
さらに飛び込んで足を斬りつけ体勢を崩し、素早く離脱した。
自重を支えられなくなり倒れ込んだワイバーンは叫び声を上げ暴れたたが、ウィルは躊躇うことなく再び踏み込むと一撃でその太い首を切り飛ばした。
一頭を倒しても油断することなく残りの二頭に目をやると、先ほどよりかなり光度を下げていた。
仲間を守るためウィルに襲い掛かろうとしていたのだが、ミナ達の総攻撃で食い止められたのだ。
だが、そのために力を使い果たした者も多く更なる助力は望めない。
守る仲間を失った二頭から一気に攻められると、防ぐ手段が残されていないのだ。
諦めて縄張りに帰ってくれることを願いながらの選択だったが、祈りも虚しく二頭は両方が狙いをウィルから一団に狙いを変えて攻撃を仕掛けた。
離れた場所から彼らを守る手段はウィルにはなく、魔法の準備も整わなかった。
舌打ちをしながらも走り出したウィルの頭上を通り過ぎたワイバーン達の魔法は真っ直ぐに、少しでも魔力を捻り出そうと汗を浮かべる者たちへと向かい、着弾まであと数メートルというところで突如爆発した。
その衝撃は死を覚悟した誰の身にも届くことはなかった。
「え?」
声が出せたのはウィルのみで、一団の者たちはそれすらできずに固まったままだった。
人間など軽く吹き飛ばすはずだった魔法は空中で見えない壁に阻まれ、そこから先に衝撃は届かなかったのだ。
ウィルだけが着弾点から吹き荒れた暴風に身を屈めて飛ばされないよう必死に堪える。
そして数秒経っても口を開けて硬直したままの一団と違い、彼だけがその理由を理解できた。
「透明な、氷の壁……。」
空中ではその壁に気づいたワイバーンが力任せに尻尾を叩きつけ、数度の攻撃で破壊した。
その破壊音で全員に戦意が戻った瞬間にワイバーンが同時に両断され、
「おわっ⁉︎」
と情けない声を上げてウィルが離れた場所付近へ首と胴体が二つずつ、大きな音と共に地面に落下した。
二頭の絶命を見たウィルは何が起きたのか理解できずにざわつく一団へと駆け寄り、人探しを始める。
「ソウシ!ソウシだろ⁉︎どこにいるんだ⁉︎」
声を上げるウィルに、
「ウィル!こっち!」
と、ミナの声が返ってきた。
声のした方に向かうとそこには探していたソウシと、ウィルを呼んだミナの姿があった。
ミナも魔力をほとんど使い切り、いつもの元気な表情ではなかった。
たが、それ以上に宗絃の様子がおかしい。
嘔吐するのではないかと思うほど咳き込み、傍らのミナが渡した水筒で今ようやく水を飲めたところだ。
彼なら自分で水を出せるはずだが、それをする余裕もないようで、ミナに背中をさすられている。
ただ疲弊しただけではないその姿にウィルは慌てて駆け寄った。
「大丈夫か?」
ウィルの問いに対し、呼吸の止まった一瞬にコクコクと頷き、再び必死で空気を取り込み始める。
話せない宗絃の代わりにミナが答えた。
「大丈夫よ。怪我とかじゃないし、多分、魔力の使いすぎとかでもない。信じられないけど。」
少しして宗絃の呼吸が整い始め、水筒に水を補給すると、
「ありがとう。」
と言ってミナに返した。
周囲ではシャミが指示を出し、一部の者を除いて次の町を目指して移動が始まりつつあった。移動組は次の町からワイバーンの解体、輸送を手伝ってくれる者を連れて来るらしい。
「また助けられたな、ソウシ。ありがとう。」
突き出された拳に宗絃も拳をぶつけ、
「間に合って良かったよ。」
と返した。
「あんだけ必死で走ったからな〜。無駄にならなくてよかった。」
安堵した宗絃の言葉にウィルとミナが不思議そうな表情を浮かべ、同時に聞いた。
「「走った?」」
余裕を取り戻し、今度は魔法で空中に浮かべた水を口に入れて水分を補給した宗絃が答えた。
「ああ。さっきの町で『この先でワイバーンが出るかもしれない』って話は聞いできたんだけど、歩いてたら本当に戦ってたからな。走って来たんだ。」
「そうか。ペルーさんも俺たちより後に出て追いついてたからな。」
ウィルが納得していると背後からシャミが現れた。
「皆さん、お疲れ様でした。ソウシさん、まずは窮地を救っていただきありがとうございます。お疲れのところ申し訳ありませんが、もうしばらくご協力下さい。お話を伺いたいので協会の馬車までご足労願います。」
「俺だけ?」
「ええ。私でも戦況が分かる部分はありましたから。分からなかったのはワイバーンの魔法を防がれた所からです。詳しく話を伺えますか?」
「俺がやったとは限らないじゃないですか?」
宗絃は笑顔で答えたが、
「魔法を見た途端にミナが貴方を探して走り出しましたからね。エルフの中でもミナは魔力感知能力が高いですから、目の前で魔法を使えば絶対と言っていいほど逃げられませんよ?」
と、こちらも微笑んだシャミの言葉で逃れられないことを悟った。
宗絃がミナを見ると、
「ごめんなさい。」
と言いながら真顔で頭を下げられ、先ほどまで背中をさすってくれた彼女を責める気にはなれなかった。




