3章・目立つらしくてー13
ゲインを発ってから早五日。
シャミの一行は途中の村や集落で休憩を挟みつつ着実に旅路を進んでいた。
帝都への復路で休みを兼ねた行商の時間を取るのは通例通りである。商人が来ることは特に田舎の集落では有難い事なのだ。
残る旅程も、余裕があることも確認できたシャミ達本部職員の集まりにウィルが近づいて来た。
「シャミさん。よろしくない情報を聞いたんだが、なにか知ってますか?」
「いえ。今情報共有を終えたところですが特に不安要素は。何かありましたか?」
「この先でワイバーンの目撃情報があったのでお伝えしようかと。」
集まっていた物達がざわつき始める。
「この先で、ですか?」
「はい。数頭の『はぐれ』がアルセリア王国側から現れたらしいですよ。被害も確定情報もまだ出ていないが、反対方向から来た商人の情報を聞いたんで、一応伝えに来ました。」
「承知しました。ありがとうございます。」
このまま進んで遭遇する前提で話を進めなければならないだろう。
シャミ達、冒険者協会は正確な情報を掴んで伝える義務がある。
シャミは広げられていた地図に目を落とす。
現在一団はゲインの町から北西に進行中である。
ゲインから帝都へ一直線に目指すと間には山脈があり悪路となるため、この規模での移動は難しいために迂回しているのだ。
ウィルが得た目撃情報は、ちょうど帝都方面に向けて転進する町の付近だった。
「町に被害が出そうなら、最悪戦うことになるでしょう。」
ワイバーンに人間側から手を出すのは稀だ。
人里付近で確認されてもはぐれた個体ならば何もせず群れに帰ることの方が多いため、逃げる準備を整えて様子を見るのが推奨されている対応である。
安全に討伐するにはCランク以上のパーティーを複数用意する必要があるため間に合わないことの方が多いという都合もあるのだが。
シャミはワイバーンを確認した場合の対応として本部職員を帝都に伝令へ走る組とそのまま対応に移る組の二つに分けた。普段は事務方とはいえ戦闘能力も低くない者を多数連れているのはこのような有事に対応するためなのだ。
帯同する一団へは情報共有を行う。ここから先、どう振る舞うかは各自の自由である。
冒険者に依頼を出すべきかとも思ったが、彼女に与えられた権限ではそこまで許されるほど危機的状況でもなければ、現地の支部や冒険者と連携を取れないために諦めた。
出来るたのは可能な限り現地に向かい協力してほしいと頼むまでだ。
「俺は行きますが……。」
ウィルの表情は冴えなかった。
彼の出番は飛んでいるワイバーンと地上戦にならなければ来ないため可能性は低いが、更に今腰にある剣では大した戦力になれないのだ。
帯同している商人が奇跡的に快刀を売っていたとしても、彼には手持ちがない。
現地で金を下ろして武器屋を回るしかないが、それでもワイバーンを相手にできる剣が見つかるかは望み薄だった。
「いい剣を見つけられなければ大した戦力になれそうもありません。」
「ありがとうございます。貴方ほどの冒険者なら我々も心強い。」
シャミに武器を探しに行くと告げ慌ただしくなった本部の一団を離れると、背後から彼を呼ぶ声があった。
「ウィルさん、ウィルさん。」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはペルーがいた。
「ペルーさん!良いところに。実はお願いが……。」
縋るような態度のウィルの言葉に被せてペルーは話し出した。
「聞いていましたよ、剣が必要だと。見て頂きたい品があるのです。」
ペルーは多くを語らないまま自身の馬車の中にウィルを案内した。
「こちらです。」
そう言って鍵付きの箱を開けるとそこには見たことのない剣が入っていた。
だが、鞘に銘が刻まれている。
「アモン?これは……魔剣?」
「はい。ご存知だとは思いますが、この国で商人を営む者が最も厳しく取り締まられるのが魔剣の扱いです。」
「もちろん知っています。」
商人に限らずこの国で最も厳格な法の一つが聖剣・魔剣の管理である。
所有権の移譲は認められているものの、その所有者は必ず国に把握されていなければならず売買に関われることは商人が生涯夢見ることの一つだと言われている。
その魔剣の一本が眼前に鎮座しているのだが、何よりも気掛かりな事がウィルにはあった。
「こんな名前の魔剣は聞いた事がありません。」
数が限られているため国の内外を問わずその名前は広く知られるのだが、聞いた覚えが一切無いのは不思議だった。
「はい。こちらは新たに見つかった魔剣です。こちらをお渡しするならやはりウィルさんかと思い、お持ちしました。」
聖剣・魔剣の取り扱いを商人が夢見る要因の一つがそれである。
任せられたということは同時に『扱える剣士を見つけられる商人である』と認められた証とも取られ、大きな信用となる。
売り渡した剣士が名を上げれば当然その信用も盤石のものとなる。
「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう、全力を尽くします。」
ウィルも値段を聞きもしない。
魔剣の所有者となることは剣士にとって最大の誉の一つなのだ。
「はい。よろしくお願いします。それと、こちらは正式な登録はこれからとなりますので、帝都で一緒に登城していただきますよ。」
「本当に新しい魔剣なんですね。承知しました。必ずご一緒します。」
「ま、ワイバーンが素直に王国に帰ってくれれば何の問題もありませんがね。」
ペルーが軽く言うとウィルからも笑みが漏れた。




