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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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3章・目立つらしくてー6

 ウィルが退場するとすぐにもう一つの準決勝が始まった。

 治療中に次の参加者は呼び出されていたのだろう。

 再び上がる歓声の中、試合の開始が合図された。

 早々に勝負をつけに出たのはミナである。

 風魔法の乱打は相変わらずの脅威だったが、今度の対戦相手は対魔法使いの実践経験があった。

 見えづらい風魔法の軌道をしっかりと見切って回避し、ジリジリと距離を詰め始めた。

 一方的に終わると思われた試合の中で見えた反撃の兆しに驚嘆の声と、不利な側を応援したい者達の声援が広がる。

 それは勝機を手繰る出場者の士気を上げ、同時に全身の速度も上がり始めた。

「単調じゃが、狙っておるの。」

 テッカンの横から聞こえる声は相変わらず冷静に戦況を分析している。

 その言葉で、確かにミナの魔法が一定の間隔と角度で放たれていることにテッカンも気づいた。

 近距離戦で魔法を使うなら当然のようにも思えるが、ミナの表情にはまだまだ余裕があり、魔法の発動に手間取っているようには見えない。

 つまりミナの戦略は魔法攻撃を乗り越えられてからが本番なのだろう。

 対戦相手は知ってか知らずか、さらに勢い付いてミナへと迫る。

「まぁ、どっちにしても魔法を使えなきゃ前に出るしかないか……。」

 テッカンの独り言に女が深く、ゆっくりと頷いた時、ついに舞台上の二人の距離が剣の間合いに入った。

 接近しただけで観客席から歓声が上がる。

 そして剣戟が始まるのだと思われた瞬間、ミナの横なぎが敵の腹を捉え、対戦相手はゆっくりと膝から崩れ落ちた。

 静から動へ。

 魔法攻撃を突破して安堵した瞬間の急激な変化に対応できた者は、離れて見ていた観客の中にもほとんどいなかった。

 審判さえもすぐに判定を口にできず、少し言葉に詰まりながら彼女の勝利を宣言した。

 大歓声の中、ミナに休憩を取るかの確認が行われると、彼女は躊躇うことなく連戦を希望した。

 控え室に戻ることなく、その場で神官から体力と魔力の回復を受け始める。

「余裕だったって事ね。」

 ため息混じりにカミラが言う。

「あの身体強化があるなら接近戦に誘って当然じゃのう。その方が得意なのではないか?」

「貴女、今のを知ってるの?」

 カミラは似た魔法をウィンドホークが使っているのを見たことがあるので『分かった』よりも『知っていた』のだが、彼女はその口ぶりから初見で見抜いたように感じた。

「風を纏っておったのう。全ての動きをその魔法で加速しておった。鎧のようじゃったから防御用かと思うたが、攻防一体じゃったのう。」

 その予感が当たった事にカミラは驚いた。

(あれだけでそこまで見えてた?この人本当に何者?)

 その思いを言葉にできないまま、決勝戦の開始が告げられた。

 だが舞台上の二人は動かなかった。

 アイラが感想を漏らす。

「ソウシの顔が元に戻ってますね。」

「そう?私には分からないけど?」

「言いたいことは分かる。さっきみたいな『やる気』は感じられないな。」

 テッカンの補足でカミラも納得した。

「確かに、気迫みたいなものはさっきほど出てないわね。いきなり『疲れたからギブアップ』とか言わないわよね?」

(言うかもしれない。怪我しないならそれでいいけど……。)

(言うかもしれん。来月の小遣い前借りしちまったな……。)

 ランクアップが目的ならウィルに勝った時点で達したとも言えるし、そうなれば宗絃が戦う理由はもうない。

「ちょっと、冗談よ?二人して黙らないでよ。」

 二人の不安を明確に否定する飄々とした声はテッカンの横からだった。

「大丈夫じゃろ。やる気がなければ出ても来ん。」

「「た、確かに……。」」

「ホレ、動くぞ?」

 声が僅かに高くなった要因は酒だけではなく、彼女がかける二人への期待でもある。

 それに応えるように、前に出たのは宗絃だった。

 この大会、宗絃の目的はランクアップと膂力で劣る相手にどこまで戦えるかの確認だった。

 高い潜在能力と、上位のランクを持った兼ね備えたウィルは相手としてうってつけだと思っていたし、本気の彼と戦えたならばランクアップは二の次だとも言えた。

 最後に大会のルールを利用したのは狙い通りであり、そこまで相手をコントロール出来ていた証左でもある。

 最大の目的を達した今、望むのはもう一つの目的、ランクアップである。

 ウィルに勝ったのだから大丈夫だとは思うが、協会の胸三寸で否定されるのは経験済みなので少なくともやれることはやるべきだろう。

 最後に厄介な相手が出てきた者だと思う。

 何よりもミナが浮かべる楽しそうな表情はいつかの魔人を思い出させる。

(しかも強い。面倒な美人が残ったな。ロクなもんじゃねぇ。)

 内心でため息を吐きながら剣を振るうと、ミナは正面からその一撃を受けた。

「魔法、使わないの?」

 鍔迫り合いの中、甘い匂いの息がかかる距離で宗絃にしか聞こえないような問いかけが聞こえた。

「ま、チャンスがあれば。」

と軽く答える。

「ふーん。じゃまずは剣から見せてもらおうか、なっ。」

 ミナは風の身体強化の出力を上げ、鍔迫り合いを力づくで押し返した。

 数歩は下がるだろうという強さで押し返したミナだったが、予想に反して腕を跳ね上げるに止まり、宗絃はその場から下がらなかった。

(嘘?私が出力を間違えた?)

 ミナが見誤ったのは宗絃の魔力コントロール精度の高さだった。

 必要な時に必要な出力を瞬間的に引き出すことで身体の負担を抑えるのはクロスから学び、染み付いている。

 それに気づいたのは日除けの下でニヤリと笑う観客一人だけだった。

 彼女の視線の先では宗絃が連続で攻撃を繰り出し、ミナが防戦一方に追い込まれていく。

 ジリジリと後退を余儀なくされたミナは隙を見て大きく後方へと跳ぶ。

 美しい跳躍は飛距離もしっかりと舞台の端までに調節出来ており、本人の美貌も相まって観客からは驚嘆の声が上がった。

 が、着地の瞬間にミナの表情が余裕から絶望へと変化した。

 その顔が見えたのは一瞬で、視認できたのは最も近い正面から見ていた、そして、そうなることを予見できた宗絃のみだった。

 跳躍から着地まで優雅な動きだと本人を含めたほぼ全員が思ったその瞬間、ミナの足は予想と裏腹に一切の摩擦を受けることがなかったのだ。

 結果、彼女の体は高速で前方に回転し、受け身を取れないまま顔面を舞台に強打した。

 一瞬意識を失い、自重で舞台の外へと落ちていくミナ。

 場外への落下音を確認した宗絃は驚いた表情のまま固まっている審判を見る。

 その視線に気づいた審判は慌ててミナの場外負けと、宗絃の優勝を宣言した。

 宗絃本人は当然のように一礼し、控え室へと消えて行った。

 すぐに意識を取り戻し、鼻血を流しながら舞台に縋るように立ち上がったミナの目に映ったのは一瞬の宗絃の後ろ姿と、入れ替わりに彼女の元へと走ってくる神官達だった。

「つまらん幕切れになったのう。エルフの小娘は面白かったが、油断大敵じゃの。」

 何が起きたのか理解できなかったアイラ達が、何を見たのか聞こうと彼女の方に振り返った時、すでにその姿は見当たらなかった。

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