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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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3章・目立つらしくてー1

 ウィルが夜空の魚亭に訪ねてきたのは五日後だった。

 昨日は自他共に認める「普通」の宿に町の有名人が訪ねてきた事に驚いた店主も、目当ての人物に会えなかったため「明日も来ます。」と言い残して帰ったためさほど驚く事はなかった。

 来訪の予定を聞いていた宗絃は裏庭を借りてトレーニングに勤しんでおり、呼ばれるとすぐにウィルが待つ食堂に顔を出した。

「忙しいのに悪いな。」

「いや、全然。朝だけだし。」

 想定外の収入を得て、前払いで武闘大会までの宿を確保した宗絃は大会までは朝にトレーニング、昼からは図書館で調べ物をして過ごす計画を立てていた。

「武闘大会に出るためなんだろ?お前に勝てる奴なんかいないよ。」

 ウィルの言葉には少し諦めが入っていた。一人の剣士として悔しいが認めるしかない事実でもある。

「認めてくれるのは有難いけど、二ヶ月先は分からないだろ?」

「あ……あぁ、そうだな。二ヶ月後は分からないな。」

「で、今日はどうした?」

 宗絃からの問いかけでウィルは本来の目的を思い出した。

「そうだ。お前に手合わせをしてほしかったんだ。」

 本当は大会に向けてトレーニングも頼みたかったのだが、宗絃も出るなら頼めないと諦めたのだ。

 既に大会に向けて準備を始めている姿を見るとそれすらも頼み辛かったが、ここまで来て何も言わずには帰れない。断られたならそれまでだと思っていたが、宗絃はすんなりと承諾した。

「一本だけとかなら構わないけど?」

「ホントか?じゃあ協会の裏手にある演習場はどうだ?」

 協会と聞いて宗絃が渋い表情を浮かべる。

 そこはルールを守っても横槍が入る可能性が脳裏をよぎるが、模擬戦だけなら問題ないだろう。

 ウィルの申し入れを承諾し、二人で協会へと向かった。


 朝のラッシュは終了し閑散としたロビーを通り抜けて裏手へ回ると学校の体育館の半分ほどの広さの演習場へ出る。

 冒険者なら使用は自由らしいが、今は宗絃とウィルの二人、そしてたまたま掃除当番だったアイラしかいない。

「邪魔して悪いなアイラ。模擬戦一本やるだけだから。」

「いえいえ。お気になさらず。ほとんど終わりましたから。」

 ウィルに答えながら、アイラは初めて宗絃の戦う姿を見られる事を喜んでいた。

「武器はどうされます?倉庫から出しましょうか?」

「いや、いつも使ってる武器でいいよな?ソウシ。」

 演習場を見回していた宗絃は急に呼ばれて驚きながら答えた。

「ん?うん。大会もそうなのか?出来るだけ大会と同じがいいな。」

「大会は用意された武器を使うんだ。剣なら刃を潰したりしたやつをな。特殊な形状のものは事前に申告して認められれば使えるぞ。ルールは相手を戦闘不能に追い込んで終了が宣告されれれば勝ちだ。たまに新人が宣告前に気を抜いて逆転されるらしいから気をつけろ。」

「じゃあ、今回は借りずにやろうかな。」

 ウィルが宗絃に大会の説明をしているうちに、テッカンを始め協会の職員達が顔を見せ始めた。

「ギャラリーがいるんだけど?」

 宗絃とは真逆に、ウィルは一切気にしていなかった。

「ここで模擬戦とかやると職員さん達が見にくるのはよくあるぞ。」

 特に今は冒険者の対応もなく、最も手が空く時間帯であることに加えて若手有望株ナンバーワンのウィルと、冒険者登録の当日から圧倒的な話題になった宗絃の模擬戦とくれば、ほとんどの職員が興味を持って当然だった。

「ソウシとウィルさんだからね。支部長に来客の予定がなかったら、もっと集まってたと思うよ。」

 笑みを浮かべながらそう言うアイラに、宗絃は少し呆れて、

「一応仕事中だろ?これから客が来るのにこんなことしてていいのか?」

と言うと、それが聞こえたテッカンが少し離れたところから声をかけた。

「俺たちも早く仕事に戻りたいんだ。さっさと始めろ。」

 命令口調だが表情は完全に半笑いである。

 彼に同調した野次と笑い声が上がると、宗絃とウィルも声を上げて笑ってしまう。

「俺は準備できてるぞ。」

 宗絃が言うとウィルも、

「俺もだ。」

と答えた。

「俺が開始の合図をしてやろう。」

 いつの間にかそばに寄ってきていたテッカンがそう言うと、アイラは演習場の隅に移動した。

 二人の様子を確認し、テッカンが片手を上げる。

「それじゃ行くぞ。」

 宗絃は一礼し、ウィルはつかに手をかける。

「始め!」

 手が振り下ろされた瞬間、先に動いたのは無手のままの宗絃だった。

(剣も抜かずに?)

 不意を突かれたウィルが慌てて剣を抜き切るも、宗絃は既に懐深くまで踏み込んでいる。

(近いッ⁉︎だがこれじゃあ……。)

 剣の間合いよりもはるかに近く、宗絃の兜割すらも振るえない位置まで踏み込んで何をするのか、ウィルが考えつくよりも先にその胸ぐらが掴まれた。

 そのまま引き込まれて背負い投げ。

 自身よりも頭一つ分ほど背の低い宗絃に引き込まれたウィルは抗う術もなく前方に体勢を崩されて一回転し、背中から地面に叩きつけられた。

 衝撃で呼吸を奪われたウィルの胸を膝で抑えて体の自由を奪いつつ、宗絃はその顔面に拳を振り下ろした。

 テッカンが止める隙もなく放たれた一撃はウィルの鼻先で止まり、僅かな風圧だけが届いた。

 静まり返った演習場にテッカンの、

「そこまで。」

という声が響き、宗絃は立ち上がって再び頭を下げた。

 若手筆頭剣士のウィルが難なく一本をとられた光景に誰もが黙り込んだ空間の中、最初に声を上げたのは立ち上がったウィルだった。

「剣の勝負じゃなかったのかよ……。」

 容易く一本を取られたことよりも、宗絃と剣で打ち合えなかった事への落胆が大きさからの言葉だった。

 肩を落とすウィルを見ながら宗絃は笑って、

「隙が見えたから、つい。」

と答えた。

 確かに二人とも、剣での、とは一言も言っていないのだがウィルからは諦めのつかない言葉が漏れた。

「剣の練習にならんだろ。」

 それは互いにとって、という意味だったが宗絃は、

「気を抜いてたら練習にならんだろ。」

と正論で返し、反論に困るウィルに、

「俺なら対応できた。」

と追撃した。

 勿論そうできる自信もあったし、何より、これからの二ヶ月をトレーニングに費やすと決めてから仮想敵はクロスだった。彼にこの程度は通じない。

 深呼吸して負けを受け入れたウィルは、

「もう一本。もう一本頼む。」

としっかりと頭を下げて申し入れた。

 彼の本気がどれほどか気にならない訳ではないと思った宗絃はその提案を受け入れ、泣きの一本が成立した。

 やりとりを黙って聞いていた審判役を務めるテッカンは二本目を見られる楽しみに笑みを浮かべて再び手を上げた。

「二人ともいいな?二本目、行くぞ?」

 ウィルは完全に剣を抜いて構え、宗絃は再び礼をする。

「始め!」

 合図と同時に、今度はウィルが飛び込んでいく。

 振り下ろされた剣は寸止めをする気配を感じさせないまま宗絃を襲うが、余裕の表情で躱された。

 追撃として放った横薙ぎも距離をとられて当たらない。

 更に深く踏み込んで剣を振ると、今度は剣の衝突音と共に軌道が逸れて当たらなかった。

(いつの間に……?)

 直前に何も持っていなかったはずの宗絃の手には兜割が握られている。

 いくら短いとはいえ抜く瞬間すら視認できなかったのだ。

 その上、体格と武器には大きな差があるにもかかわらず平然と一撃を逸らされてしまった。

 全身の力で剣を打ち合うならばその二つが重い方が圧倒的に有利であるというのがウィルの常識である。どちらも遥かに軽いはずの宗絃が容易に防ぎきる現状が理解できない。

 どれだけ攻めても鍔迫り合いを起こさず逸らされ続ける。

(逸らされるなら……っ。)

 体当たりに近い踏み込みを見せたウィルだが、冷静さを欠いた悪手となった。

 有利な鍔迫り合いに持ち込めたのは一瞬で、体勢を低くした宗絃は再び背負い投げを見せたのだ。

 一本目と同じ光景が繰り返され、今度は兜割の鋒がウィルの鼻先に突きつけられた。

「そこまで。」

 テッカンの声が上がり、二本連取で宗絃の完封勝ちが確定した。

 一部始終を観ていた職員達は拍手をすると持ち場へと散って行った。

 ウィルは立ち上がって土埃を払い、悔しそうな声を上げる。

「ダメだ。全っ然ダメだ。」

 諦め切った言い方に宗絃は笑いながら、

「二ヶ月後は、分からないだろ。」

と同じ言葉をかけた。

 本心からだった。

 一振り払うごとに鋭さを増していくウィルの剣は彼が持つ潜在能力の高さを示しており、真剣に二ヶ月間剣を振り続ければ今日のようには行かないだろう。

 思っていた以上に鍛える必要がある事を強く感じた宗絃だった。

 そしてウィルは宗絃の言葉に自分の奥底で熱くなるものを感じていた。

 武闘大会に出るにしてはランクの高いウィルだが、申し込んだ当初はD控え、つまりはEランクだった。

 しかし大会が一度延期されたことで、その間にもより難易度の高い依頼に挑戦していた暁光の導きの面々は大会に出るには高いランクになったのだ。

 もちろんその短期間で評価を上げたのは彼らの実力だが、たった今、宗絃に負けた事でウィルは自惚れ、鍛錬が不足していたと痛切に思ったのだ。

「ああ、そうだな。大会では絶対倒してやるからな。」

 ウィルが拳を突き出すと、宗絃も拳をぶつけた。

 演習場から出ていくウィルを見送った宗絃は残っていたアイラに声をかけた。

「掃除したばっかなのにゴメン。整備の道具ってどこにある?」

「整備?あぁ、大丈夫よ。私たちがやるのは簡単な掃除だけで、整備は定期的にやってもらってるから気にしないで。」

「なんだ。じゃあもっと暴れてもよかったのか。」

「暴れ……ってアレで加減してたの?ウィルさん相手に?あの人みんなから天才って言われてるんだけど……?」

「二ヶ月後はもっと凄いぞ。鍛え直してくるからな。」

 そう言いながらも僅かに荒れた土が気になり、軽く土魔法で足跡が残っていた辺りを整えた。

「冗談でしょ?」

 宗絃の魔法に気づかないアイラはまじまじと宗絃を見る。改めて向かい合って立つと宗絃の目線はアイラよりも低く、まだまだ少年と言える年齢のはずである。

 まだまだ伸び盛りだとはいえ、今以上になる事がそう簡単ではないとアイラでも分かっているつもりだった。

 これから二ヶ月、本気で鍛えるのだと言う彼の言葉に「頑張ってね」と笑いながら二人で演習場を後にしようと扉を開けたアイラは硬直した。

 目の前に見たこともない美女が立っていたのだ。

 金髪に碧眼、色白に尖った耳。体格はスレンダーで身長はアイラと同じくらい。

 宗絃が初めて見たエルフだった。

「やあ。すまない。少し剣戟の音が聞こえたんだが、終わってしまったみたいだね。」

 二人の後ろ、演習場を覗き込みながらエルフが言った。

「え、えぇ。ついさっき。冒険者の方ですよね?解放はされていますので、お使いになられるのでしたらどうぞ。」

 エルフの首に下げられたタグに気づいてアイラが答えた。

 だが、それより先にエルフは演習場への興味を失っていた。

「いや、見に来ただけだからいいよ。ありがとう。それより戦っていた内の一人はキミか?ヒトの子供に見えるが……ふむ、もう一人の方だったのかな?」

 つま先から順に宗絃をじっくりと観察しながら独り言を呟いている。

「いや、魔法の制御が美しい。やはりキミの可能性を捨てきれない。信じられないな。私でもこの距離でなくては感じ取れない。面白い。面白いよ、キミ。」

 少し屈んで同じ高さから宗絃の瞳を覗き込むと、声を出すたびに息が当たるほど顔が近くなっていた。

「あの、何か?」

 問いかけたのは動けなくなっていた宗絃ではなくアイラだった。

「ん?あぁ、すまない。興味を引かれてつい。邪魔をする気はなかったんだ。参考までに教えて欲しいんだが、キミと、キミがさっき戦っていた相手は今度の武闘大会に出るのかい?前衛で。」

「はい。一応、その予定です。」

 宗絃の答えにエルフの口角が上がる。

「それは素晴らしい。また会えるのを楽しみにしているよ。じゃあね。」

 踵を返して去っていくエルフが視界から消えると、アイラは少し強めに肘で宗絃を小突いた。

「いつまで見蕩れてるの?」

「いや、良い匂いだったな、と」

「そんな事は聞いてない!」

 今度は鳩尾に肘鉄を決められた宗絃は呻き声を上げながら崩れ落ちた。


「二ヶ月ぅ⁉︎」

 その夜、暁光の導きが拠点としている貸家にカミラの不機嫌な声が響き渡った。

「おう!」

 チャロとゴータスは声を聞くだけで疲れたような表情を浮かべているが、不機嫌オーラを一身に受ける当人はどこ吹く風で、脳内では明日からのトレーニングに思いを馳せていた。

「アンタ、本気でそんなに休むつもり?パーティーを放っぽり出して?」

 二ヶ月後といえば武闘大会だろうとはカミラも想像がついたが、これまで特別な準備などしてこなかったのに、ここに来て二ヶ月丸々を訓練に充てると言い出した理由には思い当たらない。

 申し込んだ当初よりもランクが上がり出場者の中ではトップクラスになった事で負けられないとウィルを囃し立てた事はあるが、笑って聞き流すだけだった。

 パーティー結成当初のことを思い出せば不思議ではない。元々面識はなかった四人だが、偶然にも同年代ではそれぞれのポジションでトップクラスの者が出会い、各々がより高みを目指すために結成したのが暁光の導きである。

 だからこそより難度の高い依頼へ挑み、周囲も驚くべき早さでランクアップを果たしてきた。

 実力だけなら既にCでもおかしくないからこそC控えとされるのだ。

 地方の武闘大会で躍起になる時期はとうに過ぎたはずだった。

「おう!本気だ!久しぶりに領主様の騎士団へ出稽古も行きたいな。」

「バカじゃないの?依頼とかは?」

「おう!それぐらい働かなくても蓄えはあるだろ?臨時で人を入れてもいいんじゃないか?」

 パーティーといえど常に一緒に動かなくてはいけないわけではない。単独で別のパーティーに入れてもらう者も、足りないポジションを臨時で入れるパーティーもよくある話だ。

 寧ろ結成初期はそれぞれが別パーティーに行くことも多かった。

 暁光の導きなら入りたがる者も多いだろう。

 考えていないようだが存外理に適ったウィルの案を聞いたカミラは青筋を浮かべながらゴータスとチャロに話を振った。

「アンタ達は?いいの?急にこんなので?」

「俺は構わんぞ。たまには他の奴と組むのもいいんじゃないか?最近休みも無かったからのんびりするのもいいだろうし。」

「私も。最近はみっちりトレーニングしてなかったし、ウィルみたいに鍛え直すのもいいかなぁ。」

 ゴータスもチャロも、カミラがウィルの鍛錬を邪魔したいわけではないとよく分かっている一方で、機嫌を取って二人の間を取り持つ労力を費やすこともなかった。

「ハイハイ、分かりました。じゃあ全会一致で暁光の導きは二ヶ月間の休養期間に入ります。はい、解散!」

 手のひらでテーブルを叩いて立ち上がると苛立ったオーラを全開にしたまま自室へと帰って行った。

「「全会、一致……?」」

 ウィルだけはなんの疑問もなく、「どうしようかな〜。」とトレーニングメニューに悩む軽い声を上げながら自室へと戻った。

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