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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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2章・山を下りてー12

 数分後、宗絃は面談室から出て協会へ預けてある現金を引き出すためアイラの窓口へと向かった。

「副支部長は?」

 現金を渡しながらアイラが聞くと、やっと面談室から出てきたキュウイが二階へと帰っていくところだった。

「元気ないけど何したの?」

 一気に声を落としてヒソヒソ声で再び問いかけると素知らぬ顔で、

「話聞いてお断りしただけ。テッカンさんの言う通りだったし。」

と答えが帰ってきた。

 それだけなはずは、もちろんない。

 話し方、言葉遣いで相手が自分に望む関係性が想像できる事がある。

 キュウイが求めたのは明確な上下関係、当然宗絃が下のものだと感じられた。

 仮にそれが間違いであってもそう感じさせる話し方をする人間とは距離を置くのが宗絃の方針だった。

「上下を付けたいならハッキリさせよう。」

と決めた宗絃はその瞬間からキュウイと話している間中魔力で圧をかけ続け、交渉の余地すら与えず協会の調査依頼を却下し、会話を数分で終わらせて面談室を出てきた。

 ただ断って距離を置く選択肢もあったし、今回の事でキュウイが敵愾心を燃やす可能性も十分にあったと思うのだが、自分達が押せば引く相手なのだと思わせてしまう事で増長させる可能性がある事を転校時に痛感していた。

 宗絃が転校する前の噂は既に流れており、全ての生徒が距離を置いていたのだが、最初の対応を任されたクラス委員長が普通に接していたこと、役所の手続きが煩雑になったため文化祭の準備にほとんど参加できなかったこと、文化祭準備の頼まれごとをほとんど断らなかったこと、普段の印象が積み重なって瞬く間に「何をしても怒らない相手」に変わっていたのだった。

 面倒な人間に目をつけられなかったのはありがたいが、別の意味で面倒な人間関係が形成されてしまったのは間違いなく、「これなら喧嘩に巻き込まれる方がマシだった」と常々思っていたのだ。

 現金を渡しながらアイラはため息混じりに言った。

「やり方が気に食わなかったのは申し訳ないと思うわ。けど、ダンジョンの情報が重要なのも事実なの。」

 ダンジョンの情報については宗絃も理解がないわけではない。

 オーバーフローの前兆を把握するためにも冒険者から寄せられる内部の状況把握は不可欠である。

 だが、危険と判断されるのは中層よりも上でモンスターが増え始めた場合であり、宗絃とウィルが辿り着いた最下層の情報はそれに生かされることはない。

「それは分かってる。けど、問題は遠い方のダンジョンじゃないのか?」

「そうなんだよね。情報整理の担当さんも困ってるみたい。……一人でいっちゃダメだからね?」

「分かってる。さすがにあっちは一人では難しいそうだからな。」

 ゲインの町が抱える問題は「近い方」と言われるダンジョンの難易度が「遠い方」に比べて低い事にある。単にモンスターの強さなら良かったのだが、難易度の違いが内部構造のせいで発生している事が問題なのだ。

 宗絃が潜っていた「近い方」は通路型と言われ、その名の通り内部構造が通路になっているのに対し、「遠い方」はクロスのいたダンジョンのように空間が広がるだけの階層が存在する。

 地図を作成でき、道を把握できれば一人でも探索可能な近い方に対して広大な空間を階段を探すためだけに襲いくるモンスターを退けながら彷徨わなければいけない遠い方を一人でうろつくのは無謀という他ないのである。

 遠い方のダンジョン情報を見た宗絃は、クロスに会う事なくダンジョンを彷徨っていれば自分はどうなっていたのだろうと今更ながらに恐怖した。

 一般的な冒険者達も同様に、余計なリスクを負う遠い方のダンジョンに好んで入る者は少なく、最新情報が揃いづらい状況が常態化している。

「私としてはやっぱりパーティーを組んで欲しいんだけど、候補がねぇ。」

 既に連携が機能しているパーティーを変更することは好まれない。どれだけ実力があろうとも、突出していることで崩れるものもある。

 暁光の導きですら足手纏いになりかねない実力を知ったアイラにはその案を推すことは出来ない。

「そういえばソウシ君、拠点登録はしない?協会からの連絡が必要な時のやつなんだけど。ウィルさんも話がしたいけどどこにいるのか分からないって困ってたのよね。」

「今は夜空の魚亭にいるけど、拠点というよりただの宿泊なんだよなぁ。人が増えたら出て行こうかと思ってるし。ウィルは拠点を聞いたことあるから行ってみるよ。」

「結構近くにいたのね。じゃあ拠点登録はしないでおくわね。暁光の導きは依頼で町を離れてるから今行っても無駄足になるわよ。帰ってきたらウィルさんに宿泊先を伝えるわ。それから、あと二月もすれば大きめのお祭りがあるから宿は多分全部埋まるわよ?もう遅いかもしれないけど。」

「え?マジで?何それ?祭り?」

 驚く宗絃の様子にアイラも驚いた。

「本当に知らない?まあ準備が本格的に始まるのは来月からだけど、協会主催の大会があるの。前衛、後衛、パーティーの三部門で強い冒険者を決めようってね。条件はDランク以下。成績次第でランクアップできる可能性もあり。ウィルさん達も出るみたいよ?」

 協会主催の、通称「武闘大会」は単純な戦闘能力で参加者がぶつかり合う珍しい催しである。参加資格も特になく、大きな約束事は事故による怪我や死亡のリスクを受け入れることのみである。怪我はあっても回復に長けた神官を数多く揃えて開かれるため死亡者は滅多に出ないのだが。

 当初は協会が冒険者達の戦闘技術を直接見る機会がないために開催されたのだが、冒険者志望の腕自慢が力試しに参加し始めると一気に規模が大きくなった。

参加者が増えることは協会側も好意的に捉えており、多数の集客が見込めることから開催希望地を募って各地で開催しているのだ。

「出てみようかな。」

 一通り説明を聞いて、本気で検討し始めたらしい宗絃に驚いたのは勧めたアイラだった。

「え?ホントに?」

「なんでソッチがびっくりするんだよ?」

 怪訝そうに目を細めた宗絃が問いかけるとアイラは慌てて、

「あ、いや、そういうの興味ないかなって。目立つのも嫌いそうだし、メリットないから出そうにないな〜と思ってたから予想外だったの。」

 普段の言動からそう思われても仕方のない自覚がある宗絃は反論のしようがなかった。

「確かにそうは思うけど、ランクアップがあるなら興味出てくるな。」

「ランクアップしたいの?」

 これもランクダウンを何も言わずに受け入れた宗絃とは真逆に思える言動だった。

「興味がないわけじゃない。あるに越したことはないだろ。高い方ができる事が増えるし、必要な時に急に上げられるもんでもないんだから。」

 最も気にしているのは図書館で閲覧できる本が増えることだ。ゲインの町の図書館には無いのだが閲覧が制限されている本があるらしく、今後読みたい本を見つけても閲覧できない可能性を宗絃は懸念している。勇者召喚に関する本は希少な可能性が高いと勝手に思っているのだ。

「よく知ってるのね。この町じゃそんな制限が付いてるのは協会の預かり金制度ぐらいなのに。」

 常識知らずなのか、物知りなのか分からない宗絃の知識量に驚きながらアイラが笑うと、宗絃は真顔で答えた。

「この町以外ではそうじゃないってことだろ?」

 当然のように出てきたこの答えがアイラに大きな衝撃を与えた。

 先日テッカンから似たような話をされたばかりだというのに「想定外」の答えに聞こえてしまった事が衝撃だったのだ。冒険者と言いながらも一度働き始めるとその町から、冒険者ならば拠点と定めた町から動かず一生を過ごすという認識から抜け出せていない自分を見せつけられた気がした。

「そう。そうね。町じゃあそれぐらいだけど、都に行けば全然違うよね。」

 自分に言い聞かせるような言い回しに違和感を覚えたものの、納得したらしいアイラに、

「だろ?じゃあ、ウィルが来たらよろしく。宿が変わったらまた来るよ。あと、催しの参加部門か?」

「パーティーが一人でも出られるわよ?初日に前衛の予選、二日目にパーティーと後衛、三日目に前衛の本戦だから被ってないしね。」

「後衛とは被ってるじゃん。」

「後衛は関係ないでしょ?」

 宗絃は「後衛と前衛どちらに出ようか?」という意味で聞いたつもりだがアイラは「前衛に出るが、パーティー部門も同時に出られるのか」という答えを返していたらしい。

 少し悩んでアイラにはハッキリと魔法が使えると言っていないため知らないのだと、宗絃は今更ながらに気づいた。

(どこまで力を見せるかはまだ悩んでるんだよな。ウィルにはかなり見られたけど……。)

 クロスに言われた通り複数属性を使えることはまだ隠しているし、できれば小出しにしていきたいところではある。

 悩んだ末、アイラに相談するという結論に達した。

「アイラさん、アイラさん。」

 突然の小声にアイラは耳を近づけ、宗絃は近づいてくる美人の顔に少し心拍数を上げながら耳打ちする。

「俺、一応魔法も使えるんだけどランク上げるのに有利なのはどれですかね?」

 目を見開いでアイラの顔が正面を向き、宗絃の心拍数がさらに上がる。

「本気で言ってる?どれぐらい?」

「確実にカミラさんより上。」

 登録に来た時なら確実に信じていなかったその言葉を、今のアイラはすんなりと受け入れられた。途方もない力にため息を吐いて答える。

「できるだけ力を隠しておきたいってことよね?ランクアップは当日に協会本部の職員さんがするの。今はどれだけ上がってもDランク控えまでだから、それだけの力を示せばいいって事。単純なのはDランク控え以上の人に勝つことね。問題はDランク控え以上の人は少ないって事なんだけど……。」

「ダメじゃん。俺、もうEランクだしそういう人と当たらないと意味がないんだろ?」

「Cランク控えの人が出るって言ったでしょ?」

「ウィル?」

「確実なのはね。直接戦ったりしなくても、それだけの実力があるって判断されればランクは上げてもらえるらしいけど……。」

 明確な比較対象が無い以上、その裁定は誰かの主観という不確定要素が大きくなる。現状で最も確実なのは前衛部門でウィルを倒す事だと宗絃にも理解できた。

「前衛部門にエントリーでお願いします。」

 その一言を聞くとアイラは姿勢をいつもの窓口対応と同じに戻し、書類を取り出しながら、

「では、手続きを承ります。」

と答えた。


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