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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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2章・山を下りてー10

 非常事態に陥った冒険者が協会支部に駆け込むことは珍しくないが、二日連続で、しかもCランク間近と言われる冒険者まで駆け込むのは流石に珍しかった。

 依頼達成の報告でも、ダンジョンから持ち帰った魔石の換金でも、冒険者が支部に集まり始めるのは日暮れ前からである。

 ウィルが支部にたどり着いた時はまだまだ彼らが帰る前だった。

 勢いよくドアを開いて倒れ込むように入って来た彼に最初に反応したのはアイラだった。

「ウィルさん?そんなに急いでどうされたんですか?水を用意しますのでお待ちください。」

 そう言って食堂へ向かおうとした彼女の腕をウィルは掴んだ。

「ちょっと、まっ、まって、くれ。」

 息も絶え絶えにそう伝えると、ウィルは自前の水筒から水を飲んだ。

 それを見ながらアイラはウィルの不自然な荷物に気づいた。

 戦い方やその日の目的など、冒険者が持つ荷物は千差万別であるのは当然だが、可能な限り身軽であることが望ましいのは共通している。

 その点、ウィルの荷物は似たようなサイズのリュックが二つの時点でおかしいのに、マントを着ているにも関わらずもう一着は手に持っている。彼の姿は新人冒険者が荷物持ちでもしている姿を連想させる。

 さらに彼が持つリュックと荷物は毎日多くの冒険者を見るアイラでも見覚えがある品だった。

「あの、そのリュックとマント……。」

「ああ。ああ。これは、預かった。マントは、アイラに、預かって、もらいたいと。今日中、には、取りに来るらしい。」

 何故そうなったのか分からないままだったが、非常事態であることは感じ取ったアイラが更に話を聞こうとした時、背後から割り込む声があった。

「アイラ、とりあえず面談室の方がいいんじゃないか?」

 アイラ同様、ただならぬ雰囲気を察したテッカンがいつの間にか彼女の背後に立っていた。

 ウィルは一人で立ち上がったが全力疾走の反動から足元がおぼつかなかったため、テッカンが肩を貸して面談室へと連れ込まれた。

 徐々に呼吸が整い始め、面談室に入った第一声が、

「テッカンさん、それの買取を。」

だった。

 指さされたソウシのリュックを開けたテッカンは息を呑んだ。

「おい、こりゃあ……。」

 横から覗いたアイラも「凄い。」と声を漏らしたが魔石の量に対する感想でしかなく、その異常さを理解していたのはテッカンのみだった。

「お前達、深層に行ったな?」

 リュックに入っていた魔石は色、大きさ、感じる魔力、全てにおいて地下二十一階以上の深層と呼ばれる領域で出現するモンスターから得たものであることを物語っていた。

 しかもこの量は暁光の導きを始め、この町でトップクラスのパーティーが本気でダンジョン攻略を目指した時に持ち帰る量に匹敵しているのだ。

 テッカンの問いかけに、ウィルは黙って頷いた。

 リュックの中から魔石を取り出し数えるテッカンをよそに、アイラはウィルに視線を向けた。彼女の腕には宗絃のマントが抱かれている。

「それで、ソウシさんはどこに?」

 ただ荷物を渡されて先に来ただけならここまで疲弊しながら協会に駆け込むのはおかしいし、マントを預かるのが『今日中』という大雑把な表現なのも気にかかる。

「まさか、逸れて?」

 現状について想像でき始めたテッカンは黙々と買取リストに記載を始めた。

 ウィルはどう切り出せばいいのか整理がつかず中々言葉が出ないでいる。

「何があったんですか?」

 焦って質問を重ねるアイラに答えたのは書類を書き終えたテッカンだった。

「逸れただけなら荷物は預からねぇよ、アイラ。こういう時は大抵、足止め役の荷物だ。」

 テッカンの言葉にウィルもやっと声が出せた。

「そう、足止めだ。近い方のダンジョンの二十九階にヤバい奴が出たんだ。」

「二十九⁉︎」

 驚いたのはテッカンだった。

 これまでの最高記録は都から来たパーティーが進んだ二十七階だった。初めての探索でそこまでたどり着いた事に対する驚きも、もう少し真面目にやればすぐにクリアできると豪語してゲインの町の冒険者を馬鹿にされた苛立ちも鮮明に記憶している。

「だが、初めての階層だろ?地図もないのに足止めしても意味がないだろ……。」

 それは足止めではなく囮でしかない。パーティーで倒せなかった敵を一人に任せて出口も分からず逃げ出すだけの行為だ。

「アイツの後ろには降りる階段しか無かったから、方向だけは分かったんだ。」

 話は少し進んだが、ダンジョン内で起こる状況に明るいテッカンだから理解できただけで、未だに何も分からないアイラは不安そうに、

「テッカンさん。」

と説明を求める声を出した。

「あぁ、そうだな。この町じゃ滅多に見ないからアイラはあまり知らないか。ダンジョンの中で勝てない敵に出会って逃げる時の話だ。普通は魔法なんかの遠距離で足止めしながら逃げるんだが、どうにもならねぇ時には囮を使う。パーティーの中で一番生存率が高い奴だ。基本は斥候だな。最低限の荷物以外は仲間に任せて敵を撒いた後はダンジョンの出口とかで落ち合うんだ。強敵の多いダンジョンに潜るパーティーはよくやる手だ。」

 モンスター相手なら習性を把握し、手慣れた者にはさほど危ない役割でもないらしい。そのための道具もいくつかあるし、逃げ慣れた者だけが生き残り先に逃げたパーティーが帰って来なかった話を聞いても驚かないほどだ。

「ソウシなら上手くやりそうな気もするが、そもそもそんな状況に陥る奴にも見えなかったがな。お前ら二人でもそんな事になるモンスターがいたってのか?」

 かぶりを振ったウィルの表情には再び不安が浮かんだ。

「モンスターじゃない。自分の事を『魔人』って言いやがった。」

 意識は会話に向いているが、手癖なのか魔石を眺めて色を確認していたテッカンはあまりの驚きにポロリと落とし、慌てて自分でキャッチした。

 アイラは横で硬直している。

 名前しか聞いたことがないが、以前魔王が率いた軍と人間が戦った時の御伽話に出てくる存在である。まさかこんなところで聞く事になるとは二人とも思っていなかった。

「ダンジョンの中で生まれたんじゃなくて、奥にいれば強い奴が来ると思ってたらしい。ソウシは昨日入っていくところを見たって言ってたな。」

 話を聞いていたテッカンはある事に気づいた。

「待て、じゃあソイツは…ダンジョンから出て来るかもしれないってわけか?」

 焦りながらもアイラへの配慮から「宗絃が負けたら」とは明言しなかったが、彼女はそれに気づいたらしくマントを抱える腕が少し震えていた。

「多分、手を出さなければ町が襲われる事はない。強い奴にしか興味がないって言ってたからな。」

 話しながら、あの時のことを思い出して沈んでいくウィル。

「お前さんでも勝てなかった奴なら、確かにこの町で可能性がある奴らはほとんどいないな……。」

「勝てなかったどころじゃない。戦いにもならなかった。」

 呼吸すらできないほどの圧力と、自分から興味を失った瞬間のクレアの目を思い出して震え上がる。

 あの時、とにかく彼女に向かって行ったのは戦意からではない。ただ怯える自分を隠すために吠え散らかす犬と同じ存在だった。結局、ろくに剣を振るうこともできず宗絃に逃がしてもらっただけだった。

 思い出すと情けなくて声が出なくなり、アイラ達に説明しようとしても言葉が出てこなかったのだ。

 無力さを噛み締めるウィルに二人とも声をかけられないまま待つことしかできない時間が流れたが、ついにテッカンが腰を上げ、

「今、出来ることが無いのは分かった。アイラは部門長にこの件を報告してくれ。俺はコイツを買取に回してから行く。ウィルはここで待て。」

 アイラは「はい。」と答えて立ち上がり、テッカンが優しく肩に手を置いたウィルは項垂れたまま微かに「ありがとうございます。」に聞こえる声を出した。

 テッカンが面談室のドアを開けると重苦しかった空気が少し入れ替わる。

 ため息をついて部屋を出ようとしたテッカンは、そのまま固まった。

「テッカンさん?」

 アイラの声を無視し、

「ウィル」

と呼ぶ。

 部屋から出たテッカンの目に入ってきたのは、窓口の順番待ち用に置かれたベンチで欠伸をしながら大きく両手を上げて伸びをする宗絃の姿だった。

 テッカンの後ろから顔を覗かせたアイラもその光景に絶句し、無言でウィルの肩を叩く。

 ため息をついて買取カウンターに戻っていくテッカンの後からウィルが部屋を出ると、待合スペースに設置されたベンチで両手を大きく上げ、眠そうに伸びをする宗絃がいた。


 面談室から出てきたウィル達に気づいた宗絃は伸びのために上げた手をそのまま振っている。

 手を振るだけなので、自分から来るつもりはないらしい。

 呑気な姿に思わず「ははっ。」と引き攣った笑いが出たウィル。

 アイラ女史はツカツカと早足で宗絃の前に辿り着くと、大きく振りかぶって彼のマントを投げつけた。

 その近さから投げつけて顔面を外すわけがなく、ボフンと音を立てた後、返して貰おうと差し出した宗絃の手に落ちる。

「ホンジツモオツカレサマデシタ。」

 そう告げたアイラは再び早足で窓口へと戻っていった。

 入れ替わるようにテッカンが一枚の書類を持って来る。

「二人とも、いくつか聞きたい事がある。まずは、悪いんだが全部買い取れる金が今ここにはない。協会預かりになるがいいか?」

 協会預かりとは、銀行と同じように協会が現金を預かってくれるシステムだ。冒険者タグさえあればどの協会支部でもお金を引き出せるようになっている。誰でも使えるわけではなく、条件を満たした冒険者やパーティーにのみ使用を許される。

「俺はいりません。全額ソウシに。」

 ウィルはそう言ったが、宗絃は否定した。

「折半の約束だろ。悪いと思うなら変な体力使わせるなよ。」

 食い下がろうとしたウィルだが、そう言われては返せなかった。

 テッカンは頷いて二つ目の問題に入る。

「今回の査定、ランクはどうする?ウィルは単独でC控え、ソウシはD控えに上がるレベルだが、二人とも納得しなさそうだからな。ちなみに金額は他で売っても上手くやらなきゃ変わらないはずだ。」

 素材を協会に売却すればランクアップの査定も受けられるが、義務ではない。意思を示せば拒否もできるのだ。

 それをするなら高く買い取る商人を探すべきだが、今回は市場価格とほぼ同額なので更に高く売るにはそれなりの手間がかかってしまう。

 ランクアップ査定の拒否確認は二人の心境をよく捉えたテッカンの心遣いだった。

「俺はいらない。ありがとうございます。」

 ウィルは頭を下げた。

 視線を向けられた宗絃も、

「俺もいらない。」

と答えた。

「じゃあ、その通り処理しておく。二人ともお疲れさん。」

 買取カウンター奥へ引っ込んでいくテッカンを見送ると宗絃は、

「じゃあ、解散で。」

と言って立ち上がった。

 ウィルは何か言いたそうだったが、

「悪い。今日はもう、疲れた。」

と言うと宗絃の解散宣言に従った。


 その夜、バーツは報告書を読みながら頭を抱えていた。

「昨日に引き続き、よく巻き込まれる奴だな……。」

 黄金の夜明けの擦りつけ事件は「実害がなかったのだから不問」で済ませたがダンジョン内で魔人に遭遇はそうはいかない。

 ダンジョンの異変についても協会の調査対象だ。モンスターが溢れるオーバーフローの兆候を見逃さない事が目的と言われがちだが、そこで活動する冒険者の安全のために情報を収集、公開するのもその目的であり、本部への報告もしなければならない。

 今日の事については確実に本部へ報告すべきだが、今日の報告以上に調査しようにもこれまでの最高到達階を超えた先に派遣できる冒険者などいない。厳密には一人しかいない。

 加えてバーツは二日後からこの一帯を治める貴族のいる町へ出かける予定になっている。

 翌日、何としても自らウィル、宗絃の両名から話を聞かねばと意気込んだが話を聞けたのは拠点を知っているウィルからのみ。

 宗絃はまともに交流のある者がおらず、ウィルも逗留先を知らなかったために接触できないまま、バーツは不安を残して領主のいる町へと旅立っていった。


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