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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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2章・山を下りてー9

「ようやくか?」

 二人の様子を黙ってみていたクレアが声をかける。

「そうなりそうだなぁ。」

 魔力探知でウィルが離れるスピードが上がることを確認した宗絃が答える。

「全く。そんなに力を隠すからややこしいのではないか。まぁ、今から本気を見られるなら良しとしよう。逃げるでないぞ?」

「逃げるだろ。死なない相手なんて分が悪すぎる。」

 宗絃の言葉にクレアは「ほう。」と驚きと感心の混じった表情を見せた。

「お主、よく知っておるな?確かに魔人は人間ほど簡単に死なぬ。最近の人間はそこまで知っておる者はいなかったぞ。大きな戦をしたのは百年以上前じゃから、知っておる者など居なくて当然じゃがな。」

 それから歴史に残るような交わりはないが、その強さだけで恐怖を刻んだ存在が魔人だということでもある。

「たまたま知ってただけだ。詳しいわけじゃない。」

「うーむ。逃げられてもつまらんしのう。では、人間が死ぬような攻撃を受ければ今回は我の負けとしよう。」

「次回があるのが確定するじゃねぇか。」

 クレアは口を大きく開けて笑いながら、

「楽しもうぞ!」

と返した。

 今後のことは分からないが、とにかく今の事だと思えば悪い話ではないだろう。ダンジョン内では撒いたとて、町で暴れ出さないとも限らない。

 そしてついに宗絃の方針が完全に「勝つ」に切り替わる。

「ちなみにアンタは魔人の中でどれぐらいの強さ?半分より上?下?」

 祈るような気持ちで問いかけた。人間相手に戦うくらいなのだから、魔人相手では手も足も出なくてあってくれ、と。

「気になるか?安心せい。魔人相手でも我の相手になる者などそうはおらぬ。魔人だけでは戦い方が単調になってきたからこうして兵を探しにきておるだけじゃ。それから……。」

 妖艶な笑みを浮かべながらクレアは顔を近づけてくる。彼女より背の低い宗絃に目線を合わせるまで屈むと、豊かな胸部の谷間が強調される。

「他人行儀にせず、クレアと呼べ。」

 再び良い香りが漂い、吸い込まれそうなほど鮮やかなエメラルドグリーンの瞳が迫り、唇が密着しそうなほど近づいた瞬間、凄まじい反応を見せたクレアが宙返りで距離を取った。

 先ほどまで彼女の上半身があった場所には兜割の刀身が突き上げられている。

 宗絃の兜割は十手に近いため非常に細く刀身と言っても切れる刃ではないが、切先は通常のものと変わりがないため刺突は十分に殺傷能力を持った技となる。

「チッ。」

 舌打ちは宗絃のものだが、そんな態度にもクレアの機嫌はむしろ良くなっていく。

「クックック。重畳重畳。やる気が出てきたようじゃのう。」

 宗絃は答えることもなく兜割に水魔法で刃を形成し、クロスの言葉を思い出していた。

(半分より上、であのレベル……。ようやく片腕切り飛ばしたのがあのレベル……。)

 初めて見る魔法を警戒し、クレアは剣を握り直す。

 宗絃は僅かに前傾し、剣での打ち合いに応じようとクレアが両手に力を込めた瞬間、宗絃の背後から弧を描いて鋭利な氷柱が彼女へと襲いかかった。

 クレアの目が見開かれ、腕の太さからは信じられないほどの高速で振り回された剣が飛来する

氷柱を叩き落としていく。

 その間に氷柱の裏では空中に水球が出現し彼女を狙う。

(魔法戦とは……!)

 風魔法を見破られた時には魔法使いだと認識していたはずだが、水の刃をみた瞬間に意識が剣での勝負に向いていた。剣を握り直し、宗絃の前傾姿勢に対してそこに力を込めたことで、それを完全に見切った宗絃の裏をかいた魔法攻撃が功を奏したのだ。

 射出された氷柱を防ぎ切られるのとほぼ同時。発射位置も角度も異なるウォータージェットが十四発。空中の水球から直撃コースで放たれた。

 だが遅かった。

 氷柱に対応しながらもクレアは魔法の準備を整え、ウォータージェットを回避出来ないと判断した瞬間に全力で防御魔法を発動したのだ。

 発現したのは魔力の防壁。大方の魔人同様に持ち得る魔力をただ振り回すような使い方はクレアの主義に反するが、そんなものに拘っている余裕はなかった。

 迫る水流が透明な魔力の壁に阻まれ止まる。

止まりはしたがその水流がどれほどの威力を持った魔法であったのか、クレアには分かる。透明な防壁のため判別しづらいが、着弾部分は抉り取られて貫通する寸前ほどの厚さしか残っていなかったのだ。

「お主、本当に人間か?」

 攻防を終えたクレアの率直な感想だった。

 水が攻撃力に劣る魔法属性であることは人間と魔人の共通認識である。

 それに秀でた火を使う魔人でも傷付けるのが容易ではないクレアの防壁を「抉った」という事実があの水流に込められた力の強さを物語る。

 およそ人間とは思えない魔法であるという驚きを込めた問いかけだったが、

「人間のつもりだけど……。」

と答える宗絃の驚きとはズレがあった。

(あれ?なんか、思ってたよりいいセン行った?)

 クロスを相手にしていた時の癖が染み付いたせいか、一つの工房から相手の対応を見て次の作戦を立てようとしたのだが、あのまま押し切れば倒せたような印象を受けている。

(そうか。クロスは器用って言われてたって……。これが魔法の使い方の差か。)

 勝機を感じたと同時に、先程のタイミングで押し切らなかった甘さが悔やまれた。

 もはや鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌になったクレアの表情と構えからは、

「次は剣術を試しますよ。」

と聞こえてきそうだった。

 もちろん宗絃はお断りするため、猛進してくるクレアに向けて再び様々な角度からウォータージェットを放つが、今度は単純な魔力の盾で防ぐのではなく、身体能力の強化と風魔法を身に纏うことで移動速度を上げて回避される。

 結果、天井まで使った立体的な軌道に対応できず数秒でクレアが望んだ間合いまで詰めることを許してしまい、二人の刃が交錯する。

 一度目の接触で力勝負は分が悪いと判断していた宗絃は力を逃しながらクレアの剣を逸らすことで耐え凌ぐ。

 その姿だけを見れば一方的に攻められているように見えたが、クレアは圧倒的な力を持ってしても突破できず攻めあぐね、彼女の攻めに慣れ始めた宗絃は隙を見つけてウォータージェットでの反撃を挟み始めた。

 攻防が続くほど宗絃の反撃手数が増え始め、クレアに切り傷が目立ってくる。

 そしてついに攻撃を受け流して体勢を崩させた宗絃のウォータージェットを避けてクレアが後退した。

 宗絃に向ける彼女の視線には、これまでのような愉しみだけでなく強敵に対する敬意が含まれていた。

「素晴らしい。魔法だけではなく剣術においてもここまでとはな。これは我からの感謝と敬意じゃ。受け取れぃ!」

 クレアが発する魔力が膨れ上がり、纏う風をさらに強化した突撃が敢行される。

 この風は非常に厄介だと宗絃は思っていた。ウィンドホークと同様に、彼女が纏う風は空気抵抗を減らし、風を噴射する事で移動速度を向上させるのだが、同時に鎧と同様に防御の役割も果たすのだ。

 これまでの出力なら宗絃のウォータージェットで突破できたが、今は一目で無理だと分かる。勿論クレアもそれを分かって出力している。

 宗絃はウォータージェットによる攻撃を諦め、水鏡の制御に集中する。

 クレアの横薙ぎに対し、バックステップで距離を開けた宗絃は再び受け流すと思われた。

 だが剣同士が接触したはずの瞬間、クレアの剣は乱れのない剣閃を描いた。

 そして振り返ろうとしたクレアの体は思い通りに動かず、意に反してその首がゴロリと床に落ちた。


 驚愕の表情で地面に転がった首は一瞬で黒い影となって消え去り、胴体に移動すると頭部として再生し、倒れかけていた身体は意識を取り戻すと、傾いていた体勢を倒れる事なく修正した。

「っぷはっ!」

 水中から顔を出した時のような声を出したのはクレアである。二、三度深呼吸をして息を整えると大声で笑い出した。

「いやー、負けた負けた。こうも綺麗に首を落とされるとはな。」

 そして勝った宗絃は残心の後に水鏡を解いて兜割を帯にしまい、大きく息を吐いた。

 生死をかけない試合であったなら、勝ったのはクレアだと勘違いしてしまいそうな表情の違いだ。

 首を切られても平気な顔をしているクレアは最後の一撃を思い返している。

「水の剣か。面白い。接触するもせぬも、お主の胸三寸というわけじゃ。」

 剣が交錯する瞬間に見たクレアの光景は自らの剣が宗絃の剣を通り抜ける瞬間、あるいは水の刃を切ったように見えた瞬間だった。

 抵抗感は特になく、剣が通り過ぎると切られた刃は水と同様、何事もなかったかのように元の形を取り戻してクレアの首を斬ったのだった。

「見事じゃった。剣術も魔法も。特に最後に見せた刃は美しい。」

 宗絃が最後に見せた水鏡はそれまでと様子が違っていた。透明というのが相応しかった色から、青みがかった宝石を思わせる色へと変化していたのだ。

 魔法の発現にはイメージが重要であるとクロスに学んだ宗絃が辿り着いたのが、ダイシショサマに言われた『深い群青』だった。属性に関わらず、その色でイメージした魔法は性能が上がるのだ。

「まだ何か隠しておるの残念じゃのう。」

 色以外に宗絃が持つ手の内は晒さないまま勝利したが、『隠している』ことまでは隠せなかったらしい。

「何にせよお主は気に入った。さぁ、我が負けたのだから一つだけできる事なら何でもしてやろう。魔人といえど、身体のつくり自体は人間と変わらぬぞ?」

 優しく宗絃を抱きしめながら耳元で囁く声は妖艶という他なく、触れ合う部分に伝わる温かさと柔らかさに流されそうになりながらも誘惑を跳ね除ける。

「今日は負けを認めて帰るって話に上乗せなら何か考えるけど?」

「さすが、抜け目ないのう。もう一度生き延びれば良いではないか。」

 やはりどうにかしてもう一戦交えるつもりだったらしいが宗絃も疲れたし、何より反省点を多く見つけた今のままは避けたいところだった。

「今度は百年後だ。はい、さようなら。」

「そう言うな。ここを出るまでは一緒で良いではないか。階段を降りればダンジョンごと消してしまえるがの。」

 この下がゴールという言葉に嘘はなかったらしい。

 だが、ここまで楽に来れたのがクレアの間引きによるものであったことを考えると素直に喜ぶ気にもなれない。

「しゃーねーなー。出口までご一緒しますか。」

「我からは行かぬが、その気になればいつ斬りかかってきても構わぬからな!」

「安心しろ。絶対やらねー。」


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