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クラスで勇者に転生するはずが一人で置いて行かれました。  作者: NayuTa


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2章・山を下りてー5

 ゴブリンの魔石を回収し、すぐに来た道を引き返した。

 怪我人を抱えたパーティーが無事か気になったのだ。

 結局、彼女達を再び見る事がないままゲインの冒険者協会支部まで辿り着いてしまった。

 協会に入り、買取カウンターへ向かおうとすると受付窓口から、

「あっ、今入って来られた冒険者さん、お伝えしたい事がございますので、こちらへお願いします!」

と大きな声が響いた。

 思わず左右を見渡すが宗絃と同時に入って来た者はいない。

 受付窓口へ目をやると、声を上げたアイラは待ちきれなかったのか、カウンターに「閉鎖中」の板を立てて早足にこちらへと向かっていた。

 アイラに対応してもらえると思っていた順番待ちの冒険者は恨めしそうに宗絃を睨むが、呼び出し前に喜び勇んで彼女の窓口へ向かっただけなのでアイラの対応に問題はない。

 その様子を見ていた協会職員達は普段から落ち着いた対応の彼女の大きな声に固まったまま動けなかった。

 宗絃も先日の彼女との違いに驚いていると、近づいて来たアイラは黙って宗絃の手を掴むと五つ並んだ「面談室」の一つへと引っ張り込み、扉の表示を「空き」から「面談中」に変更すると扉を閉めた。

 一瞬静まり返ったホールだったが、一人が何事もなかったかのように業務に戻ると、気を取り戻したようにいつもの協会へと戻っていった。

 その間黙って動いていたのはテッカン一人。

 買取に必要な書類を取り出してトレイに乗せると静かに買取カウンターの外に出てアイラが宗絃を放り込んだ面談室のドアをノックした。

 特に返事はないままドアが開き、アイラが顔を出す。

 彼女が何かを言う前に、

「買取だろ?話をする間に査定を進めておく。」

とテッカンは声をかけた。

 答えたのは中の宗絃だった。

「はい。そうです。」

 アイラが扉を全開にしテッカンが中に入った。

 アイラは奥に詰めて宗絃の横に座ってテッカンのスペースを空ける。

 テッカンがトレイを置くと、

「お願いします。」

と言いながら宗絃は今日手に入れた魔石を皮袋からジャラジャラとトレイからこぼれないように出し始めた。

「結構な数だな。しかも、中層のワーウルフか?お前一人でこの数を?」

「一度にじゃないんで。」

 それでもテッカンは呆れたような顔を隠さなかった。

 複数人でも避けるワーウルフを一人で相手取ったと言うのだから当然だ。

 そしてその中に一つ、ゴロリと出た一回り大きい魔石に気づく。

「お前、二十階層も超えたのか?」

と言う問いに、アイラは「え?」と声を上げて宗絃を見る。

 ダンジョンに入るなと警告されていたことを思い出した宗絃はアイラの顔を見ないようにしながら、

「はい、まぁ。」

と答えた。

「一人でダンジョンに入って、一人で二十階も超えたの?入らないって約束しなかった?」

 忠告に感謝はしたが約束はしていません、などと答えられる圧力ではない。

 クロスにも匹敵するのではないかというプレッシャーを感じながら、

「アイラさん、いい声ですね。」

と答えると、

「面談、少し長くなるけど、ごめんね?」

と妙に優しい声が響いた。

 勿論、宗絃が横に立つアイラに視線を向けられる訳がなかった。

 あえてそこには触れず、テッカンは魔石を手に取る。

「大したもんだ。コイツが狩れるなんざ。さっきも逃げ帰って来た奴らがいたみたいだからな。」

 宗絃には心当たりがあった。

「ひょっとして四人の?」

「よく分かったな。見たのか?」

「すれ違いましたね。その四人を追いかけてたのがソイツです。」

 魔石を指差しながら宗絃は答えた。

 瞬間、アイラとテッカンの表情が張り詰めたものに変わった。

「一緒に逃げたとか、お前が助けに入ったとかじゃなくてか?」

「俺が見た時は逃げてる最中でしたね。無事に帰って来れたみたいでよかったです。」

 宗絃の言葉に何も答えず、テッカンは書類を書き上げると写しを宗絃に渡して立ち上がった。

 トレイを持って声をかけたのは宗絃ではなくアイラに向けてだった。

「二階に連れて行ったほうがいい。」

「はい。」

とアイラは答えて宗絃の手を引いた。

 宗絃は何の話をしているのか分からなかったが、アイラの手が少し震えているのを感じると何も言い出せずなされるがまま二階へ上がった。

 応接室と書かれた部屋をノックし、

「受付窓口部門のアイラです。入ります。」

と言うと、中から宗絃も聞いた事のある声で、

「どうぞ。」

と返ってきた。

 中に入ると、膝ほどの高さのテーブルと三人掛けのソファ。向かいに一人用の椅子が二つあり、壁際にはもう一つソファ、反対側の壁側には予備の椅子が並んでいる。

 中にはすでに八人がおり、二人が入っても少し手狭に感じる程度で済む広さがあった。

 壁際に神官らしき怪我人が寝かされ、剣士と盾使いは一人がけの椅子に、魔法使いは三人掛けのソファに。

 魔法使いの少女は嗚咽を漏らしながらソファで一緒に座る神官に縋り付き、他の面々も悲痛な様子で顔を伏せている。

 彼らを囲むように立っていたのは暁光の導きのゴータスとカミラ。ソファで泣く魔法使いの背中をさすっているのはチャロである。

 残る一人は先ほど室内から返事をした、聞き覚えのある声の持ち主。

「ん?ソウシか?」

 数日ぶりに顔を合わせたウィルだった。


 ウィルの言葉で椅子に座る少女達に視線を落としていたゴータスとカミラが顔を上げた。

「事情をご存知のようでしたのでお連れしました。」

 アイラがなぜ宗絃を連れてきたのかを告げる。

「事情?」

 事情を知っていると言われた宗絃だけが疑問系だったが、椅子に座っていた少女二人は顔を上げ、彼の顔を見て愕然とした表情を浮かべた。

 そして背後からテッカンが入って来て、事態の経過を教えてくれた。

「ソウシ、この子らはお前が来る少し前に教会に来た。怪我をして、神官は意識の無い状態でな。」

 その続きをウィルが話す。

「シャル達は俺らがよく面倒を見ているパーティーでな。たまたま俺達がいたからチャロが治療を引き受けて、この部屋で回復魔法をかけたんだ。魔物かモンスターに手酷くやられたのは分かったんだが、この通り何も話さなくて困ってたんだ。で、お前が来たってわけだ。何か知ってるんだって?」

「知ってるというかゴブリンから逃げてるところをすれ違ったんだ。」

「「ゴブリン?」」

 重なった声はウィルとテッカンのものだった。

 ウィルはシャル達の実力を知るためゴブリン程度から逃げるところを想像できなかったから、テッカンは思っていなかったモンスターの名前が出たからだ。

「何の冗談だ?お前二十一階層にいたんだろ?ゴブリンなんか十階までしかいないぞ?」

 テッカンのツッコミに反応したのはウィルだった。

「二十一⁉︎まさか、一人で?」

「らしいぞ。ソウシ、何の冗談か知らんが、お前が持ってきた魔石はゴブリンじゃなくてオーガだぞ。間違いなく深層の奴だ。」

 長年魔石の査定をしてきたテッカンである。ゴブリンの上位種や特殊個体の魔石も見たことはあるが宗絃が持ち込んだ物は明らかにそれらとは違っていた。

「オーガ?」

 宗絃の問いにはウィルが答えた。

「二メートル超の人型で武器を使う奴だ。まぁ、大きさを半分ぐらいにすればゴブリンに見えなくもないが、そんなに小さいのが出たって話は聞いたことないな。」

「な、なるほど……。」

(確かに、「これがゴブリン」って言われたことはないな。勘違いしてただけか……。)

 ダンジョンの二十階までゴブリンは出るのだが、戦いやすい相手であるためほとんどの冒険者がワーウルフよりもこちらを狙う。

 そのため人を避けていた宗絃はゴブリンを見ることがないまま二十一階へと辿り着いてしまったのだった。

「で、だ。聞くところによるとソウシはこの子らとすれ違ったらしい。で、その後に来たオーガと戦ったんだと。」

「そうか。それでシャル達は逃げ切れた訳だ。ありがとうな、ソウシ。」

 素直に感謝したウィルだったが表情は逆に徐々に曇り始めた。

 次に口を開いたのはウィルと似たような表情を見せるゴータスだった。

「そうだな。ありがとう、ソウシ。タルト、今の話で間違いないか?」

 呼ばれたのは盾使いの少女らしく、肩を振るわせながら、

「はい。」

と答えた。

 よくあることだと、協会に駆け込んだ彼女達を見て誰もが思っていた。

 ポテンシャルの高いパーティーが経験を積み、実力をつけて中層と言われる二十階までを漸く突破する。

 そしてそのまま、自信と共に二十一階からの深層へと足を踏み入れる。

 本来そこに挑むのは中層のモンスターを易々と突破でき、それらを無視して進んで深層を探索するための装備を整えた冒険者なのだと何度も話を聞かされていたにも関わらず。

 交戦しても全員生きて帰還した彼女達は今後の人生全ての運を使い果たしたといっても過言ではない。

 暁光の導きもそう思ったから今は軽々しい行動を咎めることなく黙って彼女達が落ち着くのを待っていた。

 しかし、宗絃の持ち込んだ話を加えると事情が変わる。

 宗絃と話す間に彼女達が少し震え始めたことでウィルとゴータスの疑念は確信に近付いていた。

 言葉に迷うウィルを置いて話し始めたのはゴータスだった。

「違うなら、違うといってくれ。お前達は二十一階に入り、オーガと戦って逃げた。」

 誰も声をあげない。

「途中、ソウシとすれ違ったが何も言わずに逃げ続けた。」

「ねえ、それって、ウソでしょ……?」

 声をあげたのはカミラだった。

 チャロは驚いて動けなくなり、少女をさすっていた手も止まっている。

 少女達は黙り込んだままだ。

「間違いないんだな?」

 アイラの問いには答えず、ゴータスは問いかけた。

「……はい。」

 答えたタルトの声は吐息ほどでしかなかったが、静まり返った室内ではハッキリと全員に聞こえた。

 ゆっくりと顔を上げたシャルは宗絃を見て、

「ホントに……?」

と漏らした。

「第一声がそれなわけ?」

 カミラが怒鳴り、ウィルが宥めるように、

「カミラ」

と言ったが本気には見えなかった。

 カミラは、

「私は無理!」

と言い残し部屋を出ていった。

 扉の閉まる音の後、ウィルは大きなため息をついた。

 重苦しい空気が続く中、

「何があったかは分かったな。俺とアイラはソウシを連れて面談室に戻るぞ。」

とテッカンが言うとウィルはゴータスに、

「ソウシにどういうことが説明してやってくれ。分かってなさそうだからな。」

と言った。


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