表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/16

第16話 救えなかった後悔

 ヤコブは汗をかき、夢でうなされていた。


──

 焼け焦げた大地を背に、青年はミルカを抱えていた。

「お前のこと、好きだったよ……」

「生まれ変わったら、絶対お前を見つけ出す」


 腕の中のミルカは、もう息をしていなかった。何度呼びかけても、目を閉じたまま。手は冷たく、ただの肉体だけがそこにあった。

青年はその身体を抱えたまま、ふらりと立ち上がり、そして──崩れ落ちた。


「おい……大丈夫か?」

ふわりと肩に不死鳥が降り立つ。


「……俺は救護班なのに……間に合わなかった……」

「……お前……」

「一番大切な人を……俺は救えなかった……」

「大戦が始まる前にミルカに婚姻を申し込んでいたら……この髪飾りを渡していれば……結果は違ったか? 俺が一緒に生きてほしいと願えばよかったか……?」


涙が止まらない。


「……ミルカと火竜は戦闘能力が高い。お前が想いを伝えたとしても、軍の意向で最前線に配置されていた……」

「俺は彼女と一緒に生きたかった……婚姻して、幸せに暮らしたかった……うぅ……」


その時、軍の咆哮が響いた。


「我々サハラは北カナンを統一した! 戦争は終結したぞ!」

「これで戦死した者も救われる!」


「……はぁ?……」

青年の声は怒りに震えた。


「……何が救われるだ……ふざけるな……この戦争で何百人死んだと思ってる……俺達、救護班がどんな思いで……!」


ミルカを抱いたまま、指揮官の方へ歩き出す。

不死鳥が必死にローブを引っ張った。


「お前! 馬鹿か! そんなこと上官に言ったら殺される! やめろ!」

「……」

「お前が上官に歯向かったところで、ミルカは生き返らない!」


ピタリと足が止まる。

「……わかってる……マリア……本当はわかってる」


ミルカの顔をもう一度見つめる。

そこへ、ミルカの霊獣・火竜バビロンが舞い降りた。


「火竜バビロン……」

「……」

「……ミルカはお前のことを……」


火竜の胸に、ミルカの笑顔が浮かぶ。



 

『俺があの青年に好いていると伝えてやろうか?』

『こらこら! やめて!』

『この戦争が終わったら、告白するの!』



 

「……」

火竜は目を伏せた。


「どうかしたか?」

「いや……なんでもない」


「ミルカの分も生きてくれ。俺は契約が切れた……元の住処に戻らなければならない」


そう言うと、火竜はミルカの額に頬を寄せる。

「ミルカ、さようなら。俺の相棒になってくれてありがとう」


そして青年を見つめた。

「……ミルカはお前のおかげで、戦時中だったが毎日が活き活きしていた。あの子に楽しい時間をくれてありがとう」


微笑んだ火竜は、光となって消えた。


──

 その後、戦死者たちは王都の一等地に葬られた。国は彼らに名誉を与えたが、ヤコブの胸は空っぽだった。


 終戦から一年。

運河のほとりに建てられた記念碑に、青年は花を添えた。

整備された跡地には、いつの間にか小さな村ができていた。


「おや、お兄さん。王都の人かい?」

「えぇ……」

「この運河の石でアクセサリーを作ってるんだ。好きな人に贈ると、想いが届くって評判でね」


「……好きだった子は……もう……」

「わりぃな、軍人さんだったのか……話、聞こうか?」


青年は小さく頷いた。


「渡せなかったんです……戦争が終わったら婚姻を申し込むつもりでした」

懐から、髪飾りを取り出す。

「これは……貴重な宝石が使われているねぇ……」


 

「……王都で購入した物です。良ければ、この先、誰かが求めたら渡してください」

 

「……わかった。この店を続けていくよ。誰かがその飾りを必要とするまで」

 

「ありがとうございます」


「……あんた、名前は?」

「……俺の名前は、()()()です」


 

──

 

 やがて、ヤコブは不死鳥使いとして名を馳せた。彼が終戦後、現場に立つとき、誰一人として死ななかった。

けれど、彼は生涯独身を貫き、すべての縁談を断った。


 七十を過ぎ、老衰の中で静かに息をしていた。

「……俺の回復魔法は老いには効かないんだ……わりぃな……」

「……いや、良いんだ。マリア……ありがとう。俺の霊獣になってくれて」


「……俺達霊獣は長生きだけど、人間の寿命は短いな……」

「そうだな……俺はここで死ぬけど、お前の回復魔法で、これからもいろんな奴を助けてくれ」


「わかった……」


ヤコブはそっと目を閉じる。

(次に生まれ変わったら……ミルカの生まれ変わりと出会いたい……)

(……そうだ……次も()()()と言う名前で生まれ変わりたい……同じ名前なら君は俺だと気づいてくれるかな……)



 

(今度こそ、二人で幸せに……)


不死鳥がヤコブの頬に顔を寄せる

「お疲れ様。……お前、いい霊獣使いだったな。今度は幸せになれよ」


 


 

──


 そして現在。

伝書バト使いヤコブは、夢から覚めた。

頬に涙が伝う。


「長い夢を見ていたみたいだ……」


寝室を出ると、明るい声が響いた。

「ヤコブさん、おはようございます」


春香が笑顔で振り返る。


「よく寝れま──」

力強く、ヤコブは春香を抱きしめた。


「……」

「ヤコブさん……?」

「……このまま、しばらく抱きしめさせてください」


 春香はそっと背中に手を回した。

ヤコブは、前世のすべてを思い出したわけではない。けれど春香こそ、ミルカの生まれ変わりではないかと、心のどこかで感じていた。


「……このまま、安全な屋敷にいてほしいと願ってしまいます」

「ヤコブさん……」

彼はふっと笑う。


「冗談です。それだけ……あなたが大切ということです」

 

「春香さん、そろそろ婚姻の準備を始めましょうか」

 


 

続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ