第2話:竜の智慧、人の選択、王国の礎、歪んだ調律 -3
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(アルテア一世 アーダルベルトの晩年手記より)
王歴二十年。
魔族の襲撃は止むことなく、王国の外縁を常に脅かしていた。
魔族の尖兵ジャバーが率いる群れは、飢えた獣のように集落の食料を狙い、わずかな収穫さえも奪い去っていく。
ゲオルグ率いる衛兵隊は、魔族の数と力に圧倒され、その命を削りながら必死に集落を守っていた。衛兵たちの剣は欠け、鎧は血で汚れていた。
しかし、私の心には、確かな希望の光が灯っていた。オーパーツの技術と、アズィーズの助言により、集落は着実に力をつけていた。新たな作物が畑を埋め、加工機械から保存食が次々と生まれる。
民の顔からは飢えの影が薄れ、子供たちの笑い声が広場に響き渡る。
ゲオルグ率いる衛兵隊も、以前より数を増やし、訓練を重ねていた。彼らの瞳には、疲労の中に、確かな希望の光が宿り始めていた。
「長!周辺の集落から、我が集落への合流を望む声が上がっております!彼らもまた、魔族の脅威に晒され、神々の導きを求めていると!」
若き官僚ハンスが、興奮した面持ちで報告した。
彼の声は弾み、その手には、周辺集落からの使者が持参した、幾つもの懇願の書簡が握られていた。書簡には、飢えと魔族の脅威に怯える人々の悲痛な叫びと、集落が手に入れた奇跡への羨望が綴られている。彼らは皆、我々の集落が手に入れた「神の恩恵」を求めていた。
私の胸に、新たな熱が込み上げた。飢餓と魔族に苦しむ人類をまとめ上げ、真の安寧をもたらす。
それが、私の何よりの願いだった。
私は、アズィーズの助言と神々の庇護のもと、周辺集落との連携を強化し、統一の必要性を説き始めたのだ。
飢餓に喘ぐ集落の長たちは、我々の集落が手に入れた繁栄と、神々の恩恵の証を目の当たりにし、その誘いに乗った。
かつては互いに警戒し合っていた集落が、共通の脅威と希望を前に、一つになろうとしていた。各集落の代表者が集落の中央広場に集い、私たちの言葉に耳を傾ける。広場は、熱気と期待で満ち溢れていた。
広場の中央に設けられた仮設の演壇に、私は静かに立った。
集まった数多の民衆の視線が、彼の一点に集中する。その瞳には、彼らが耐え忍んできた苦難の歴史、そして新たな希望への渇望が宿っていた。鉛色の空が、まるで彼の演説を待つかのように、わずかにその厚い雲を薄めた。
「民よ!我が愛する同胞たちよ!」
私の声が、広場に響き渡る。その声は、疲弊した民衆の心に、直接語りかけるかのようだった。
「我らは、この地で、どれほどの苦難を経験してきたか!飢えに喘ぎ、病に倒れ、そして、忌まわしき魔族の牙に、どれほどの仲間を失ってきたか!」
私の言葉に、民衆の間からすすり泣きが漏れるのが聞こえた。過去の痛みが、再び彼らの心を抉る。
「だが、見よ!我らは、決して諦めなかった!神の使者アズィーズ殿が、我らに道を示された!
大地が枯れ果てた時、その御言葉に従い、我らは井戸を掘り、清らかな水を得た!暗闇の中、星の恵みたる奇跡の技術を得て、我らは飢えを凌いだ!」
私は、民の顔を一人ひとり見つめた。その瞳には、感謝と、そして自らが歩んできた道のりへの誇りが宿っていた。
「これらは、まごうことなき神々の恩恵!そして、我ら人類の、不屈の意志の証である!」
民衆の間に、ざわめきが広がる。それは、共感と、興奮のざわめきだった。
「しかし、我らの安寧は、まだ完全ではない!魔族の脅威は、今も我らを狙い、それぞれの集落は孤立し、その度に命を削られている!」
私の声に、再び民衆の間に不安が広がる。彼は、その不安を真っ直ぐに受け止めるかのように、両腕を大きく広げた。
「だからこそ、今、我らは一つとならねばならない!散らばった希望の灯火を一つに集め、強固な光を放つ時が来たのだ!
神々の導きは、我らに結束を求めている!一つの秩序の下に集い、一つの意志を掲げ、真の力を示す時が来たのだ!」
私の声は、次第に熱を帯びていく。その言葉は、民衆の心の奥底に眠っていた「統一」への渇望を揺さぶった。私は、王としての覚悟をその声に乗せる。
「我らは、もはや弱き集落ではない!神の恵みを受けし、選ばれし民である!この地に、永遠の平和と繁栄を築く、真の王国を創り上げるのだ!」
そして私は、天を指差し、高らかに叫んだ。その声は、広場を越え、城壁を越え、遥か遠くまで響き渡る。
「我らは、神々の導きにより、この地に希望の礎を築く。今こそ、全ての民が一つとなり、真の王国を創り上げる時だ!その名を、アルテア王国とせん!我らの王国は、神々に見守られ、千年先の未来まで栄え続けるであろう!この誓いを、星々に刻むのだ!」
高らかに宣言された言葉に、集まった民衆から地を揺るがすばかりの歓声が沸き起こった。
その声は、空を覆う鉛色の雲さえも吹き飛ばすかのような勢いだった。
私の背後には、アズィーズが静かに佇み、その瞳は、すべてを見通すかのように澄んでいた。
その視線は、遠い未来の完成図を見つめているかのようだった。
ここに、王歴二十年、アルテア王国が建国された。
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