第1話:女王の問い、過去への眼差し -4
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星を紡ぐ者たち 18時、19時 →
影の調律者 20時、21時 →
失われた千年史 22時、23時
集落は人口約5,000人規模に拡大し、都市化の萌芽が見られ、効率的な社会の基盤が形成されていく。
子供たちの顔には健康的な赤みが戻り、広場では楽しげな歌声が響き渡る。市場には物資が溢れ、人々は笑顔で買い物を楽しんだ。
神族の使者ヌールは、以前よりも頻繁に集落を訪れ、その姿はさらに明確な人型のアバターとして現れるようになる。彼は黄金色の光を纏い、その完璧な美しさは人々を魅了した。
彼の声はまるで聖歌のように響き渡り、人々の心を鷲掴みにした。
ヌールは、生産量や人口を「調査」し、特定の「供物」(余剰生産物の一部、労働力の提供)を要求することで、資源の効率的な管理システムを導入し始める。
「秩序と規律を守れば、より多くの恩恵が与えられるだろう。汝らの繁栄は、神々の導きによるものだ。」
ヌールは人々にそう説き、その声は感情を伴わないが故に、絶対的な真理として人々に受け入れられていく。
アブラハムは、神々の教えの浸透に尽力し、信仰を通じた秩序をもたらす。
彼の教義は、人々の心に、見えざる規律の網を張り巡らせていくかのようだった。神々への信仰は絶対的なものとなり、人々の心は平穏に満たされていった。集落は、まるで巨大な一つの生命体のように、整然と機能し始めた。
集落は「神々の恩恵」によって繁栄を享受するが、その裏では見えざる手が働き始めていた。
アーダルベルトは民の繁栄に満足し、神々への信仰を深める。彼は自らの功績に酔いしれ、疑念の影に気づかない。クラウスは内心の疑念を抱えつつも、目に見える繁栄と、人々の無邪気な笑顔を前にそれを口にすることはできない。
彼は、人々の無邪気な笑顔の裏に、何か見えない影が忍び寄っているような不吉な予感に苛まれていた。アズィーズは静かにその光景を見守り、満足げに微笑む。集落の繁栄は、新たな支配の確かな始まりでもあった。
◇◆◇◆◇
古文書のページを閉じる。
目の前に広がる過去の情景は、私の心を深く揺さぶっていた。
「奇跡……。そう、祖先たちは、それを奇跡と信じたのですね。」
私は呟いた。
私の祖先、アルテア一世アーダルベルト。彼の民を思う純粋な願いが、いかに見えざる手によって利用されていったか。古文書の記述は、当時の人々の歓喜と、その後の繁栄をありありと伝えてくる。
飢えと絶望の淵にあった民が、光を与えられ、希望を取り戻していく様は、確かに「奇跡」としか呼びようのないものだっただろう。
しかし、私の知る「調律者」の報告と照らし合わせると、その「奇跡」の裏側には、周到な計画が隠されていたことが痛いほどわかる。
アズィーズが与えた「知恵」や「オーパーツ」は、人類が自力で到達するにはあまりにも高度であり、その導入が、いかに効率的な管理システムへと繋がっていったか。
そして、神族の使者ヌールが求めた「供物」が、現在の王国の資源管理や人口調査の原型となっていることに、私は肌寒い感覚を覚える。
クラウスの「不自然な淀み」という言葉が、私の胸に重く響く。彼は、天才的な技術者であったが故に、その「完璧さ」の裏に潜む違和感を捉えていた。
しかし、彼の言葉は、繁栄に酔いしれる人々の耳には届かなかった。それは、現代の私たちにも通じる、悲劇的な皮肉ではないだろうか。
この古文書には、まだ「調律者」という言葉は明記されていない。ただ、「神の使者アズィーズ」「神族の使者ヌール」として、彼らが人類を導いた「奇跡」が記されているだけだ。
しかし、ミネルヴァからの報告、そしてアークナイツがこれから探るであろう世界の真実。それらと照らし合わせれば、この「奇跡」が、調律者の壮大な計画の、最初の楔であったことが、私にははっきりと見える。
私の祖先は、民を救うために必死だった。
その善意が、結果として見えざる支配への道を開いてしまったのだとしたら……。
玉座から立ち上がり、私は窓の外に広がる王都の街並みを見下ろす。
槌音は、復興の響きに満ちている。だが、その活気の中に、あの「不自然な調和」が潜んでいることを、私は知っている。
この王国は、過去の祖先たちの「奇跡」の上に築かれている。
しかし、その奇跡が、同時に私たちを縛る鎖であったのだとしたら?
私は、古文書の次のページを静かに捲る。
私の祖先たちが歩んだ道のり、その選択の全てを、今、女王として、この目で確かめなければならない。
そして、この「調律」の螺旋を、私自身の代で終わらせるために。 私の旅は、始まったばかりだ。
明日からは2話ずつ公開します!
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