第1話:女王の問い、過去への眼差し -2
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星を紡ぐ者たち 18時、19時 →
影の調律者 20時、21時 →
失われた千年史 22時、23時
その日、集落の入り口に、一人の男が立っていた。
旅の疲れからか、ボロボロの修道士のような格好で、その顔は土埃にまみれている。
しかし、その瞳の奥には、奇妙なほど澄んだ光が宿っていた。彼の背後からは、遥か遠くの地平線に沈む夕日が、最後の光を投げかけていた。その存在は、集落の絶望とはかけ離れた、まるで異界からの訪問者のようだった。
「旅の方……どうか、ここはお通りください。この集落には、もう何もありません。病も飢えも、そして魔族の脅威が、この地を蝕んでいます」
集落の衛兵が、弱々しい声で男を制止しようとする。その槍先は震え、男を退けるほどの力もなかった。
衛兵の足元には、数日前に力尽きた同僚の遺体が横たわっている。
だが、男は微動だにしない。その存在は、まるで集落の絶望とは無縁の、別の世界から来たかのようだった。衛兵の視線は、恐怖と警戒の間で揺れている。
「私は、アズィーズ。星の声を聞き、大地の真理を語る者。」
男は静かにそう告げた。
その声は、どこか遠い響きを持ち、絶望に沈む集落の空気に、微かな波紋を広げた。衛兵は息を呑み、槍を下げた。
アズィーズは、衛兵の制止を意に介さず、ゆっくりと集落の中央へと歩を進める。彼の足取りは静かで、大地に吸い込まれるかのようだった。
集落の中央、荒れ果てた広場には、病に倒れた子供が横たわっていた。
その小さな体は熱にうなされ、か細い呼吸を繰り返している。顔色は土気色で、今にも息絶えそうだった。母親は、その傍らで涙を流し、神に祈り続けていたが、その祈りも虚しく響くばかりだった。
アズィーズは、倒れていた病の子供に、そっと手をかざした。彼の指先から、淡い光が放たれ、子供の体を優しく包み込む。すると、子供の額の熱が奇跡のように引き、その顔色が見る見るうちに回復していく。
「奇跡だ……!」
集落を覆っていた沈黙が破られ、民衆の間から、驚きと歓喜の声が上がる。
人々は我先にアズィーズのもとへ駆け寄り、彼の足元にひざまずいた。彼らの目には、希望の光が宿っていた。アズィーズは、集まった民衆と、その光景に呆然と立ち尽くすアーダルベルトに静かに向き合った。
「この集落の周囲、北へ進め。大地が呼ぶ声が聞こえぬか? その場所を掘り起こせば、星の恵みが与えられるだろう。」
アーダルベルトは、アズィーズの言葉に半信半疑だった。
しかし、目の前で起きた奇跡と、男の瞳に宿る確かな光に、一縷の望みをかける。彼の心臓が、絶望の中で久方ぶりに強く脈打つのを感じた。その言葉は、まるで彼の心の奥底に直接響くかのようだった。
「アズィーズ殿……その言葉、真にございますか? この枯れた大地から、水が……?」
アーダルベルトは、縋るように問いかけた。
「お前たちが私を信じるならば、私がお前たちを導こう。」
アズィーズの言葉に、集落の長老たちや民衆は戸惑うが、アーダルベルトは迷わず自ら鍬を握り、指示された場所へと向かう。彼の背中には、民を救うという、切なる願いと、見えざる希望が宿っていた。
「皆の者!アズィーズ殿の言葉を信じよう!この手で、希望を掴むのだ!」
アーダルベルトの叫びに、疲弊していた民衆も、重い腰を上げた。彼らは井戸を掘り進めるための簡易な道具を手に、北の地へと向かう。
若きエンジニアのクラウスも、アーダルベルトの決意に共鳴し、再び灌漑システムの修理に力を注ぎ始める。彼は、これまで諦めていた部品の再利用や、錆びついた構造の強化方法を模索した。彼の瞳には、かすかな希望の光が灯る。
若き狩人のフレイヤも, 希望を胸に、再び弓を手に荒野へと向かう。彼女の足取りは、以前よりも確かに力強くなっていた。彼女は集落に残る最後の矢筒を確認し、再び厳しい狩りへと挑む覚悟を決めた。
数日後、アーダルベルトが掘り進めた地底から、ごうごうと音を立てて清らかな水が勢いよく噴き出した。
乾上がっていたはずの大地が潤い、民衆は歓喜の叫び声を上げる。その水は、命の源そのものだった。
人々は我先にと水に駆け寄り、渇いた喉を潤す。子供たちは泥だらけになりながら、水たまりで無邪気に跳ね回った。
飢饉から救われた集落は、活気を取り戻し、人々の顔には希望の光が宿る。子供たちの無邪気な笑い声が、再び集落に響き渡る。夜には焚き火が盛大に燃やされ、人々は互いの労をねぎらい、未来への希望を語り合った。
アズィーズは「神の使者」として崇められ、集落にはアズィーズの教えを基に、神聖な秩序を重んじる新たな信仰の基礎が築かれていく。
アブラハムは、その教えを民に伝え、人々に信仰心と秩序をもたらす。
「アズィーズ殿は、我らに真の道を指し示された!これからは、神々の御心に従い、秩序を守ることが、我らの繁栄への道となるであろう!」
アブラハムの言葉に、人々は熱狂的な歓声で応えた。
民衆は神々の恩恵を喜び、繁栄への第一歩を踏み出す。
集落は人口約2,000人規模へと拡大し、新たな希望に満ちていた。
アズィーズは静かにその光景を見守り、満足げに微笑む。その瞳には、すべてが彼の思い通りに運んでいるという、深遠な光が宿っていた。
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