体育会系君
ちょっとずつ、私の周りは静かになる。
まあ元々騒がしかったのは私のせいだし。私が落ち着けば周りも落ち着くんだよね、うん。
今日の午後は魔法実技。
的に得意な呪文をぶつけるのだけど‥あんまり得意じゃないのだ。私。
(ゲームのヒロインなら補正があってもいいのに)
ちなみに『らしきもの』 はある。
(全属性の魔力と相性は良いんだけどね)
炎・水・風・土・光・闇、どれもまんべんなく使えるのだ。
ただ魔力量がとっても残念であった。
ピンポン玉くらいの炎を、風魔法でヘロヘロ飛ばす。
10メートルほど先の的にポシュッと当たる。
(コントロールだって良いんだけどねー)
強敵と戦うイベントがあったらどうしよう。
令息を次々とふっている今、誰が自分を守ってくれるのだろう。
冷や汗が背中をつたう。
****
放課後、悩みながら歩いていると、いきなり腕をつかまれた。
「アンジェ、見つけた!」
「放してください痛いです」
反射的に顔をゆがめたら、つかんできた彼もつい手をゆるめる。
「ごめん! 最近君が訓練を見に来てくれないから、気になって」
そいつは‥ 騎士団長の息子、エドワード・ランドローバー。
そう言えば私、時々訓練を見学に行っていたな。
しかし、マッチョを見るのは楽しいけど脳筋は嫌だから、あんまり親しくしないように気をつけていたはず。
(エドワードってチョロいのか?)
しかし都合は良い。
強敵に襲われる、は乙女ゲームならば予想されるリスクだ。
強者とのコネはあった方が良い。
「あの、ランドローバー様とご一緒しては婚約者の方から苦情が‥」
一応は確認する。
私も学習したからね☆
「それなら問題ない! 彼女はなぜか俺の事が苦手みたいでな! 全然会ってくれないんだ! 」
そっちかい! あー 脳筋だから嫌われている?
「まあ‥ それでしたら、私に武芸を教えてください!」
頼んで嫌と言うエドワードではない。
訓練場で私たちは隣り合う。
「剣はこう構えて、」
エドワードの動きを、私はていねいに模倣した。
「上手い、筋がいいんだな」
浮浪児時代は走り回っていたから、運動神経も良いはず。
防具をつけての立ち合い稽古もスムーズに打ちこむ。
「初心者は打ち合いが苦手って聞いたが、問題ないな」
浮浪児時代は食べ物の奪い合いでとかで、ちゅうちょなく攻撃していたしね。
(あれ、前世の記憶より浮浪児の経験の方が生きてる?)
「はぁ‥かわいい上に剣も得意だなんて。オレの婚約者がアンジェだったら良かったのに」
「ランドローバー様は侯爵家の令息ですよね。男爵家の私と婚約したら廃嫡ものですよ」
釘は打つ。
「だってオレ、イブリンに嫌われてて‥何でか分かんないんだけど」
しょぼくれるエドワードに私はため息をつく。
「じゃあ私が原因を探してあげますよ」
****
エドワードの婚約者はイブリン・グラウンド侯爵令嬢。
ハッキリ言ってしがない男爵令嬢である私が話しかけて良い相手ではない。
だから昼食時、キャロル様に相談する。
「まあイブリン様とあなたじゃお話なんてできないでしょうね」
キャロル嬢はツンと私を突き放す。
「まあ、あなたを我が家でのお茶会に招待してあげても良くてよ。次のお休みはちょうどイブリン様をお呼びするから」」
ツンデレ公爵令嬢、好きだ!
殿下は何でこの方を放っておくのだろうか。
(女の趣味悪いんじゃないのか)
まあその場合、私がその趣味の悪い女になるけど。
アンジェは器用貧乏系ヒロイン。