ダイアナ嬢
「あなた、ゲイル様に失礼な態度を取ったようね」
次の日、私はなぜか怒った令嬢たちに囲まれた。
「あなたの方から付きまとっていたくせに、ひどいわ」
「はい、おっしゃる通りです」
つまらない言い訳はひかえる。
「へ、平民出身の男爵令嬢ごときが近づいて良いお方ではなくてよ」
「はい、もう近づきません」
私が謝罪一辺倒だからか、令嬢たちの勢いはしぼんでいく。
「あの、もうそれくらいで‥」
か細い声がする。
「ダイアナ様、あなたの婚約者に色目を使ったあげくに手ひどく捨てた女を、お許しになるの」
こいつだけまだ元気だな。あ、あの子がダイアナ・カレント嬢か。
「アルコバレーノさん」
「はいっ」
ダイアナ嬢に直接名字を呼ばれて、私の背筋がしゃんとする。
「あなたのことを許せるかどうかは分かりません。でもデイビス様に忠告してくれたことは感謝いたしますわ。あの方にわたくしの言葉は届かなかったでしょうから‥」
ダイアナ嬢は儚げにほほえむ。
(ちょっ、かわいいじゃんダイアナ嬢。何、デイビス様ってこんな美少女を無視してたの? メガネの度は合っているのか?)
「ダイアナ様、優しすぎますわ! こんな娘は訴えたってかまわないのに」
ちっと舌を打つのを無理やり止めて、私は元気な取り巻きをのぞきこむ。
「あら、カレント様を婚約者に見向きもされない方って吹聴していたのは、どなただったかしら」
私の攻撃はクリーンヒットしたようだ。
「そそそそんなことわたくしが言うとでも? ダイアナ様ぁ、信じてはいけませんよ。あら授業の時間だわ、皆様もう行きましょう」
そそくさと立ち去る令嬢を見送ってから、ダイアナ様は上品に膝を曲げる。
「わたくしもこれで失礼いたします」
かわいい。
***
「やっぱりメガネの度が合っていないんじゃ」
昼食を食べながら、キャロル様に朝の出来事を報告する。
「ダイアナ・カレント嬢は‥小さい頃は目立たないタイプでしたわね」
「その印象のままで、ゲイル様は今のカレント様を見ていなかったんですか? 何のためのメガネだ」
うっかり本音もこぼれてしまう。
キャロル様はクスッと笑った後で、困ったようににらんでくる。
これはこれでかわいい。
「確か、男の方とお話されるときはいつも、カレント嬢は下を向いていましたね」
「だからか」
納得。
ヒロインの名前 アンジェ・アルコバレーノ