闇に飲まれる
「ねえ君、良かったら私とキスしない?」
手のひらの闇が消えた。
これならいける。
私は両手をさし出し彼の頬をはさもうとしたのだけれど。
一瞬で、体が後ろに引きずられた。
「許せるわけない」
私の両腕と腰は三人によってがっちり押さえられている。
少年の姿はエドワード様と殿下の背中によって隠されてしまった。
「何考えてるのよ」
耳元で公爵令嬢様の声。
腰元に回された細腕はキャロル様のだった。
「いやぁ、それが一番手っ取り早いので」
「そういうのは大切な人のために取っておくものよ」
確かに、一応はファーストキスだしね。
(でも)
「大切な人達を守るためなら、別にいいかなって」
どうせ一人だけだし。
「バカ!」
『くっくっく‥危なかったが、殿下の方からお出ましとは』
背中に悪寒が走る。
夢で聞いた声だ。
エドワードの剣が空を舞い、地面に突き刺さった。
少年の姿が変貌する。
(え、誰ですか)
髪をかき上げたその姿は、先ほどまでの印象の薄い彼には見えなかった。
彼の右腕からのびた影が、エドワードをつかみ放り投げる。
「炎の矢よ、焼きつくせ」
殿下が魔法を放つ。
『この程度か、まだまだ子供だな』
影の腕は炎を軽くいなし、ブライアン殿下に向ってのびた。
影がぐるぐると殿下にからまり、首をしめる。
「みんな‥逃げろ‥」
殿下が崩れ落ちた。