悪役令嬢かしら?
とりあえず、授業中は先生の話に集中して、現実から逃げた。
「今日はどうしたの? 笑顔が少ないようだけど」
銀髪イケメンがコッソリ話しかけて来る。
この国の王子、ブライアン・ヒートウェイブ殿下だ。
「私、勉強を頑張ることにしましたの。集中させて下さい」
多少不敬でも、今は断罪回避に神経を集中させる。
「気がつきましたの。私の人生に高貴な殿方は必要ないって」
「ふうん」
殿下はさみしそうに目をそらす。
(うう、もったいないけど今はこれが正解!)
***
授業が終わる。
次の授業は男女別のやつだ。
今までの私だって気がついてはいた。男女別の時間になると最近空気が痛いことに。
「途中まで一緒に行くよ」
「ええっと、大丈夫よ一人で」
優しくエスコートしようとしてくれた令息を軽くいなして次の教室に入る。
「ちょっとよろしいかしら」
さっそく身分の高そうなご令嬢が話しかけてきた!
「あなた、最近ブライアン様と随分仲がよろしい様ですけれど」
「すみませんでしたあ!」
全力で謝る。
ご令嬢はポカンとしていた。
「婚約者のいる方に近づきすぎました! 反省してます!」
「わ、分かったのなら構わなくてよ、これからお気をつけあそばせ」
「はいっ寛大なご処置感謝いたします!」
優しい令嬢で良かったー。
ホッとして授業を受ける。
(これでざまあ返しは回避できたかな)
楽天家の私はまだ知らなかった。苦労はこれからやって来ることに。
***
「アンジェ嬢、放課後の予定は空いているかい」
「ごめんなさい。もう決まっています」
休み時間も気が抜けない。
「では明日は」
「婚約者がいるのに他の女性に声をかけるのは、どうなんでしょう」
「アンジェ嬢、一緒にご飯食べようよ」
食堂に向かう途中でまたイケメンが声をかけてくる。今度は可愛い系だ。
「いえ、今日から一人で食べようと思っていますの!」
自分の学園生活の平和を守るため、私はボッチ宣言をする。
「それは‥誰かにまた意地悪されたの? それならボクがなんとかしてあげるけど」
なんとかって何だ。怖い。
「いいえ、婚約者のいる方々に近づくのはマナー違反だって気がついただけよ。今までごめんなさい。もう声をかけないで下さる」
はっきり言ったぜ。これでは嫌われてしまうだろうが、かたはついたはず。
「フィリップ、付きまとうのはやめなさい」
あれ、さっき話したご令嬢がイケメンをたしなめている。
「義姉さん、やっぱりあなたが原因かなぁ?」
くっ。小首をかしげるしぐさ、あざとい。
(ん、いまこいつなんて言った? ねえさん?)
目の前にいるこの子は‥フィリップ・アイスバーグ。
そしてご令嬢はキャロル・アイスバーグ。
二人は確か血のつながらない姉弟。
(義姉と義弟! ちょっと萌えるんですけど!)
自分だったら論外でも、人のは見たい。
「お待ちくださいアイスバーグ様。私、お姉さまに良くしていただいて」
私は姉弟の間に体をねじこむ。
「実は、前々からアイスバーグ嬢にお近づきになりたくて、弟であるあなたと仲良くしていたの!」
口から出まかせを吐くと同時に、キャロル嬢と腕を組む。
「は、そんな冷酷女と」
フィリップ様はまるで信じていないようす。
「誤解ですわ、キャロル様は本当は優しい方なのです、義弟であるあなたとの付き合い方が分からないだけで、いつもお話したいと思っているの」
知らんけど。あからさまな悪役が実は優しいはテンプレだ。
「そ、そんなこと、なんであなたがご存じなの‥」
あ、キャロル様真っ赤。
当てずっぽうが当たったみたい。
「ね義姉さんが? まさかそんな」
「フィ、リップ、ごめんなさい。冷たい態度を取ってしまって‥あなたにもお義母様にも、ずっと謝りたかったの‥」
「そんな‥そんな‥」
フィリップ様は呆然自失でその場を去って行った。
しばらくは私のことも忘れるだろう♪
アンジェはちょっとゲスい‥