第8話 冒険者登録 - II
「やめた方がいいぞ、君たち」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、ウォーデン本人が立っていた。
「先生! でもこいつ、先生のことを──!」
「負けたのは事実だ」
レッドが喚くのを、ウォーデンが制する。
「そんな!?」
ざわめきがギルド中に広がる。
「彼女は召喚魔法使いとして、その実力はアダマンタイト級を凌駕している。
……それだけならよかったんだがな」
モヒカンたちが衝撃の事実にうなだれているそばに歩み寄り、レッドの手をつかんで一瞥する。
「付与魔法か。効果までは分からないが──」
ざわめきに紛れながら、ウォーデンがこちらを一瞥する。
「──あのまま喧嘩が始まっていれば、間違いなく君たちは死んでいたはずだ」
いや、そこまで強力な術は使っていないんだけど。
俺が使ったのはリフレクション系の『付与術』スキル〈鏡面纏鎧・裏〉だ。簡単に言えば、対象を攻撃すると、そのダメージがそっくりそのまま自分に帰ってくる仕組みのデバフである。
だからまあ、死ぬ威力で攻撃してしまえば死ぬ危険性があることは否定できなかったのだが……黙っておこう。
一層大きくなるざわめき。
正直これ以上騒ぎを大きくしてほしくなかったが……今後、対人関係のトラブル予防策としては、この流れに乗っておいた方が得策かもしれない。
ただでさえ見た目が幼い少女なのだから。
……いや、そもそも彼があんな風にオーバーに言って聞かせたのは、まさにそのためなんじゃないか?
俺の実力を周知させて、舐めてくるやつを出さないために……?
「それにしても驚いた。
俺はてっきり召喚魔法使いだと思っていたんだが、付与魔法の方が得意だなんてな」
おそらく、無詠唱で付与術スキルを使ったのを見られていたのだろう。
感心した様子でそう評価する彼に、俺は軽く笑みを浮かべるだけにとどめた。
ムッとした表情を浮かべるウォーデン。
きっと、本気のほの字すら見せてくれなかったことに悔しさをいだいているのかもしれない。
「お待たせいたしました、ユーリさん。
冒険者カードと手帳、認識票ができましたので、カウンターまでお越しください!」
不意に、カウンターの方からサリエルの声が聞こえて踵を返した。
カウンターまで行くと、そこには一枚のカードと一冊の手帳、それから軍人や傭兵なんかが首から吊り下げていそうな金属板──認識票が並べられていた。
「これがユーリさんの身分証になります。
カードにはご自身の名前とランク、冒険者番号が記載されています。こちらはギルドの倉庫や銀行、保険などのご利用に用いますので、絶対に紛失しないようお願いいたします。
もし紛失なされた場合は、認識票と手帳をお持ちいただければ再発行できますが、手数料として大銀貨1枚が必要になりますのでご了承ください」
「わかりました」
大銀貨1枚、というとたしか10,000円くらいだったか。
(結構高いな……)
倉庫や銀行、保険なんかも扱うのだ。
それだけ重要なものなのだからしっかり管理しろよ、という警告も含めての値段なのだろう。
「なお、紛失した場合はすぐに利用停止の手続きを行ってください。でなければ不正使用により、全財産を失う危険性がありますので」
「肝に銘じます……」
……とりあえず、アイテムボックスに入れておけば取られる心配はないだろう。
間違ってゴミ箱に捨てないようにロックをかけておかなければ……。
「冒険者手帳は、依頼の受注、達成の記録や、銀行での出納などに用います。紛失すると仕事を受けられなくなるのでご注意ください。
また、認識票は冒険者番号及びランクの確認に用いますので、絶対に他人に貸し出さないこと、また、冒険者として活動する際は絶対に見える場所に身につけておくようお願いいたします。
もし発覚しますと冒険者ギルドから永久追放となりますのでご注意を」
「はい」
言って、鉄製の認識票を受け取り、首にかけた。
「ちなみに、冒険者のランクってどうなってるんですか?」
以前から気になっていたことを、ここでようやく尋ねる。
道中で耳にした限り、冒険者ランクにはカッパー、シルバー、ゴールド、そしてウォーデンのアダマンタイトがあるようだった。
今回自分に渡された認識票は鉄製。つまり、これは最下位であるカッパーを示しているのだろう。
その流れでいけば、アイアン→カッパー → シルバー → ゴールド → アダマンタイト、という順番になると予想できる。
だが、先ほど酒場で見かけた冒険者たちの中には、それとは異なる素材や色合いの認識票を首から下げている者もいた。
きっと、ゴールドとアダマンタイトの間にもいくつかランクがあるに違いない。
そんな俺の予想は、どうやら的中しているようだった。
「冒険者のランクは依頼の受諾数及び達成率、戦闘能力を基準にして、最下位のアイアンから順に、カッパー、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの7階級が設定されています。
ユーリさんは戦闘能力としてはアダマンタイトを超える、と判断されましたが、まだ依頼を受けていませんので、申し訳ありませんがアイアンからのスタートになります。
ご了承ください」
「わかりました」
申し訳なさそうな笑みを浮かべてそう説明するサリエルに、俺は笑顔を返した。
もしかしたら飛び級で──とか一瞬考えたりもしたが、ゴールドより上にアイアンがあるとは思えなかったし、それに何より彼女の言い分も尤もである。
依頼を受けていけばそのうちアダマンタイトまで目指せるだろうし、気楽に行くとしよう。
「もし他にも何か知りたいことがありましたら、こちらのパンフレットを見ていただくか、私共に聞いていただければいつでも答えさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「ありがとうございます」
これで手続きは終わりか。
あとは、このカードを持って関所まで行って、街に入った時に払ったお金を回収するだけだな。
今日はもう色々ありすぎて疲れた……。
今日は依頼を受けるのはやめて、観光でもして羽を休めよう。
などと、踵を返そうとした時だった。
「あ、ユーリさん。一つ助言です」
サリエルが背中から呼び止めた。
「冒険者として行動する際は、敬語を使わないようにしてください。ユーリさんは見た目が幼いので、下手に出るとトラブル発生の原因になってしまうことがあります」
「わかりま……わかった。気をつけま……気をつけるよ」
「ご理解いただき、ありがとうございます。
それでは、関所に向かいましょうか。例の補償金を取りに行きましょう」
俺のぎこちない返事に恭しく頭を下げるサリエル。
そういえば、着いてきてくれるって言ってくれてたんだっけ。
サリエルは裏手の人に交代を頼むと、俺を先導するようにしてギルドを後にした。
次回は正午です。お楽しみに。