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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
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第51話 依頼


「さっきは助けてくれてありがとう。感謝するよ」


 ── テルマユ東の外縁区画。

 その一角に構えられた工房の応接室に通された俺は、ソファにどっかと腰を落ち着けながら鍛冶師スヴェトラーナ・イワノヴナの出した紅茶に口をつけていた。


 ちなみに悟酉とウェッヴェルは俺の背後に立って控えている。

 悟酉はともかくウェッヴェルも座れば良いのにと思ったが……まぁ、彼がそうしたいなら良いだろう。


 応接室の内装は、石造りの部屋に北方帝国(シュノークローゼン)らしい丸太を切って作られたような家具やタペストリーが配置されている。

 中でも目を引くのは、左手の暖炉の上に飾られている猟銃らしきものだろうか。


(銃あるんだ、この世界……)


 ゲーム時代にはついぞ見かけなかったが、流石に800年も経てば火薬を使った小型兵器くらい開発されていて当然か、と息を吐く。

 道理で、あの設計図を見てロックウェルが想像より驚かなかったわけだ。


 俺は紅茶をソーサーに戻すと、目の前の赤髪の長身女性に口を開いた。


「こちらが助けなくても、あなた程の力があれば10人くらいどうとでもなったでしょう?」


 左目の義眼で確認したが、驚くべきことに彼女のレベルは500に届いていた。

 今までに見たどの人間よりも圧倒的に強い。

 俺が想像していた、この世界に存在する人間は高くともレベル200くらいだろうという予想が、こんなところであっさり覆るだなんて思っても見なかった。


(まぁ、彼女はおそらく例外だろうとは思うが……)


 そう願いたいが、さてどうだろうな。

 悟酉の報告にあった勇者というのも気になるし、それにシャルのことも──あ。


「私はただの鍛治師さ。

 剣を鍛えることはできても、喧嘩なんてできやしないよ」

「なら、余計に疑問だ。

 どう見たって喧嘩できそうに見えないこんな少女に、なぜあなたは助けを求めた?」


 側から見れば俺は中学生の女の子だ。

 悟酉だって見た目だけで言えば高校生くらいにしか見えないし、となるとウェッヴェルの方に期待でもしたのだろうか?


 ……とも、一瞬考えたが、こいつも軍人とは言え見てくれは高校生だし、とてもチンピラ──しかもマフィアの息のかかった──を相手にして平気そうな者には思えないだろう。


 俺も正直、あの時彼女からは助力を拒否されてしまうだろうと思っていたものだから気になっていたのである。


「そんなオーラを振りまいておいてよく言うよ。

 只者じゃないだろ?」

「オーラ?」

「体から漏れてる魔力のことさ。

 正直、この距離で会話してるだけでも怖くて逃げ出したいくらいだね」


 震えた声で話すイワノヴナ。

 ちらり、とウェッヴェルを見上げるが、彼にはどうやらわからないようで肩をすくめるばかりだった。


「そりゃ一般人にはわからないだろうさ。

 これは鍛治師スキルの〈潜在力知覚〉によるものだからね……」

「……っ!?」


 驚いて目を見開く。

 彼女が口にしたそのスキルの名前が、DFHがゲームだった頃に使われていたスキルだったからだ。


 これまでこの世界で見聞きしてきたスキルの中に、ゲーム時代由来のスキルを扱う者は1人もいなかったのに。


「……もしかして、プレイヤーなのか?」


 プレイヤーなら、レベル500に到達していたとしても何の不思議もない。

 もしかすると同じく地球から転生してきているのかも。


 いろんな可能性、期待が脳裏をよぎる。


 ──しかし、彼女の口から飛び出してきたのは、純粋な否定だった。


「プレイヤー? すまないが、それは何の話だい?」


 左目の義眼が訴える。

 彼女は決して、嘘はついていないと。


「……いや、変なことを聞いた。忘れてくれ」

「あぁ、わかった」


 落胆して肩をすくめる。

 だが、一つだけ可能性が浮かび上がった。


 この世界に、ゲーム時代のスキルを伝授している何者かがいる。

 その何者かの正体の可能性の一つに、同郷の人間が紛れている可能性がある。


 元の世界のしがらみを取っ払って自由にやるとは言ったはいいものの、ほんの少しだけ、前世が恋しかった。

 その世界との繋がりを感じられただけでも収穫だ。


「あともう一つ質問してもいいか?

 表の奴らとは、何で揉めていたんだ?」


 これから世話になる鍛治師だ。

 レベル500ともあれば何度も依頼しに来ることになるだろう。

 もし何か困っていることがあるなら少しでも解消して、恩を売っておきたい。


 そう思いながら、俺は視線を玄関の方に向けた。


「この薬についても気になるしな」


 机の上に、赤い錠剤が入った瓶を置く。


 術式の構造は例の黒い結晶──天使の鱗に酷似している。

 しかしこの錠剤の効力はもっと禍々しく瞬発的だ。

 印象としては麻薬か何かに近しい気配がする。


「助けてくれた礼もある。

 それくらいは教えてもいいだろう」


 イワノヴナはそう言うと、記憶を掘り起こすように軽く目を閉じた。


「この薬は、うちの師匠が、東帝国(ソー)のマフィアに依頼されて、半ば無理やり作らされていたものだ。

 元々は神朱の妙薬っていう仙薬を量産するのが目的だったみたいなんだが、失敗が続いてな。これはその副産物なのさ」

「副産物?」


 尋ねると、彼女は苦笑いを浮かべて話を続けた。


「あぁ。途中から妙なエルフが実験に干渉してきたらしくてね。それで生まれたのさ。

 今回の揉め事っていうのは、そのエルフの居場所を教えろってものらしいんだ。

 話を聞くにどうやらこのドーピング剤のレシピを持って、どこかに消えちまったっていうらしくて、私がそのエルフを匿っていると奴らは思ったみたいなのさ」


 全く迷惑な話だ、とイワノヴナは肩をすくめた。


 エルフは基本、自分たちの住む隠里から出てこない。

 エインズワース市のギルドマスターのように、ハーフエルフだったりすればたまに見かけるものだが、純粋なエルフともなればかなり目立つだろう。


 小型のゴーレムでも量産して解き放てば見つけられるか?

 いや、ゴーレムは機械だから目立つからやめた方がいいな。

 となると、召喚魔術の出番か。

 人型だと目立つし、ともなると、偵察用に持っている猫と梟だな。

 この二つを使えば、一晩あれば見つかるだろう。


 ……この街にいれば、という但し書きが付くが。


 俺は紅茶で口元を湿らせると、交渉に乗り出した。


「なら、そのエルフを俺たちが捕まえて、あなたの師匠を連れ帰ってきてやる言ったら、どうする?」

「そりゃ願ったり叶ったりだね。

 うちにあのチンピラどもが来なくなるし、そうすれば仕事に集中できる。

 それになにより、師匠が無事に帰ってこられるなら──」


 イワノヴナが言い淀む。

 見れば、目元が少し潤んでいるようだった。


 どうやら、今までの態度は虚勢を張って見せていたものらしい。

 本当は師匠が連れて行かれて、心の底から不安だったのだろう。


 こういう人の気持ちを利用するのは、人道的にどうかとは思うが──俺は今、神として詐欺をしている身である。

 ただの善意から人助けなんてしようものなら──まだ可能性の段階だが──後に神様プレイでゴトシャ教に対抗する際に、大きな支障が出るだろう。


 それに、せっかくしがらみを捨てて自由な身になったというのに、こちらの善意を軽くみられて、有象無象に集られるのは絶対に避けたい。


「ならば交渉だ。

 そのクエストを完遂した暁には、その報酬に俺の依頼を1つ受けてくれないか?」


 ぴくり、とイワノヴナの眉が動いた。

 目に少し光が灯り──しかし瞬時に、冷静な態度を取り戻した。


「……依頼というのは?」

「2つ、装備を作って欲しい」


 言って、ストレージから2冊のノートを取り出して机に置いた。


「それは?」

「設計図だ」

「……なるほど、拝見させてもらうよ」


 武器と聞いて、剣とか槍とか、あるいは杖などを想像していたのだろう。

 ノートに書かれた内容が全く予想と違ったことに驚いて目を見開き、次にニヤニヤと笑みを浮かべながら熱いため息をついていた。


「ほう、これはなんとも面白い……。

 着る杖、あるいは着るゴーレムといったところか?」


 彼女が気になったのは、どうやら俺が列車の中で試していた〈擬似降霊術〉用の補助兵装『黒白天(こくびゃくてん)』だろう。

 列車の中で使った時の違和感を元に改良したプロトタイプの全身タイツ型のロボットスーツである。


「どうだ、作れるか?」

「知らない材料がある。それ次第だな」

「それならここに──」

「これは、見たことがない素材だな」

「だろうな。

 だから、試験用にこれくらい用意してある」

「なるほど、確かにこれだけあれば練習はできるが──」


 それから俺たちはしばらくこの新しい装備について話し合った。

次回は明後日の0時更新です。



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