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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
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第49話 到着


 シャルの個室を後にした俺は、合流した悟酉から状況報告を受けていた。


「──勇者が邪教徒?」

「はい、間違いなくそう言っていました」


 列車の食堂車、そのテーブル席の一つに腰を下ろしながら、俺は眉を顰めた。


「ますます意味が分からないな」


 とりあえず、こういう時は勢力図をいったん整理するに限る。

 そこから見えてくるものもあるからな。


 俺はストレージから紙とペンを取り出すと、さらさらとイラストを描き始めた。


「えっと、まず今わかってて確定しているのがゴトシャ教と勇者が対立しているということだろ?

 それから魔族は教会と繋がっている可能性があること……」


 教会と勇者のイラストの間に線を引いて『対立』と書き、教会と魔族の間に二重線を繋いで『仲間?』と書き込む。


 仲間かもしれないと考えている理由は、ゴトシャ教の『蝕陽記』という話を書いたものが、魔族の指揮官を務めていたからだ。

 名前は確か、ヴェッリだったか。


「で、ゴトシャ教は南方大陸が発祥で、魔族も南方大陸の出身がいる。

 言語的な不協和から、ゴトシャ教は異世界から来た可能性があって……勇者たちはその異世界の勢力と争っている?」

「ご主人様。

 北方帝国(シュノークローゼン)も注目しておいた方がいいかもしれません」


 言われて、そういえばと以前ウェンティとデートした時のことを思い出す。


「聖書の原典写本か」

「はい。

 もし異世界から来たというのなら、聖書の原典写本に秘密があるかもしれません」


 物語や教義などというものは、時間が経つにつれて伝言ゲームのように変化する特徴がある。

 仏教なんかいい例だ。

 もともと釈迦が教えた基礎となる教えは同じだが、宗派がいくつも分かれてしまい、もともとの教えとは異なってしまって伝わっている解釈も結構多いだろう。


 歴史の授業でも習うことだが、南無阿弥陀仏と唱えれば浄土に行けるという宗派があったり、唱えなくても心の中で強く思うことの方が大事と言ったり、何度も唱えなければならない、唱えた数が重要だと言ったり様々だ。


 そういうものがさらに細かく発展して新興宗教が生まれたりする。

 もはや元の形など残ってないものなんかもあるくらいだ。


 例えば俺の両親が入信して、俺も勝手に入れられた混沌教なんかがそれに当てはまるだろう。

 世界中の宗教哲学を集めて、現代の人類が抱える不満や問題を解消しようとするのが主目的の集団だった。

 表向きは文化人類学者の団体が運営する思想ビジネスの会社。

 しかし裏で行われていたのはもっと宗教的でオカルトな──


「ご主人様?

 どうしました? まさか、私の提案がご不快でしたか!?

 申し訳ありませんご主人様! 今こそ腹を切ってお詫びを──!」

「違うから! あと勝手に切腹しようとするな!」


 いきなり剣の柄に手を伸ばす彼女を制して、俺は大きなため息を吐いた。


「拠点が完成したら、お前の提案通り北方帝国(シュノークローゼン)に向かおうか。

 そう簡単に手に入れられるかはわからんが、それまでにできるだけ情報を集めておかないとな」

「サー! イエッサー!」


 ***


 早朝にエインズワース市を出発した都市間航行列車は、お昼を少し過ぎた時間に温泉都市テルマユに到着した。


「温泉だーっ!」

「待てください師匠ーっ!」


 大聖堂のような巨大で荘厳な大理石の駅舎から出ると、俺達を巨大な楕円形の広場が冬の日差しとともに出迎えた。

 中央には、天を貫くように一本のモノリスがそびえ立ち、その足元を取り巻くように人の群れが渦を描いている。

 広場の左右には大理石の柱廊が果てしなく弧を描き、まるで巨大な両腕がこちらを迎え入れるかのようだった。


 中の黄金装飾と13体の巨大なエルフ像も見事だったが、こちらもこちらでなかなか素晴らしいデザインだと感心する。


「あまりはしゃぐなよ、人が多いんだから」


 会談を駆け下りて広場に向かって走るヘンブリッツと、彼を追いかけるリディアの姿にため息を吐きながら、無言で白騎士を2体ほど召喚し、それぞれを2人の護衛につける。


 東帝国(ソー)のマフィアが根城にしているとはいえ、駅前は思っていたよりも平和そうな雰囲気なことにほっと胸をなでおろす──が、一応警戒を怠らないに越したことはない。

 俺は周囲に軽く目配せしながら広場に向かう階段を下りた。


「やけに元気ですね」


 日差しに目を細めながら、ウェッヴェルが苦笑を浮かべる。


「8時間も列車の中にいたんだ、わけないさ。

 ……そんなことよりも、俺はお前がここにいることの方が気になるんだけど?」


 ウェッヴェルのさらに後方。

 白を基調としたロングコートと、黒いシャツに青いネクタイ姿に着替えたシャルを見やると、彼は腰の刀の柄頭に手を置いて肩をすくめた。


「仕事だよ。

 もっとも、手紙の件とは別だけど」

「そうか。じゃあ、俺達とはここでお別れだな。

 さっさとどっかへ行っちまえ」

「はいはい。

 まったく、君は冷たいね。まるで銀雪みたいだ」


 残念そうにため息を吐き、とぼとぼと俺の横を抜けていくシャルに、俺は苦い表情を返した。


「やめろキザったらしい。寒気がする」

「そういうところも魅力的で、僕は好きだよ」


 同じキザでも、ウェンティとは大した違いだ。

 シャルはうざったらしいが、ウェンティはもっと紳士的なのである。

 友達として一緒にいて楽しいし、不快な思いもしない。


(ここには武器を作ってもらいに来ただけだけど、どうせならあいつにお土産の一つでも買って帰ろうかな)


 脳裏にあの金髪の少年の嬉しそうな顔が浮かんで、思わず口の端が緩くなる。


 ──と、そんなことをしていた時だった。

 不意にウェッヴェルに肩を叩かれて見上げてみると、彼が広場の方へ指を指し示しながら


「二人、置いて行かれてますけどいいんですか?」


 と教えてくれた。


「あいつら先走りやがって……。

 俺がいなきゃ宿に入れないのわかってんだろうなあいつら……」

「サー!

 連れ戻しますか?

 サー!」


 ウェッヴェルに軽く礼を言って、ヘンブリッツたちへの呆れを声に出していると、そばに控えていた悟酉がピンと挙手して指示を仰いでくる。


「いや、いいよ。

 どうせ場所は伝えてあるし、迷子にでもなったら自然とそこで集合できるでしょ。

 今は2人に旅行を楽しませてあげようじゃないか」


 護衛はつけてるし、何かあっても大丈夫でしょ。

 というわけで、こっちは2人が遊んでいる間にとっとと用事を済ませよう。


 俺はロックウェルからもらった地図を手元に広げると、2人を連れて温泉都市テルマユの外縁区画へと足を向けた。


次回は明後日の0時更新です。


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