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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
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第48話 密会


「なんでお前がここにいるんだよ?」


 ここではなんだから、と彼──どうやらシャルというなまえらしい──の借りている個室に上がり込んだ俺は、ソファにどっかと腰を下ろして、開口一番にそう切り出した。


「仕事だよ。教会騎士団のね」


 言って、懐から取り出して見せるのは、一通の便箋だった。

 赤い封蝋がしてあって、そこには見覚えのある紋章が刻まれている。


 エインズワース市長の城のメダリオンにあった彫刻と同じ紋章だ。


「……この部屋になぜ〈悟酉〉がいるのか気になってたんだが……なるほど、そういうことか」


 俺は部屋でルームサービスのお菓子を食い荒らしている密偵を頼んでいた自分の召喚獣を一瞥してため息を吐いた。


「この子のことを知っているのかい? この手紙を追いかけていたみたいだったけど」

「俺の配下だ。

 理由があって、ある情報を追わせていた」

「情報?」

「答える義理はない」


 紅茶を注ぎながら視線を送る彼に、俺はにべもなく口を閉ざした。


「つれないね」

「つれないも何も、まだそこまでの仲じゃないだろう?

 ついでに言えば、俺はお前のことが嫌いだ」


 言って、差し出されたティーカップを突き返す。


「残念だな。

 何か教えてくれたら、僕のことを好きにできる権利を上げようと思っていたのに」


 肩をすくめるシャル。

 そのセリフに、俺はぴくりと片方の眉を持ち上げた。


「……回数によるかな」

「教えてくれるのかい?」

「回数による」

「じゃあ、そうだね……取引1回につき1度だけ、というのはどうかな?」

「その心は?」


 少し考えるそぶりを見せてから出されたシャルの結論に、俺は不審げに睨んだ。

 その口ぶりは、まるで今後も何か取引をしたいといっているようなそぶりで、何か裏があるような気がしたからである。


「今のやり取りで少しわかったけど、君は何事も素直に受け入れられない節がある。

 相手の行動にはすべて裏があると信じていて、それがわからないと安心できない。

 違うかい?」

「……」


 自分の思考回路を読み解かれたことに、少しの不安と警戒を覚えて、胸の奥に苦いものが広がった。


「ならば僕が君に接する際は、常に何か一物を含んでいる態度を見せなければならない。

 そうしないと君は安心しない。

 だから、これはいうなれば君を安心させるためだけの取り決めさ。

 裏なんて何もないよ。

 まあ、いつか使うことができたらいいな、くらいの話さ」

「わざわざそこを説明するなんて、いじわるな奴だな」


 肩をすくめてソファに背中を預けると、お菓子を口に含んでいた〈悟酉〉がバッと席を立って剣を抜こうとした──のに咄嗟にシャルが反応して抜きかけの柄に手を押し当てて抜けないように固定した。

 しかしさすが腐ってもレベル600の召喚獣。

 そのまま合気上げの要領で彼の腕を固定すると、鞘を引いて抜刀し、シャルを組み伏せてしまった。


「きゅ、急にどうしたんだい?」


 さすがに焦りを覚えたのだろう。

 表面上は笑みを浮かべてはいるが、頬に冷や汗が浮かんでいるのが見て取れた。


「うるさい! ふてぇ野郎ですね! 殺しますか!?」

「殺すな、めんどくさいことになる」


 多分、いじわるな奴という言葉に反応したのだろう。

 俺はこいつの前じゃセリフの一つ一つに気をつけなきゃいけないのか、めんどくせぇ。


「あいあいさー……」


 そんな意思を悟ったのか、彼女は軽く目を伏せると、不満そうに剣を納めた。


 そんな様子に一瞬、ちょっとかわいそうなことをしたかな? と思ったが、何事もなくお菓子に戻る彼女を一瞥して思い直した。


(あ、全然気にしてないわこいつ)


 彼女の行動理念はよくわからないところが多いが、お菓子さえあれば機嫌は良くなるのかもしれない。

 覚えておこう。


「……手紙の中身はおそらく、築城に関する相談だろう。

 市長だけでは判断できなくて上司に仰いだ形か」


 悟酉から手紙の方へ視線を戻して、俺は口を開いた。


「話してくれたってことは、取引に応じてくれるってことでいいんだね?」


 さっきの焦燥はどこへやら。

 ニコリとアマイマスクに笑みを張り付けて、嬉しそうに蒼い瞳を向けるシャルから、俺は視線を逸らした。


「お前の提案にはこっちにとってもメリットがあったからな。

 それに、お前がこの情報を知って何がしたいのかは検討もつかんが、それなら目の届く範囲で監視したほうが俺も安心できる」

「なるほど」


 知らないところで何か俺に害のあることをされたとしても、この取引の効果があれば阻止できる可能性がある。

 シャルのカタナは今の俺にとって少しは脅威になりうるものだから、それならストッパーとして確保しておいて損はない。


「それで築城というのは?」

「俺がこの世界で生きていくための拠点を作ろうと思ってな。そのためには大きな屋敷程度じゃ設備が入りきらないんで、自然とそうなった」


 俺は現代日本のような便利な家電に囲まれて豊かな生活をしたい。

 だがそのためには必然と魔力がいる。

 しかしこの世界にはインフラとして、電線のように魔力を分配する機能は備わっていない。


 だから、それを可能にするために、城には魔力を発生させるいわゆる発電所的な施設を置こうと思っているのだ。

 どちらにしろ魔術の研究をするにあたって魔力は大量に必要になるからな。


 したがって、ただの大きな屋敷程度では、俺の満足する生活を再現することはできないのである。


 作るには最低でもレベル500以上の錬金術が使える人が必要になるが、そんな人材はこの世にいない。

 そこは俺が頑張るしかないだろう。


「なるほど。

 その設備が何かは分からないけど、なんだか大変そうだね。

 お金はあるのかい?」

「ある」

「すごいね、お金持ちだ。一体どこで用意したんだい?

 君はアイアンランクだろう? そんなに稼げるとは到底思えないしそれに──君はまだ子供だ。

 誰か後ろ盾がいるのかな?」


 立て続けに質問を重ねるシャルに、俺は眉を顰めた。


「……なぁ、もしかしてこれは尋問のつもりか?」

「あ、バレちゃった?」


 困ったような笑みを浮かべて、ソーサーからカップを取る。


「バレバレだ。ヘタクソかよ。

 まぁ、別に聞かれても問題ないから一応答えておくが、特に後ろ盾なんてものはないぞ。

 探るだけ無駄だ」

「そっか、それは残念だ」


 紅茶を一口啜るシャル。

 その真っ白な陶器のカップにほんのりと赤い跡が付くのを見て、俺は初めて彼が化粧をしていることに気が付いた。


(……まぁ、男でも化粧くらいするか)


 今は多様性の時代だしな。

 この世界はどうだか知らんが。


「それで、君は僕にどうしてほしいのかな?」


 閑話休題、不意にシャルが話題を切り替えるようにして、こちらに問いかけてきた。

 言わずもがな、取引の話だ。

 俺は彼に情報を支払った。

 ならば今度は、彼が俺に支払う番である。


「なんでもいいんだよな?」

「僕にできることならね」


 含みのある言い方に、仕方ないか、と内心でうなり声を上げる。

 俺も全部は答えたりはしなかったのだからお互い様だ。


「……そうだな。この手紙の件で、貴族どもが何か余計なことをしていたら教えてほしい」

「というと?」


 シャルが首を傾げる。


「築城に協力してくれるらしいドワーフに聞いた話だが、築城は本来貴族にしか許されないらしくてな。

 だが今回の築城は必ず成し遂げられるはずなんだ」

「すごい自信だね?」


 苦笑する彼に、俺も苦笑を返した。

 俺だってこんなことになるなんて微塵も思ってなかったからな。


 大変なことになったものだよ、本当。


「……だが、これがそう簡単に通るとはどうしても思えない。

 必ず利用しようと考える奴がいるはずだ。そいつらの動きが知りたい」

「要するに、自分の邪魔をする奴がいないか、どんな邪魔をしてくるのかが知りたいのか」

「そういうことだ」


 せっかくしがらみのない世界に来たのだから、政治的に利用されることは絶対に避けたい。

 しかし神としてエインズワース市長を詐欺にかけている現状、利用されないことを考えるのはもはや不可能である。

 何かしら行動を起こされることは目に見えているならば、少しはこちらで制御できるようにしておきたいというものである。


「わかった。

 じゃあ仕事が終わり次第報告に向かうよ。どこに行けばいいのかな?」

「ああ、それならエインズワース市のカラク商店にいるウェンティという少年に報告書を預けてもらえればいい」


 言うと、彼は少しむっとした表情をした。

 そういえば彼は極度の男嫌いだったな……。

 相手が少年だったとしても、その嫌悪が向かうことは変わらないらしい。


「……彼も、君の配下なのかな?」

男友達(ボーイフレンド)さ」

「……はぁ。

 君くらい可愛ければ、彼氏(ボーイフレンド)くらいいるか……。

 道理でなびかないわけだ」


 ため息をついて何事かぼやくシャルだったが、その言葉が俺の耳に届くことはなかった。


次回は明後日の0時更新です。

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