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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
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第46話 天使の鱗


 市長の居城、その執務室──。

 エインズワース市長は、一通の手紙を前に頭を抱えていた。

 先日の神を自称した少女、ユーリからの、居城建築の申し出である。


「どうすればいいと思う、ノーマン秘書長」


 スーツ姿の禿頭に、長身痩躯の初老の男性が尋ねた。


「どう、と申されましても、答えは一つしかないのではありませんか?」

「わかっている。私が聞いているのはその先だ」


 居城の建築は本来、国の貴族のみにしか許されない。

 国外の貴族の別荘であろうと、屋敷ならばまだしも築城となると話は変わってくる。

 相手が神に等しい能力(・・・・・・・)を持つ人物(・・・・・)であってもそれは変わらないのだ。


(あの手品……一体どうやったのかわからんが……)


 故にその返答として、市長として行えるのは『私の判断では築城を認められない』ということと、『これに関して上の者に相談する』という2点の内容を返信するしかないのである。


 本来なら、それだけで良かったのだ。


 ならば、何に頭を悩ませているというのか。

 答えは、その文面を書いた者がユーリ本人ではなく、石工ギルドのドワーフ、しかもあの邪教徒の集団(・・・・・・)──勇者パーティと繋がりがあると噂されるロックウェルだということなのである。


 教会主権派であるエインズワース市長としては、ユーリに城を築いてもらい、我が国に居続けてもらえるのは政略的にも美味しい。

 しかしそこに邪教徒が関与することは看過できない話だったのである。


「うちで抱えている石工を動員するとして、問題はロックウェルを追放する手段だ。

 何か策はないか?」


 ロックウェルは石工としてコネも実力もある。

 直接処刑となれば反感を買いかねない。


 考えるノーマン秘書長。

 その脳裏に、ふと最近耳にした情報がよぎった。


活版印刷機(グーテンベルク)……」


 商業ギルドに上がってきた発明品は、全て国の認可を受けなければ市場に流せない決まりになっている。

 その発明品の一つに、活版印刷機があったことを思い出したのだ。


 同じ文章を、簡単に素早く量産できる発明品。

 あのような簡単な構造であるのに、今の今まで発明されなかったことが不思議なくらいのあの発明品があれば、民意を操作できるのでは?


 だが、そうなると問題は政治的な立場だ。

 現状教会主権派は聖女のおかげで少しは有利ではある。

 民衆を味方につけられているからだ。

 しかしそれを現国王が看過するか?


 眉間に皺を寄せるノーマン。

 そこで、ふと1人の聖騎士が脳裏に浮かんだ。


 彼を経由すれば、国王もうんと頷かざるを得ないだろう。

 何せ、あの件で彼には大きな借りがあるのだから。


「市長、一つ妙案がございます」

「ほう、聞こうか」


 秘書長がニヤリと笑みを浮かべ、口を開いた。


「──あいつ頭良かったのでありますか!?」


 そんな2人の作戦会議を、陰から盗聴している存在がいた。

 執務室に面した窓。

 そこから望む中庭の向かいの屋根の上に潜む、2人の陰──ユーリの命令で動いていた、悟酉と白騎士であった。


「それにしても国営の新聞社とは……。

 ご主人様の知識があったからなんとか話は理解できましたが……これは、早急にお伝えせねばなりませんね……」


 窓ガラスから伸びた魔力の糸。

 その振動を伝って聞こえてくる会話に眉を顰めながら、悟酉は白騎士の盾の下でため息をつく。


 ちなみに、2人が潜伏しているのに気付かれていないのは、ユーリが白騎士に持たせた魔導具『隠遁者の外套』のおかげである。

 エンカウント率を下げる追加効果を持つ魔導具で、魔力を消費すると透明化することもできるのである。


 やがて、市長が手紙を2通(したた)めるのを確認すると、悟酉は白騎士と顔を見合わせて、手紙の行方を追いかけるのだった。


 ***


「何しに来たんだよあいつら……」


 都市間列車の客室──。

 リディアとヘンブリッツがそっと個室を後にするのを見送りながら、俺はじんと痛む人中を抑えながら立ち上がった。


 口の中で舌を動かしてみるが、鉄臭いにおいや前歯のぐらつきは感じられない。

 どうやら歯は無事だったようで、少しホッとする。


 急に体が宙に浮いたのは流石にびっくりしたが……体が軽すぎるのも考え物だ。今度からはちゃんとシートベルトを着けよう。


「おいウェヴェル、聞いてるのか?」


 むっとした表情でウェッヴェルを睨むと、なんとも言い難いような表情で肩をすくめる。


「あなたのせいですからね!?」

「何がだよ?」

「誤解されたことです!」

「誤解?」


 大きな声で怒鳴る青年に、俺は怪訝な表情を返す。


「こんな場所であんなポーズ取られたら……!

 その、隠れてふぇ、ぇえ、エッ……ぃなことしてた、みたいに取られるでしょうが……!」


 勢いはいいのに尻すぼみな抗議。

 必死なせいか薄紫色の肌が紅潮しているように見える。


「知らねぇよ。

 こっちはお前が急に頭抑えたりしたせいで口んとこソファの角にぶつけてめっちゃ痛かったんだからな? 一人前に御託並べる前に、お前はまずそっちを謝れよ?」

「……すみません」

「よし、許す」


 なんだか納得がいかなさそうな表情をしているが、当の本人が何やら恥ずかしがってちゃんと言ってくれないようではどうすることもできない。

 俺は適当に話を切り上げさせると、再度轟いた砲撃の音と衝撃に足を踏ん張らせた。


「……で、さっきからこの砲撃音は何なんだ?」


 ため息を吐きながら、車窓の方に視線をくべる──が、角度的にこちらからは何も見えない。

 ただのどかな緑の丘陵が広がるばかりである──と、思っていた次の瞬間、不意に前方上空から何かが飛来してくるのが見えた。


 灰色の鱗に覆われ、モーニングスターのような長い尻尾を持つ巨大な鳥のような怪物──その背中には、見覚えのある黒い水晶が生えていた。


「天使の鱗!?」


 一瞬だけ見えたそれに、ウェッヴェルが勢い良く立ち上がって駆け付ける。


「天使の鱗?」


 隣からねじ込むようにして窓から身を乗り出したウェッヴェルの、少し長めの灰色の髪がバタついているのを、俺は怪訝に眉を顰めながら見上げた。


「うちの生物兵器です。天使の近くにいると病気みたいに感染して、そいつを守るように操られる。俺たちはそうならないように改造手術が施されて魔族になったんですけど……」

「待って、今魔族になったって言った?」

「そうですが……っとうぉ!?」


 再度衝撃で客車が跳ねて、前方を睨んでいたウェッヴェルの体に俺の体が打ち付けられ、衝撃でむせるような声を出す。

 どうやら、今は車内にいた方が幾分かマシみたいだ。


「……ごめん、前にも聞いたけど、魔族ってなんなんだ?」


 窓から離れ、また体が跳ねて飛んでいかないように彼の横に腰を落ち着けると、ウェヴェルは不思議そうな表情を浮かべて口を開いた。


「聞かれたっけ……まぁ、いいか。

 俺は下っ端だったから概要くらいしか聞かされてないんですけも、それでもいいですか?」

「頼む」


 一般的に魔族と言ったら、魔王の配下とか、魔物の中でも人間に近い存在だとか、人型をした魔物の全般を指していたりだとかするわけだから、てっきり彼の言っていた魔族という言葉もそれに類するものだと思っていた。

 しかし彼の言い方から察するに、おそらく俺の想像するものとは少しずれた意味合いなのだろう。


 俺はこくりと頷いて先を促した。


「魔族っていうのは『魔術的改造手術を施された民族』の略ですね。

 俺たちは徴兵されて軍に入ったんですけど、軍じゃ生身の肉体じゃキツい仕事もあるんで、それに耐えられるように、魔力回路に改造が施されるんです」

「軍?」

「故郷の国の軍です」


(ゴトシャ教とは直接関係なさそうだな……。

 にしても──)


 ──彼の言葉で得心がいく。

 彼の体の表面に刻まれた幾何学模様が、錬金術で造られるホムンクルスの体表に浮かぶ幾何学模様と似ていたのは、きっとその手術による影響だったのだろう、と。


 ……となると、彼は単純に、魔王の手下とかそういうのではなく、どこかの国の軍人さんだった、ということになるのか。


(じゃあ、あの火山での行為は一種の宣戦布告だったってことか?

 それを俺が邪魔しちゃったことになるのかな?)


 この世界での戦争のルールがどうなっているのかはわからないけど、無辜の民が怪我を負ったりしなくて済んで本当に良かった。


「……ちなみに、魔王という言葉に聞き覚えは?」

「初めて聞きましたね」

「……すまない、俺はどうやら君のことを誤解してたみたいだ」


 てっきり、ゴトシャ教が裏で魔王と繋がっていて、その暗部組織が何かごちゃごちゃやっているのだと思っていたが、どうやら勘違いみたいだ。


 とはいえ、俺の背中の痛みがゴトシャ教に関係していたりだとか、あの伏字スキルや情報統制に魔王という単語が引っ掛かったりだとか、そして彼らが噴火させた火山から出てきたあの龍とか、いろいろ気になることが山のようにあるわけだけど……。


(多分、俺が想像しているのとは違う形で、彼もまた関係者なんだろうな……)


 それがどういう繋がりなのかとかは、今のところ何もわからないわけだが……まぁ、いずれわかるだろうし、今はまず──。


「それで、その天使の鱗が今こっちを襲ってるワイバーンから生えてることについて、何か知ってることはある?」

「いえ。さっきも言いましたが俺は下っ端なので特には」


 言われて肩をすくめる。

 それもそうか。

 軍関係者だからってそう何でもかんでも知ってるとは限らないよなぁ……。

 言えないこともあるだろうし。


「……じゃあ、天使の鱗とやらがどういうものかについても?」

「そっちはそもそも専門外です」

「じゃ、直接見た方が早いか」


 なら、仕方ない。

 事前に何か有益そうな情報が得られでもしたら、と思ったが、面倒くさいけど、操っている本人に聞いた方がいいみたいだ。


 俺はすっくと席を立つと、個室の扉に手をかけた。


「……何をするつもりですか?」

「決まってるだろ?」


 呼び止めるウェッヴェルに、肩越しに視線を向け、ニヒルに笑みを浮かべる。


「決まってるってまさか──」

「──そのまさかだよ。

 どうだウェッヴェル。お前も来るか?」


 俺の提案に、ウェッヴェルは呆れたようにため息を吐くと、小さく一言『遠慮しておきます』と肩をすくめた。

ここで突然の歴史豆知識!


今回は「新聞社」についてのお話です。


新聞といえば情報発信の代表格。けれど、そもそも新聞社ってどうやって始まったのでしょうか?


世界で最初の定期刊行物とされるのは、1605年に神聖ローマ帝国で発行された『関心あるすべての出来事(Relation aller Fürnemmen und gedenckwürdigen Historien)』。これが近代的な新聞の祖先といわれています。


さらに遡ると、古代ローマでは「アクタ・ディウルナ(毎日の出来事)」という政府発行の掲示板があり、これは“新聞のご先祖様”と呼ばれることもあります。


ちなみに日本で最初に誕生した新聞は江戸時代の瓦版。火事や事件を速報する“号外ビラ”のようなものでした。

近代的な新聞社が誕生するのは明治初期。1872年創刊の『東京日日新聞』(のちの毎日新聞)がその代表例です。


19世紀には、新聞はしばしば“第四の権力”と呼ばれるようになりました。立法・行政・司法に並び、世論を動かす強力な存在になったからです。

時に政府と対立し、時に世論を誘導する──新聞社はただのメディアではなく、社会を揺るがす力を持つ存在でした。


まるで現代のSNSのように、一枚の新聞が人々の考え方や行動を変えてしまう。

新聞社は、古代から現代まで「人類の情報インフラ」を支えてきた存在なんですね。


以上、歴史豆知識でした!


次回は明後日の0時更新です。

お楽しみに!

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