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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
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第45話 疑念


 ウェッヴェル・シェディアンはユーリを不気味に思っていた。


 何を考えているのか全くわからない女。

 それが彼の、ユーリへの一方的な評価だった。


 アグナリア火山で敵対したかと思えば、今度は何が何でも命を守ろうとしてくるし、配下らしき亜人に殺されそうな目に遭ったかと思えば、今度はその亜人の世話を焼かされる。

 そして今回は旅行にまで随伴させられた。


 旅行への随伴は……おそらく監視を兼ねているのだろうということは、ウェッヴェルにも理解できた。

 だが、その上でこの女は、低いところから彼の頭に手を伸ばしてよもや、『戦友になりたい』などと言い始めた。


(こっちは敵だぞ?

 一体何を考えているんだ?)


 2人きりの個室。

 辛うじて表面上言葉は通じるらしい不気味な少女を前にしながら、ウェッヴェルは眉間に皺を寄せた。


「そんな怖い顔するなよ」


 ユーリが肩をすくめて見せる。


「そんなんだと肩が凝るぞ」

「……頭の中でごちゃごちゃ考えてても結論が出ないから、この際はっきり聞く……んですけど」


 ユーリから漏れ出す、ただならない恐怖に呑まれないように息を整えながら、慎重に言葉を選んで口を開く。


「なんだ?」

「……あなたの目的が知りたい、です」


 敵であるはずなのに仲間にしようとしたり、もはやすでに仲間であるかのように扱ってきたり。

 ウェッヴェルからしてみれば、同胞を死に追いやった憎き仇であるのに、彼女の言動が不気味すぎて、何をどう思えばいいのか、心の有り様というか感情の向け方に困惑があった。


 ──元を(ただ)せば、先に戦争を仕掛けたこちらが彼女らにとって悪だということはわかる。

 だが、それを理解した上で、ウェッヴェルの中には疑念が生じていた。


 自分を害そうとしたはずの敵に、ここまで情けをかける理由がわからない。


 わからない。

 わからないことだらけで正直気味が悪い。


 ユーリはそんなウェッヴェルの態度を見て一瞬何か考えるようなそぶりを見せた後、流れる車窓の景色に目をやりながら口を開いた。


「戦争において、一番の犠牲者は誰だと思う?」

「……急に何ですか?」


 尋ね返すが、微動だにせず窓の外を眺めるユーリ。

 この静かに口答えを許さない感じは、作戦中の上官に少し似ていて、鳩尾のあたりが落ち着かなくなる。


 ウェッヴェルは少し頭の後ろを掻きむしると、少しだけ考えて口を開いた。


「戦争に巻き込まれた一般人」

「……ふむ、それも確かにそうだが、俺は彼らよりもむしろ、戦争に強制参加させられている兵士たちの方だと思うんだ」

「……は?」


 思わず、そんな声が口をついて出た。


「考えてもみろ。

 一般市民はまだ国外に逃げるという自由が残されているが、兵士の方は上官に逆らえば即死が待っている。

 こんなの、あまりにも理不尽だと思わないか?」

「……まぁ、確かに」

「だから君を助けたのさ」


 ユーリの視線が、まっすぐこちらを捉えた。


「助けてくれなんて頼んだ覚えはありませんが」

「俺が勝手にそう思って、勝手にそう行動しただけだよ。

 人はいつだって、自分にとって都合のいい解釈で世界を見ているものさ」

「……誰の言葉ですか?」

「昔、俺を騙した男の言葉だよ」


 不意に、列車が岩を跳ねて大きく揺れる。


「俺はね、この世界で自由に生きたいんだ。

 何者にも縛られず、自分の思うように。

 ……ウェッヴェル。

 君は何が目的かと俺に聞いたけど、つまり答えは単純明快なんだよ」

「……あなたが、ただそれを望んだからそうしただけ?」

「そういうこと。

 もっと言うと、君のその体の模様に興味があったとか、もっと魔族のことについて知りたくなったとか、そう言う知的好奇心の為というのもあるけどね」


 笑いながら答える彼女に、ウェッヴェルは直感する。


 可哀想だと思って助けたが本音みたいに話していたが、多分どうやら、この女は単純に知的好奇心で自分を捕虜にしたという方が本音なのだろうことを。


「はぁ……。深く考えすぎて損した気分だ」


 大きなため息をついて、床に視線を送る。


「満足したか?」

「まあ、とりあえずは」


 彼女に対する嫌悪感が、すべて払拭されたわけではない。

 同胞を死に追いやられたことに対する恨みは残っているし、それを水に流すつもりも、この女に寝返るつもりもない。


 ただ、彼女が自分に対して興味を持っている間はどうやら安全らしいことがわかれば、ウェッヴェルにとっては充分だった。


 ──と、その時だった。

 鼓膜をつんざくような轟音が、客車を大きく揺らしたのは。


「なんだ!?」

「砲撃──わぷっ!?」


 座席が大きく跳ねて体勢を崩した拍子に、宙に放りだされたユーリがウェッヴェルの懐──正確には股の間──に飛び込んできたのは。


「ぐぉっ!?」

「ちょっ!?」


 唐突な衝撃に思わず悶えて前かがみになるウェッヴェル。

 巻き込まれるようにユーリの顔が股間に押し付けられ、うめき声を上げる──のと、ほとんど同時だった。


「師匠大丈夫か!?」

「ユーリ様無事ですか!?」


 ユーリたちが入っていた客車の個室の扉が勢いよく開き、ヘンブリッツとリディアがその光景を目撃したのは。


「「……ッ!?」」


 不思議な瞬間があった……。

 皆、同じ言葉を思い浮かべたと。

 そして……その言葉を絶対に口にしちゃいけないと。


 ここは耐えるしかない。

 こらえるしかないんだ!!


 そう、ウェッヴェルが祈った次の瞬間だった。


「頭抑えるのやめろよ苦しいから……」


 股の間から頭を抜きながら、顰めっ面のユーリが口元を抑えながら現れたのである。


 突如、3人の脳内に溢れ出した、存在しない(・・・・・)記憶。

 ウェッヴェルは慌てて弁明しようとヘンブリッツ達の方へ視線を向けるが、しかし時すでに遅し。


「……お、お邪魔しました」

「……お幸せに」

「おいちょっと待て!! 誤解だ!!」


 しかしこの場に南方大陸(ダッリ)語を理解する者はいない。


 この時、ウェッヴェルは強く誓った。

 早めに、できるだけ早めに、西方大陸(インオー)語を覚えよう、と──。

次回は明後日の0時更新です。

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