表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
44/58

第41話 デート - II


 外に出ると、西の空が茜色に染まりかけているのが見えた。

 灰色の曇り空の一部をオレンジ色に染めて、その隙間を縫うようにして隊を組んだ鳥の群れが過ぎ去っていく。


「冷えるね」

「コートあるけど着るか?」


 肩をさすりながら苦笑いを浮かべるウェンティに、俺はストレージからカーキ色のコートを出して見せる。


「いいよ、ユーリちゃんが着て」

「もう一着あるし」


 何もないところから取り出したように見えて驚いたのだろう。

 目を見張りつつも口に出さずに、ただ遠慮の言葉だけを返したウェンティに、俺は笑みを浮かべながらもう一着、グレーのコートを引っ張り出した。


「……それじゃあ、遠慮なく」


 カーキ色の方を受け取って、ウェンティが笑みを返した。


 博物館を後にした俺たちは、それからしばらく商店街の方をぶらついた。

 木製の屋根が付いた商店街で、雰囲気的には一階建てのショッピングモールに似ている。

 軒を連ねる様々な商店。

 服屋、アクセサリー屋、帽子屋、手袋屋、靴屋、小物屋──。


 ウィンドウショッピングを楽しむノリで、店頭に並べられた商品を物色しながら、俺達は他愛もない会話を繰り返す。


「アンティーク店だって」


 そんな商店街の一角に差し掛かったところだった。

 アンティークの小物を専門的に取り扱っているというお店を見かけた俺は目を輝かせながら店頭のミシンの前に駆け寄った。

 前世の電動ミシンとは異なり、チェーンと歯車で機能する足踏み式のミシンである。


「ミシンが珍しいのかい?」

「電動じゃないものを見るのは初めてなんだよ」

「電動?」

「電気……あー、雷の力で動くやつ」

「そんなものがあるのかい!?」

「うちには普通にあったよ。

 これでよく自作の服を作ったっけ。裁縫スキルがなかったから、ぼろきれみたいなマントしかできなかったけど……懐かしいなぁ」


 両親が新興宗教にはまる前の時代だ。

 あの頃は家族六人仲が良くて……戻れるなら、あの頃に戻りたい。


 そんな俺の感慨深げな雰囲気を感じ取ったのだろうか。

 ウェンティは俺の肩に手を置くと、にこりと笑みを浮かべて口を開いた。


「じゃあ、ちょっと寄っていこうよ。

 何か買えるほどお金があるわけじゃないけど、お金がたまったら何を買いたいか、目星付けるだけでもさ」

「いいね」


 ウェンティの誘いに頷いて、シックな木の扉を開く。

 ベルの音が来店を告げて、小さな店のカウンターで本を読んでいた老店主が顔を持ち上げて笑みを浮かべた。


「どうぞごゆっくり」


 店主のセリフに、俺達は会釈を返して中を見やった。


 商品は床や壁などに雑多に置かれていた。

 多いのは時計類。

 あとは小さな置物や、ハンドルを回すと中で人形が動く大きめのオルゴールなどだった。

 どれもデザインがかわいらしく、陶器製のウサギの置物は特に気に入った。

 なんというか、独特の表情があっていい。


 値段は──銀貨1枚か。


「これかわいいな」


 手に取ってウェンティに見せてみる。

 すると彼は一瞬ぎょっとした表情を浮かべて──急いでぎこちない作り笑いに変えた。


「そう……だね、うん、かわいいかわいい」

「こっちの犬もいい表情してるよ。

 どっちも銀貨1枚か、安いな……買うか」

「え、買うの!?」


 驚き、身を仰け反らせるウェンティ。


「だって、次来た時に売ってなかったら悲しいじゃないか!」

「いやまあ確かにそうだけど……」

「あ、このお皿もいいな。

 チェシャ猫に似てる……多分これは飾り用の皿だな?

 ……やばい、コレクションしたくなってきたかも」

「えぇ……」


 皿と置物を抱え、店の奥に足を延ばす。


「ウェンティも何か欲しいものとかないの?」

「うぅん、そうだな……あ、これとかいいんじゃないかい?」


 言って、彼が手に取ったのは壁掛けの時計だった。

 裏の機構をいじると、設定した時間に合わせて鳥の人形が窓から飛び出してくるものだった。


「いいね」


 手に取ってみる。

 ずっしりとした重量感。造りも細かく、一目でいいものだとわかる。


「買うか?」

「いや、お金がないからまた今度だね」


 言って、値札に視線をよこす。

 見てみれば銀貨5枚と書かれていた。


 時計と言えば魔術で動くものが一般なのだろうこの時代に、あえての歯車仕掛けだ。

 そこそこの値段がするのも頷ける。


「よかったら買うけど?」

「女の子に買ってもらうのは、僕の紳士としてのプライドが──」

「そっか、なら仕方ない」


 時計を壁に戻す。

 ウェンティの視線が少し名残惜しそうに追いかけるが、一度遠慮されたものを買ってやるほどの義理はない。


 俺はもうほしいものが見当たらなさそうだと見切りをつけると、カウンターに置物とお皿を持って行ってお金を支払った。


「いいのかい? 彼氏にプレゼントしなくて」

「ただの友達だよ」


 店主がこっそり耳打ちしてくるのに、俺は眉を顰めて返す。


「……なら、おせっかいだったね。

 ほいこれおまけ。お嬢さんかわいいから」


 老店主がカウンター脇に吊っていたキーホルダーのようなものを取り出した。

 番の鳥のデザインで、複雑に絡み合っている。

 知恵の輪みたいな仕組みだろうか。

 上手く分解すると2つになるような仕掛けが施されていることが、左の義眼で確認できた。


「いつか好きな人ができたら、片方を渡すと良い。

 恋愛成就のおまじないさ」

「そういうの興味ないんだけど……まあ、もらえる物はもらっておくよ、ありがとう」


 俺は礼を言って受け取ると、笑みを返して紙袋に同梱した。


 アンティーク店を出てしばらく歩いていると、俺達は商店街の中腹あたりでよさげなカフェを見つけた。


「ちょっと歩き疲れたし、寄っていかない?」


 不意に、ウェンティが切り出した。

 木製の扉に小さな看板がかかっていて、店内からは暖かい明かりが洩れている。


「そうだな。喋りっぱなしで喉も乾いたし」


 中は思ったよりも静かで、外の喧騒が遠くに感じられた。

 柔らかい照明に照らされて、丸テーブルと古いソファが並ぶ落ち着いた空間。

 明るすぎず暗すぎず。

 雰囲気もいいし、何より店中に香るコーヒーの香りが心地よかった。


 注文を済ませて席に腰を下ろす。

 ソファの脇に脱いだコートを丸めて置くと、改めて向かい合って座ったことで微妙な沈黙が二人の間を支配した。


「ふふっ」


 こらえきれずに笑い声が漏れる。

 釣られるようにしてウェンティも笑みを浮かべた。


「さっき、店主に何を貰ってたんだい?」


 ウェンティが話を切り出した。


「キーホルダーだよ。

 片方を分けると恋愛が成就するんだって」


 言って、先ほどの紙袋から鳥の番のキーホルダーを引っ張り出した。

 長い尾羽が複雑に絡み合う姿は、芸術品としてだけでも魅力的に映る。

 それだけに、この曰くさえなければ完璧なのにな、と思わずにはいられなかった。


金枝鳥(きんしちょう)か」

「金枝鳥?」

「今から400年くらい前に成立した喜劇さ。

 元ネタはもっと古い年代にできた悲劇なんだけど、冥界の入り口に生える金色の柳の枝で、一生の愛を誓った2人の精霊の恋愛劇でね。

 片方の精霊は冥界の出身、もう片方は現世の出身だから、ハロウィンの日にしか会いに来れなくて、『どうして毎日一緒に会えないんだろう』って、お互いの不遇を慰めあう話なんだ」


 ロミオとジュリエット、それから七夕の寓話を混ぜたようなものだろうか。

 なかなか気になる話だ。


「それが、どうして喜劇になるの?」

「それを言っちゃあネタバレになるからね。そうだ、いつか金枝鳥が公演されたら一緒に見に行かないかい? きっと楽しめるよ」

「じゃあ、それまでに元ネタを履修しておかなきゃな」

「履修って、変な言い回しをするんだねユーリちゃんって!

 まあでも、そうだね。元ネタは知っておいて損はないよ。たしか図書館に読本(よみほん)が置いてたはずだから行ってみるといいよ」

「ありがとう、時間があったら行ってみるよ」


 それから俺たちは、運ばれてきたカフェラテとお菓子をつまみながらしばらく語り合った。

 博物館で展示されていたもの、今日の演劇で見たもののちょっとした豆知識などなど。

 特に空白の時代についての考察についてはなかなか興味深かった。


「──それは、つまりゴトシャ教が意図的に資料を独占してるってこと?」

「都市伝説さ。南方大陸には文字文化がなかった、なんて言い訳してるけど、北方の帝国──シュノークローゼンには、南方大陸の文字で書かれたと思われる聖書の原典写本があってね。まあ、多くの考古学者が偽書だって言ってるらしいんだけど」

「北か……」


 南こそ次に目指すべき土地だと思っていたが、北の方も捜索したほうがよさそうだ。

 しかし、それでは手が足りない。

 目的の異世界間航行の魔術さえ手に入ればどうでもいいが、にしたってどこから手を付けるべきか迷う。

 この体の寿命だってどれくらいあるかわからないし、できれば早めに片をつけたいところだ。


(拠点を作ったら、俺のクローンでも作るべきか……)


 錬金術スキルを使えば、機材と材料さえあればホムンクルスもミュータントも作れないことはない。

 応用すれば捜索のための手数も増やせるだろうし、拠点ができたらなるべく早い段階で挑戦したほうがよさそうだな。


「──にしてもいい店だ。

 気に入ったよ」


 話が途切れたタイミングで、俺はぐっと伸びをした。

 想定していたより長く居つきすぎて迷惑かと思ったが、席を仕切る良い感じの衝立やこのソファの居心地、店員の態度からどうも長居したくなってしまう。

 おかげで予定よりたくさんお菓子を注文してしまった。

 夕飯が入るか不安なくらいだ。


「そうだね、僕も気に入ったよ。

 また2人で来ようか」

「だね……」


 ──と返事をして、はっとする。

 知らないうちに、次のデートの約束をしてしまったことに気が付いたのだ。


 前に約束した時は一回だけだぞ、なんて念を押したというのに全く。

 次の約束を取り付けるのが上手い奴だな、と俺は少し感心しながら店を後にした。


次回は明後日の0時更新です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ