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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
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第40話 デート - I


「噂には聞いてたけど、ユーリちゃんやっぱり強いね。

 あっという間に騒動をおさめちゃったよ」


 ゴアブル暴走事件の後。

 俺とウェンティは、飼い主だった旅芸人一座の演劇を眺めながら昼食をとっていた。

 舞台では、衰退しきった都市国家グラトニカが、神ゴトシャの加護で再生していく物語が演じられている。


 演目はクォントロッレの『鏡金記(きょうごんき)』。

 市長の謁見の時に、俺に神であることを証明して見せろと言ったときに引用した叙事詩だ。


 ちなみに料金は無料。

 昼食もトラブルのお詫びとしておごってもらった。


「ああ、神よ! その黄金に輝く権能で、どうか貧しきグラトニカの民草をお救いください……!」


 国王役の老人が王笏(おうしゃく)を掲げる。

 その一言に呼応するように、俺の背中が焼けるような痛みに襲われ、思わず眉を寄せた。


(また突然……っ!)


 忘れようにも忘れられない感覚だった。


 以前痛みを感じた単語は確か、聖アグナリア大聖堂と七大聖堂だったか?

 ということはこのグラトニカという単語も──。


「どうかしたのかい?」

「……いや、なんでもない」


 バゲットのサンドイッチを一口齧ってごまかした。


「それにしても、黄金に目が眩んで自滅するなんて、なんでこう昔話の人類って愚かなんだろうね」


 演劇が終わった後のことだった。

 悲劇で終わった劇が拍手喝采で幕を下ろす中、ウェンティがポツリと呟いた。


「教訓話だからでしょ」

「だとしてもさ」


 肩をすくめて見せるウェンティ。

 きっと彼は根が優しいのだろう。

 俺のように性悪説で物事を見たりしないで、きっといろんなことを正面から受け止められるんだ。


 俺はそんなウェンティのことを少しだけ羨ましいと感じながら、『そうだな』と相槌を打った。


「……で、これからどうする?」


 話が一段落したところで、俺は席を立ちながら話しかけた。


「そうだね……冷えてきたし、暖かいところに行こうか。

 いいところを知ってるんだ、きっと気に入ると思う」


 ***


 ウェンティに連れてこられたのは、大きめの博物館だった。

 ギリシャの神殿を彷彿とさせるデザインのファサードには観光客の姿が散見され、入り口脇には現在開催されているらしいイベントのポスターが張られている。


「『空白の時代展』?」

「今から800年以上昔の時代のことさ。

 重要な資料がほとんど紛失しているか、後に偽造されたものばかりなせいで詳しいことが何もわかっていないからそう呼ばれている。

 考古学用語だから、一般人は知らないと思うけどね」


 言って、俺の手を引くウェンティ。

 きっと、彼が知っていたのはこの博物館に知り合いでもいるからなんだろう。


 情報屋とか何とか言ってたし。


(とはいえ、800年以上前の資料がほとんど紛失しているというのは興味深いな)


 DFHがゲームだったころは少なくとも800年以上昔。

 これはあくまでイニシエール古金貨が使われていた時代から逆算した予想であって、正確な推察ではない。

 加えて、この世界がもともとあのゲームそのものだったのか、あるいはよく似た世界というだけで実際は別物なのかは、正確には確定した話ではない。


 その答えが、(くだん)の失われた資料の中にあるのだとしたら──それは何とも面白い話じゃないか。


「いいね、そういう都市伝説みたいな話。

 俺は好きだよ」

「気に入ってくれたようで何よりさ」


 笑顔を浮かべるウェンティに、少しだけ胸がドキリと跳ねたような気がした。

 ……きっと、学術的興味への興奮と混同しただけだろう。


 閑話休題。


 博物館にはさまざまなものが展示されていた。

 イニシエール古金貨はもちろん、様々な絵画などの芸術品が展示されている。


(今回は美術品がメインなのか)


 中には見覚えのある絵画もあった。

 現実世界で有名だった宗教画や歴史的に有名なプロパガンダのパロディとか、かつてSNSで有名だったイラストレーターの絵など、前世の存在を彷彿とさせるものが散見される。


(そういえばDFHのファンアート展みたいなのが一時期ゲーム内で開催されてたっけ。

 まさか、当時の作品が……?)


 もしそうなのだとしたら、確実にこの世界はDFHと何らかの対応関係があるのでは?


 ここまで具体的なものを目の前に出されると、まったく無関係とも言い切れない気がしてくる。

 偶然だとしたらサルがタイプライターを適当に叩いてシェイクスピアを書き上げるようなものだ。

 確立としてはあり得ないわけではないが、ほぼほぼあり得ないレベルである。


「何か気になる絵でも?」

「まあね」


 何かと聞かれたら全部気になって仕方ないが……今考えたところで答えが出るはずもない。

 俺は苦笑いを浮かべながら、ナポレオンのパロディ画に描かれた俺の似顔絵の前を後にした。


(まさか、うちのギルドで出したやつが発掘されてたなんて……)


 俺は顔を見られまいと前髪で隠しながら、次のブースに移った。


「あ、見てよユーリちゃん」


 ウェンティの声に顔を持ち上げてみると、そこにはたくさんのミイラの彫刻が展示されていた。


「わ、なにこれ」


 全部金色。

 まるでバロック彫刻のような雰囲気のそれらは全部で12体あり、今にも動き出しそうな迫力を兼ね備えていた。


「これ、全部もともと本物の人間だったらしいよ」


 キャプションに顔を覗き込ませながら解説するウェンティに、俺は思わず目を見開いた。


「え、生きてたの?」

「さっき劇場で見てた話、どうやら実話だったみたい」


 さっきの話、というと、たしかクォントロッレの『鏡金記(きょうごんき)』か。

 ということは神ショゴスも実在した?


「まさか」

「わかる、僕も懐疑的な意見だよ」


 肩をすくめて見せるウェンティ。


「錬金術に詳しい子が友達にいるんだけどさ。

 彼が言うには、人間を石にすることはできても、不純物? が多すぎて金にはできないそうだよ」

「へぇ、いろんな知り合いがいるんだな」

「情報屋だからね。まだプロじゃないけど」


 人間を石にはできても金にはできない。


 人体を石にするというのは、簡単に言えば乾燥させてミイラにするということだ。

 カツオを鰹節にするようなものだと思えばイメージできるだろうか?


 カツオをいくら頑張ったところで金塊にはならないように、生き物を金に変えることはできない。

 俺だって生きているものを変質させることはできないだろう。

 システム上、生きている魔物を錬金術の素材に変えることができないからね。


 俺は左目で彫像を観察した。

 やはり、どこからどう見たって金の彫像だ。

 この義眼を使っても、もともと人間だった痕跡なんて見当たらない──が。


(密輸品……?)


 直感的に、これが正規に寄贈されたものではないらしいことをなんとなく察する。

 おそらく、左の義眼がそう鑑定したのだろう。


(……まぁ、美術品なんて大体そんなもんか)


 時代によっては墓荒らしの結果発掘されたものだとか、実は誰かによって盗まれたものだったとか、よくある話だしな。


「とはいえ、黄金彫刻でここまで髪の質感を出すのは見事だよな」

「そうだね。この布の質感なんかも特にさ。

 本物が黄金化したって言われても信じちゃうレベルだ」


 よくできた彫像だな、とか、コンセプトは面白いよね、などと言った感想を交わしながら、博物館を後にした。

ここで突然の錬金術豆知識!

今回は「錬金術による人体の石化」についてのお話です。


19世紀のイタリアには、人体石化の技術で名を残した二人の人物がいます。


まず一人目は、錬金術師 ジロラモ・セガート。

彼は古代エジプトのミイラ作りを参考にしたといわれており、独自の石化法を編み出しました。セガートが石化させた人体や臓器は、まるで生きているかのように色味や弾力がそのまま保たれていたそうです。その手法は、現代でいう「プラスティネーション」(体液や脂肪を合成樹脂に置き換える保存技術)に似ていたのではないか、と考えられています。


二人目は、医師 エフェジオ・マリーニ。

彼は自然界における化石生成のプロセスに注目し、それを人工的に再現しようと試みました。長い年月を経て骨が鉱物へと置き換わる現象を短期間で再現することに成功したといわれ、さらにはナポレオン三世が「人間の石化体で作られた家具」を所有していた、という噂まで残されています。


ちなみに骨が鉱物に置き換わる現象には「化石化」以外にも、鉱物の美しい光沢を帯びる「オパール化」というものがあります。自然界の鉱物現象を錬金術的に応用することで、人体を「美しい石」として保存する試みが行われていたのかもしれません。


こうした石化技術は、単なる保存のためだけでなく、当時の人々にとって「永遠の命」や「不滅の肉体」といった錬金術の理想を象徴するものでもありました。

石になってもなお人の姿を残す──それは、まさに肉体の死を超えて魂の不滅を証明しようとした実験だったのです。


以上、錬金術豆知識でした!


次回は明後日の0時更新です。

お楽しみに!

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