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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第2章 金を孕む胎獣〈グラトニカ〉
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第36話 デートのお誘い


 一度宿に帰ってから遅めの朝食を済ませ、カラクの店に顔を出したが、カラクの姿は見えなかった。

 代わりに中学生くらいの金髪の少年が、退屈そうに頬杖をついてカウンターの椅子に座っている。


「あんたは確か、店長のお客だったよな?」


 俺の様子に気づいたのか、少年はゆっくりと体を持ち上げながら口を開いた。


「覚えててくれてたんだ?」

「偉く将来有望そうな子が来てたんでね、誰だって一目見たら忘れないさ」


 言われて、俺は一瞬どう返すべきか迷った。

 確かに俺の見た目は優れていると自負しているし、リディアからも羨ましいとお墨付きをもらったことは確かだった。

 しかし前世でも見た目をほめられたことなんて全くなかった俺は、素直にその評価を受け入れられず、一瞬の沈黙を挟んで、自分の髪を一房手に掬い取った。


「……確かに、この髪は目立つか」

「口説いてんだけど?」

「すまんが男をめでる趣味はないんでね」

「ぐぬ……」


 少年が少し悔しそうに顔をゆがめる。

 その表情が、なんだか少しかわいく思えた。


(……体の性別にちょっと引っ張られたのか?)


 いや、そんなまさか。

 俺はTSしたといっても心は男のままだ。

 こんなショタのすねた顔にキュンとするなんてありえない。


 俺は戸惑いを隠すようにして笑みを浮かべた。


「俺はユーリ。ただのユーリだ。君の名前は?」

「ウェンティ。同じくただのウェンティだ。出身は南半島のバルカンって漁村で、趣味は──」

「すまないが合コンに来たわけじゃないんだ」

「……自己紹介くらいさせてくれたっていいじゃん。

 まずはお友達から始めようぜ?」

「そういうのって、普通は告られた側が言うんだけど?」

「それは……誰が決めたのかな?

 少なくとも僕の頭にはないルールだ」

「……確かに、決まり事って程でもなかったか」


 二人の間に軽い笑いが起こる。


「いいね、君。

 いい友達になれそうだ」

「そりゃどうも、マドモアゼル」

「それはキザすぎ」

「こう言うと世のご婦人は喜ぶんだ」

「やけに手馴れてると思ったよ。常習犯だったのか」


 ニッ、といたずらっぽい笑みを浮かべるウェンティ。


「街のご婦人とつながるとね、いろんな情報が入ってきやすくなるのさ。

 言いそびれたけど、僕、趣味で情報屋をやってるんだ」

「情報屋? てっきりナンパ師かと思ったけど」

「そんな不誠実なことはしないよ。

 僕の瞳は君のためだけにある……なんて、口が裂けたって言えなくなるじゃないか」

「キザ臭ぇ」

「ご婦人方には評判なんだけどなぁ」


 肩をすくめて見せるウェンティ。

 なんだろう、洋画のワンシーンみたいで話していて楽しくなる。

 きっと、彼はこの話術で巧みにいろんな噂話を集めているのだろう。


 何か情報が必要になったら利用させてもらおう。


「ところで、カラクさんはいる?」

「生憎、ユーリちゃんのおかげで今は商業ギルドにいるよ。

 何か用があるなら伝言しておくけど?」


 言って、カウンターの下からメモ帳と羽ペンを引っ張り出してくる。

 そういえばカラクに委任状を書いた時も思ったけど、物を書くときってこの世界では羽ペンが一般的なんだな……。


「どうかした?」

「いや、その羽ペンって書きづらくないかなって思って」

「そうかい? 普通だと思うけど」


 そう思うのは、きっと書きなれているからだろうな。


「でも書いた文字を消せなくて困ることとか」

「〈クリーン〉を使えばいいじゃないか」

「〈クリーン〉?」


 聞いたことがない魔法だった。


「汚れを落とす生活魔法。結構常識だと思ってたんだけど、もしかして魔法には疎い感じ?」

「……そうだな」


 魔術には詳しいが、今のところそういえば魔法というものが何なのかわかっていない。

 この世界の独自の魔術体系なのだろうと思っていたが、思い返せばウェッヴェルは魔法のことを『魔術の真似事』と呼んでいた。

 つまり、発動方式だけが異なる魔術と同じもの、という俺のこれまでの認識は、もしかすると少し違うのかもしれない。


「使い方を教えてくれるか?」


 リディアに聞けばきっと詳しく教えてくれるだろうが、今はこの場にいない。

 いい機会だし教えてもらおう。


「いいよ。その代わりデートしてくれるならね」

「デート?」


 顎先に人差し指を当てて、少しだけ考える。

 中身が男と知らないで、一人の女性として好意を向けてくれることに少しの申し訳なさを感じて、少し迷ったのだ。


 が、それは俺が決めるべきことじゃないだろう。

 彼自身が自分で答えを出すべきことであって、俺がとやかくそこに口を出すのはお門違いだ。


「……わかった。一回だけだぞ」


 それに、リディアに聞けば教えてくれるかもしれないが、それをやると俺の魔術師としてのプライドみたいなものが傷つく。

 それだけは我慢ならない。


 というわけで消去法でリスクを比較した結果、俺は彼の提案を承諾した。


「やった! じゃあ明日、お昼の鐘が鳴るころに時計塔前まで来てくれ。

 いい店を知ってるんだ」

「わかったよ」


 嬉しそうにカウンターから身を乗り出すウェンティ。

 その姿はすこし、祖父が飼っていた大型犬を思い出させた。


 ***


 〈クリーン〉の呪文と魔法の使い方について説明を受けた俺は、ウェンティにカラクへの伝言だけを残して宿への帰路に就いた。


「デート……デートか……」


 頭の中で、別れ際のウェンティの声がこだまする。


 生まれてこの方、異性と付き合ったことはなかった。

 デートなんて微塵も縁がなかったし、これからもそういうものとは無縁の人生を送るんだろうな、と思っていた。


 だからだろうか。

 精神的に同性の相手、しかも中学生くらいの少年とはいえ、なんだか妙に胸に来る違和感がある。


 ざわざわするというかなんというか、もどかしい気分だ。


(俺は……女の子の方が、好きなんだよな?)


 顎先に指を当てながら考える。


 なぜ女の子の方が好きなのかと聞かれたら、特に理由はないけど、男相手だとなんというか嫌悪感が湧く一方、女の子相手にはそれが湧かないからだと答えざるを得ないだろう。

 自分の中に男性のアレを入れることなんて考えただけで吐き気がするし気持ち悪い。


 ……うん、やっぱり俺は女の子の穂が好きだな。


 改めて確かめるように心の中で呟く。


(じゃあ、ウェンティのあの表情を見た時に覚えたあの感覚はいったい……?)


 唸り声を上げつつ脳に力を入れるが、納得する回答は浮上しない。

 こういう時は考えたって仕方ないのだ。

 きっと、自分の中に蓄積された統計データが不足しているだけだろうし、いずれ答えは浮かんでくるだろう。


 そうやっていったん思考の海から頭を持ち上げた時だった。


 不意に、俺の視線が錬金屋の看板を捕捉した。


「そうだ、ポーション類が不足してるんだった。

 ついでだし買い足していくか。無ければ材料だけでも……」


 先日のアグナリア戦でMP回復用のフルポーションと低級ポーション、それからHP回復用のポーションを使ってしまったのを思い出す。


 ……さて、800年後の錬金術はどうなっていることやら。


 わくわくと胸を躍らせながら扉をくぐると、来客を告げるベルの音とともに様々なハーブのにおいが鼻腔を刺激した。

 混ざりあいすぎてもはやどれが何のにおいかわからないが、揮発性の高い香料を扱うなら換気をちゃんとしろ、と唸り声を上げたくなる。


「うぇ」


 ごめん、出たわ。


 あたりを見渡すと、一見して花屋のような雰囲気が広がっていた。

 床一面に雑多におかれた鉢植えと、そこから伸びる数種類の植物。

 それから窓辺の天井にはドライフラワーが吊り下げられていた。

 少し奥まったところに行けば、陳列棚に乾燥させた粉末やろうそくにしたもの、油などが陳列している。

 別のコーナーを回ってみれば、様々な種類のスライムの核や金属のかけらの瓶詰などが売られていた。


 俺はそのうちの一つをしげしげと眺めながらぽつりとつぶやいた。


「素材屋としては、なかなか素晴らしいラインナップだな……」


 DFHを初めてアレッサに次いで二番目に来る都市にしては、ゲーム上、物語序盤で必要になりそうなものがある程度揃っている。


「ありがとうございます!」

「わっ」


 不意に背後から聞こえてきた感謝のセリフに、俺は思わず驚き声をあげた。


 振り返ってみれば、亜麻色の髪に緑色の瞳をした中学生くらいの少年がにこやかに笑みを浮かべている。


 この子、どこかで見た覚えが……あ


「君、たしかキャスパーという名前じゃなかったっけ?」

「……失礼ですが、どこでその名前を?」


 警戒するように、少年が一歩退く。


「ああいや、違うんだ。

 俺が初めてギルドに来た時、模擬戦闘試験の前にウォーデンが稽古を見ていた子だよね?

 彼が君の名前を読んでいたから、それで覚えてたんだよ」

「……すごい記憶力ですね。

 僕だったら絶対忘れてますよ」

「だよね……」


 多分、この左目の義眼のせいなんだろうな。


 無意識に左目を抑えながら困ったような笑みを浮かべると、不意に何かに気が付いたのだろうか。キャスパーがぐいっと顔を寄せてきた。


「何?」

「いえ、その左目なんですけど、もしかして魔導義眼ですか?」

「魔導……何?」


 目を輝かせながら尋ねるキャスパーに、俺は思わず一歩後ずさった。


「錬金術で作られた義眼です!

 噂によれば、失った視力を回復できるだけじゃなくて、素材や触媒によってさまざまな追加効果を付与できるだとか! 左右で瞳の色が微妙に違うし、よく見れば瞳孔の形も長方形……。

 人体との適合率を高めるために、普通は丸い瞳孔の眼球を素材に使うんですけど、これ、素材は何ですか!? 触媒は!? 追加効果はいったい何を!?」

「ちょっ、近い近い!」


 いきなりえらい質問攻めだな……と思いながら、俺は彼を落ち着かせるべく両手を前に出した。

 ていうか俺の左目、瞳孔が長方形になってたのか……全然気づかなかったんだけど……。


「あ、ごごご、ごめんなさい! つい、夢中になってしまって……」

「いや、いいよ。そういうのわかるから」

「貴女も錬金術に興味がおありで!?」

「まあ、俺も色々作ってるからね……」


 〈混沌魔術〉を習得するために取得したという経緯はさておき、このスキルにだいぶ助けられてきた過去があるのも確かだったし、それなりに好きでもある。

 彼がこの義眼を珍しがるのも、わからないでもなかった。


「いろいろ、というと?」

「ゴーレムとか」

「ゴーレムを作れるんですか!? すごいです、是非見せていただきたいです!」


 目を輝かせて迫るキャスパー。

 ここまで嬉しそうにされるとゴーレムを見せてあげたい気持ちに駆られる……が、ここでゴーレムを見せてあげると、俺がこのお店を覗いた目的が達成できない。

 俺は苦笑いを浮かべると、『また今度ね』と言って受け流した。


「ところで、ポーションを買いたいんだけど売ってるかな?

 魔力回復用と、HP……あー、怪我を治す用の」

「あ、そうですよね。こんな急に言われても持ってないですよね……ごめんなさい。

 えっと、ポーションでしたね。それならこちらに──」


 それから俺は、ポーションの材料だけ買って宿に戻ることにした。

 ポーション自体も売ってないことはなかったが、俺が求める水準には達していなかったからだ。


 これなら、まだ材料を買って自作したほうが高品質なものができる。


 俺は手に入れた材料を召喚術で呼び出した馬の荷鞍に荷物を括り付けると、店の前を後にした。

次回は明日の0時に投稿します。

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きた、TS物の醍醐味! これだから良いんですよ! 更新頑張って下さい!
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