幕間 胎動
北方の帝国の秘密部隊が黄金郷遺跡を襲撃したのは、月のない夜のことだった。
クォントロッレの遺した叙事詩の一節から、神話級の兵器になりうる物体が隠されているとの連絡を受け、奪取に来たのである。
「じゃ、よろしくお願いしまーす」
「あいさー」
飛空艇から飛び降りた少数精鋭が、上空から無骨で巨大なライフルを警備兵に向ける──。
直後、暗い色の魔法陣が展開したかと思えば、駐屯地が黒い爆炎に飲まれた。
突然の強襲に混乱が蔓延する。
騒ぎは一気に遺跡全体に共有され、鎧を着た兵士たちがわらわらと溢れ出した。
その手元には、大きな金属製の筒が握られている。
「あれ、東帝国の龍火槍じゃね?」
「やばいね、パラシュートに穴開いちゃうかも」
「それは勘弁!」
軽口をたたきあいながら、ベルトの装置をいじる秘密部隊。
直後、濃緑色のシールドが前方に展開された。
「対空砲用意──テェ!」
爆音が数百メートル上空まで鳴り響き、シールドに黒い煤を擦り付けていく。
「ここまで届くのかよ」
「さすが東の錬金術は一味違うね」
「けど、こっちの軍事魔法だって遅れてない」
再度、巨大なライフルを警備兵らに突き付ける。
黒い魔法陣が展開し、暗く冷たい爆炎が鎧の集団を吹き飛ばしていった。
精鋭たちが着陸し、素早い動きでパラシュートをバックパックに回収していく。
無駄なく、手早く──その様はまさに秘密部隊である。
「チームアルファ・ワン、北門第一制圧完了~」
『同じくアルファ・ツー、西門第一制圧完了だよ!』
『同じくアルファ・スリー、南門第一制圧完了』
『同じくアルファ・フォー、東門第一制圧完了でーす』
『了解、チームベータ降下開始。チームアルファは結界装置周辺のクリアリングを続行せよ』
「了解っす~」
脳に直接響くような音声に眉を顰めながら気怠そうに返す。
「つっても、最初の爆炎でほぼ全員やられたっしょ」
「油断は禁物だぜ分隊長。結界装置周辺は耐魔結界分厚いんだから」
「わーってるよ」
黒い炎を上げて燃える木箱や崩れ落ちたテントの骨組みが散乱する中、唯一無傷の倉庫を発見し、一同が静かに足を止めた。
「……」
分隊長と呼ばれていた男が扉に耳を当てて中の様子を探り、静かにハンドサインを行う。
その傍らで副分隊長が、金属製の円柱型をした装置を扉に設置した。
(音響探知結果、敵数6。武器は近接4、弓なし、火器なし、杖2。突入まで3秒前──2、1、突入)
直後、倉庫の扉が爆音とともに蹴破られた。
内部で待ち構えていた警備兵はすぐさま武器を構えて臨戦態勢をとる──が、遅い。
続いて投げ込まれた宝石が鋭い閃光で目を焼き、マンドラゴラの根が引き裂かれたような音を発して平衡感覚を狂わせる。
「──!?」
「──!?」
爆音のせいか、魔法使いが詠唱しても魔力が全く反応しない。
(精霊の耳潰し──!?)
驚愕にゆがめられた魔法兵の顔が、秘密部隊の振るった剣に寸断される。
魔法使いは口さえ封じてしまえば一般人と変わらない。
分隊長は軽く息を吐くと、奥で淡い光を点滅させる結界装置に視線を移した。
「これを壊せば──何があるんだっけ?」
「空白の時代の遺物──たしか、この世の全部を黄金に変える凶悪な兵器だっけ?
壊しても壊しても、周囲の物質から質料巻き上げて自己修復するやつ」
「うーわ、なんだそれこっわ」
隊員の解説に、分隊長がわざとらしく震えて見せる。
「っすよね~。
この遺跡が全部金ぴかなのも、その兵器の暴走が原因みたいで」
「難儀なもんだな、ったく」
「全くだね」
不意に、倉庫の壁を叩く音が聞こえて頭を持ち上げる。
するとそこには現着したばかりのチームベータが、何やら重そうなケースを抱えて中に入ってきたところだった。
「チームベータ・ワン、現着~。
結界装置ってそれ?」
白衣姿の黒髪の女性が、顎で装置をしゃくった。
「チームアルファ・ワン、チームベータ・ワンの現着を確認。
任務を委譲しまーす、っと。
……そそ、で、これが噂の結界くん。どれくらいで無力化できそう?」
制度上必要なやり取りを交わしつつ、白衣の女性に尋ねる。
彼女は結界装置の前まで赴くと、ジッと装置を覗き込んで言った。
「連邦製のリフレクション型第7世代ね~。
見たことないガジェットがついてるけど、おそらく共振型トラップの第2世代型の改良版か亜種ってところだろうから……まぁ、この私にかかればそうね、10秒あれば充分かしら」
「さすが、天才国家錬金術師は言うことが違う」
「もっと褒めてくれてもいいのよ?」
女性はにやりと笑みを浮かべると、鞄からヘッドフォンのようなものと複雑そうな機械装置を取り出して、自分の頭と結界装置にペタペタと張り付けていく。
「スイッチオン」
次の瞬間ガジェットが起動、変形して銃砲のようなものを女性に向けた──が、何も起こらずに元の形へと戻っていった。
「はい、無力化完了」
「早すぎでしょ」
「結界装置の計算速度が遅いだけよ」
言って、エネルギー源になっていた魔石を難なく装置から引きはがすと、足元からガチャン、と何かの装置が動く音がした。
よく見ると、結界装置を固定していた爪が解除されているようだ。
「これをどければ、遺跡に入れる地下通路が出てくるって仕組みなわけか」
「そしてその奥地には──」
「──噂の兵器が待ってるってわけね。さ、行きましょうか」
一行はにやりと笑みを浮かべると、通信魔法で突入の指示を仰ぎ──遺跡の内部へと侵攻を開始した。




