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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第1章 天を喰らう龍〈アグナリア〉
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幕間 目覚まし時計


 ──東帝国(ソー)のとある喫茶店。

 和中混淆とした古い木造のテラス席で、桜の散る丘陵地を眺めながら新聞を読む1人の男がいた。


 年齢不詳。

 砂色の長髪に片眼鏡の中年の男性で、背は高く痩せている。

 青い瞳と長いエルフのような耳を持ち、その耳にはこの時代に似つかわしくないインカムのようなものが取り付けられていた。


『ヴェッリ様。アグナリア火山が噴火しました』

「……そろそろだと思っていましたよ」


 新聞を畳み、湯気の立つカップを持ち上げる。

 陽光がなめらかな白磁に反射して、まるで鏡のように己の顔を映した。


「それで、結果は?」

『ハッ。

 ナーガラッハ様の予言通りにございます』

「着床を確認できたのですね?

 僥倖僥倖。

 それは大変素晴らしい報告です」


 静かに口端を持ち上げる。


(──始まったか)


 火山の噴火は始まりの合図。

 いわば目覚まし時計だ。

 予言通りということは、私の仕込んだ天使が、うまく魔王の胎に着床したことを意味する。


 長い年月をかけて準備してきたのである。

 うまくいってくれていなければ、落胆のあまり気を失っていたかもしれない。


「やっと見つけたぞ、ヴェッリ」


 そんな風にして感慨に耽っている時だった。

 不意に、女性の声とともに彼の後頭部に硬いものが突き付けられた。


「おやおや、あなたはいつぞやの勇者のお仲間ではないですか。

 魔法使い殺しの魔法使いさんはお元気かな?」


 悠々とカップを傾けながら、ヴェッリはセリフをつづけた。

 白く滑らかな陶器に、背の高い金髪の獅子獣人──レオーネの姿が反射する。


 ──目視、3人。

 テラスの入り口に隠れるようにして、桃色の髪の狐獣人と、緑色の髪の狸獣人が、アサルトライフルを構えてこちらを睨んでいる。


 たしか、ピンクがルゥで、緑がフィーネだったか。

 以前会ったときからアサルトの才能を感じていましたが……成長しましたね。


「どういう意味だ?」


 唸るような声に、ヴェッリは不敵な笑みを浮かべる。


「ちょうど、うちの部下が南西半島連邦(イングリシア)のエインズワースで作戦を完遂したとの報告を受けましてね」

「まさか──!?」


 ルゥが顔を引きつらせた瞬間、銃口が震えた。

 その反応を見てヴェッリは、口元をゆるく歪める。


「予言通り、魔王の胎に天使が()べられた。

 あなたの弟子がどうなったかは、知りようもないがね」

「嘘だ!」


 フィーネが叫ぶ。


「師匠がそんな……!」


 レオーネは歯ぎしりし、後頭部に押し付ける銃口を強めた。


「あいつがそんなヘマをするはずがないだろう!」

「人は信じたいものしか信じられないものですよ」

「貴様……ッ!」


 ──銃声。


 直後、襲撃者の視界が宙を舞う。


 避けるのと同時に投げられたのだと気づいたのは、その直後だった。


「くっ!」


 片手をテーブルについて身をひねらせ、ブレイクダンスを思わせるような足さばきでヴェッリの顔面に蹴りを打ち込んでくる──が、見切ったように足首をつかんで防ぎ、テラスの入り口の陰に潜んでいた、援護射撃しようとアサルトライフルを構えていたルゥに向けて投げ飛ばした。


「お姉さま!」

「ルゥ動くな!」


 フィーネが叫んで制止、同時に床板を強く蹴った──。


「反応が遅いですよ」


 ヴェッリが人差し指を向ける。

 次の瞬間、無色透明の魔法陣が指先に展開され、見えない斬撃の嵐が3人を襲った。


 ──轟音、そして土煙とわずかに漂う鉄臭いにおい。


「全く。

 お気に入りの店だったのに」


 切り刻まれた暖簾と屏風。

 崩れ落ちた瓦屋根。


 威力は抑え、店は傷つけないつもりだったが、せっかくのティータイムを邪魔されて気が立っていたのだろう。

 少々肩に力が入ってしまったと肩をすくめる。


「吉田さん、そこの死体を片付けておいてください。

 それから、店主には詫びの金を──」


 土煙が晴れるのも待たずに懐から財布を抜こうとした時だった。


 不意に背後から殺気を感じたヴェッリは、振り向きざまに数回ほど空を握った。

 同時に鼓膜に響いたのは、アサルトライフルの銃声。

 3点バーストによる正確な射撃音だった。


「さすが獣人。少しは腕を上げましたね」

「そりゃ何度も見せられちゃ覚えるさ」


 バララ、と掴んだ弾丸を床に撒きながら称賛するヴェッリに、レオーネが唸るように返した。

 威勢はいいみたいだが、肩と太ももには深い裂傷が走っている。

 あの傷では長くもつまい。


「化け物……!」

「化け物とは失敬な」


 アサルトライフルを構えて微動だにしない狸獣人──フィーネに、不快そうに眉根に皺を寄せる。


「私はゴトシャ教七大聖人が一人、蝕陽のヴェッリですよ?

 そんな訳の分からない生き物みたいな言い方はよしていただきたい」

「お前が聖人だって? たかが悪党の幹部がばかばかしい」


 吐き捨てるようにレオーネが言う。


「聖人ですよ。

 だってほら、こんなにも人類の幸福を願っている」

「火山噴火させて街を滅ぼそうとした奴がよく言うぜ」

「心外だな。

 あれは救済だよ。来る災厄を起こさないための──ね」

「災厄……?」


 わずかに怒りを含むようなヴェッリの声に、レオーネは怪訝に眉を顰めた──次の瞬間だった。

 店の奥から、1人の黒髪の青年が姿を現した。


「ヴェッリ様。お客様です。ツッレファ様よりただちに帰投せよと」

「……仕方ありませんね」


 ヴェッリは肩をすくめると、3人の襲撃者に背を向けた。


「待て!

 災厄とはなんだ!」

「言っても理解できませんよ。

 ……ただ、一言申し上げるのならば──これ以上、文明を発展させないことが、お互いの身を守る最善策となるでしょう、ということだけですが」


 一切振り返ることもなく、立ち止まることもせずにそう告げると、ヴェッリは襲撃者の前から姿を眩ませた。



次回の投稿は明後日の16時です。

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