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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第1章 天を喰らう龍〈アグナリア〉
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第26話 噴火


 悟酉(ごゆう)の案内で捕虜のもとに訪れると、そのうちの一人が黒騎士によって厳重に動きを封じられていた。

 他は、地面に転がっているだけで捕縛も何もされていないようだ。

 おそらくは──だから、だろうな。


「あれが例の?」


 転がる謎の種族らから目をそらし、俺は意識を捕虜たちに向けた。


「であります!」


 人のような形。

 灰色の髪。

 そして薄紫色の肌に、全身に描かれた幾何学模様のようなタトゥー。

 額からは肉の角が生え、紫色の瞳が浮かぶ眼球は黒く染まっている。

 人と異なるのは、そのとがった耳と、腰から伸びる細い肉の尻尾くらいだろうか。


 確かに見たことのない種族だった。


 唯一見覚えがあるとしたら、その体に刻まれたタトゥーだろうか。

 デザイン自体は異なるが、錬金術スキルレベル600で作れるようになる〈ホムンクルス〉の体表に刻まれているそれに印象はよく似ていた。


 黒騎士が近づいてきて、何かを悟酉に渡す。


「それは?」

「毒ですね。奥歯に挟んでいたものを先輩が見つけて取ってくれていたようであります」


(先輩? ……ああ、黒騎士のことか。たしかに悟酉より先に作られてるから先輩は先輩か)


 悟酉が見せてくれたそれは、何かの種のようだった。

 小指の爪の先程の大きさで、赤い殻に黄色い筋が入っている。

 まるで小さなヒマワリの種みたいだ。


「赤歯車菊か。たしか、南方の大陸に咲く毒草だったな」


 錬金術の素材として、致死性の毒薬を作るのに用いられる種だ。

 ドラゴンという種族自体、状態異常無効という特性がある。

 しかしこの種から作る毒薬は、一部のドラゴンに唯一状態異常を付与できるので、それなりに需要がある素材アイテムなのだ。


 別名、竜殺し。


 人が摂取すれば一瞬でHPを空にできる強力な呪毒である。


 そんなものを隠し持っているということは、よっぽどばれるとまずい情報を持っているのだろう。


「聞きたいことがある。

 答えてくれれば慈悲を与えてやるから正直に答えろ」


 俺は謎種族の前に腰を下ろし、杖の先端を向けた。

 謎種族がこくこくと激しく首肯する。


「……お前らはなんだ?」


 崩れ落ちた柱や門の残骸が残る地面に倒れている、いくつかの同じような見た目の死体に視線をやりながら尋問を開始する。


「……ま、魔族」


 その言葉を聞いた瞬間、ぞわりと嫌な予感が背筋を駆け抜けたのを感じた──と、同時に背中全体が熱く疼くような感触を覚える。


「ッ!?」

「ご主人様!? おのれ、何をした!」


 唐突な痛みに眉をしかめた俺を見て、彼が何かしたと思ったのだろう。

 悟酉が怒りの形相を露にして、ショートソードの切っ先を首もとに突き付けた。


「してない! 俺は何もしてない!」

「嘘を吐くな!」

「〈悟酉〉、殺すな」


 慌てふためく魔族の男の叫びに激昂する悟酉を、顔をしかめながら制止すると、彼女はしぶしぶといった様子で剣を下ろした。


 ──魔族。

 それは一般的な勇者物のラノベに頻出する敵対種族だ。

 魔王に仕え、魔王の指示で勇者を暗殺すべく暗躍する種族で、多くの場合魔術に造詣が深い。


 このテンプレ的な設定がこの世界においても同じだというのなら、あのコボルドについていた水晶の術式も、奥に見える魔女術の祭壇の存在もすべて合点がいくというものだった。


 だが、ゲームだったころのDFHには魔族なんて種族は存在しなかった。


 この800年のうちに新しく生まれたのか?

 それとも、この世界は所詮似ているというだけで、もともとそういう種族がいたのか?


「魔族とはなんだ?」


 わからないならわかる奴に聞けばいい。

 杖の先端を押し付けながら魔族の男に尋ねると、彼はためらいなく口を開いた──が。


「■■■■■■■■■■■■■■■」


 その口から吐き出されたのは、人間の言語ではなく、何かバグったみたいな甲高い電子音の羅列だった。


「は?」

「■■■■■■■■■■■■■■■」


 聞き直しても変わらず、言葉が頭に入ってくることはなかった。

 悟酉に視線をくべる。


「なんていったか聞き取れたか?」

「……?

 申し訳ございませんご主人様!

 拙者、ご主人様の声が聞き取れないでございます! ご主人様の命令が聞き取れないなんて、こりゃもう切腹するしかありませんね! いざ!」

「いざじゃないよ、やめろ切腹は!?」


 慌てて悟酉の手を止める。

 こいつホント、カジュアルに自殺しようとしてくるのやめてほしすぎる。


 それにしてもどういうことだ?

 悟酉も聞き取れなかった、ということだろうか?


 ……まさか、魔術的なロックがかかっているのか?

 いや、術式は何も感知できなかった。

 魔力も認識できなかった。


 まさか認識阻害?

 誰が掛けている?

 考えられるとすれば……


「……魔王か?」


 また何かノイズのような声を発する魔族の男。

 どうやらこの手の話題については、これ以上話せないらしい。


 仕方ない、別の質問に変えよう。


「次の質問だ。

 お前らの目的はなんだ? 何のために〈火烙救閻祭〉なんてやった?」

「し、知らない!

 俺は下っ端だから、ただ命令されたことをやっただけで!」


 ふむ、やけに正直にべらべら話してくれると思ったらそういうことか。


 俺はすっくと立ちあがると、倒れている周辺の魔族の死体を見渡した……が、どれが指揮官なのかわからなかった。


 蘇生の魔術は治癒魔術スキルの分野だが、あいにく俺は治癒魔術を習得していない。

 蘇生させて話を聞き出すことは不可能だが、せめて身に着けているものから何か情報を得られないかと思ったのだが……。


「お前たちの指揮官は?」

「ヴェッリという男だ。通信魔術で遠隔で指示を出してくるだけだったから、どんな奴かは知らない!」

「ヴェッリ?」


 どこかで聞いたことがあるような名前に、俺は尋ね返した。


「名前しか知らない!

 声も加工されていたから、どんな奴かまでは……!」


 どうやら相当用心深いようだ。

 彼の話が真実なら、もう手掛かりはないに等しそうだが……ん?


「そういえばさっき、通信魔術と言っていたな?」

「ああ、言ったが、それがどうかしたのか?」

「今の人類はみんな、魔術ではなく魔法を使うんだ。

 お前らは魔術を使うのか?」


 その名前に明確な違いがどうあるのかはさっぱりだが、使い分けている以上何らかの差があるはず。

 俺は詠唱して使うものを魔法だと思っていたが……思い返せばリディアが俺の魔術を見た時の評価が妙に気になった。


 たしか──『魔法の次元を超えてないかしら』だったか。


「魔法?

 あぁ、あの魔術の真似事みたいなやつか。

 俺たちはあんな偽物は使わない。

 あんなのは所詮──」


 その時だった。

 激しい地鳴りがアグナリア火山全体を襲った。


「な、なんだ!?」


 怯えたように魔族の男が震えだした。


「ちっ、いいところだったのに。

 悟酉(ごゆう)、何の揺れだ? 魔女術は止まったんだろ?」

「そのはずでありますが……おそらく、マグマが急激に引き上げられた影響で火山内部に真空ができて──」

「──反動で噴火しようとしてるってことか……!」

「その通りであります!」


 まずい、せっかく溶岩流を止めたというのにこれじゃあ水の泡じゃないか!


 俺は恨めし気に顔をゆがめると、急いで作戦を組み立てる──が、もう遅い。

 聞いたこともないような轟音を上げて、アグナリア火山が噴火したのである。


 くそ、細かいことを考えてる時間はないか。

 ならまずやるべきことは──


「この男にはまだ聞きたいことが山ほどある。

 〈悟酉〉、命令だ。こいつを死なせるな。絶対にだ!」

「サー! イエッサー!」

「それからふもとの方に俺の仲間が依頼人のおじさんと一緒に森の中を移動しているはずだから、二人と合流してそいつらも守ってくれ! 念のため白騎士をつける」


 俺は白騎士を召喚し、悟酉が暴走しないように見張っておくようにと視線で命令すると、こくりと無言でうなずいて魔族を抱えた。


「委細承知!

 ご主人様はどうするでありますか?」

「噴火を何とかしてみるよ、ちょっと怖いけど」

「ご主人様ならたぶん大丈夫でありますよ!

 でも一応、ご武運をお祈りしておきますね!」

「ありがとう」


 元気に手を振ってその場を後にする悟酉らを見送り、さてどうしたものかと呻きながら低級のポーションを口に含んだ。


 空は噴煙に覆いつくされ、火山雷がゴロゴロと稲光を上げ始めている。

 今の条件的に考えて、そろそろ火砕流が起こってもおかしくはない。

 いや、もう起こっているかもしれない。

 まずはそれをなんとかしよう。


 俺は黒騎士をすべて送還すると、代わりに〈大鷲獅〉を召喚。

 白騎士に支えてもらいながら上空に場所を移した。


 眼下では山の斜面を覆い尽くす灰色の雲が、生き物のようにうねりながら中腹まで押し寄せていた。

 火砕流──。

 岩塊と灼熱の灰が混ざり合い、地面を削りながら猛スピードで駆け下っていく。

 このままではさらに下まで流れ下るのは時間の問題だ。


「はやくしないと……!」


 杖を振る。

 直後、巨大な緑色の魔法陣が火山の真下に(・・・)展開──


「まずは噴煙とか諸々丸ごと、空中に吹き飛ばす!

 ──〈祭壇召喚・嵐胞含群門(らんぽうがんぐんもん)〉!」


 ──直後、その魔法陣から巨大な虎の口を模した門が出現した。

 火山そのものを丸々と飲み込んでしまいそうな、巨大な金属製の門である。

 その開かれた門から、突如として巨大な竜巻が噴煙や火砕流を巻き上げた。


 通常、1500点もの魔力を消費して発動されるものを、倍の魔力を叩きこんで範囲と威力を強化させた魔女術による暴風が、降り注ぐ火山灰やら火砕流やら、軽い石や岩までもを根こそぎ巻き上げて上空に持ち上げる。


「よしいいぞ、大成功だ!

 じゃあ次は、あれを一か所にまとめて──火口に叩き返す!」


 吹き上げただけではいずれ地上に振ってくる。

 だから俺は、魔力の導線を操って一度中空に吹き上げたそれらを一か所にまとめ、赤く輝く火口に注いだ。


 バシャバシャバシャ、とマグマが飛沫を上げて、火口のふちぎりぎりまで盛り上がりそうになる。


「っと、こぼれるこぼれる」


 土属性の元素魔術〈満月城郭〉で一時しのぎとして壁を作り、縁の高さを調整。

 何とか二次被害を抑え込むことに成功し、ほっと胸をなでおろした。


「ふう、ぶっつけ本番でも、何とかなるもんなんだな……」


 俺がさっきやったのは、白騎士がブルーオーガのブレスを一か所に収束させて防いだあの防御技術の応用だった。

 あの時、ブルーオーガであの実験をしていなければきっと今の手段を思いつくことはなかっただろう。


 俺は満足げに鼻を鳴らすと、グリフォンに下に降りるよう指示を出した。

 しかしグリフォンはジッと一点を睨みつけたまま微動だにしなかった。

 まるで何かに釘付けになって、それ以外のことが考えられなくなっているかのように。


「?」


 不審に思って、グリフォンの視線の先に目を向ける。

 すると、そこには何か、弧を描くように浮遊する巨大な何かがあった。


「なんだ?」


 星空の下。

 月がちょうど逆光になる位置で、幻想的に浮かぶ何か。

 心なしか月の直径が普段より大きく見える。


「んん?」


 逆光に目を凝らし、じっとその正体をとらえようとした、その時だった。


 背中の一部が、熱を帯びたように疼きだしたのは。


 そして、それと同時に理解した。


 あの未確認飛行物体の正体が、巨大な龍であったことを。


 

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