表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第1章 天を喰らう龍〈アグナリア〉
26/58

第25話 氷結


 激しい船酔いのような感覚に襲われ、俺たちは思わず地面にうずくまった。

 転移直後の後遺症だ。視界は揺れ、胃が上下にひっくり返るような不快感がまとわりつく。


 だが、地鳴りは止まらない――あのマグマの津波が、まだどこかで暴れまわっている証拠だ。

 悠長に体を休めている暇はない。


 周囲を見回し、ここが依頼主と出会った山小屋の前だと把握する。次に考えるべきは、この一帯に迫ってくるであろう溶岩流への対処だった。


(溶岩流は普通なら火砕流ほど速くない。人が歩いて逃げられる場合だってある。

 ……だが今回は、おそらく魔術的な処理で速度を上げている。急いで止めなければ、この場所も危ない)


 吹き出した汗をローブの袖でぬぐい、召喚魔術スキルで馬を呼び出す。

 馬の乗り方など知らなかったが、鞍にまたがった瞬間、何となく操り方が分かった。


「リディア、俺は溶岩流を止めてくる。

 君は依頼主と一緒に火山から離れてくれ」

「わかったわ!」


 まだ転移の不快感が残るのか、リディアは顔をしかめながらも山小屋へ駆け込んでいく。


「さて――一か八か、やってみるか!」


 手綱を握り、俺は山道を駆け上がった。


 歩いて数十分かかった山肌を、ほんの数分で駆け上がる。

 馬の背中にぴったりと張り付いて熱い向かい風にさらされる銀髪の隙間から前方を凝視していると、やがて赤黒い奔流が姿を現した。


 まだアグナリア廃坑の入り口まで半分の距離しか上っていないのに、もうこんなところまで!


 マグマの粘度を考慮しても明らかに速すぎる速度で迫る赤黒い波に、俺はためらうことなく魔術をぶつけた。


「〈氷結〉!」


 青白い魔法陣が展開され、マグマを一気に凍りつかせる──が、後ろから迫ってくる溶岩がそれを乗り越えてさらに侵攻するせいで、いくら凍らせても無意味だと訴えかけていた。


「もっと高い位置からじゃないと無理か……!」


 俺は〈遅延負荷〉で溶岩流の速度を抑え込むと、スキルのショートカットを再編成して飛行可能な大型の召喚獣を召喚した。


「──招聘(来い)大鷲獅(おおわし)〉!」


 馬が送還されると同時に、赤い魔法陣から現れたのは、獅の後半身を持つ巨大な鷲――グリフォンだ。

 翼をひるがえし、喜びを示すように大きな頭を押しつけてくる。

 が、今は再会を喜んでいられるほどの暇はない。


「よく来てくれた大鷲獅。

 けど再会を喜ぶのはあとだ、今はやってほしいことがある」


 俺の胴体と同じくらいはあろうかという巨大な鷲の頭をがっしりとつかんで、ゆっくりと流れてくる溶岩流に目を向けさせる。


「あれを止めたい。だが正面からじゃ間に合わない。

 上空から全体を一気に凍らせる。背中に乗せてくれるか?」

「キュルルルルル!」


 大鷲獅の力強い鳴き声が山肌に響き渡る。

 俺はその背に飛び乗り、両足で羽の根元をしっかり挟み込むと、翼が大きく広がった。

 あっという間に視界が跳ね上がり、地面の熱気が遠ざかっていく。


「うおおおおお!?速い、速い、落ちる落ちる!?」


 まるでジェットコースターのようだ。

 グリフォンの茶色い羽を必死で掴むが、幼い体では握力が持たず、振り落とされそうになる。

 慌てて白騎士を召喚して自分の体を支えてもらうと、ほっと胸を撫で下ろした。


「助かったよ、白騎士」


 肩越しに礼を言うと、白騎士は無言で頷いた。


 揺れるグリフォンのホバリングに少しだけ怖さを感じながら眼下に視線を向けると、山肌をうねる赤黒い溶岩流が見えた。

 〈遅延負荷〉の効果で侵攻は鈍っているものの、迫る勢いはまだまだ油断できない。

 この隙に止めなければ、全てが吞み込まれてしまうだろう。


「これじゃ、ただの〈氷結〉じゃあ防ぎきれそうにないな……。

 ……いや、待てよ?」


 ふとある考えが閃いた。


 魔術は魔力に術式を乗せて発動する。

 それは理解している。

 ならば、魔力消費を増やしたり、一度に複数の術式を書き込めばどうなるだろう?

 一発で複数の魔術を同時に放てるのではないか?


 その考えは、リディアがポリチャントで使った技の応用だった。

 彼女はその特性を利用し、複数の呪文を同時に発音し、複数の魔法を同時に扱ってみせた。

 単純に複数の種類だけでなく、今の俺なら単一の魔術を複数同時に発動できるかもしれない。


 せっかくの機会だ、試してみよう。


 アイテムストレージから、大きなフラスコ状の瓶を取り出す。

 中には青いポーションが満たされていて、俺はそれを一気に呷った。


 甘酸っぱいベリーの風味が喉を伝い、失っていた魔力が一気に全快する──。


「……よし、やるか」


 にやりと口端を吊り上げ、眼下一帯に大量の魔力をぶちまける。

 さらにそこへ〈氷結〉の術式を書き込む。幾重にも、幾重にも。


 その数、計50基。


 青白い魔法陣が、眼下の火山を覆いつくすほどだった。


「これだけやれば無問題だろ──〈氷結〉!」


 次の瞬間、冷気の嵐が火山を襲い、蓄えられた水分が一気に凍りついた。

 真っ白な霧が噴き上がり、火山の斜面が急速に氷の壁へと変わっていく。

 その様子はきっと、依頼主と一緒に逃げだしたリディアたちの目にも留まったことだろう。


(巻き込んでなきゃいいんだけど)


 一応、範囲は調整して温泉地にはかからないようにできたはずだ。

 上空から確認する限り、間欠泉から噴き出しているらしい白い湯気は目視できるし……。


 ──と、そんなことを考えていた時だった。


「すさまじい魔術でございますね、ご主人様!」

「わっ!?」


 背後から聞こえてきた声に、俺は思わずグリフォンの背中から落ちそうになった。

 白騎士が腰を支えてくれていなければ、今頃死んでいたかもしれない。


「失礼いたしましたご主人様!

 驚かすつもりなど……! いえ、しかし結果的にご主人様を驚かせてしまったことは事実! 切腹してお詫びをば!」

「いいから! 死ななくていいから!」


 どこから取り出したのか、ショートソードを自らの腹に突き立てようとする悟酉(ごゆう)を慌てて止める。


「寛大なお心、痛み入ります!」

「それくらいで死ねなんて言わないよ全く……」


 溶岩流を止められてほっと一息つく間もなく畳みかける悟酉に肩をすくめる。


「それで、首尾はどうだった?」


 ゆっくり降下するように大鷲獅に指示を出しながら、悟酉に口を開いた。


「サーイエッサー!

 拙者、妙なものを見つけたでありますよご主人様!」

「妙なもの?」


 お前の一人称”拙者”なんだ、なんて関係のないことを思いながら、よくぞ聞いてくれましたとばかりに目を輝かせて報告してくれる悟酉に、俺は小首をかしげた。


「魔女術の祭壇でございます!

 おそらく〈火烙救閻祭(からくきゅうえんさい)〉かと!」

「え、〈火烙救閻祭(からくきゅうえんさい)〉? ほんとに?」

「おそらくは! ご主人様との魔力パスを通じて情報を参照してみましたが、あの特徴的な柱と門はきっとそうでありますよ!

 ……まあ、少々術式の方が雑で、完全一致とはいいがたかったのですが……」


 魔力パスを通じて情報を参照……そんなことができるのか……。

 道理で黒騎士たちが、俺が何も言わなくてもやってほしいことが伝わるわけだ……。


 ──そんなことよりも。


「他に何かあった?」


 〈火烙救閻祭(からくきゅうえんさい)〉は魔女術のスキル〈祭壇召喚〉で召喚できる祭壇の一つだ。

 その効果は地中からマグマを噴出させ、広範囲を一掃する。


 もしや今回の溶岩流はそれが原因だったのだろうか?

 だが、テロリストたちはなぜそんなことを?


「祭壇を起動していた未知の種族を捕縛しております!

 何もするなとのご命令でしたが、祭壇起動後に逃げ出そうとしていたのでやむなく捕縛しました!」

「いやそれなら祭壇起動させる前に捕まえてよ……」

「も、申し訳ありませんご主人様……! 拙者は悪い子です! ぜひ今こそ切腹を!」

「しなくていいから!」


 ぜひってなんだよぜひって!


 俺は盛大なため息を吐くと、そろそろ近づいてきた地面に着地したグリフォンの首をなでてありがとうと礼を言って送還した。


「もう日が暮れるな。

 放置していたらガボットの餌になりそうだ。悟酉、いまからその捕虜のもとに案内してくれるか?」

「合点招致!」

「そこはサーイエッサーじゃねえのかよ」


 俺は元気いっぱいな彼女にそうツッコミを入れると、後ろについて捕虜のもとへと向かった。

次回は明後日の朝6時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ