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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第1章 天を喰らう龍〈アグナリア〉
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第23話 アグナリア廃坑 - II


 アグナリア廃坑地下三階に下りる階段を見つけた時だった。

 階段前を守るようにして、2体のコボルドが立っているのが見えた。


 今まで遭遇した度のコボルドよりも大きく、そして狂暴そうな顔つきをしている。

 が、それに反比例するようにしておとなしい。


 装備も野生の魔物には似つかわしくない、整備された綺麗な金属製の胸当てと腰当、それから巨大な鉈のようなものを持っている。


 そして、その背中には例に漏れず水晶が生えていた。

 だが込められている術式は発狂と混乱ではなく鎮静と強化。

 よくよく観察すれば、一部だが俺の〈白騎士〉を構成する術式に似ている部分も見受けられるが……造りが少し荒い。

 もう少し最適化できるだろというところがされていないせいで術式が複雑化しているといえばいいのだろうか。


 なんにせよ、あのコボルドの態度は──


「明らかに何か守ってるよな?」

「ええ。きっとこの事件の犯人のアジトか何かね」


 リディアも目星がついていたのだろう。

 俺の呆れた声に同情するようにつぶやき返した。


「だとしたらあからさますぎて笑えるな」

「でもそういうものでしょ?」

「確かに」


 リディアの言葉に首肯して、とりあえずあのコボルドのレベルを確認してみる。


(ふむ、80か。

 エインズワース市の守衛のレベルが60だったことを鑑みると、一般の兵士がおそらく60前後だろうと仮定して……おそらく守りだけでなく脅しや時間稼ぎの目的もありそうだな)


 レベル制MMOというものは、数字に少しの差がつくだけで無茶な戦力差が生まれるという性質がある。

 DFHがゲーム時代、20のレベル差というのはプレイヤースキルに対してよほどの技量差がなければ覆せないほどの戦力差だと認識されていたし、それがこの世界でも通用するというのなら、よほど腕の立つ兵士でない限りここを突破することは不可能だろう。


 それに加えてこの地形だ。

 階段前ということもあってここは通路である。

 大手を振って戦闘できるような広さはなく、兵士たちが互いの邪魔にならないように戦闘するならおそらく二列縦隊が限度だろう。

 しかも使う武器は槍に限るとくれば──通路が狭いから剣は振れない──後ろに強力な魔法兵でも配備しない限り突破は不可能。


 逃げるまでの時間稼ぎには十分である。


 それに──本来コボルドはここまでレベルは高くないはずだが……あの水晶のせいだろうか?


 レベルを強化しているのか、あるいは永続バフを掛けているのか。

 一時的にレベルを上げる付与術は確かにあるが、たしかレベル200にならないと習得できないものだったはず……。


(今回の事件、一筋縄ではいかなさそうだ)


 俺は奥に控えるテロ組織がただ者ではないらしいことを予感して肩をすくめると、肩越しに視線を向けた。


「〈黒騎士〉」


 背後に控える黒騎士たちに視線で合図を送ると、そのうちの一体が静かに頷き、音もなく前へと進み出た。


 コボルドたちが動きに気づき、鉈へ手を伸ばす──が、もう遅い。


 黒騎士は大剣には触れぬまま、影のような速さで一体に接近。鉈を抜こうとしたその手首をつかみ、小手返しの要領で背後に回って挟み撃ちしようとしていたもう一体へと投げ飛ばした。

 ──かと思えば、次の瞬間には二体の頭と心臓が鉈で貫かれ、廊下の壁に縫い付けられ、断末魔を上げる暇さえ与えずに仕留めていた。


「……」


 思わず絶句する。


 いったい、いつコボルドから鉈を奪ったのだろうか?

 考えられるタイミングは、おそらく小手返しの瞬間。

 思い返せばあの時、黒騎士は片手でコボルドを投げ飛ばしていた。

 きっとあの隙に抜いて串刺しにしたのだろう。


「相変わらずチートよね、あなたの召喚獣」

「それな」


 俺も思わず見入ってしまった。

 なんというか、手際が鮮やかすぎて、まるで相手にすらなっていないように感じる。

 一種の演舞かのようだとすら思えてしまう黒騎士の技量に、俺は心の底から感動を覚えた。


 廃坑の地下三階へ降りると、そこはゲーム時代とはまるで別物の光景が広がっていた。

 階段を下る途中、ふと周囲がカンテラの明かりに照らされていることに気づき、俺は黒騎士に明かりを消すよう指示する。かすかな油の臭いと、ランタンの揺れる炎が作る影が、階段の壁をゆらゆらと踊らせていた。

 足音を殺し、三階の天井から続く階段の影に身を潜め、下をうかがう。


「……なんだ、これ」


 思わずこぼれた独り言に反応して、背後のリディアがそっと身を乗り出す。


「コボルドが……働いてるの?」

「リディアにもそう見える?」


 かつて迷路のようだった坑道は姿を変え、広々とした地下空間へと掘り広げられていた。

 鉄のぶつかる甲高い響き、土と汗の混じった生ぬるい空気が漂ってくる。

 視線をたどれば、トロッコに積まれた土塊がきしむ音を立ててレールを進み、その先では──背中から水晶を生やしたコボルドたちが、つるはしやシャベルを振るい、せっせと岩を削っていた。


「ねえ、あそこ!」


 リディアが小声で俺の肩を叩き、一点を指さした。

 そこには小高い櫓が設置されていて、毛色の異なるコボルドが、しきりにワンワンと吠えながら何やら指示を出しているのが見えた。


 赤い毛皮のコボルド。

 確かあれはアーク・コボルドだ。


 今まで対峙してきたコボルドのレベル平均が30~40程度だったが、アーク・コボルドの平均値は50程度にもなる。

 入り口にいた巨大なコボルドよりはいささか優しいレベル帯ではあるが、エインズワース市の衛兵よりは弱い部類だ。


 リディアにとっては、十分に脅威だろうけど。


「あれが指揮官かな」

「コボルドにそんな知能あるの?」

「アークは複数のコボルドを従えてコロニーを形成する性質があるからね。

 どうやら、テロ犯はそこに目をつけてコボルドに何かやらせてるみたいだけど……ふむ」


 背中の水晶の術式を確認すると、状態異常を発生させる機構とバフを与える機構が複雑に絡み合っているのが見えた。

 言い換えるなら、麻薬中毒のような症状を疑似的に発生させる術式と言ったところだろうか?


 まったくもって趣味が悪すぎる。

 命令に従い続けることでバフによる報酬が支払われて気持ちよくなるが、無視すると状態異常が発生してしまう仕組みだ。

 こんなものは首もとにナイフを突きつけられながら自慰行為をしているうちに、首もとにナイフを突きつけられていることが快楽のトリガーに置き換わってしまった汚くて気持ちの悪いパブロフの犬である。


 魔物にそういう条件付けが聞くのかという実験をしているといわれればなるほどと思うが、正直見ていて気持ちのいいものじゃない。

 俺がやるとしたらもっと──と、思考の海に沈みそうになったところで、不意に大きな音が聞こえて頭を上げた。


 どうやら一匹のドジなコボルドがトロッコを破壊してしまったようで、その責任を取らせるために周りのコボルドがドジなコボルドをつるはしやシャベルで襲っているらしい。


「まるで人間みたいだな……」

「あなたの人間観歪んでない?」

「そうか?」


 人類社会の縮図って、大体あんな感じだと思うんだけど……。


 などという言葉をぐっと飲みこむ。

 今はそれよりやらなきゃいけないことがある。


「まあ、なんにせよあのコボルドが周囲の注目を引いているうちに、犯人が隠れていそうなところを探さなきゃな」


 黒騎士たちにここを殲滅させてもいいが、その騒ぎを聞いた犯人が逃げ出すかもしれない。

 俺たちは急いで階段を駆け下りると、念のため5体の黒騎士からなる一個小隊を残して坑道の奥へ向かった。


次回は明後日の16時に更新します。

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