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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第1章 天を喰らう龍〈アグナリア〉
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第22話 アグナリア廃坑 - I


 アグナリア廃坑は名前の通り、アグナリア火山の中腹に空いた鉛鉱山である。

 現在ではコボルドの大量発生により廃坑になってしまったが、その鉱脈はまだ生きており、ゲーム時代は錬金術の素材として大量に取引されている方鉛鉱がたくさん出ることや、初心者にとっておいしい経験値源であるコボルドが出る優良な狩場として重宝されていた。


「えっとたしか……あった」


 前世で見るようなトンネルとほとんど同じような作りの、コンクリート壁の入り口から少し進むと、火の光はもう差さない。

 俺はアイテムストレージから懐中電灯を取り出すと、黒騎士の一体に持たせて光源を確保する。


「何それ、松明じゃないの?

 ていうか松明より眩しいんだけど」


 あとから追いかけてきたリディアが、怪訝に眉をしかめながら尋ねた。


「何って、ただの懐中電灯だよ。

 一分くらい魔力を籠めれば一日使える便利な魔道具」

「照明の魔道具って結構高級品だった気がするのだけど」

「これくらい誰でも作れるよ」


 実際、錬金術スキルのレベルが3もあれば作れる代物だ。

 点灯時間については、スキルレベルを上げなきゃ伸ばせないが、材料も鉛版と太陽石と光属性の魔石と金属素材ポイントがあればいいというお手軽具合だ。


「金属素材ポイント?」

「金属を〈分解〉っていう錬金術の基礎魔術で分解すると出てくる質料(ヒュレー)……まあ、錬金術で使う魔力みたいなものだね」


 錬金術でアイテムを作成する際は、魔術が魔力を用いるように質料と呼ばれるポイントを使う。

 質量というのは簡単に言えば、形に対して性質を与える元素みたいなもの。

 DFHではこのポイントを〈分解〉というスキルを行うことで貯蓄していき、作りたい魔道具の素材として利用するのである。


 俺がブルーオーガ戦で使っていた〈鰐蜂〉にも、この質料──金属素材ポイントが使われていたりするのだが……この話は難しいのでここから先は割愛させてもらおう。


「なるほど。

 私、錬金術は触れたことがなかったのだけれど、少し興味が湧いてきたわ」


 まとめると、以上のような簡単な講義をリディアにして見せると、目をキラキラと輝かせていた。


「世界のあらゆる物質が、分解していくと最終的には魔力でできているといわれているのはこれが由来でね。

 ただ、魔力と質料の間で決定的に違う点があるとするなら、魔力はエネルギー的な側面に対しての名前であるのに対して、質料はどちらかというと物質的側面における性質の話で──」

「──割愛すると言っておいて続けてるじゃない!」

「あ、ごめん。つい楽しくなっちゃって……」


 興味が湧いてきた、なんて言われたら話さずにはいられなくなるじゃないか。

 きっと彼女が止めなかったらここからアルケーやアスペクト、無意識の圧力とかカオスとか、フラクタルとかアトラクタとか、なんかそういう小難しくてほとんどの人が興味ない分野の話にまで踏み込んでしまっただろう。


 オタクの悪癖だ。

 興味を持たれてしまうと、相手のことなんか考えずに好きなことをべらべら喋ってしまう。


 大学ではちゃんと抑えられてたのになぁ。

 ゲームの中だからって、多少ブレーキが緩んでいたのかもしれない。


 気を付けないと。


「謝らなくていいわよ。

 好きなものをべらべら話しちゃうの、よくわかるもの」


 肩をすくめる俺に、同情の視線を向けるリディア。


 そういえば彼女も師匠のこととなると何度も同じ話を繰り返してうざかったっけ。

 ああ、畜生。

 俺は今あれと同類になっていたのか……。


「やめて、慰めないで……」

「なんでよ!?」

「惨めな気持ちになる……」

「だからなんでよ!?」


 そんな風に雑談を繰り広げながら進んでいると、やがてトンネルの壁はコンクリートから土に変化していた。

 太い丸太によるアーチが天井の土を支えるだけの壁に、道の真ん中にはかつて使われていたのだろう、古くて朽ち果てたトロッコの線路が、赤茶色の草本植物に覆われている。


「さて、魔物の気配は……っと」


 マップ画面を広げて様子を確認してみるが、近くに魔物の反応を示す赤いドットは見当たらない。

 少なくとも半径50メートル圏内にはいないみたいだ。


「あなた、そんなこともわかるの?」

「まあね」

「……なんか、もういろいろ驚き疲れてしんどいのだけど。

 どうしてくれるのかしら?」

「そんなこと言われても知らないよ」


 リディアの愚痴にため息を吐く。

 でも確かに、シルバーランクの先輩に先輩らしいことを何もさせてあげないというのもかわいそうだ。


 俺に同行させたヘンブリッツの思惑に則るなら、ここから先は、彼女の手腕に任せて、俺は後ろから補助をやるのが適切なのかもしれない。


「わかりました。

 では、先輩の先輩による、冒険者の基本的な探索がどんなものか知りたいので、ここから先はシルバーランクのリディアに任せるよ」

「嫌な言い方ね……。

 でもいいわ、見ているだけなのも退屈だったし、お望み通りシルバーランクの先輩であり、ミスリルランク冒険者魔法使い殺しの魔法使いヘンブリッツの弟子であるリディアが、冒険者の基本を見せてあげるわ!」


 そんな風に話していた時だった。

 一本の矢が飛来したのを、黒騎士の大剣が撃ち落としたのである。


「敵!?」


 緩んでいた空気に、一瞬で緊張が走る。

 リディアが杖を構えて暗闇の先に意識を向けると、そこからさらに2本の矢が飛来して黒騎士が叩き落とした。


「アーチャー・コボルドか。

 2層の魔物だな……」


 マップによる敵影表示の限界距離は半径50メートルまで。

 アーチャー・コボルド──弓を装備したコボルドは、その外側から矢を放ってくるから、ゲーム時代では懐中電灯を遠くに投げて視界を確保したりする作戦を用いることで対処していたっけ。


 思わず感慨深いものがこみあげてくる……が、今は集中だ。


「こういう時はどうするの?」

「そうね、火属性の魔法はガスに引火して爆発したり崩落の危険があったりするから──■■■■■」


 杖の先端に光属性の魔力が集約し、矢のように飛んでいく。

 坑道全体が魔法の光に照らされながら突き進み──


「■■■■〈ホーリーレイ〉!」


 突き進んでいく合間に唱えられた二発目の魔法が、一発目で照らした敵の額にクリティカルヒットした。


「こういう風に、光属性の攻撃魔法を使うのよ!」


 両腰に手を当てて自慢げに言うリディアに、俺はなるほどと頷いた。

 確かに今の方法なら火属性の懸念事項をスルー出来る。

 だが、光属性魔術は命中速度が速い分、威力が低いという弱点がある。

 一発で仕留められる人は、彼女と同レベルの人の中ではおそらくかなり稀な部類だろう。


 つまり、一般的な戦略とは言えない。


 もしかすると本来は一人がその魔法で敵の位置を照らして、弓使いがそれを目安に額を穿つのだろう。


 リディアがそれをソロでクリアできるのは単純に魔法の威力が高いというのと、二発目を撃つまでのディレイが短いことにあるのかもしれない。


 コボルドだってバカじゃない。


 二発目までの準備時間が長ければ左右に体をずらして的を外すなりできるはずだ。

 リディアがそれをさせなかったのは、輪唱のように間隔をずらして同じ呪文を唱えることでタイミングを調整していたからだ。


 詠唱しながら1発目で目視した対象に、詠唱中に瞬時に照準を合わせて2発目を撃ちこめるエイム力……。

 脳みそが最低2つはないと扱えないような離れ業である。


 まさにチートに等しい神業だ。


「すごいな」

「じゃあ土下座する?」


 リディアがその紫がかったピンクのツインテールを翻しながら、ニヤリと笑みを浮かべた。


「土下座って……あ!?」


 その言葉で、ふとブラックフォレストでした約束を思い出す。

 無詠唱魔術よりすごいことをして見せたのなら土下座する、というあのバカげた約束である。


「あれ、まだ生きてたんだ?」


 思わず不満が表に出てしまう。


「当然じゃない!

 ま、この程度で土下座なんてされたら? これからあなたは何万回と頭をこすりつけることになるでしょうけどね!」

「大した自信だな全く。

 じゃあ、そこまで言うなら当分は土下座お預けってことで」


 言って、倒されたコボルドの方に歩いて向かう。


「いいわよ?

 絶対決定的にあなたに真似できないようなことをしてぎゃふんと言わせてあげるんだから、それまで大事に取っておきなさい!」

「はいはい、期待してるよー」


 そこまで言うなら見てみたいものだ。

 正直言うと今回の輪唱自体、俺が真似できそうなところはほとんどなかったけど。


 リキャストタイムやキャストタイムを無視して魔術を発動させることはできるようになったが、そのためには事前に魔力を準備しないといけない欠点がある。

 彼女のマネをしようものなら俺の場合、魔力感知系のスキルを持っている相手には読まれてしまうし、再照準までのタイムラグだけを見てもリディアほどディレイなく2発目を打てないだろう。


(錬金術を使ってそういう魔道具──例えば拳銃みたいなものを作れれば話は別なんだけど)


 俺は、地に伏せたコボルドを見下ろしながらひっそりとため息を吐く。


 今回のコボルドも、やはり背中から例の水晶が生えていた。

 道中倒したコボルドの死体ももちろんアイテムストレージに保管してはいるが、とりあえずこいつも保管していこう。

 サンプルはあればあるだけ良いし。


 それから俺たちは隈なく坑道を探索し、コボルドを殲滅して回った。

 ほとんどのコボルドが地上に出てしまったのか、廃坑に残るコボルドは数が少なく、戦闘も大したことはなかった。

 しかも罠すら仕掛けられていないというありさまである。

 これじゃあさすがのベテラン冒険者も役不足だ。


 なので。


「二層からは、黒騎士に殲滅をやらせたいんだけどいいかな?」


 一層のクリアリングが終わったところだった。

 二層に続く階段を前にして、俺はリディアにそう提案を投げかけた。


「……そうね。

 ちょっと腹立つけど」

「腹が立つ? どうして?」


 リディアが眉を顰めた。


「先輩の良いところを見せられなかったからよ。

 あなたほどの魔法使いなら、仕掛けられてた罠もその召喚獣で難なく突破しちゃうんでしょ?

 私がいくらいいところを見せたところで無意味じゃない」


 ため息を吐く彼女の言葉に、俺は確かにと頷いた。


「どうせ、私なんかあなたが依頼を受けるための当て馬みたいなものなのよ」

「……ヘンブリッツには、なんて聞いてきてたの?」


 今更? と思いながらも、ぐっと言葉を飲み込んで尋ねる。


「……魔力だけものすごい奴がいるから、先輩として面倒見て来いって」

「あー……」


 きっと、リディアは俺のことをすごく強いだけで冒険者の基本も何もわかっていないどこかのお嬢様だと思っていたのだろう。

 それはおそらく、ヘンブリッツも同じだ。


 だが実際は、一万時間以上の時間をこの世界で遊ぶのに費やしたベテランプレイヤー。

 しかもレベルはこの世界の常識的数値の遥か上だし、ある程度のことは何でも分かっている。

 周囲には記憶喪失と言う体で通していても、実際は全く異なるのだ。


 そのギャップが、今の軋轢を生んでいるのかもしれない。


 どう声をかけたものか。

 正直なんかもう面倒くさい。


 これだからリアルで友達出来ないんだよな、と思いつつも、そう思わずにはいられなくなる。


「何よ? 何か言いたいことでもあるわけ?」


 先輩としてのプライドというリディアの気持ちもわかるだけに、答えに悩んでいると、すねた声で促してきた。


「……俺は、リディアにもいいところはたくさんあると思ってるよ。

 実際君の魔法の技術は大したものだし、こちらとしても学べるところがたくさんある。

 それに、俺は常識に疎い面もあるし……だから……その、まぁ……あれだ。

 今はリディアの見せ場じゃないってだけだよ」

「……常識に疎いって自覚あったの?」

「まぁ」


 何とか回答を絞り出すと、驚いたように目を見開きながら尋ね返してくるリディア。

 そんな彼女の反応に少し恥ずかしくなって、俺は誤魔化すように視線を逸らしながら首肯した。


「……わかったわ」


 盛大なため息が聞こえてリディアの方に視線を戻すと、彼女は不満半分、納得半分といった顔でこちらに視線を送っていた。


「私は魔法使い殺しの魔法使いの弟子だもの。

 たしかに、廃坑探索ごときで私の真価なんて試せるものじゃないわ」


 よかった。

 何とか修羅場にはならなくて済んだようだ。


 俺はほっと胸をなでおろした。


「だけどその代わり、今回の事件の犯人が魔法使いだったなら遠慮なく獲物は私に寄こしなさいよね!」

「わかった、任せるよ」


 ビシッと念押しに人差し指を突きつけてくる彼女に、俺は約束の印として小指を立てた。


次回は明後日の正午更新です!

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