第20話 人工精霊
そんなわけで小屋を後にした俺たちは、さっそく周囲の魔物を狩り潰して回ることにした。
「──招聘〈黒騎士〉」
同時に目の前に50もの紫色の魔法陣が展開し、50体の黒騎士が地面から這い上がってくる。
消費MPは合計で5000点。
全魔力の大体半分くらいである。
「これくらいいれば、すぐに仕事も終わるだろ」
「な、なん……なんて数使役してるのよ貴女!?
これ、もしかして全部あの白騎士と同じくらいの強さとか言うじゃないでしょうね!?」
「その通りだが?」
「……どんな魔力量してたらそんなことができるのよ……」
リディアは呆れたようにため息を吐き、ついにはその場にしゃがみ込んでしまった。
まあ、無理もない。
この世界の常識から見れば、完全に非常識な光景だろう。
ゲームだった頃でさえ、黒騎士をここまで大量に召喚できる術者なんて存在しなかった。
一瞬でこれだけの戦力を展開できる今の俺は、おそらくこの世界の歴史でも前例のない存在だ。
それにしても、壮観だ。
この場に揃った黒騎士たちは、いずれもレベル600の大剣使い。
数だけでなく質でも、この世界の常識を凌駕している。
一国の軍隊に匹敵すると言っても、大げさではないだろう。
現実逃避モードに入りかけているリディアをちらりと横目に見つつ、俺は黒騎士たちに命令を下した。
「チームを二手に分ける。半分は温泉地周辺の魔物を一掃、残りの半分はアグナリア廃坑に向かってコボルドを掃討。何か異常があれば、すぐに──……って、あっ」
言いかけて、肝心なことを思い出す。
「そういや、お前ら喋れないんだったな……」
黒騎士も白騎士も、人工精霊だ。
その鎧が肉体のすべてで、中は空洞。
当然、喉も口もないので会話なんてできるはずがない。
「とはいえ、喋れる召喚獣なんていないからな……」
召喚獣とは、基本的にテイムした魔物である。
元が魔物ということはすなわち人間のように対話ができないものばかりだ。
俺が持っている召喚獣で、今のレベル制限の範疇で出せるものはせいぜい、移動用の馬か、あるいは偵察用の猫と梟、あとはスライムとスケルトンくらいだ。
「仕方ない、作るか」
「作る!? え、召喚獣って作れるものなの!?」
不意に、現実逃避から目が覚めたらしいリディアがツッコミを入れた。
「作れるぞ。
この黒騎士たちだって、もとはと言えば俺が作った人工精霊だからな」
本当は俺が作ったわけではないけど、そういうことにしておこう。
説明がめんどくさいし。
「作ったって、は!? 人工精霊!?」
「そんなに驚くことじゃないだろ。
例えばゴーレムを思い出してみろ。あれの命令処理実行におけるシステムは人工精霊の基盤システムだ。
あれを応用すれば誰だって人工精霊は作れる」
俺の言葉に、リディアは怪訝に眉をしかめた。
「ゴーレムって、あれは行動パターンが最初から決まっている人形でしょう?」
「うぅん、人工精霊にも、汎用AIと特化AIっていうのがあってだな。ゴーレムは要するに特化AIをぶち込んでるから……って、話してもわかんないよな」
途中から難しい顔をし始めたリディアに、俺は苦笑いを浮かべた。
「そもそも、ゴーレムの命令処理システムなんてまだ未解明なのに、応用なんて一体どうするのよ……」
何か小声でつぶやいているが、ぼそぼそ何言ってるかわからなかったので無視することにする。
「というわけで喋れる召喚獣を作るから、ちょっと待っててな」
俺はEXスキル〈混沌魔術〉の専用ウィンドウを開いて、術式素材をちゃきちゃきと組み替え始める。
実を言うと、人工精霊を一から作るのは初めてだ。
しかし俺の長年の経験が、どういう風に術式と理論を組み合わせれば作成できるかを教えてくれる。
基礎は〈黒騎士〉と〈白騎士〉の術式を使用して、側だけ人間に近い形に書き換えれば──
「──招聘〈悟酉〉」
灰色の魔法陣が展開し、中から白い羽が嵐のように舞い上がった。
かと思えば暴風によって羽が吹き飛ばされ、中から、腰から鳥の翼を生やした金髪の女性が姿を現した。
「悟酉、ただいま惨状仕りました!
何なりとご命令を!」
青い瞳をキラキラと輝かせて、ビシッと敬礼をきめる悟酉。
身長は俺より頭一つ分高いくらい。
胸は控えめで、腰は細く脚は長い。
服装は白いアオザイかチャイナドレスに似ていて、胸元に空いたひし形の穴から、彼女のつつましやかな胸の谷間が露出している。
ゲーム時代にガチャでゲットした、使っていない見た目装備があったからとりあえず着せてみたけど、結構似合うものだな。
あ、ちなみに名づけは俺がやった。
情報伝達用の人型召喚獣ということで、日本の妖怪、サトリから名前をもじってつけさせてもらった。
人の名前みたいにしてしまうと、複数召喚したいときがあった場合、区別がつかなくなるので、種族名的な具合になるようにしたが……このやる気に満ちた目の輝きを見るに、どうやら気に入ってくれているようだ。
「よく来てくれた。お前にはそこの黒騎士25体に同行し、異常を発見次第俺に報告するという、君にしか頼めない重要な任務を与えたい。受けてくれるな?」
「アイアイサー!
ところで異常っていうのは?」
思っていたよりスムーズに会話ができることに感心しながら、俺は口角を持ち上げた。
「俺たちは今、この温泉地周辺にコボルドが大量発生しているから追い払ってほしいという依頼できているのだが──」
「──なんと! ご主人様を顎で使うとはフテェ奴らですね!
そいつを見つけたら殺せばいいんですかぁ!?」
何それ怖い!?
「まて、早まるな。話を最後まで聞いてから判断しろ」
「サー! イエッサー!」
「……」
悟酉の反応に若干の気疲れを覚えながらため息を吐く。
俺への敬称はサーなのかご主人様なのかはっきりしてほしい。
いや、それよりも忠誠心が高いのは分かったが、気楽に殺人を働こうとしないでくれ……。
「あー、だからだな。
そのコボルドの大量発生の原因になっていそうなものを見つけたら、何もせずに俺に報告してくれ。
それがお前の任務だ」
「なるほど! 了解であります!」
元気よく敬礼しながら返事する悟酉に、一抹の不安を感じる。
しかもどうやらそれは、そばで見ていたリディアも同様だったようで、『本当に大丈夫なの?』と耳打ちしてきた。
「生まれたばかりで経験が浅いから……というのもあるかもしれないが……人工精霊はどうやら、召喚された個体それぞれで性格が微妙に違うみたいだからなぁ……。信じるしかないだろうね」
「それは……なんというか、あなたの魔法も万能じゃないようでちょっと安心したわ」
リディアの安堵と不安の混ざった笑みに、思わず乾いた笑みを浮かべる。
俺だって性格まで設定できるならもっと扱いやすいように機械的な性格に設定したんだが、できないものは仕方がない。
俺は悟酉らに温泉地の調査を任せると、廃坑の方に向かった。
ここで突然の魔術豆知識!
魔術師の世界には、思念を形ある存在として生み出す秘術があります。
それが 人工智霊。
タルパとは、強烈な集中と想像力によって生まれる「心の精霊」。
最初は想像の中にしか存在しませんが、繰り返し語りかけ、人格や習慣を与えていくことで、やがて創造主とは独立した意思を持つようになるといわれています。
魔術的に見るなら、これは 「想念形態」 の錬成。
宇宙を流れる精気に、意識の火を注ぎ込み、心の中に小さな賢者の石を築くようなものなのです。
ここで比較として語られるのが ゴーレム。
ゴーレムは外界の物質――粘土や石に命を吹き込んだ人造生命であり、外に形を与える術。
一方タルパは、内なる精神世界に精霊を錬成する術であり、外へ現れるか内に宿るかが決定的な違いなのです。
以上、魔術豆知識でした!
次回は来週です。




