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異世界にTS転生したので、好きに生きたいと思います!  作者: 加藤凛羽
第1章 天を喰らう龍〈アグナリア〉
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第12話 臨時パーティ


「……申し訳ありません。依頼主の意向で、シルバーランク以上の同行者が必要とのことです。

 ユーリさんの実力であれば問題はないとギルド側も分かってはいるのですが、こればかりはクライアント様の意向でして、こちらではどうとも致しかねます……」


 カウンター越しにサリエルが申し訳なさそうに眉を下げた。


 俺は無言で腕を組み、カウンターの上の依頼票に目をやる。


 言わずもがな、先ほど宿でヘンブリッツが勧めていた例のコボルド退治だ。

 アグナリア火山中腹に新たに発見された温泉地の調査に先駆けて、邪魔なコボルドを一掃してほしい、という内容。


(アグナリア廃坑か……)


 広げられた書類に目を通す。


 アグナリア火山の中腹といえば、無視できないのがアグナリア廃坑だ。


 あそこは初心者の登竜門。

 狩場としての効率と、錬金術の素材として需要の高い方鉛鉱が採掘できることから、道場なんてあだ名もついていた。

 適度な強さのコボルドが多く出現し、経験値と金策の両面で初心者に優しいスポットだった。


 ──昔は俺もよく世話になった。


「報酬が妙に高いのは、もしかしてアグナリア廃坑が近いからか?」

「ええ。廃坑の鉱脈はまだ生きているそうです。採掘事業の再開も視野に入っているとか」


 サリエルが資料をめくって補足する。


「ただ、現状はコボルドの数が多すぎて危険なんです。温泉の調査どころじゃないみたいで……」


 温泉資源の発見は、この街にとっても大きな意味を持つ。

 観光、療養、交易ルートの拡張。どれを取っても金になる。

 だからこそ、開発を急いでいる……が、コボルドの群れがそれを阻んでいるというわけだ。


 俺としてはそこまで急ぐような問題には見えないんだが……そこは裏に大人の事情でもあるのだろう。


 例えば、方鉛鉱に含まれてる微量の銀や、たまに採掘できる金なんかを、領主様が狙ってるとか。

 温泉はあくまで方便、という可能性もなくはないのかもしれない。


 まぁ、採れる量は本当に少ないんだけど。


「この街には、そもそもシルバー以上が少ないですしね……」


 とサリエルが苦笑する。


 なるほど、と俺は鼻を鳴らした。

 宿でヘンブリッツが漏らしていた人手不足は、こういう事情だったか。


 そもそもシルバーが少ないなら、シルバー相当の依頼をよこされたってどうにもならないという話である。

 そうなると、よその街からシルバーランクを引っ張ってこなければいけない訳だが……あ。


「そういえば、ウォーデンはどうした?」


 そういえば彼のランクはアダマンタイト。

 彼1人いれば問題は解決するのでは?


「おっしゃりたいことはよくわかります。

 ですが、彼が向かってしまうとその……クライアントが赤字になってしまい、本末転倒になるので……」

「なるほど、うまくいかない訳だ」


 ウォーデンで無理なら、ランクの近いヘンブリッツも当然ダメなんだろう。

 だから彼は昼間であるにもかかわらず、悠々と食事にありついていたのだ。


(それにしても……)


 俺は再び依頼票に視線を落とした。

 内容そのものは簡単だ。コボルドの群れを片付けて、温泉地の安全を確保する。ただそれだけ。


 だが、条件にシルバーランク以上の同行者とある以上、俺1人では受けられない。

 戦力的には問題なくても、クライアントの意向には逆らえない。


「で、そのシルバーってやつは、他にいないのか?」

「うーん……それが、今この街に滞在しているシルバー以上の方は、ほんの数人だけでして……」


 サリエルが書類をめくりながら呟く。


「常駐組はたいてい依頼に出払ってますし、ウォーデンさんみたいな上位の方はそもそも規格外ですし……あっ」


 彼女が急に顔を上げる。


「そういえば、現在休暇中のシルバーランクの方がいます。確か昨日で退院していたはずですので、よろしければ、ご紹介しましょうか?」

「……いや、その人に悪いからやめておくよ」


 退院したてを引っ張り出すのは、正直気が引ける。


 俺は苦笑いを浮かべると、彼女の提案を丁重にお断りした。


「そうですか……」


 ──と、そんなふうに話していた時だった。


「話は聞かせてもらったわ!」


 バタン! と、唐突にギルドの扉が開き、1人の少女がズンズンと近づいてきた。


 今の俺と同じか、少し低めの身長。

 紫みがかったピンク色の、大きなツインテール。

 広い額はつるんと輝き、猫のヘアピンはまるでメジェドのような見た目をしている。


 そんな、黒を基調としたダボダボのゴスロリメイド服を着た少女が、ズイ! と顔を俺の方に寄せた。


「ふぅん?

 確かにあなた、尋常じゃない魔力してるわね。

 師匠が言ってた通りだわ」

「え、何急に……」


 大きな紫がかったピンクの瞳で、俺の碧眼を覗き込む少女。

 近くまで来てわかったが、彼女の耳はエルフのように尖っていた。


 エルフ……にしては、髪色が特徴的すぎる。

 染めているのだろうか?

 あるいは、別の種族とのハーフだとか?


 気になるが、この距離で『鑑定』の一言は口に出せまい。


 俺は諦めて彼女の言葉を待った。


「話は聞いた、って言ってるのよ」

「いや、だから誰に」

「師匠よ」

「だから誰なんだよ師匠!」


 思わず大きい声が出るのに、少女がビクリと肩を振るわせて一歩退け反った。


「きゅ、急に大きな声出さないでよ!

 ていうか、あなた私のこと知らないわけ?

 常識が無さすぎるんじゃないかしら!」


 常識がないのはどっちだよ……と言いたいのをグッと堪えて、俺は深呼吸した。


 落ち着け、鑑悠理。

 相手は子供だ。

 子供相手にムキになってどうする。

 それにこの問答は続けたところで埒が開かないのは火を見るよりも明らかだろう?


 言い返した場合に続く、予想される彼女の返答を一瞬のうちに数パターンもシミュレーションして、どう頑張ったって先に進まないことを察した俺は、アンガーマネジメントよろしく、助けを求めるようにサリエルへ視線をよこした。


「あー、記憶喪失のユーリさんはご存知なくても仕方がないですよね。

 彼女はリディアさんです。

 魔法使い殺しの魔法使いの二つ名を持つミスリルランクの冒険者、ヘンブリッツさんの弟子です」

「物騒な二つ名だなぁ……って、ん? ヘンブリッツ?」


 つい最近聞いた名前に、俺は眉を顰める。


「あら、ご存知でしたか?」

「ご存じっていうか、今朝会ったんだよその人と。

 彼の紹介でこの依頼受けに来たんで……ってもしかして!?」


 リディア、と紹介された少女が言っていたことを思い出す。


 『話は聞いた』、『師匠が言ってた通り』。


 これってもしかして……俺、あの人に何か上手いように使われそうになってないか?


 俺の強さ自体は、ウォーデンとの模擬戦で勝ったという噂が広まっているはずだから、きっとヘンブリッツも俺の実力自体は知ってるはず。


 そういう意味で、シルバーの弟子の安全の確保をしつつ、新人の教育を同時にやろう、という魂胆か。


 あるいは、リディア自身に何か課題があって、俺はその当て馬に使われたか……。


 ──後者の可能性の方が、高いだろうなぁ。


 一瞬で色々察してしまった俺は、盛大なため息をついた。


「何よ、文句あるわけ?」

「……いや、まぁ、仕事ができるんならもうなんでもいいよ……」


 ここから先、この依頼を受けるならばこれ以上のお膳立てはないだろう。

 諦めて当て馬になる覚悟をしよう。


「何よその言い方!

 私とても不服だわ!」

「……ごめんごめん、言い方が悪かったよ」

「わかればいいのよ!」


 両手を腰に当てて仁王立ちするリディア。

 女性が怒った時は、とりあえず男が謝れとは聞くが……面倒臭いことこの上ないな。


 ──今は俺も女だけど。


「というわけでサリエル!

 師匠に言われた通り、私がこの子とバディを組むわ!

 そうすればこの……えーっと、イヌコロ狩りができるのよね?」


 リディアの唐突な話題転換に一瞬きょとんとするサリエルだったが、すぐに俺とリディアの裏で起きていた事情を察し、営業スマイルで手続きを続けた。


「コボルドですね!

 はい、可能ですよ。良かったですねユーリさん!」

「ええ、まぁ、はい」


 リディアの勢いに呑まれそうになりながら、俺は苦笑いを浮かべてパーティ申請を進めるよう促した。


 こうして、俺はリディアと臨時パーティを組み、依頼に臨むことになったのだった。

次回は正午です。お楽しみに。

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