第85話・現猫神
――その時ベルノは、成層圏にまで達していたらしい。
生還したあとは『青かったニャ。丸かったニャ！』と興奮気味に話していた。
そう、はからずもベルノは、白亜紀にして人類初の宇宙遊泳体験者になっていた。
……それはさておき。
「バカティラノオオォォォォォォォォ……」
ひたすら落ちるベルノ。その落下速度は増していき、サラサラの毛並みとゴスロリ衣装は、風圧でバッサバッサと音を立てていた。
「恨むニャ。化けてでてやるニャ！！」
浮遊魔法を安定させるための虹羽根が、今は風圧を受けて逆に安定感がない。
ベルノは放り投げたティッシュペーパーのように、空中でくるくる回り続ける。
地面に激突するのは時間の問題だろう。いくら身体能力が高い超猫人でも、生き物である以上それで生きていられる可能性はゼロだ。
段々と地形がハッキリと見えてきた。海がある。大地がある。火山がある。セイレーンと初代新生を救った海岸が見える。
……そしてあの森には、みんなでつくった“しっぽの家”がある。
「もうみんなで遊べないのかニャ……」
そんな、らしくもないことを考えながら成す術もなく落ちるだけだった。
――そんな中、ベルノの目には、火山の方角にキラリと光るなにかが見えた。
「……なんニャ？」
どこかの翼竜がベルノをエサとでもおもったのだろうか？ 翼を広げて風を斬り、一直線に突っ込んで来た。
「ベルノは猫ニャ！ 食べてもおいしくないニャ！」
慌てるベルノ。しかし陸上生物の家猫に、空中での制動ができるはずもなかった。
飛んで来た翼竜は、叫ぶベルノの脇を抜けると一気に上昇してみせる。
そして静止した直後、今度は追いかけるように真下に向かって“飛んで”きた。
「みゃあぁぁぁ……」
バランスが取れずにバタつくベルノ。
「大人しくしてください」
「ニャ？」
ベルノが顔を上げると、そこには翼竜の恐竜人がいた。彼女はベルノの身体をそっと抱き、ゆっくりと大きな弧を描いて水平飛行に持って行く。
落ちてくる人や物を、なにも考えずにキャッチするのはリスクがある。そのままでは受け止めた方も受け止められた方も、かなりの衝撃を受けてしまうからだ。
だから一度上昇し、降下速度を合わせてから確保。さらにその上で衝撃が加わらないように、大きく弧を描いて徐々に水平にもって行く。
これは、“飛行”という行為が日常化している翼竜ならではの思考なのかもしれない。
「大丈夫ですか？ ベルノさん」
「あ、ケツアコ……ケツアトリ……」
「ケツァルコアトルス。ですわ！」
ベルノの窮地を救ったのは、アンジーの恐竜人、ケツァルコアトルスのトリスだった。
「ケツァリ…ケ……コリ…………」
「ケツァルコアトルス。ですよ」
「ケ、ケ……」
口が回らないベルノを見て微笑ましく思ったのだろう、トリスの口から笑みがこぼれる。
「ケツニャ！」
「それはやめて下さい」
……一瞬にして彼女の顏から笑みが消えた。
トリスはしっぽの家の状況を確認したあと、ウチへの連絡をプチに任せて南方を捜索捜索してくれていた。
そんなの時、運よく“なぜか上から落ちてくる”ベルノを発見したそうだ。
「助かったニャ～。感謝の言葉もないニャ」
「いえいえ、無事でよかったですわ。それにしてもなぜ“落ちて”いたのですか？」
「落ちてたんじゃないニャ。これは、え～と……そう、降臨。降臨なのニャ」
「降臨ですって⁉ ……もしや、あなたは神ですの？」
「そうニャ。ベルノは現猫神なのニャ！」
自身を“神”と言い切ってしまうベルノ。
普通なら笑い飛ばすような与太話だったが、アステカ神話の申し子であるトリスには絶対的なひと言だったらしい。
……この、ネタに振り切った言動が誰の影響なのかは追及しないでもらいたい。
「まあ、なんと言う事でしょう。このような場所でお逢いできるなんて。どうぞ、神使たる私に御神託をお授け下さいませ」
神使とか御神託とかベルノには”ちんぷんかんぷん“だ。
それでも勘と勢いだけで道を切り開くその姿は、新世代の超猫人と言わざるをえない。……家猫だけど。
「この下に、ベルノに助けを求めている者がいるニャ。急いで向かうニャ！」
「御意！」
“御神託”を受け、一気に急降下するトリス。ほどなくして眼下にバルログとグレムリンが見えてくる。
「あれにゃ。あの赤デカいのにベルノを落とすにゃ！」
「そんな、御身を落とすなんて。危険すぎますわ」
「ケツニャ、これはごし、ご……ごん……。“ごんたく”ニャ！」
♢
「シつこいヤツだな……」
「ちょっと待つニャ！！」
――大空から萌えボがもふもふどーん！
「ウゴッ……」
頭を抱え込みうずくまるバルログ。ベルノの攻撃は、丁度弱い所にクリティカルヒットしていたようだ。
無事に着地したベルノは、胸を張り手を腰にあてて立ち上がる。ボサボサの髪の毛と乱れた服、そして風圧で涙目になったベルノ。
そんな鬼気迫る姿でバルログを見据えて言い放った。
「ネネ直伝、猫玉アタックニャ！！！」
「……どこからでて来たんだっぺ？」
突然の襲来に慌てるグレムリン。ベルノはゆっくりと右手を高く掲げ、空を指差した。つられて見上げる魔王軍の二人。
「なんだっぺ？」
「知るか！ ですニャ！」
「なぜ指差したし⁉」
「それがごんたくなのニャ！！」
※アステカ神話の方が白亜紀よりず～～～～っと後だろーー！ というツッコミは無しでお願いします( *´艸｀)
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表紙及び作中イラストはNovel AIで生成後、加筆修正して仕上げており、著作権は作者に帰属しています。
